2話連続投稿なんで気をつけてください。
―――夢を見ているような、そんな心地だった。
北の集落の人たち…… あのお爺さんたちは無事、極東支部に避難できた。ロミオ先輩の命と引き換えに。
ロミオ先輩とジュリウスさんはマルドゥークと複数のガルムと交戦した。ロミオ先輩はマルドゥークに致命傷を負わされながらも、血の力を発揮してマルドゥークたちを退けた。どんな能力なのか、もう知る機会は無いが。
目を瞑れば、ついさっき見たかのようにあの日の光景が浮かび上がる。まったく動かないロミオ先輩と、それを背負うジュリウスさんが。
それから後は、僕もよく覚えていない。ただ、ロミオ先輩の名前をずっと叫んでいたのは覚えている。
程なく、ロミオ先輩の葬儀がフライアで行われた。ユノさんの鎮魂歌が響く。みんな、涙を流している。だけど、僕は不思議と泣けなかった。
実感が無い訳じゃない。ロミオ先輩にもう会えないと、痛い程感じている。それでも、泣けなかった。
葬儀が終わった。僕の足は、自然と神機保管庫に向かっていった。
いつもならリッカさんが神機の整備をしているけど、今日はいない。きっと、ロミオ先輩の死を悼んでいるのだろう。それは、僕にとって好都合だった。
「ヴァルキュリアちゃん、アレスちゃん、アテナイちゃん……」
『レイジ!』
『レイジ……』
『……』
赤い台には女神三姉妹がいた。
僕はその台の前にゆっくりと座った。
「ロミオ先輩の葬儀、終わったよ」
『そっか……』
いつも元気なヴァルキュリアちゃんも、今日ばかりは静かだった。
「少しさ、話してもいいかな?」
『……いいよ、レイジ』
アテナイちゃんがそう言うと、ヴァルキュリアちゃんも頷いてくれた。アレスちゃんは目でそう言ってくれている気がした。
「マルドゥークってさ、覚えているよね? ほら、あのでっかい犬っころ」
『うん』
「初めて遭遇したあの日にさ。倒すまではいかないまでも、それなりの傷を負わせていたら、ロミオ先輩は死ななかったかもしれないよね……」
『レイジ……』
「いや、うん。分かってる、分かってるよ。僕一人が悪いだなんて、そんな馬鹿な思い込みはしてないよ。それでもさ、僕がもっと強ければ…… ロミオ先輩、を……死なさず、に……」
視界がボヤける。言葉が続かない。今になって、何故か涙が溢れてきた。
女神三姉妹が優しく微笑んでくれた。
それを切っ掛けに、悲しみを引き留めていた何かが崩れた。
「っうう、ああああああ、ああああああああああああああああ!!!!!!」
女神三姉妹に抱きついた。そして、思いっきり泣いた。
ただの神機。無機質なのに、とても優しくて暖かかった。
★☆★☆★☆★
誰も、何も喋らない。ブラッドはかつてない静寂に包まれていた。ロミオ先輩みたいに振る舞おうとしたけど、僕にはとうてい出来なかった。副隊長の僕がしっかりしないといけないのに……。
そんな中、ジュリウスさんから任務に誘われた。何でも、話したい事が有るそうだ。いつもなら絶対に渋るだろうけど、今回は素直に了承した。
相手はボルグカムラン。愚者の空母に出現した個体だ。本来なら、僕ら2人で相手をするようなアラガミじゃないらしい。
壊れかけた橋の先端に降り立った。目の前には、丁度オウガテイルを捕食しているボルグカムランがいた。
「いくぞ、レイジ」
「はい」
ボルグカムランがこちらに気づき、雄叫びをあげた。
ヴァルキュリアちゃんを構え、ボルグカムランの懐に潜り込んだ。ボルグカムランは盾で身を守る。だけど、関係ない。様々な思いを乗せて、ヴァルキュリアちゃんをボルグカムランの盾に叩きつけた。
何度も、何度も、何度も、何度も。哀しみを吐き出すように叩きつけた。盾の亀裂が次第に大きくなっていく。
「ガァアアァア!!!」
ボルグカムランの矛のような尾が空を切った。標的は勿論僕だ。
矛が僕を串刺しにする前に、ジュリウスさんの神機が尻尾を切り離した。鈍い音をたてて、尻尾は地面に落ちた。
更に渾身の力を込め、ヴァルキュリアちゃんを振るった。盾に当たった瞬間、それが粉々に砕けた。
その欠片を物ともせず、ジュリウスさんがボルグカムランの頭部へと跳んだ。神機を口に突き刺し、ボルグカムランは完全に沈黙した。
「ふぅ……」
「どうしたんだ、レイジ? まさか、お前が攻撃を仕掛けるなんて」
「……いえ、僕も強くならないとって、そう思っただけですよ」
「そうか……」
ジュリウスさんは決意を固めたように、そっと口を開いた。
「レイジはロミオと仲が良かったな」
「……はい。ロミオ先輩には本当にお世話になりました。それなのに、何も恩返しが出来なくて……!!」
「……そうだな。ブラッドが設立された日にも、あいつには迷惑をかけた。周りと確執が生まれないように、色々と頑張っていたと聞いた。レイジ、ナナ、ギル、シエルが来てからもそうだったんだろうな」
ジュリウスさんは悲しそうな目で夕陽を見つめた。
「俺はブラッドを抜ける。隊長はお前だ、レイジ」
「……え?」
「みんなが血の力を目覚めさせたのは、きっとお前のおかげだ。そんなお前なら、きっとブラッドを率いれる。極東支部がお前らを引き受けてくれる筈だ」
「いやいやいやいや、僕はもう副隊長で限界ですよ!! 見てください、今日また白髪が増えたんですよ!?」
「心配するな。俺とラケル博士で、神機兵の製造を全力で進める。だから、心配しなくてもいい。お前が、神機使いが危険を冒す必要がなくなるんだ」
「でも……!」
「みんなに、これを渡してくれ」
ジュリウスさんからテープを受け取った。
「じゃあな。みんなを頼んだぞ」
そう言って、ジュリウスさんは僕のもとから去っていった。どうでもいいけど、どうやって帰るんだろう……。
★☆★☆★☆
フライアに戻ると、ブラッド共々グレム局長にお呼びを受けた。
いざ話を聞いてみると、ジュリウスさんに聞いた通り、ブラッドは極東支部へと転属になり、副隊長は僕になった。
ジュリウスさんが来ていないし、納得できないことが沢山ある。それでも、僕らはフライアから出ざるおえなかった。
いや、まだやらなきゃいけないことがあったな。僕だけが立ち止まり、グレム局長と再び向き合った。
「まだ用があるのか! これ以上、貴様と話す時間などない!!」
「まあまあ、そう言わないで。クジョウ博士がどこにいるのか、それだけ教えてくれればいいですから」
「誰が貴様なんぞに―――」
地面に額を着けた。俗に言う、土下座の態勢だ。
流石のグレム局長も面食らった表情をしていた。
「……懲罰房にいる。分かったら、さっさといけ」
「はい、ありがとうございました」
フライアの懲罰房へと向かった。そこの一室には、ベッドに腰掛けるクジョウ博士がいた。
「クジョウ博士……」
「……やあ、レイジ君か」
クジョウ博士の目は、とても虚ろになっていた。神機兵について語っていたクジョウ博士と、同一人物とは思えなかった。
「私は、ダメなヤツなんだ。機会を弄る以外に、本当に何の取り柄もなくてね。そんな私でも、誰かの希望になれると思うと、本当に嬉しかったんだ」
「……」
「それで、この有様さ。誰かに希望を与えるどころか、人の命すら奪ってしまった。私にはもう、何も残っていない」
「……そんなこと、ないです。クジョウ博士があんなミスをするわけないって、僕は信じてます。だから、負けないでください。僕が絶対、真相を明らかにしますから!!」
「……ありがとう、レイジ君。でも、本当にもういいんだよ」
クジョウ博士はゆっくりと視線を逸らした。そんな彼に、僕は何も言えなかった。
「時間なので、そろそろ行きます」
「うん。僕も、最後に君と話せてよかったよ」
そして、僕らはフライアを降りた。
本気で女神三姉妹がヒロインでいい気がした。というか、ヒロインですねもう。