おっぱい要素がなくたっていいじゃないか!
今、僕はヘリに乗っている。同乗者はナナ1人で、目的地は黎明の亡都だ。黎明の亡都とは、水源やら図書館やらビルやら、とにかく色々な施設が有り過ぎて訳が分からない場所だ。
ふと、ブラッド候補生の歓迎会を思い出す。
僕とナナとロミオ先輩がラケル博士の研究室に呼び出され、そこで『ブラッド』や『血の力』の話を聞いた。
そこまでは良かったよ、そこまでは。
ラケル博士がブラッド隊員各々の名前を呼んで期待していると言ってくれた。だが、見事に僕の名前だけハブられた。
何故なのかって聞いたら、貴方にはあまり期待をしていませんって笑顔で答えてくれた。ロミオ先輩とナナの引き攣った表情が印象的だった。16歳にして職場虐めを経験するなんて世知辛すぎる。
まあ、そんなこんなでゴッドイーターの厳しさを味わった僕は、心の傷が癒える間もなく訓練へと駆り出されて今に至る。
ナナの神機が目に留まる。いかにも武器らしいピンク色のハンマーだ。そうだよね、こういう感じの神機が普通なんだよね。
「あのー…… レイジのそれって神機なの?」
ナナが僕の神機を見て言う。神機かすら疑われる僕の神機って一体。まあ、別にいいけどさ。
「女の子にしか見えないだろ? だからサポート頼むよ、切実に」
「うん! 私にまっかせなさーい!!」
ヘリが目的地の黎明の亡都に到着した。
よし! この実践訓練はナナに任せて、僕は隅っこで見守っていよう。というか、これからはもうサポートに徹しよう。
ヘリから降りると、隊長のジュリウスさんが神機を持って既に待機していた。ジュリウスさんの神機は銃形態で、いかにも武器らしかった。
「「フェンリル極致化技術開発局、ブラッド所属第二期候補生二名、到着いたしました!」」
ナナと一緒に敬礼する。
「ようこそ、ブラッドへ。隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。それでは、今より実地訓練を行う」
「「……え?」」
ん? 実地訓練??
疑問を浮かべる僕らの傍ら、ジュリウスさんは下にある景色を見詰めていた。というか、ここってほぼ崖じゃん。どうやって降りるの?
「見ろ。アレが人類を脅かす災い。駆逐すべき天敵、アラガミだ」
……ん? アラガミ??
よくよく見ると、いた。数十匹ものアラガミがうじゃうじゃしていた。えーっと、オウガテイルとドレットパイクって名前だっけか?
「手段は問わない。完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ。いいな?」
はぁぁぁぁぁぁ!!!???
いきなり実戦っておま、心の準備ができてないんですけど!!?? 一応、命懸けるんですよ僕ら!!!
「いやいや、僕は物資の回収とかそういう任務だと思ってたんですけど!? アラガミと戦っちゃうの!?」
「フッ、本物の戦場でやってこその実地訓練だ。お前たちが実力を発揮できさえすれば問題になるような相手じゃない、いいな?」
ジュリウスさんがそう言った瞬間、僕は視界の端に白い何かを捉えた。
こいつ、オウガテイルじゃないか! くそ、この場所も全然危険だ!!
ナナのフードを掴み、急いで後退した。ナナから蛙が潰れたような声がしたけど気にしない!! 常時警戒していたのが幸いしてか、オウガテイルの攻撃に直ぐ反応できた。
そういえば、ジュリウスさんはオウガテイルの奇襲に気づいているのか!?
視線を移すと、オウガテイルの噛みつきを左腕で受け止めているジュリウスさんがいた。
……いや、受け止めたって言えないよ!? 普通にくらってんじゃん!!
「ジュリウスさん!!?? 腕、腕!! 噛まれてます!!」
「フッ」
ジュリウスさんは当たり前のように神機を変型させ、投げ飛ばして刃で斬りつけた。
えぇ~…… 腕はいいんですか?
「うぅ~ん………」
あ、ナナを忘れていた。そういや、フードを掴んだままだったな。
「おでんパン」
「え!? どこどこ?」
一発で起きやがった。底無しの食欲だな。
その様子を見ていたジュリウスさんが、僅かに微笑んだ。
「中々に…… いや、素晴らしい反応速度だ、レイジ」
え、マジで?
まさか、褒められるとは思わなかった。敵前でみっともない姿を晒したのに。いや、晒したのはナナか。
「アハハ…… 危険を察知したら、直ぐに逃げるようにしているので。生き残るって意志なら誰にも負けませんよ」
「フッ、頼もしい限りだな」
ジュリウスさんは振り返り、神機を構える。
やはりというか、その姿は凄味が感じられた。
「古来から人間は強大な敵と対峙し、常にそれを退けてきた。鋭い牙も、強靭な爪も持たない人類がなぜ勝利したのか分かるか?」
「うぅ~ん…… 引き時を弁えてるから?」
「それもそうだな。だが、共闘し、連携し、助け合う戦略と戦術。人という群れを一つにする、強い意思の力。お前の言った意思こそが、俺たち人間に与えられた最大の武器なんだ。それを忘れるな!」
そう言ってジュリウスさんは崖から飛び降りた。難なく着地しているけど、僕も飛び降りて大丈夫なのだろうか?
そうこう思っている内に、ジュリウスさんは半分ほどのアラガミを引き付けて、どこかへ消えていってしまった。
ああそっか! 残りはお前らで殺れって事ね。
それにしても―――
「あの人、人間やめてない?」
そう口にせずにはいられなかった。
「それよりおでんパンは?」
「……」
★☆★☆★☆
パラシュートの無いスカイダイビングの恐怖を味わった後、僕とナナはアラガミと対峙した。
その直後だろうか。ズキューーz――ン!! という効果音が出てきそうな程、大半のアラガミが大きく仰け反っていた。
「………は?」
気づいたら、多数のアラガミに囲まれていた。ナナの方を見ると、どういう訳か数匹のアラガミしか残っていなかった。
おかしいな。僕とナナで半々のアラガミを相手をする筈なのに。どうして僕の方に大半のアラガミが群らがっているのだろう。
「すごーい! アラガミの目がハートだよ!!」
「アラガミに性別の概念はないのに!?」
本当に目がハートだった。
つまりあれか。僕の女の子みたいな神機は魅力的過ぎて、アラガミを惹き付けてしまうのか。
……ハハハッ! バッカじゃねーの、お前らアラガミバッカじゃねーの!? 何騙されてんだよバーカ!!
これじゃあ強制労働じゃないか!! サポートに徹するっていう、僕に残った最後の希望を根底からぶっ壊しやがった!! これで僕はalways最前線だ!!
「ちっくしょぉぉぉ!!!」
目のハートを一際大きくして、嬉しそうに尻尾をフリフリするオウガテイルに接近した。
お前に一番腹が立つ! 怒りに任せて、神機を思いっきり袈裟懸けに振るった。
ドシャリ、と鈍い音が響いた。肉を断つというより、叩き潰す感覚が手に伝わる。
オウガテイルは血を撒き散らしながら吹き飛び、ピクリとも動かなくなった。突破口を開いた僕はアラガミの包囲から脱出する。
というか、強っ! この女の子神機マジで強っ!! いやでも、あんまり強過ぎて任務が増えるのも困る!!
「おぉ~い!! こっちこっち~!!」
手招きしているナナの方へ向かった。数匹だけだったからか、ナナの相手をしていたアラガミは全滅していた。
振り返って神機を構えると、全てのアラガミが一斉に駆け出していた。試しに僕が右方向へと向かうと、アラガミもそれに同調して右方向へと向かい始めた。
なら、やる事は決まっている!
「ナナ、君は最後尾からアラガミをぶっ潰してくれ! 僕は逃げ回りながら銃で援護する!!」
「りょーかい!! レイジは人気者だね!」
「いや、僕じゃなくて神機なんだけどね」
現時点で最も効率的な作戦の筈だ!
銃形態に変更し、銃弾を放ちながら僕は精一杯逃げ回った。でも、銃弾は基本的にあらぬ方向へと飛んでいった。まあ、ルーキーの僕が後ろ向きで、しかも走りながら射撃なんて出来る訳がないし。
僕は逃げ、アラガミが追う。そのアラガミをハンマーで叩き潰そうとナナが追う。端から見れば凄く滑稽な風景なんだろうな。
1匹、また1匹と次第に数が減っていく。そして、僕の撃った銃弾が最後のオウガテイルに命中してアラガミは全滅した。適当に撃っても当たるもんなんだね。
改めて周りを見ると、円上にアラガミの死骸が転がっているという何ともシュールな光景に仕上がっていた。ミステリーサークルかよ。
任務を通して言いたい事は沢山増えたけど、一先ず一番の功労者のナナを労おう。
「お疲れ、ナナ」
「お疲れ、レイジ! 動き回ったらおでんパンが食べたくなっちゃったよ」
「うん。早く捕食して任務を終わらせよう。僕はもう疲れたよ」
取り合えず、帰りたい。何も考えず、布団にくるまって6時間くらいはボーッとしてたい。
『シクシク…… シクシク……』
「……ねえ? レイジの神機、泣いてない?」
「………は?」
何を馬鹿な事を、と思ったけど僕にも泣き声が聞こえる。よくよく神機を見てみると、刀身の女の子が泣いていた。
……え、なんで?
「きっと怒りに任せて乱暴に使ったからだよ!!」
「何その機能!? 僕がただ申し訳なくなるだけじゃん!! えぇーい、銃だ銃!!」
よく分かんないけど罪悪感が半端ない。だから、刀身を引っ込めて銃身に変型した。
しかし―――
『エッグ…… ヒッグ……!!』
「あ、また泣いてる!! しかも、剣の子よりも辛そうだよ!!」
「だから何故!?」
「やっぱり、無視されたら辛いんだろうねー」
「なんだこれ嫌がらせじゃないか!!」
この神機の製作者に向かって叫ぶ。届かないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
この神機って誰が造ったっけ!? 一度聞いた気がするんだよ! 思い出せ、思い出せ!!
………そうだ、極東支部のサカキ博士だ!!
サカキ博士! この機能は、使用者の精神を削る以外に何の意味があるんですか!? というか、この技術を他の何かに活かせなかったんですか!?
「これは謝った方がいいよ、レイジ!」
ナナがそう勧める。
武器に謝るのも馬鹿な話だけど、今の僕はもう考えるのが面倒になっていた。
「え~っと、乱暴に使ってすみませんでした! 次からは丁寧に使うよう心掛けるんで、どうか機嫌を直してください!!」
『ニコッ!』
刀身の女の子が笑った。それはもう、太陽のように明るい笑顔だった。
「わぁ~、可愛いね!!」
僕はもうどうでもよかった。ただ、今すぐ帰ってイソギンチャクになりたかった。
★☆★☆★☆
アラガミの捕食中、生き残っていたオウガテイルが3匹現れた。僕とナナは神機を構える。あーあ、早く帰りたかったのにな。
ふと、誰かが近づく音を捉えた。振り返ると、神機を担ぎながらこっちに歩いて来るジュリウスさんの姿があった。
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、何でもないっす……」
何も言うまい、面倒だから。
「いい機会だ。お前たちが目覚めるべき血の力を見せておこう」
ジュリウスさんが神機を構える。
その瞬間、体の奥底から力がみなぎる感覚を覚えた。もしかして、噂に聞くバーストモードってやつか!?
『ミナギルワ~』
「「「!!!??」」」
場が凍りついた。
喋った。僕の神機、喋った。正直、ゴッドイーターになった日よりも衝撃を受けた。
ゴホン、とジュリウスさんが咳払いする。
その直後、ジュリウスさんは目にも止まらぬ速さでオウガテイルへと駆け抜けた。
幾つもの斬撃がオウガテイルたちに刻まれる。瞬きほどの間で、3匹のオウガテイルは地に臥した。
しかし、ジュリウスさんは何とも言えない神妙な顔をしていた。例えるなら、スナイパーで撃墜されたサリエルのような表情だった。
無言の状態が続く。ヘリに帰るまで、ナナ以外は誰も喋れなかった。
現段階レイジの神機スペック。
①乱暴に使われると泣く
②気分が安らぐと笑う
③バーストモードになるとみなぎる
④アラガミを魅了するスーパー超絶完璧な美貌。