スイーツイーター ~お菓子の神機使い~   作:フロンサワー

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七十四品目

 

 車に揺られながら、螺旋の樹へと向かう。

 オラクル細胞制御装置の5番機に異常が検知されたので、僕とリヴィが様子を見に行くことになったのだ。

 フェルドマンさんの見立てでは、アラガミがケーブルをおやつがやりに食べているかもしれない、とのことだ。

 形式だけとはいえ隊長だから、こういう損な役回りなのは理解できる。だけど、何故よりによってリヴィさんとのツーマルセンなのか。推理モノの小説なら、僕は現在進行形で死亡フラグを建てている。ぶっちゃけ、味方でも不安が拭えない。

 無論、ブラッドだって抗議はした。しかし、情報管理局はリヴィさんに全幅の信頼を置いている。結局、抗議したところで現状は変わらなかったのだ。

 

「「……」」

 

 リヴィさんは隣の席に座っている。だけど、会話はない。敵意だけはずっとあるが。

 空気が重い。癒しが、癒しが欲しい。女神三姉妹かクジョウさんと語り合いたい。

 流石に、いつまでたってもこの状況にしておく訳にはいかない。リヴィさんが敵意を剥き出しにしている理由くらいは聞き出さなくては。

 

「あの、リヴィさん……」

「どうした。何か用か?」

「単刀直入に聞きます。どうして僕らブラッドにそこまで敵意を抱いているんですか? せめて理由を教えてください」

「……敵意? なんの話だ」

「誤魔化さなくってもいいっすよ。自慢じゃないですけど、そういう感情には敏感なんで」

 

 空気が張り詰める。

 理由を話すべき、話さないべきか。葛藤する様子を見せるリヴィさんだったが、やがて観念したように視線を下に切った。

 

「ロミオ・レオーニ……」

「っ!!!」

 

 今にも消え入りそうな、とても小さな呟き声でも不思議なくらい耳に残った。

 心臓を鷲掴みたされたような、そんな衝撃が走る。

 何故。どうして。どんな理由で彼の名前が出てくる。頭が混乱し、上手く働かない。

 

「この名を忘れたとは言わせない」

「……忘れませんよ、忘れる訳ない」

 

 その名だけは何があろうと忘れはしない。僕らを残してたった一人で逝ってしまった仲間の名なのだから。

 

「ロミオは、私のーーー」

 

 空気が震えた。根拠はないけれど、断言できる。何かが、来るーーー!

 

「「っ!!!??」」

 

 リヴィさんの言葉を遮るように、大地が揺れた。

 神機使いならまだしも、一般人では立つことすらままならないであろう強い揺れ。当然、ハンドルが取られて車は操縦不能になってしまった。

 車は何度もスリップし、ある程度の距離を走ってやっと止まった。締めてて良かったシートベルト……!

 気づくと、隣にいるはずのリヴィさんがいなかった。車のドアが開いている。既に外の確認に向かっているのだろう。

 僕も外に出ると、リヴィさんが呆然とした目で螺旋の樹がある方向を見つめていた。僕も視線をその先へ合わせるとーーー

 

「なんだよ、あれ……!!」

 

 蕾から花開くように、翼のような何かが天高くに広がっていた。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 アナグラに戻ると、早速フェルドマンさんから招集をかけられた。

 集められたメンバーは第一部隊隊長のコウタさん、クレイドル所属のリンドウさん、それとサカキ博士だ。

 何が原因で螺旋の樹に変化が起きたのか、これから何が起こるのか、まだ何もわからない状態らしい。ただ一つ分かったのは、特異点の反応が消えたということだ。ジュリウスさんの身に何か起こったのか、それもまだ不明だ。

 特異点の消失により、再び終末捕食が引き起こされるかもしれない。サカキ博士曰く、僕らに残された時間はあまりないかもしれない、とのことだ。

 そんな訳で、螺旋の樹の内部調査を行うことになった。どうやって中に入んべ、と思ったが、フェルドマンさんは間髪入れずにその疑問に応えてくれた。

 ジュリウスさんの神機で螺旋の樹を切り開き、内部の調査をするらしい。

 他人の神機を使えばアラガミ化する、という問題があるが、リヴィさんは他人の神機をどうにか扱えるそうだ。何故なら、リヴィさんは全ての神機に適合できる体質だからだ。世界的に見ても珍しいらしい。

 実際、リヴィがジュリウスさんの神機に接続しても少し苦しむ程度で済んでいた。

 アラガミ化について詳しく知るリンドウさんとコウタさんは、少し複雑そうな顔をしていた。

 リヴィさんを一刻も早くブラッドアーツに目覚めさせるべく、二人きりで螺旋の樹外部の調査をすることになった。近くにいるアラガミは狩ってこい、とのことだ。だから、どうしてリヴィさんとry)。

 てな訳で、僕らは今螺旋の樹の外部にいる。見渡す限り、どことなく不気味な木々が鬱蒼と生い茂っている。

 

『なんだか、こわいばしょだね〜……』

「そうだね……。だけど、大丈夫。僕がヴァルキュリアちゃんたちを守るから」

『わたしたちもレイジをまもるよ! レイジはなまけものさんだから、わたしたちもがんばんないと!』

「ははは、それもそうだね。お互いに頑張ろう」

 

 幸せを実感したところで、今日の獲物のおさらいをしよう。

 今回のターゲットは暴走神機兵。数は一体だけだけど、油断は禁物だ。

 

「仕事の同僚が機械とイチャイチャしてる件について」

「機械じゃない、女神三姉妹だ!」

「何故私怒られる! 私が悪いのか!?」

『あやまんなきゃ、めっ! だよ!』

『すなおにあやまれないんだ。うつわのおおきさがしれるわね』

「……」

 

 リヴィさんは疲れ切った目をしていた。

 アラガミとは特に遭遇していない。僕と女神三姉妹とお喋りしていただけなのに、どうしてあんな顔をしているのだろう。

 

「っと、現れたな」

 

 大剣を担ぐ暴走神機兵がいた。

 奴がいるのは開けた空間。地形的に、奇襲を仕掛けるのは難しそうだ。

 

「正面から仕掛ける感じでいいですか?」

「ああ、私は構わない」

『とつげきだ、とつげきー!』

 

 ヴァルキュリアちゃんの号令とともに、神機を構えて突撃する。

 神機兵も僕らに気付いたのか、威嚇するように大剣を振り回している。

 神機兵の持つ大剣が銃に変わる。遠距離から狙い撃つつもりらしい。

 銃口の向きを見て、どの場所に銃弾が撃ち込むつもりなのかを予測する。うん、ルートは決まった。後はタイミングを見計らって進むだけだ。

 銃口が僅かに揺れた。そのタイミングで地面を蹴り、姿勢を低くして前方に跳ぶ。

 僕がさっき立っていた場所に銃弾がぶち込まれる。流石はクジョウ博士とその他が開発した兵器。とんでもない威力だ。

 同じ要領で銃弾を躱し続ける。その現状に苛立ちを覚えてか、神機兵は無我夢中に銃弾を撃ち込んできた。

 そりゃそうだ。僕だって同じ状況ならきっとそうする。だけどーー。

 

「そんなに僕に構っていていいのかい?」

 

 神機兵の背後に神機を振りかぶるリヴィさんの姿があった。

 神機兵が気配に気づく。だけど、もう遅い。リヴィさんは神機兵の右腕に一太刀浴びせた。

 

「ッ!!?」

 

 ダメージは入ったが、剣を手放させるには至らなかった。

 普段の神機と使い勝手が違うのもあるのだろう。与えた傷が浅いとまでは言わないが、あと一歩足りない。

 

「グガァァァッ!!!」

 

 咆哮とともに、乱暴に振るわれた大剣がリヴィさんに迫る。

 回避は難しいと判断したのか、リヴィさんは装甲を展開して神機兵の斬撃を受け止めた。衝撃までは殺しきれず、リヴィさんは後方へと吹き飛ぶ。

 

「こんっのぉ!」

 

 一気に神機兵の懐まで駆け、勢いそのままに飛び蹴りをお見舞いする。

 突然の衝撃に神機兵がたじろぐ。ダメージは無さそうだけど、予想通り。蹴っただけでダメージを与えられる、と思えるほど自惚れてはいない。体勢を崩す、それだけで十分だ。

 アテナイちゃんに変型させ、右腕の裂傷に銃口を向ける。

 これが僕の精一杯。更に精密に狙いをつけるなんて、一生訓練したとしてもやれる気がしない。

 だけど、アテナイちゃんなら別だ。本人のクレバーな性格と元々のセンスが合わさり、どんな狙撃だっていとも容易くやりのける。

 

「頼んだ、アテナイちゃんっ!」

『ーーっ!』

 

 引き鉄を絞る。その直後、耳をつんざく無骨な銃声が響く。

 裂傷に寸分違わず銃弾が吸い込まれる。着弾すると同時に、右腕と大剣が吹き飛んだ。

 吹き飛んだ大剣を拾いに行こうと、神機兵は後方へ跳んだ。

 その行動は当然だ。使っていた武器が吹き飛ばされれば、誰だってそれを取りに行く。僕だってそうする。

 だけどーー。

 

「今に限っては悪手だぜ、それ」

 

 リヴィさんは神機を振りかぶり、大剣の近くで待ち構えていた。

 直後、一閃。神機兵の首が吹き飛んだ。

 膝から力なく崩れ落ち、神機兵はとうとう地面に臥した。

 

「ふぅ……」

『おつかれ、レイジ』

「うん、そっちもお疲れ様」

 

 お仕事お終い、と。今日もいい囮っぷりだった。さてと、調査の方は一通り済んでいるし帰投でもするとしよう。

 

「何か、来る……」

 

 奥の方を見て、リヴィさんがそう呟いた。

 直後、地面が大きく揺れる。僕も嫌な予感がしてならない。神機を構え直す。

 

「うわっ……!?」

 

 なんかドロドロした謎の物質が流れてきた。触ったらヤバいオーラで溢れている。もののけ姫のドロドロしたアレ的なオーラで溢れている!

 

「逃げるぞーーって、速っ!?」

 

 言われなくとも全力全開で逃走してたので、リヴィさんは遥か後方にいる。

 僕の逃走スキルを甘く見ては困る。伊達に長い間アラガミに集中砲火されてねえ!

 

『レイジ、うしろっ!』

 

 アテナイちゃんの声で、思わず後ろを振り返る。

 そこには、割れた地面をギリギリで走っているリヴィさんがいた。地面が崩れ落ちたのか、リヴィさんのすぐ後ろには何もない空間が広がっている。

 

「ーーああ、もう!」

 

 なんだかんだで見殺しにはできない。

 来た道を引き返し、落ちる寸前のリヴィさんの手を掴んだ。ギリギリのタイミングだ。あと少しでも遅れれば手を掴めなかっただろう。

 

「……っ、レイジ」

「貸し一つっすよ、リヴィさん!」

 

 さっさとリヴィさんを引き上げて、ここから離脱しないと。

 

 ーービシリッ!

 

 嫌な音がした。本当に嫌な音がした。

 直後、僕のいる地面も崩れ落ちていった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 目を開けると、どことなく怪しい雰囲気のある木々が視界に映った。

 えっと、どうして僕はこんな場所で寝てるんだ……?

 そうだ、リヴィさんと一緒に螺旋の樹の調査に行って、下層に落ちそうなリヴィさんを引き上げようとしたら僕ごと地面に落ちたんだ。

 手も動く、足も動く。結構な距離から落ちたのに、怪我らしき怪我は無さそうだ。神機使いの身体能力様様だ。

 

「気付いたか?」

 

 声のした方をみると、申し訳なさそうな顔で僕の顔を覗き込むリヴィさんがいた。

 

「ッ…… リヴィさん、女神三姉妹は?」

「起きて早々に神機の心配か…… 心配ない、お前のすぐ横に転がっている」

 

 言われた通りに横を見てみると、そこには女神三姉妹がいた。

 

『ご、ごめんなさいレイジ……。わたしがへんなこといって、こんなじょうきょうになって……』

「謝る必要なんて無いさ、アテナイちゃん。僕だって助けれる仲間を見捨ててまで帰ろうとは思わない。むしろ、よく気づいてくれたよ」

『で、でも……』

「それなら、普段でももうちょっと笑ってくれると嬉しいかな」

『……もう、ばか』

 

 さて、偏食因子が尽きる前にアナグラに戻らないとな。

 それにしても、今日はなんて厄日だ。まさかまだ仕事が続くなんて。

 あとで残業代と労働手当も請求してやる。

 





 あの、なんかクジョウ博士が死んだっぽいんでけど……。
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