夜に咲く白い花 作:ももはね
「山吹さん! 今日、一緒に登校しましょう!」
私の言葉に山吹さんはわかりやすく顔を顰めた。
「はぁ? なんでそんなことしないといけないの」
「私、食堂とか場所わかりませんから、教えてくださいよ!」
「他の奴らに頼めば」
「いいえ。山吹さんが、いいんです!」
顔を近づけ「ね?」と頼み込む。なんやかんやチョロい彼女のことだ。これで──。
「……わかった。わかったから、離れて」
「よし!」
「……教えるなんて言ってないのに」
「教えてくれないんですか?」
「……ふんっ」
こうして、私の高校生活──青春計画が始まった!
+ + + + +
それから、ミツハの新生活は流れるように進んで行った。
他の生徒たちとは違ってミツハだけがこの学級における謂わば新人。だが遠慮はしなかった。わからないことがあったら聞く。やってみたいことがあったら聞いて、やる。当初の当たり障りのないような生活なんて吹っ飛ばして自分のやりたいようにやっていた。つまり、レンたちや山吹、それらを問わず積極的に接点を持とうとしていたのだ。
「山吹さん」
「何?」
「勉強教えて下さい!」
「……中学で何して来たの?」
「お、思ったより難しかったんですよ!? 田舎のよくわかんない中学と都会の学校の進捗を比較しないでください!」
「逆ギレしないで、自分で頑張って。私には私の勉強があるの」
「教えるのも良い復習法になるって言いますし……同室の人が落第していいんですか!」
「……わかったから静かにして」
「よし!」
勉強で困ったことがあったら、夜に二人で勉強会を開いた。
「レンさんの魔法って炎を飛ばしたり出来ますよね。あれ、どうやってるんですか?」
「回復魔法はできないんじゃね?」
「え、何でですか?」
「発動した魔法を飛ばすことはできても、離れたとこで発動させることはできねぇからな。回復は回復する相手が必須だろ? だから、発動させたきゃ怪我人に直で触るしかないと思うぞ」
魔法の使い方に悩んだ時はレンに聞いた。
「んー、先輩は優しい人多いっすけどねぇ。卒業してちゃんと魔法少女やってる人たちはピリついてるの多いっすよ」
「うへー、やっぱ魔物と戦うのって精神的に辛いんですかね」
「んにゃ、実のところ、上司が面倒だとかで」
「そっちー?」
学校での人間関係は人懐っこく交友の多そうなサクに聞いた。
「ねーミツハちゃん魔力操作のコツ教えて〜?」
「え、私が教えるんですか?」
「うん。私より上手いし」
「……上手く出来るかわかりませんけど、頼まれたのならやりましょう!」
アオコと一緒に特訓もした。
だが、やはり一番付き合いが多かったのは同室の山吹であった。
「山吹さんも一緒にやりませんか?」
「何それ?」
「オンラインのスマホゲームですよ。友達と一緒にやってるんです。枠一つ空いてるんで入れますよ!」
「……いい。あっちは知らない人が入って来られても困るでしょ」
「色んな人と遊べるのがネットゲームの醍醐味なんですよ! それに、大体こういうのって四人まで組めますから。いつも一人空いちゃうんですよ。どです?」
「……他の子達が良いって言うなら」
「良いですって!」
「(聞くのが早い……ってか私に言う前に聞いてたでしょ)」
そう思いながらも山吹はゲームのダウンロードを始めた。
いつもこうだった。人付き合いが下手で、苦手で、つい人に強い態度をしてしまう。だから、昔から友達が少なかった。数少ないそれも、己の醜態で失くした。そのことはいつだって後悔しているし、最近はかなりマシになったけれど、昨年は毎晩のように思い出しては吐きそうになっていた。
そして、いつもこうだった。無愛想で、目を合わせるのも気恥ずかしくて出来なくて。でも、ミツハは笑顔で話し掛けてくれるし、素っ気ない態度でも気にしないでくれる。それは昔の友たちを彷彿とさせる優しい関係だった。だから、気づくと黒い可憐な瞳に視線が吸い寄せられるし、小さくて柔らかそうな頬に手を伸ばしたくなっていた。
自分のせいでレンたちとの関係が悪くなってしまうんじゃないか。
そんな不安はミツハの太陽みたいな明るさに焼き消えてしまった。だが、後から考えてみれば当然だと独り言ちた。だって、己のような醜い人にも笑顔で優しさを振りまけるのだから、レンのようなちゃんとした人相手は尚更だろう。むしろ、最近では彼女たちと仲が良くなり過ぎるあまりに自分が厭われないかというすら不安があった。
「ん、入ったよ」
「じゃあデータを作って……名前はどうします?」
「ヒトカでいいよ」
「ネトゲで本名は辞めときましょ?」
「……じゃあジンバナで」
「漢字の読み変えただけ……まあいいや……チュートリアルは飛ばしてちゃっていいですかね。私が教えますし」
「わかった。全部任せる」
「はーい!」
山吹は、この朗らかな笑みを見ているだけでミツハが自分を見捨てることなんてないと思えた。
「あ、初回限定でガチャ引けますよ。やりますか?」
「やりたいならやっていいよ」
「じゃあせっかくですし……あ!?」
「どうしたの?」
「さ、最高レアが……い、一発で……?」
ミツハの言葉に首を傾げながら画面を見ると、そこには派手にピカピカする画面と共にこれまた派手な格好の少女が映し出されていた。
金髪赤目の黒装束、出るところが出た豊満な美女。テキスト曰く、吸血鬼のお姫様という設定らしかった。
「記念にこれつかってやりましょうか!」
「はぁ……そう言うの、趣味なの?」
「……? 綺麗だなぁとは思いますけど、自分がこういう格好したいとは思いませんね。私小柄だし、似合いませんし」
「……ふーん」
そんなことが聞きたかったんじゃないんだけど。そう思いながらも、何となく画面の美女を一度押した。
『この出会いは、きっと奇跡なんだよ』
「気障った……」
小さく呟いた口元は緩んでいた。
流石に話を進めて行きます