スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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七十一品目 怠け者と防衛班

 

 任務が終わってアナグラに還ってきたら、早々にサカキ博士に呼び出された。これはきっとあれだ、とうとう有給の受理が認められたんだ。

 ブラッドの要がいなくなると困るから、とかで断られたからなぁ。囮がいなくなると、って最初に聞こえた気もしたけどきっと気のせいだろう。

 るんるん気分で支部長室のドアを開けると、見慣れない人たちが沢山いた。中にはカノンさん、ヒバリさん、サカキ博士といった見知った顔が何人かいるけど。

 腕輪があるからゴッドイーターだな。少なくとも新人という雰囲気ではない。

 

「あー、オホン! 君たちに集まってもらったのは、ある頼みがあるからだ」

 

 僕とこの人たちを集めた張本人であるサカキ博士は、いつになく真面目な表情をしていた。これまでの経験により培われてきた厄介事レーダーがビンビンに反応している。逃げてぇ。

 

「単刀直入に言おう。アラガミが集まってきて極東がヤバイ」

 

 はい来ましたー! 厄介事確定でーす!!

 というか、僕の有給はどうなった! どうなったんだよぉ!

 膝から崩れ落ちそうになったけど、どうにかして耐えた。見知らぬ人の前で無様を晒すのを許容するほど、僕はプライドを捨てちゃいない!

 

「もう少し詳しく説明してくれると助かるのですが……」

 

 真面目そうな人が真面目な説明を要求した。というか襟立て過ぎぃ!

 

「いやー、感応種のアラガミが大群を連れて極東に進行していてね。アナグラの全戦力を投入してもまだ足りないんだ。そこで、防衛戦のノウハウに長けた君たち防衛班に白羽の矢が立った訳さ」

 

 防衛班か。成る程、それなら僕より実戦経験がありそうなのも頷け…… あれ、僕関係なくね? いや、確かにアラガミが女神三姉妹に惹きつけられるから防衛率100%だけど。

 

「おいおい、感応種じゃ俺たち第1世代の神機使いは戦えねえんじゃねえか?」

 

 耳にピアスした人がそう言った。怖い!

 その言葉を聞いたサカキ博士は、眼鏡をキランと輝かせた。

 

「そこでブラッドの隊長、無動レイジ君の出番だ!」

「ちょっ」

 

 まさかの僕の名前が呼ばれた。

 何故だ、何故そうなる!

 その疑問に答えるかのように、ヒバリさんが手に持ったレポートを読み始めた。

 

「レイジさんの血の力、喚起によってブラッドアーツに目覚めれば、感応種による神機の干渉が抑えられるんです」

「血の力ぁぁぁぁぁ!!!!?? 今まで空気だったのにふざけんなぁぁぁぁぁ!!」

 

 思わず叫んだ僕は悪くない。

 戦闘では散々空気な能力なのに。実は僕を過労死させるって能力じゃないよね? そうだよね?

 

「何だコイツ突然叫んだぞ」

「キメェな」

 

 ヤバイ吐きそう。胃がねじ切れそう。

 

「お、おい!? お前、頭ヤバイぞ!!」

「えっ?」

 

 頭を触ってみると、数十本の髪の毛が指に絡まっていた。

 髪の毛は指からスルスルと抜け落ち、宙に浮かぶ蜘蛛の糸のように地面へと吸い込まれていった。

 何かが切れた。決定的な何か、が。僕は地面に膝をついた。

 

「ぷひぃ、かはぁっ」

「血を吐いた!!??」

 

 思わず血を吐き出す。アラガミと戦ったときよりもダメージがデカイんですがそれは。

 

「な、何事ですか!?」

 

 奥の部屋から誰か出てきた。男女の二人組だ。

 誰だか知らねえが笑えよ、僕のこの無様な現状を。笑えよぉ!

 

「わ〜、なんだかおっとさんの枕元みたいに髪の毛が落つています」

「」

 

 レイジ は めのまえ が まっくら に なった!

 

「ちょっ…… メディック、メディーーーーーック!!!!」

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 どうにか毛根が峠を越えた次の日、早速防衛班の皆さんと任務に就くこととなった。

 メンバーはタツミさん、ブレンダンさん、カノンさん。討伐するアラガミはコンゴウとか、グボログボロとかの中型が中心だ。

 出撃ゲートで待っていると、3人とオペレーターの人が姿を現した。

 

「おう、待たせたなブラッドの隊長さん。年長者を待たせないなんて感心だねぇ」

「だからもう少し早めに行動しようと言っただろう。彼はブラッドの隊長なんだぞ」

「おっと、そうだな。悪い悪い」

 

 おおっ……! なんか良い人っぽいぞ!

 

「いえいえ、僕なんて所詮ブラッドの隊長(笑)ですから! 普通に後輩に接する感じでお願いします!」

「ん、了解」

「しかし、それでは周りに示しが……」

「気にすんな気にすんな! たとえブラッドの隊長だとしても、俺らの可愛い後輩には変わりないだろ?」

「まあ、そうだが……」

 

 やっべえ、涙が出そう。極東支部所属って聞いたからどんな色物が出てくるかと思ったけど、とんでもなく常識人じゃん。

 

「んじゃあ、改めて自己紹介だ。俺の名前は大森タツミ。んで、こっちが」

「ブレンダン・バーデルだ。アナグラがお世話になったな」

 

 ブレンダンさんが律儀に頭を直角45度に下げた。なんて完璧なお辞儀……!

 

「僕は無動レイジです。こちらこそよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな!」

「こちらこそ、至らぬ点は多々あるだろうがよろしく頼む」

 

 なんというか、頼れるお兄さんが2人も増えた感じだ。これなら任務も滞りなく進むに違いない。

 

「良かった〜。3人とも仲が良さそうで何よりです! これなら任務も楽々ですね!」

 

 誤射姫さえいなければ―――!

 敵味方を吹き飛ばす彼女は、戦場に降臨してしまったカオスと呼称してもいい。楽々な任務も彼女次第で地獄となる。

 僕以外もそう思っていたようで、この場に奇妙な沈黙が訪れた。

 

「あの〜…… 皆さんどうしたんですか?」

 

 カノンさんが小首を傾げる。自覚をしていないのが余計に恐ろしい!

 

「カノンさんカノンさん、参考までに聞きますけど味方への誤射率はどうなりましたかね?」

 

 タツミさんの声は端々が震えていた。

 そうだ、この人はスイーツイーター並みにカノンさんに吹き飛ばされていたんだった。アナグラでちょっとした武勇伝として伝わっているくらいに。

 それにしても、誤射率か。タツミさん、まさかいきなり地雷に突っ込むとは思いませんでしたよ。

 

「ふっふっふ、なんと平均の4倍まで改善されたんですよ!」

「マジか! マジでか!! マジなんですか!?」

「宇宙の 法則が 乱れる!」

 

 なんか凄い取り乱している!?

 カノンさん、どんだけこの人たちに誤射をかましていたんだよ!

 

「つい最近まではレイジさんと組むのが多いんですけど、それから少ししたら何故か誤射が極端に減ったんですよ。きっと私の射撃センスが高まっている証拠です!」

 

 ビシリッ、と2人が固まった。

 そうです、そんな美味しい話はないんです。カノンさんの射撃センスが上がったのではなく、僕の回避能力のおかげなんです。

 そんで、みんなが僕の回避パターンを参考にしてカノンさんとの間合いを取っているから誤射率が低くなったんです。

 2人とも全てを悟ったのか、憐憫のこもった目をしながら僕の肩に手を置いた。

 

「お前、頑張ったよ…… もういい、ゆっく休んでくれ……!!」

「後輩にこんな重荷を背負わせて…… 俺は、俺はッ!!」

「大丈夫です、貧乏クジには慣れてます」

「???」

 

 まるでお通夜みたいな空気になった。

 僕はカノンさんと会ったばかりの日々を思い出して、2人はこれから訪れるであろうカノンさんにぶっ飛ばされる日々を予感して。

 なんだかもう、遣る瀬無い気持ちでいっぱいだ。

 

「あの、そろそろ任務の説明がしたいな〜なんて……」

 

 オペレーターの人が困った顔をしていた。

 分かるまい、カノンさんと同じ戦場に立ったことのない奴にはこの苦労が分かるまい!

 

「っと、そうだな。悪いテル」

「あれ? 知り合いですか」

「子供んときのお隣さんだったんでな。よく遊んだりしたもんだ」

「ええ、そうでしたね。そういえば、兄は元気にしていますか?」

「おお、元気にしてるぜ。そういや、今日もナンパに勤しんでいたな」

「ははは……」

 

 オペレーターさんはきりりとした表情を浮かべて姿勢を正した。

 

「自己紹介が遅れました。真壁テルオミです。皆さんのサポートを全身全霊で努めさせていただきます」

 

 ふ〜ん、真壁テルオミさんねえ……。そういえば、僕の髪の毛が抜け落ちたせいで自己紹介のタイミングを逃していたんだよな。

 ……いやいや待て待て、なんか凄い事実がサラッと言われた気がするぞ。真壁…… 真壁って、まさか!

 

「何を隠そう、第4部隊隊長真壁ハルオミの実の弟だ!」

「な、なんだってーー!!??」

「兄がお世話になっています」

 

 道理でハルさんの影がチラつく筈だよ! そっくりだもん、なんか色々と!

 それにしても、まさかハルさんの弟だったとはね。あのおっぱい魔人ライムを筆頭とした変態どもの隊長さんの弟とはね……。

 

「まさか女神三姉妹の隠し撮り写真なんて持っていませんよね?」

「持ってないですよ!? そんな『ドキッ! 女神三姉妹にウロヴォロスの触手が迫る! 散らされた純潔』なんかタンスの裏に隠してませんよ!?」

「オーケー、死に場所は選ばせてやる」

「えっ、あっ、えっと…… ほら、ハルオミ隊長が、兄さんが!」

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 アラガミの大群を討伐するべく、贖罪の街に赴いた。中型のアラガミがそこそこ集まっているせいか、街中にはいつもと違う不穏な空気が流れている。

 

『わたしはヴァルキュリア! よろしくおねがいします!! だいすきなのはレイジで、だいこうぶつはスサノオです!』

『アテナイです…….…… わ、わたしもレイジがだいすきです』

『……』

 

 が、そんな空気を瞬く間に変えてしまうのがうちの女神三姉妹である。

 癒されるわ〜。マジヒロインだわ〜。

 

「おう、よろしくな!」

「ここまでしっかり挨拶できるなんて大したものだ。シュンとカレルも見習ってもらいたいな」

 

 毎回のことだけど、極東支部の皆さんが女神三姉妹を見てもリアクションが薄い。他の支部の人が見たときは、三日三晩は錯乱していたというのに。

 僕の心情を察したのか、ブレンダンさんは乾いた笑みを浮かべながら空を見上げた。

 

「……いいか。極東支部にいる以上必要になってくるのは、どんな事態が起ころうとも受け入れる諦めの心なんだ。たとえ、魔法少女のコスプレをした二メートル弱のおっさん3人に囲まれて任務をこなしたとしても」

「ブレンダンさーーーーーん!!!???」

 

 ブレンダンさんが苦労人枠だと悟った。

 そういえば、ブレンダンさんも他の皆さんと比べておデコが広い……!

 

「おいおい、あまり極東支部の闇ばかり触れるなよ。それよりも極東支部の光――― ヒバリちゃんについて語ろうぜ!」

 

 タツミさんが良い笑顔で親指を立てる。

 いや、確かにヒバリさんは良い人だし、常識人どけど。なんか僕らの思っているニュアンスが違うような……。

 

「タツミはな、昔からヒバリさんにゾッコンなんだ。本当に昔から……」

「えっ? でも、ヒバリさんとタツミさんの年の差が……」

「若ければ若いほどいい、とのことだ」

「ロリコンだーーーー!!!???」

「馬鹿野郎! 俺はロリコンじゃねえ! 好きになった人がたまたま歳下だっただけだ。だが、たとえヒバリちゃんが8歳になったとしても俺はヒバリちゃんを愛する自信がある!」

 

 自信満々に言い切りおった。やべえよ、タツミさんも大概やべえよ。

 

「ヴァルキュリアたんはぁはぁ.…… アテナイたんはぁはぁ…… アレスたんはぁはぁ…… 兄さん、ここが人類にとってのヴァルハラだったんだね」

『『『』』』ビクッ!

「えーっと、今日はどんなバレットにしましょうか…… そうだ、ジーナさんに開発してもらった新しいバレットを使いましょう! ヴァジュラも消し炭にしたし、威力は申し分ない筈です!」

「はっはっは、きょうもいいてんきだなー。はっはっは」

 

 もうどうしようもねえな、これ。

 その後、皆さんは無事ブラッドアーツに目覚めました。

 

 





フロンサワー「レイジのキャラが弱い…… そうだ、ハゲさせよう」
レイジ「!!!???」

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