スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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七十三品目 ブリキの人形と神機兵

 

 サカキ博士の判断により、螺旋の木の内部を調べることとなった。

 いつもなら面倒事なんて御免だが、螺旋の木関係のことならばそうも言っていられない。螺旋の木の調査が進めば、ジュリウスさんを助ける手掛かりが掴めるかもしれない。

 ブラッドのみんなも螺旋の木の調査に賛成してくれた。螺旋の木周辺にうろつくアラガミを駆除してくれたり、本当に頑張ってくれた。僕? 螺旋の木にいるとアラガミを引き寄せちゃうので、他の部隊の人たちの仕事を手伝ってました。

 螺旋の木の調査にはフェンリル本部も関与するらしく、お偉いさんもやって来るらしい。フェンリル情報管理局の局長だとか何とか。グレム局長みたいだったらどうしよ。

 諸々の不安は尽きないが、今日この日がフェンリルのお偉いさんがやって来る日だ。

 

「」ガクガクブルブル

「緊張しすぎだ。何かやらかした訳でもねえんだから、もっと気楽にしろ」

「きききき緊張してなななないよよよ」

「……ああ、うん。それならもういい」

(小動物みたいで可愛い保護したい……」

「えっ、何を?」

「いえ、なんでもありません。早速サカキ博士のもとへ向かいましょう」キリッ!

 

 巨大モニターの前に足を運ぶ。

 サカキ博士とソーマさんの他に、見知らぬ人間が2人いる。1人は多分フェンリルのお偉いさん、もう1人は…… 神機使いか?

 

「っ!!??」

 

 背筋に氷を突っ込まれたかのような、痛烈な寒気が走る。

 間違いない、殺気だ。しかも、アラガミなんかよりずっと禍々しい。

 自分で言うのもなんだが、そういう感覚は人より鋭いつもりだ。

 女神三姉妹と一緒に戦っているせいか、アラガミから嫉妬の感情は向けられるのは日常茶飯事だし、時々第4部隊の隊員からも似たような感情を向けられていた。そんな日常を送れアホでも敏感になる。

 敏感になったからこそ、どうにかこの敵意に気づけた。禍々しいくせして、恐ろしく静かで透明だ。しかも、ナイフのように鋭く真っ直ぐ僕らだけに向けられている。

 発生源はフェンリル本部からのお偉いさん…… いや、違う。日本海に人を沈めてそうな人相だけど、この人じゃない。その隣にいる神機使いの女の人だ。

 

「気付いたか、レイジ」

 

 ギルさんもこの敵意に気付いたのか、小声で話しかけてきた。

 

「まあ、一応は。敵意に晒されるのは慣れていますから」

「ナナとシエルは…… 気付いていないか。あいつらは良くも悪くも純粋だからな」

「ギルさんこそよく気づけましたね。メチャクチャ静かな敵意なのに」

「……フラッキング・ギルだからな。こんな感情を向けられるのは慣れたもんだ。それより、注意しとけよ。白昼堂々何かしてくるとは考え難いが、万が一もある」

「イエッサー」

 

 女の人の一挙一動をさり気なく警戒し、フェンリルのお偉いさん方と向き合った。

 

「よく来てくれたね。紹介しよう、彼がフェンリル情報管理局の統括者、アイザック・フェルドマンだ」

「そうか、君がブラッドの隊長か。成る程、面構えが違う」

 

 フェルドマンさんはギルさんを見てそう言った。

 

「あのー、フェルドマンさん。ブラッドの隊長はギルじゃなくてレイジだよ?」

 

 はい、ナナさんのKYっぷりが今日も発揮されました。ここまでオブラートに包まずにズバズバ物言いできるのもある意味才能だと思います。

 

「私はフェンリル本部所属、フェンリル情報管理局局長のアイザック・フェルドマンだ。よろしく頼む」

 

 あっ、無かったことにしやがった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

「……以上だ。何か質問はあるか?」

 

 話を纏めると、螺旋の木は聖域として認定される予定らしい。

 聖域として認定されれば、人類公共の財産としてあらゆる研究設備・資源が供給される。極東支部と結託すれば、調査が格段に進行するそうだ。

 しかし、螺旋の木周辺にはやはりアラガミの影がある。そこで、僕らブラッドにはオラクル細胞を安定させる制御装置と、神機兵の護衛を頼まれた訳だ。

 

「一つ、お願いが」

「何だ?」

「仮に、仮にジュリウスさんを助けれる状況になった場合、フェンリル本部の全面的なサポートが欲しいんです。お願い、できますか?」

「……ふむ、善処しよう」

 

 僕が言いたかったのはそれだけ。あとは口を噤むとしよう。

 

「それでは、以降よりフェンリル情報管理局所属、リヴィ・コレット特務少尉に従うように」

「!?」

 

 あまりの厄ネタに頭が痛くなる。こんな敵意を向けてくる相手に従うなんて、考えただけでも面倒臭そうだ。口を噤むと思ったばかりだけど、流石にこれは口出ししそうになる。まあ、この決定は覆りそうにないから黙っておくが。

 ギルさんに目を向けてみると、来るならいつでも来い。返り討ちにしてやる、みたいな目で見えていた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 今日の任務はカリギュラの討伐だ。

 何かに惹かれるように螺旋の木に近づいているらしいから、これ以上接近する前にぶっ殺せとのことだ。

 メンバーは僕、リヴィさん、シエル、ギルさんの四人。正直、リヴィさんがいるってだけで心労が半端ない。あれだけの敵意だ。任務中の事故に見せかけて色々やってきても不思議じゃない。

 ボロボロになった胃と毛根が更にボロボロになっていく。体に鞭打ちながらも、どうにか狩猟場である黎明の亡都に向かった。

 合流地点に足を運ぶと、ギルさんとリヴィさんが既にそこにいた。シエルの姿が見えないんだけど、何処にいるんだろう?

 

「あの、シエルは?」

「何言ってんだ。お前の後ろにいるだろ」

「!!!!???」

 

 振り返ると、本当に後ろにシエルがいた。

 

「ちょ…… シエル、いつからいたの!!?」

「最初からですよ。友達だから、合流地点まで一緒に行くのは当たり前じゃないですか」

 

 友達とは一体何なのか。最近、本気で分からなくなってきた。

 

「……全員揃った。これより、カリギュラの討伐任務を開始する」

 

 リヴィさんの神機、あれは鎌か? 極東支部には鎌使いがいないからな、初めて見た。

 

『すごーい、かまだー! かっこいいー!』

「!!!!……!!???、???」

 

 無邪気に喜ぶヴァルキュリアちゃん。死神とかを連想するから、僕はどうしても鎌に良いイメージが持てないんだよな。あと、僕まで攻撃に巻き込まれそうだし。

 鎌を褒められたリヴィさんは、口をあんぐり開けてパクパクとしていた。そういえば、リヴィさんは極東支部の神機使いじゃないんだよな。女神三姉妹に会えば、そりゃあこんな反応になるか。

 それにしても、いいリアクションだ。防衛班の皆さんは初見でもそんなに驚かなかったしなぁ。恐るべし極東支部。

 

「くっ…… とうとう、頭の方までイカれてしまったのか」

『……そうね、ほんとうにあわれなひと。そうやって、げんじつともうそうのはざまをさまよってなさい』

「すまない、どうやら私は体調があまり優れないようだ。今日は後方支援に回らせてもらう。……幻聴が、鳴り止まないんだ」

 

 うっわ、涙目だ。地味にアレスちゃんの毒舌が効いてる。

 そんなこんで、僕らはカリギュラをぶっ殺すべく黎明の亡都の奥地に向かった。シエルの血の力で、大体のアラガミがどこにいるのか分かる。僕の血の力と違って、本当に便利だ。

 

「っと、早速お出ましか」

 

 僕らの気配に気づいていたのか、刃を剥き出しにしたカリギュラがこちらに向き合っていた。

 

「来るぞ!」

 

 ギルさんが叫ぶと同時に、カリギュラが背中のブースターを吹かせながら突進してきた。腕を後ろに下げ、いつでも刃を横薙ぎに払えるように準備をしている。

 地面を蹴り、上空へ逃げる。他のみんなも各々回避行動をとっている。

 カリギュラの刃は空を切った。

 神機がアテナイちゃんに変型した。この隙に背中のブースターをぶっ壊せ、ということだろう。細かな狙いは全てアテナイちゃんに任せ、僕はただ引き鉄を引いた。

 銃弾が空を走る。カリギュラのブースターに直撃し、ブースターは見るも無惨に破壊された。これでブースターとしての機能は完全に沈黙した。随分とやりやすくなる。

 

「はぁっ!」

 

 リヴィさんはカリギュラが怯んだ隙を見逃さず、カリギュラに接近して左腕に鎌を突き立てた。

 パキリッ、と音を立てて左腕が破壊される。カリギュラは苦し紛れに右腕の刃を振り下ろしたが、リヴィさんは既に後退していた。

 やはり、戦い慣れしている。きっと、かなりの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。

 

「畳み掛けるよ!」

 

 僕とリヴィさんでカリギュラの甲殻を削り、シエルとギルさんはその部位を狙って徹底的に斬撃を浴びせる。

 いよっし、もう少しでカリギュラをぶっ殺せるーー

 

「っ!!!」

 

 野生の勘、とでもいうのか。とにかく、すぐにこの場から離れろという警鐘が脳内で鳴り響く。

 思いっきり後ろに下がると、さっきまで僕のいた空間に刃が走った。刃の軌道から見て、その場に留まっていても掠る程度で済んだろうけど。

 犯人は、やはりリヴィだった。

 肉を断つ音が響く。カリギュラの下顎にリヴィの鎌が突き刺さっていた。さっきの斬撃はあくまでカリギュラを殺すため、という訳か。

 カリギュラは地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「……すまない、ブラッドの隊長。怪我はないか?」

「えっと、はい……」

『ねえレイジ、だいじょうぶなの!? ほんとうにけがはない!?』

「レイジになんてことをレイジになんてことをレイジになんてことをレイジになんてことをレイジになんてことをレイジになんてことを」

 

 シエルの叱責にも目をくれず、リヴィはカリギュラのコアを摘出する作業に移った。

 思わず溜息を吐く。

 ほんと、人に恨まれるような真似はしないように気をつけていたのに。どうしてこうなったんだ?

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 任務も終わり、クタクタの体で自室へと向かう。帰ったら寝よう、思いっきり寝よう。

 ああ、目が覚めたらまた任務が待っているのが憂鬱でならない。

 

「久しぶり、レイ「やあ、奇遇だねレイジ君」

「クジョウさん!」

 

 通路に向こうに、沢山の荷物を持っているクジョウさんがいた。

 クジョウさんの元へ駆け寄る。途中で赤い髪の人とすれ違ったけど、多分情報管理局の一般局員の方だろう。会釈をしてそのまま通り過ぎた。

 

「荷物、お持ちしますよ」

「ああ、助かるよ」

 

 クジョウさんの持っていた荷物を半分ほど引き受ける。

 

「部屋まで運びたいんだけど、そこまで手伝ってくれるかい?」

「勿論です」

「そうか、良かった。お礼にお茶でもご馳走するよ。いい紅茶が手に入ったんだ」

「お、マジっすか」

 

 他愛のない雑談をしているうちに、クジョウさんの部屋に着いた。

 部屋の中は驚くほど整理整頓されていた。研究資料とか、そんなのが沢山あるはずなのに……。

 

「ああ、荷物はそこに置いていいよ。あとはソファーにでも座っていてくれ。お茶を出そう」

 

 指定された場所に荷物を置き、ソファーに腰をかける。少しすると、クジョウさんがお茶を持ってきてくれた。

 

「さあ、召し上がれ」

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 ふと、棚の上にブリキの人形があるのに気づいた。

 あり合わせの鉄屑で作ったのだろうか? お世辞にも完成度が高いとはいえないが、作った人の一生懸命さが伝わってくる。

 クジョウさんならもっと上手く作れるだろうし…… う〜ん、誰からの贈り物だ?

 

「あれが気になるかい?」

 

 僕の視線に気づいたのか、クジョウさんから話を振ってくれた。

 話のネタに丁度良さそうだ。気になるっちゃ気になるので、僕は黙って頷いた。

 

「実はね、あれを作ったのは私なんだ」

「えっ!?」

「下手くそだろ、あのブリキの人形。まあ、当時の私は子供だったんだけどね」

 

 クジョウさんは昔を懐かしむような目で、じっとそのブリキの人形を眺めた。

 

「……少し、昔話に付き合ってくれるかい」

「……ええ、大丈夫ですよ」

「そうか、ありがとう。……私は子供の頃から、本当に何の取り柄もなくてね。機械を弄るのが好きだったけど、物を作るのが得意って訳でもなかったんだ」

 

 クジョウさんは微笑みながらも、どこか寂しような表情だった。

 

「このブリキの人形だって、本当に苦労して完成させたんだ。きっと、レイジ君のように器用な人ならもっと短時間で作れただろうね」

 

 クジョウさんはそう言って、恥ずかしそうに笑いかけた。

 

「だけどね。下手くそなブリキの人形しか作れない、そんな不出来な私でも、母はとても褒めてくれたんだ。それが堪らなく嬉しくてね。色々な物を作っては、その度に母に見せに行ったんだ」

 

 

 

 

「だけど、母はアラガミに殺された」

 

 

 

 

「心底自分が憎くなったよ。自分が母にしてあげたことといえば、ガラクタを見せるくらいだったからね。その日を境に、ずっとずっと思うようになったんだ。あのブリキがアラガミを倒せるようなロボットだったら、母は助かったのに…… って。だから僕は、無人神機兵の製作に力を入れていたんだ。まあ、無人神機兵の開発プロジェクトは永久に凍結しちゃったんだけどね」

 

 クジョウさんの偉大さを痛感すると同時に、ラケルへの怒りが湧いてきた。

 無人神機兵の開発が凍結したのはあいつのせいだ。クジョウさんはどれだけの覚悟で神機兵の開発に取り掛かっていたのか、あの電波女に伝えやりたい。

 

「ごめん、詰まらない話だったろう? さあ、紅茶が冷めないうちに」

「いえ、話してくれて嬉しかったです。では、いただきます」

 

 コップの淵に口をつけ、傾ける。

 クジョウさんが淹れてくれた紅茶は、とても美味しかった。





レア博士「今作もラスボスにもなれない私は何者なのだろうか?」

クジョウ博士のスペック
・紅茶を淹れるのが上手い
・母親思い
・整理整頓ができる男
・天才ではないが、秀才

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