距離を置きたいだけなんだけど   作:ろしでれ

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第6話 乙女心は時に厄災となるらしい

 

有希は、フンスっ! と鼻を鳴らす。何度も何度も。多分、わざとだと思うが取り敢えず政近は気になってる事を追求する。

 

 

「……いや、待て待て」

 

 

軽く手を上げて、興奮する有希を制しつつ、先ほどの言葉を頭の中で再生させた。

 

 

「今、聞き捨てならない単語が聞こえたんだが」

「どれ?」

「全部だ」

 

 

政近は即答だった。

有希は「むぅ」と頬を膨らませる。何も変なこと言ってないのに、と。

 

 

「兄者は細かいことを気にしすぎなのですわよ?」

「細かくねぇよ。そこ一番気になるとこだろ。何だよ、いおりんって。初めて聞いたぞ」

「何って、単なる愛称だよ? おにーちゃん」

 

 

一番気になってる事を、有希はさらり、と言ってのけた。

そこが一番気になる、という政近の感性もあれだが、今は触れないでおこう、

 

 

「愛称なのかよ」

「うん」

「本人公認?」

「これから!」

「公認じゃねぇじゃねぇか。そら聞いたことねーな」

 

 

すぱん、とツッコミが飛ぶ。

有希は気にした様子もなく胸を張った。

 

 

「未来への先行投資ってやつだぜ兄貴!」

「何を投資してるんだよ、お前は」

「親密度!」

「ゲームじゃねぇだろ」

「え? 人生はゲームだよ?」

「どっかの名言みたく言うな。そんな単純じゃねーし」

 

 

政近は即座に否定した。

本当にそうならどれほど気が楽で、どれほど最高な世界だろうか。

 

 

「少なくともこの世は恋愛シミュレーションゲームのようにはいかねえぞ。色々UP! する音も出なけりゃ、DOWN! する音もない」

 

 

そうだ。本当にそうなら月読の様な娘を、今すぐにでも攻略したい、と考える。その後のアリサという存在がもたらす厄災は考えないでおく。

 

と、政近のその一言に、有希の動きがぴたりと止まった。

数秒の間、痛いような静寂が流れる。

 

 

「…………兄者よ」

「…………何だ?」

 

 

ようやく、神妙な顔つきになる有希が口に出し、政近も生唾をゴクリと飲み込む。

 

 

「今、何て言った?」

「ゲームのようにいかないぞ」

「その前」

「人生は?」

「違う。その後」

 

 

政近は少しだけ考える。

そして、何気なく答えた。

 

 

「恋愛シミュレーション……」 

 

 

そこまで口にして政近は、有希が何を気にしているのかに気づく。と、言うより自分も気付いた。

 

 

「ああ」

 

 

有希の肩が、ぴくり、と震える。 

 

 

「なーにいってんのよ、おにーちゃん様? 違うからねー」

 

 

食い気味だった。

 

 

「うんうん、違う違う!」

 

 

両手を横に広げて、まるで呆れるような仕草で続ける。

 

 

「なーにを勘違いしているのか知らないけど、これは恋愛イベントではありませんわよ!」

 

芝居掛かかった、どこまでも芝居掛かってる有希の言動に対して、政近は全ての線が繋がった、とどこかの名探偵のようなニヒルな笑みを浮かべつつ、有希に改めて聞き直す。

 

 

「じゃあ何てイベントなんだ」

「大型イベントです!」

「いや、答えになってねぇぞ?」

 

 

鼻歌交じりになり。ますます間違いないのを確信。

何より新鮮で、面白いのだ、確かに性格は悪い。異論は認めない。でも、追求することが正解であり、正しい選択肢。

 

「新規ルート開放!」

「だからゲームじゃないだろ?」

「隠しフラグ!」

「だからゲームじゃないって」

「特殊会話発生!」

「なるほど、そこまで来たらゲームだな」

「好感、度……」

 

 

そこまで言って、有希ははっと口を押さえた。

政近はじっと見つめる。

 

 

「続けて続けて? ほらどーぞ」

「……」

「今、好感度ってって言ったよなー。伊織にそんなパラメータあるなら是非とも見てみたい。正しい選択肢も選びたい。有希も同じか」

「…………」

 

 

有希は視線を右へ。

左へ。

天井へ。

床へ。

最後に政近と目が合った。

 

 

「はっ」

 

 

乾いた笑いが漏れる。

 

 

 

 

「はっはっはっはっはーーーーー……」

 

 

 

 

確かに有希は笑っている。笑ってはいるのだが、明らかに目だけが泳いでいた。ここまで分かりやすいと、抽象的な表現である、どちらかといえば創作内でしか、ありえないのでは? と思う目が泳ぐ、を体現している、と絶対に言える。

 

 

「白々しく視線逸らすねー、我が親愛なる妹よ」

「いやぁ、今日はいい天気だねぇ」

「夕方だぞ」

「夕焼けが綺麗!」

「部屋カーテン閉まってるし」

「……」

 

 

完全に逃げ道を失った。

有希は小さく咳払いを一つすると、何事もなかったかのように姿勢を正す。

 

 

「では、改めまして」

「仕切り直すな」

 

 

如何に有希と言えども、恥ずかしい。羞恥というものはあるらしい。兄弟間では無いだろうな、と。平気で服脱ぐことだってあるし、ヲタモード全開の時はより顕著だ。

そんな妹に、有希に生暖かい目を向けていた時だ。

 

 

「本日発生した大型イベントについて説明します」

「お、恋愛イベント?」

「違います」

 

 

有希は即答。なかなか認めないようだ。本当に実に新鮮。こんな妹を見る日が来るとは、と思う政近。そしてその相手が伊織とくれば尚更だ。

 

 

「大型イベントです」

「そこは譲らないんだな」

「ええ、そりゃそーよ。だって大型イベントだもんっ!」

 

 

有希は妙なところだけ頑固だった。

政近は肩を竦め、小さく笑う。

 

 

「はいはい……分かったよ」

 

 

飲みかけの麦茶をまた一口、口に含み口内を濡らしたあと飲み込むと、政近は苦笑混じりに続ける。

 

 

「んじゃあ、その大型イベントってやつ、最初から全部聞かせてもらおうか」

 

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに、有希の表情がぱぁっと明るくなる。

 

 

「よくぞ聞いてくれました、兄者様!」

 

 

勢いよく立ち上がり、びしっと政近を指差した。

 

 

「ここから先は、長くなるよ! 寝かせないぜっ♪」

「やっぱりか……」

 

 

政近は天井を見上げ、小さく息を吐いた。

こうなった妹は、もう誰にも止められない。

それを、この兄は昔からよく知っていた。

 

 

「なんと!! あのいおりんが!! このわたしに対して!!!」

 

 

そこまで言って、有希はぴたりと口を閉じた。

 

両手を胸の前で構え、大きく息を吸い込む。その瞳は期待に満ち溢れ、今から歴史的瞬間でも発表するかのような高揚感に包まれていた。いや、少なくとも本人の中ではそのくらいの一大イベントなのだろう。

 

 

 

「それでは皆様、ご唱和ください」

「いや、誰もいねぇから」

「ドラムロール、スタート!」

「なんか始まった……」

 

 

 

有希は満面の笑みで高らかに宣言すると、自分の膝をぽんぽん叩きながら口だけで効果音を鳴らし始める。

 

 

 

 

「ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル~~~~~~」

「自分でやるのか」

 

 

「ドゥルルルルルルルルルルルル~~~~~~」

「長い」

 

 

「ドゥルルルルルルルルルル~~~~~~」

「まだ引っ張る?」

 

 

「ドゥルルルルルルルル~~~~」

「そろそろ結果出せ」

 

 

「ドゥルルルルルル~~~~」

「もったいぶりすぎだ」

 

 

「ドゥルルルル~~~~」

「もういいわ!!!」

 

 

 

「ジャンッ!!」

 

 

 

勢いよく両手を広げた有希は、これ以上ないほど得意げな笑みを浮かべながら、まるで世界の真理を発表するかのような勢いで高らかに宣言した。

 

 

「なんと! いおりんが! この私に向かって! 『照れくさい』って言ったの!! おにーちゃんも聞いたよね! 大型イベの場所に、いたよね!!」

 

 

いやっふ〜〜! と、有希は某世界一有名な赤色帽子の配管工を、彷彿させる。

 

政近は瞬きを一つ。

有希は満面の笑み。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

政近は暫く考えたあと口を開く。

 

 

「……は?」

「だから!」

 

 

有希はぐっと拳を握り締める。

 

 

「いおりんが! この私に! 照れくさいって!」

「……うん」

「照れたんだよ!?」

「……うん」

「この私に!」

「うん」

「デレた! デレ期キタコレ! だよ!」

 

 

政近は一度だけ頷き、真顔のまま結論を口にした。

 

 

「……それだけ?」

 

 

有希の笑顔がぴたりと止まる。

次の瞬間。

 

 

 

「それだけとは何事かぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」

 

 

 

リビングいっぱいへ、有希の魂の叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

征嶺学園

 

 

 

 

昨夜は本当に大変で、色々あったが……それ以上の事が起きた、かもしれない。

種類が違う、ベクトルが違う。それでもインパクト度合いでは、極めて極めてデカい。それこそ、大型イベント(ラッキースケベ)だ。

 

 

「? 何してるの?」

「い、いや何でもない。ちょいニキビが頭に出来たみたいでな。……おはよう、伊織」

「ん。おはよう」 

 

 

教室に入ってきたのは伊織だ。

つい先程までのイベントについては、伊織にはバレてないらしい。教室を飛び出していったアリサの姿も、多分見てないんだろう。幸運だった……だろうか。

 

先ほどのイベント、伊織に知られたらどうなる?

ただの、ラッキースケベ。アリサのアリサを見てしまっただけなのだ。……キーワードはピンク。目の保養。

 

アリサのピンクを不可抗力とは言え、政近がはっきりと見てしまった場面に伊織がいたら?

 

伊織も男だ。 男として、気持ちがわかってくれるだろうことを信じて、男の友情を育み、かつてのようなオタ活ライフを分かち合える彼に戻ってくれる────とは、思えない。

 

席に着くと、直ぐに参考書やら、教科書やらを取り出してるところをみると、マジで眼中にない感じだ。寧ろ邪魔したことで、ただでさえ、距離が出来てるのに、さらに開いてしまうだけだとわかる。

 

政近は、徐にスマホを取り出すと、メッセージアプリを起動して妹にメッセージを送った。色々と振り払うために。聞いてくれるのは間違いなく、スマホの中にいる、スマホで今繋がれる妹、有希だけだろうから。

 

ピンクをみたことと……、そして何より新たな一面に気づけたこと。

 

 

 

『妹よ、大変だ』  

 

 

ちょうど車で登校している最中なのだろう。すぐさま既読が付き、返信が送られてきた。

 

 

『どうした、我が愛しのお兄ちゃん様よ』

『聞いて驚くな、実はな……』

『ゴクリ』  

 

 

戦慄に震える、アニメキャラのスタンプが送られてくる。その緊迫感溢れるスタンプを見ながら、政近はまさに痛恨の極みといった表情でメッセージを打ち込んだ。

 

 

『俺……脚フェチだったのかもしれん』

『なん、だと……!? 貴様、生粋のおっぱい星人ではなかったのか!?』

 

 

そう、何やら色々あって、アリサの御足にも触れてしまったのだ。ただ、これだけは心のなかで、弁明したいが、先にやれといったのは、からかってきたのは、男のプライドに触れてきたのは、アリサだということ。

その結果が、足フェチ、と。

取り敢えずメッセージのやり取りは続く。

 

 

『ああ……くっ! まさか、俺にそんなフェチがあったとは!!』

『そうか……貴様もようやく、脚の素晴らしさが分かるようになったか……』

『そう、みたいだな』

『脚はイイぞ? むっちりとしたふともももイイが、よく鍛えられたカモシカのような脚もまた捨てがたい』

『おお、流石だな妹よ』

『うむ……ところで兄者』

『うん?』

『なにこのクソみたいな会話』

『ごめん』

 

 

 

政近は、有希から冷や水を浴びせられた気分になる。何を興奮していたのか、それて冷静さを取り戻すと、ぐでーっと身体を傾け、机に突っ伏そうとするその時に、新たなメッセージ通知が来たのに気づいた。

 

 

『時に足フェチNEWお兄ちゃん様よ。あの秘め事、秘匿とする事は今も忘れてなかろうな?』

『秘め事とか、何か卑猥だな。叡智でもある』

『話を反らすのはよろしくないことだよ愛しのお兄ちゃん様。……それはそうと、バラしたりはしてないだろうね? 隣にいるであろう彼────いおりんに』

 

 

文面からでも伝わる圧に、政近は苦笑する。

あの時、最後に散々「誰にも言うな、二人の秘密」と念を押されていたのだ。

もちろん、他人に、ましてや本人に話すつもりなど最初からない。無粋極まりない愚行は起こさない。

 

 

『安心しろ。誰にも話してない。もちろん伊織にも。つーか、いおりんデフォにすんのな』

 

 

有希の既読は一瞬だった。

そして、返信もすぐに来る。

 

 

『よろしい』

 

 

いおりんを、デフォにしたのか否か。メッセージの中だけか、或いは自分と居る時だけか。

その辺は明らかにしないようだ。

そして、その一言だけで終わるかと思った矢先、再び通知音が鳴る。

 

 

『ちなみに、もし兄者が約束を破り、いおりんへ余計なことを吹き込もうものなら、厄災が振りかかるであろう事を予言しておこうではないか。愛しの妹の秘部を明かそうと言うのだ。そのくらいの覚悟を持ち給えよ、お兄ちゃん様』

 

 

それなりの長文だが、直ぐに返ってきた。なかなかのタイピング技術だ。……と、言うより文面からも伝わる禍々しい、おどろおどろしい言葉『厄災』

日常会話で、オタク系会話以外で目にするとは思わなんだが、いつ、如何なる時であっても、【怖いもの見たさ】というのはあるもので。

 

 

『言うつもりはないから安心しろ、と言いたいが、気になるな。厄災って? 怖いもの見たさで』

 

 

そのメッセージは既読がすぐについた。でも、返事を要するのに時間がかかってる。余計な事を言ったか?? と政近の額には汗が出てしまうが、一拍おいて、すぐに来る。

禍々しいさえ超えた、邪悪なものを、厄災を電子の力でばら撒こうとする、妹魔王の姿が、画面越しに見えてとれた。

 

 

『兄者といおりんのBL疑惑を、学校中へ既成事実付きで流布します』

「…………」

 

 

政近は画面を見つめたまま固まる。

がんっ! と机と頭をぶつける。

それなりに大きな音がしたので、丁度隣にいて予習をしてる伊織は、身体をビクッ! とさせて、政近の方を見た。『大丈夫?』と気遣いを見せてくれながら。

うん、優しい。冷たい感じはずっとしていた。中学三年の時から。でも、やはり、根本は優しいのだ。

 

 

でも、それはそれ、だ。

 

 

政近は、大丈夫大丈夫、と軽く素早く手を振るとすぐにスマホ画面に目を落とした。

 

 

『いやいや、待て、疑惑じゃなくて確定になってるんだが! 止めとけよ! 冗談でも! すぐ隣にいるんだぞ!?』

『細かいことは気にしない』

『気にするわ! 変な空気になるだろうが!』

 

 

そんな、ものが広がった次の日から学園に行ける気がしない。

向けられる視線は冷たいものに早代わりするだろう。腐女子属性持ちがいるなら、その層は盛り上がるかもしれないが。

 

 

『兄者が気にしても、この有希は気にしません。クラス違うし? なお、証言者は有希自身な予定です。いおりんが、お兄ちゃんに寝取られた〜〜………、大変な事態。ああそれはもう、【厄災】と言って然るべきか』

『最悪だなお前。最悪の捏造風評被害だよ』

『兄者の社会(学園)的生命と、私の大型イベ、どちらが重いかなど、考えるまでもないよね?』

 

 

これ以上は、有希にとって不都合なことを考えるだけでも危険だ、と政近は判断した。

  

 

「重すぎるだろ……」

 

 

思わず漏れた独り言は、誰もいない教室へ静かに溶けていった。

 

――やはり、この妹には逆らわないのが一番らしい。

 

だが、そうだとしても、有希にとっても不都合な事はまだあるはずだ。

 

 

『てか、伊織への被害もデカいが、その点妹様はどうお考えで?』

 

 

そう、この話は政近も死ぬが、伊織も死ぬ。

しかも、何も知らない状態からなので、最早通り魔にあったかのように、性質が悪いときてる。

メッセージを有希に送信すると、政近は小さく息を吐いた。

 

自分の社会的生命を人質に取られるだけならまだしも、何も知らない伊織まで巻き込まれるのは流石に忍びない。

言うつもりはないから、そもそも起きない事柄だったとしても、想像上の伊織も不憫でならないのだ。

 

当の本人は、そんな被害が、厄災が振りかかるなど夢にも思っていないはずだから。

 

にもかかわらず、明くる日、学園へ着いた途端、「政近と伊織はそういう関係らしい」などという噂が流れたら――心中の被害は計り知れない。

せめて、その点だけでも有希に思い直してほしかった。

 

既読はすぐに付く。

 

しかし、返信は来ない。また間が空いた。

少しは罪悪感でも芽生えたのだろうか。

そんな淡い期待が、政近の脳裏をよぎる。

 

 

 

 

――次の瞬間、その期待は木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 

 

『散るなら諸共』

『いや、なんでだよ!』

 

 

 

 

あまりにも潔い一文に、政近は思わず額へ手を当てる。

 

 

『いやいやいや、そこは伊織に悪いとか思わないのか? 落ち度全くないんだぜ??』

『思うよ? 思うけど─────────』

 

 

 

長い長い溜めのあと。

 

 

 

 

『この私のダメージはもっと大きい。だから』 

 

 

 

 

切腹してるようなスタンプが送られてきて、直ぐにメッセージもきた。

 

 

 

『散るなら諸共』

「二回言ったよ、コイツ……」

 

 

政近は天井を仰ぐ。

どうやら、この妹の中では既に結論が出ているらしい。

 

 

『兄者よ。乙女を甘く見てはいけない』

『恋愛イベントじゃないんじゃなかったのか?』

 

 

送信した瞬間、しまったと思った。

数秒後。

 

 

『大型イベントです』

『恋愛イベントではありません』

『ここ重要』

 

三連続のメッセージ。

 

 

「そこは譲らないのか……」

 

 

思わず苦笑が漏れる。

理屈はまるで通っていない。

だが、有希の中では筋が通っているのだろう。

大型イベントを守るためなら、多少の犠牲はやむを得ない。

 

その「多少」の中に、自分どころか伊織まで含まれていることだけが大問題なのだが。

 

 

『兄者。だからこそ、余計なことは言わないように。お願いだ。口は災いの元、とも古来よりいうだろう?』

『いや、これ最早脅迫だろ』

『お願いです♪ おにーちゃん! いもーとを、助けると思ってっ❤(ӦvӦ。)』

 

 

「音符付けてもハートつけても顔文字つけても変わらねぇよ……」

 

政近は肩を落とし、小さく笑う。

結局のところ、この件に関して有希の不利益になるような事をする気は最初からない。

 

何より――。

 

 

「(俺と伊織の名誉に関わる。沽券に関わる。正しく厄災だ……)」

 

 

何も知らぬ友人、今もなお努力を続けてる友人(疑)へ、心の中でそっと詫びた。

 

有希が自分から言うまでは、余計なことは、言わず、何なら墓場まで持っていこう。

 

 

そう政近は静かに決意した。

 

 

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