ギャグっていいよね!
「あー、ヒバリさん。至急、応援を要請できますか? はい…… はい。新種のアラガミを発見しました。え? ああ、そうなんですか」
今日、俺は嘆きの平原でグボロ・グボロ討伐任務を遂行していた。
相手は一体。此方も単独とはいえ、余裕綽々な筈だった。事実、大した山場も見せ場もなく、グボロ・グボロを地面へと沈めた。
今頃、アナグラに帰投してお菓子作りに精を出していただろう。そう、目の前のアラガミさえいなければ……
「ヴィーナスねえ……」
『……』ニタァ…
ヒバリさんからアラガミの名前を聞いたところ、こいつは『ヴィーナス』と言うらしい。遂に星から名前を取ったか……
目の前の巨体は獣のような四肢で大地を固く踏みしめている。強靭そうな前足に立派な二対の大角を携え、両足には黄色いゼリー体が引っ付いている。しかも、ウロヴォロス顔負けのサイズときた。
さっきのグボロ・グボロのような雑魚アラガミとは雰囲気が違う。第一種接触禁忌種の力量には余裕で達しているだろう。全力を尽くして挑まないと、捕食されるのは確実に俺の方だ。
この日ばかりは自分の不運さを呪った。なんだって、準備も装備も無しにこんな化物と闘わないといけないんだ。
まあ、それはまだいい。いや、よくないけど。
それよりも、一番厄介なのは―――
「お前絶対人間だろ!?」
上半身だ。化物のような下半身とは対照的に、妖艶な女性の姿を型どっている。しかも、サクヤさん並みのナイスバディ。
アラガミなので服を着てる訳もない。だから、全裸だ。いや、上半身だけだから半裸か?
どっちにしろ、直視できるようなアラガミじゃない。その手の(どの手の?)人にはご褒美かもしれないが、生憎俺は健全な男子なんだ。
………コウタ辺りは喜ぶか?
『……』ニタニタニタァ…
俺の神機を捕食したそうな、卑しい笑みを俺に向ける。サリエル種などの女性のようなアラガミに多い傾向だが、今回も例に漏れなかったようだ。
―――くそ、どうすれば……!!
ここで俺は天啓を得た。お菓子好きなら、GEチョコの欠片を囮にして逃げてしまえばいいのだと。
ここに来て、俺の神機はまたまた役に立ってくれた。正直、神機に釣られてこのアラガミが現れたんじゃないかと思ったが、お菓子神機の相棒となった宿命だと、既に受け入れている。
そうと決まれば早速実行。GEチョコを手で掴み一欠片だけ剥ぎ取る。
(そら、取ってこい!!)
戻ってくんなよと思いつつ、GEチョコの欠片を渾身の力でぶん投げた。ブーメランの如くクルクルと回転して飛んでいく。
大抵のアラガミならこれに食い付く。まあ、知能の高いアラガミなら何の意味も成さないんだけどな。
いつでも全力疾走できるよう、秘かに脚に力を入れていたのだが………
『……』チラ…プイッ!!
人型なので、知能が高いに決まっていた。飛んで行くGEチョコの欠片を一瞥しただけで、俺の方を見て舌舐めずりをしてやがる。
目標もなく飛んでいったGEチョコに、少しだけ申し訳なく感じた。
「殺るしかないか……」
渋々ながらGEチョコを構える。
普通の戦闘なら大まかでもアラガミの情報を知らされているものだ。
だが、今回は逆。相手が火を吐くのか、電撃を発するのか、光線を放つのか、全くと言っていい程情報がない。それ故に、此方から迂闊に動く訳にはいかない。
ヘラヘラと、頬付きをしながら妖しく微笑むアラガミ。その行動がいちいち癪に障るが、挑発に乗ってなどいけない。そもそも、直視できない。
ああ、本当に闘い難―――
『ずりゅん!!』
「ずりゅん?」
化物のような下半身の背中に付いている黄色いゼリー体が割れ、何かが飛び出した。つーか、背中にもあったんだな。
次の瞬間、目を疑った。その物体は余りにも見慣れていて、意外で、有り得なくて。
そう、それは―――
「クアドリガ……!!??」
―――小型のミサイルポットだった。
未間違える筈もない。あれは、クアドリガのミサイルポットの部位そのものだ。
混乱する頭を切り替えて、急いでその場から飛び退いた。あれがクアドリガのミサイルポットなら、次の行動は予想できる。
ポットが二つに割れ、無数のミサイルが俺を狙って発射された。何気にクアドリガよりも手数が多い。
圧倒的な熱と暴風が襲い掛かる。ミサイルが地面に被弾したかと思ったら、中から複数の小型ミサイルが更に飛び出してきた。厄介にも程がある。
必死に退き続けてミサイルの魔の手から逃れたが、黒煙が立ち昇ってヴィーナスの姿を見失ってしまった。普通のアラガミならまだしも、相手は未知のアラガミ。少し目を離しても命取りだ。
全神経を集中させる。さあ、次は何をして……
『■■■■■■!!!!』
「!!??」
聞き取り不可能な咆哮をあげながら、強靭そうな前足を回転させて突っ込んできた。
しかも、速度が洒落にならない。みるみるうちに距離が詰められていく。ウロヴォロス並みの巨体が、ハンニバル並みの俊敏さで迫るってどんな悪夢なんだよ……!
あんなのに衝突されたら堪ったもんじゃない。転がるように左方向へと回避する。その直後、ヴィーナスの巨体が通り過ぎていった。
体勢を立て直し起き上がる。このままやられっぱなしは戴けない。直ぐにあのアラガミに追い付いて攻撃を仕掛けないと。
早速、ヴィーナスに向かって走り出した。そもそも、あのスピードだ。制御できずに倒れ込んでいるのが普通な筈。だが―――
「■■■■■!!!!」
「くッ!!!??」
前脚を回転させ、無茶苦茶な方向転換をやってのけた。泥を撒き散らしながら、巨体が俺の右横を通り過ぎる。
その後も、狙いをつけてるとは思えないテキトーな方向への突進を繰り返す。恐ろしい。あの突進をくらったら数秒後には挽き肉になっている。
……あ。何とは言わないけど、二つの物体がメチャメチャ揺れてる。俺は悪いことしてないのに、どうして罪悪感が沸いてくるんだ……?
「っと、チャンスか?」
馬鹿な事を考えていたらチャンスが巡ってきた。スピードをもて余していたのか、派手に転倒して四つん這いに倒れる。
全力で平原を駆け抜ける。土が泥濘んで走りにくい!
地面を蹴りつけ、宙高く飛び上がる。狙うは尻にある黄色いゼリー体。経験上、ああゆう柔らかそうな部位には斬撃がよく通るッ!!
「ぜあっ!!」
GEチョコを突き刺す…… その瞬間!
『どゅるん!!』
「どゅるん?」
出てきたのは、グボロ・グボロ。しかも、顔だけ。つぶらな瞳と目が合った気がした。よく見ると、お前可愛いな。
―――え、何でグボロ・グボロが? もう部位が出てくるなんてレベルじゃないよな?
額に聳える砲台が無慈悲に向けられる。このまま俺は砲撃の餌食に……
「―――なってたまるかッ!!!」
GEキャンディーを展開する。瞬間、眼前に目映い程の蒼白い爆発が起こった。
装甲は間に合ったものの、空中で踏ん張れる筈もない。そのまま後方に吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられる。立ち上がろうとするも、体中の筋繊維が悲鳴をあげて非常に辛い。なんで本家のグボロ・グボロより強力なんだよ!
「くっそ……!」
既にヴィーナスは立ち上がった後だった。女体がドヤ顔してるようにみえる。お菓子の神機だからか、獲物を狩る感覚で楽しんでやがる……!
「上等だ…… 逆に捕食してやるよ………!」
★☆★☆★☆
こういう巨体ならば側面に弱いのが通常だ。セオリー通り、真横からの一撃を試みたのだが……
「ッ!!??」
右側にある黄色いゼリー体から出てきたボルグカムランの針に阻まれた。身体で受ける風圧が、少しでも針に掠れば真っ二つだと物語っている。
最悪だ。前後左右に死角がない。嘗てこんな厄介なアラガミに遭遇したことがあるだろうか? いや、ない。
反語だ。言うとる場合か。
「この……!」
右が駄目なら左から攻めるのみ。
早速回り込むが、やはり黄色いゼリー体からアラガミの部位が出てきた。やめて。
ボルグカムランの針ではなく、サリエルのような魔眼を持った触手だった。ならば、レーザー系の攻撃が来るのは予想できる。
その予想は当たってしまい、魔眼から極太のレーザーが放たれる。咄嗟に跳躍して離れたが、レーザーの熱で地面が真っ赤に染まってドロドロに溶けていた。
仕方なく正面に回る。もう、射撃でしかダメージを与えられる気がしない。
「撃ち抜く……!!」
轟音が鳴り響く。数発軌道が逸れるも、ほとんどの銃弾が背中のゼリー体に吸い込まれた。
僅かに怯んだ様子を見せるヴィーナス。ゼリー体が弱点のようなので重点的にそこを狙っている。つーか、そこ以外で効いた様子がない。
あの女体に狙撃すればいいと思う外道もいるだろう。実際、俺も真っ先に狙おうとした外道だ。でもな、潤んだ目で上目遣いをするなんて、当て難くて仕方がないんだよ!!
そんなこんなで、ゼリー体にひたすら射撃するのだが………
『パキリッ!!』
何かが割れたような音が響いた。
背中の黄色いゼリー体が破け、蜂蜜のような黄色い液体が溢れている。気持ち悪い!
よくよく見ると、その中からは壊れたミサイルポットが晒されていた。黄色いゼリー体をぶっ壊せばその部位も壊れるのか。
よし。状況打破の糸口を掴めた。ゼリー体にひたすら銃弾を撃ち込むだけだ。
濃厚そうな蜂蜜をッ……! ぶち撒けやがれッ……!!
『■■■■■!!!』
耳をつんざく咆哮が響く。くそ……! 怒りによる活性化か……!!
新しい技を使ってくる可能性が高い。これじゃあ、ますます迂闊に近づけな―――
『………』モミュモミュ
―――胸を、揉んだ……?
白くて細い指が胸を揉み始めた。ヤバイ。怒りの余りに気が狂った。思わず目を逸らす。これ以上直視してたら、人間として大切なモノを失う気がする。
………いや、チャンスだろこれ。今の内にGEチョコを刺し込めば倒せるだろこれ。決意を新たに、ヴィーナスへと視線を移すが……
「ゑヱ?」
胸から黄色い物体ががががが。
それは次第に形を為していき、最後には金星のような球体の何かが作られた。電気を纏っているのか、蒼白い閃光をパチパチと纏っている。
ヤバイ。作ったた経緯こそふざけているが、威力は洒落にならなそうだ。
「間に合え……!」
全力のステップでその場を飛び退く。
しかし、無情にも金星は放たれる。回避は間に合っていたのか、地面に着弾した。
しかし、真っ白い光が俺の視界を―――
★☆★☆★☆
地べたに横たわる。湿っていて気持ち悪い。しかし、起き上がれる体力すらも空っぽだ。
これで、仲間が一人や二人もいれば結果は違っていたのだろう。しかし、嘆いている時間はない。ヴィーナスの巨体が一歩ずつ迫ってくる。
神機は遥か後方に吹き飛ばされている。取りに行ける訳もない。必死で、必死で辺りを探り回った。このままじゃ殺される。なにか、使える物は落ちていないかッ………!?
「…………!!!」
コレは……!? でも、コレが有るからってどうしようも………
『……』ヒョイ
「ッ……!」
コートの襟を片手で掴まれ、そのまま軽々と持ち上げられた。残虐な笑みを浮かべるヴィーナス。直感的に、嬲り殺される末路が頭に浮かんだ。
次の瞬間、抱き付かれた。所々柔らかい感触があるが、ヴィーナスの細腕が容赦なく俺の体を軋ませる。ミシミシ…… と、骨にヒビが入るような音がした。全然羨ましくないだろ?
「ぐお……… あがぁ……!!?」
体中に激痛が走る。心なしか、視界から色が消え失せている気さえする。
このままヴィーナスの女体に抱かれたまま死んでいくのだろうか?
―――いや、否だ。
ここに来て、ヴィーナスなぞではない本物の女神が微笑んでくれたらしい。
『ドスッ……!』
右手に握られていた物は―――GEチョコの欠片。どうやら、俺が序盤で投げたアレらしい。
脇腹に突き刺したGEチョコから、真っ赤な鮮血が溢れだす。予想外の攻撃が堪えたのか、それとも屈辱の余りに怒り狂っているのか。俺を捕らえる腕の拘束を緩めて、頭を手で抱えながら悶え苦しむ。
―――あと一撃。確実に止めを刺す。刺さなきゃ死ぬ。
体が血塗れのGEチョコの欠片を振るう。その一太刀は、ヴィーナスの顔面に一筋の赤い線を刻んだ。
重力に従って、そのまま地面に引きずり込まれた。受け身も取れずに背中から叩きつけられる。骨が逝ってるのにあんまりだ。
「ざまあ………」
ヴィーナスが顔を両手で覆いながら何処かに走り去っていく。自慢の顔を傷つけられてショックだったのか、目の下に涙の跡が見えた。なんか、罪悪感がどんどんとわき出てくる。
どうでもいいけど、その姿は化粧を忘れてうっかりエントランスに出てきたサクヤさんにそっくりだった。
「いっ………つ………」
この隙にアナグラへ帰投したいが、どういう訳か指一本動かない。
……これ、ヴィーナス以外のアラガミが来たらジ・エンドなんじゃないか?
~アナグラin病室~
コウタ「新種のアラガミに遭遇するなんてついてないよな~」
アマト「ああ。俺の幸運ランクEくらいなんじゃね?」
コウタ「いやなんの話?」
アリサ「それで、どんなアラガミだったんですか?」
アマト「それが不思議な奴でさ。下半身が混合獣(キメラ)で、上半身が女の体なんだよ」
コウタ「なんじゃそりゃ? それより!!胸はどうだったんだよ!!!!」
アリサ「ドン引きです……」
アマト「んー…… 柔らかかったぞ」
アリサ・コウタ「え」
アマト「え」
アリサ「アマトさん。私は何があっても貴方の見方ですからね?」
コウタ「そういう性癖があってもいいんじゃないかな!? 俺は口固い方だから、誰にも言わないぜ!!」
アマト「ちょ、誤解―――」
アリサ・コウタ「じゃ!!」ダッシュ!
アマト「 」
天の声『おめでとう!! アマトの幸運がE-にランクダウンしました!!』