夜に咲く白い花 作:ももはね
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ミツハ──私が魔法少女学校に入ってから二週間が経過した。
ヒトカのお陰で授業には追いつけるようになったし、レンのお陰で魔法の使い方はなんとなくわかった。サクのお陰で学校の偉い人とか、アオコのお陰で魔力操作への理解を更に深めることができた。土日に一回田舎に帰って気分転換もできた。忙しいながらも、楽しい日々であった。
今は戦闘訓練、最後に伝達事項があるとだけ言われて自習になったせいで皆が半ばぼんやりした状態で殴り合っていた。
「ヒトカさんの魔法って金属生成……ですよね」
「うん。それを銃に纏わせて盾とか剣とか作ってる。まあ、与えた魔力がなくなると作ったのも消えちゃうから良くも悪くも使い捨てだけど」
彼女は話しながら手を広げると、そこに薄い白金色の短剣を作り、消した。
「せっかくですし、それ使ってやってみましょうよ!」
「私の戦い方って魔力強化に物を言わせて質量振り回す感じだから手加減が難しいし、当たったら大怪我する。面倒だからやりたくない」
「その為の回復魔法じゃないですか。それに……魔物との戦いを考えれば、一回くらいはガチのやつ、やっておきたいんです!」
覚悟を示す為、白金色の目を正面から見つめて伝えた。数秒ほど睨み合いが続いて、ついにヒトカが目を逸らした。
「ん、わ、わかった。やるよ」
「よし! お願いします!」
「でも、ヤバいって思ったらすぐに魔法止めるからね!」
「当然です! そっちも無理な時は降参って言ってくださいね!」
「冗談」
互いに顔を合わせながら後ろに下がる。距離はおよそ五メートルほどか。魔法少女なら一歩で詰められる程度の間隔だが、模擬戦闘なのだからこれくらいで十分だろう。
しゃがんで落ちていた小石を拾う。それを弄ぶように上に放っては掴み、投げては掴みと繰り返す。
「いきますよ」
「いいよ」
小石をゆっくり投げた。弧を描きながら飛んで、止まって、重力に負けて落ちて行く。
魔力を腹の底から練り上げ全身に回し、魔力強化を全開に。
回復魔法の私、金属製製のヒトカ。魔法だけを考えれば相手が有利なのは間違いなく、私にできるのは魔力強化でゴリ押して殴るのみ。ならば、相手に魔法を使わせる隙を与えずに速攻で片を着けに飛び出すのが最適解……な、はず。
手に持つ魔法具、私のはただの黒い棒で他の皆みたいな銃型ではない。これは回復魔法と一緒に搭載された精神的自傷魔法の分で容量とか予算が削られている影響で、銃の為の機構が入っていないらしい。無い物はないのだからしょうがないが、相手は散弾銃。
ただ銃の形をしただけの魔法具というのではなく、金属生成に加えて『魔力弾』という魔力を固め弾丸みたいに放つ遠距離物理攻撃を可能とする魔法が搭載されている。それもまた、至極単純な魔法故に誰でも適正関係無しに使える魔法の一つなのだとか。他の魔法みたいに集中力を必要とせず、ただ引き金を引くだけで発動するお手軽魔法。しかし、威力を上げたければ溜めがいる。逆に言えば、ただ撃つだけなら低威力。
やはり、速攻だ。魔法は使わせず、魔力弾も溜めさせない。
──こつっ。
ドォン!
小石の着地とほぼ同時に私は飛び出した。
直後、わかっていたかのようにヒトカの魔法具が魔力弾を吐き出した。散弾銃型のそれから飛び出た数発の弾丸、当然のこと殺傷能力は低いだろうが当たれば痛いはず。それは勘弁。速攻が最善ではあったがヒトカなら対応してくるだろうとも考えていた。慌てることなく体を回しながら棒を振ると同時にそれから魔力を噴射させ膂力と魔力噴射二つの勢いで暴風を引き起こし、弾を薙ぎ払い、または威力を減衰させながら突っ込む。
「──っ!」
互いの間合いが一メートルほどになったと同時、ヒトカが魔法を発動。銃に金属を薄く広く纏わせて簡易な盾を生成。
だが、即席の魔法程度なら簡単に砕ける。
「壊す」
私は軽く棒を振り被りながら地面を蹴り飛ばし、突貫。盾ごとヒトカを殴り飛ばす。
ひしゃげた盾、その奥に────魔力弾!
私が吹き飛ばそうとするのはあちらも考慮していたのだろう。自分から後ろに飛ぶことで勢いを殺しながら盾を抜け殻みたいに捨て去り、多少の損傷は覚悟で後方へ吹き飛びながら連射してきた。
それを認識すると同時に全身を魔力強化で保護しながら飛び退き、同時に地面を棒で薙ぎ払い砂煙を立ち昇らせて彼方からの視界を誤魔化す。だが、彼女は煙の中へ絶え間なく弾を放ってくるので、立ち止まっている訳にもいかず蛇行しながらヒトカへと駆ける。
そして砂煙を抜けた直後、そこには準備を終えた彼女がいた。
「来ると思った」
大剣。前の授業で見せてもらったことがあった。銃を軸に太く厚く硬い金属を大量に生成し、纏わせ、硬め、武骨な大剣を作り出すヒトカの一番得意な魔法運用。生成完了に多少時間は掛かるが、質量という最も簡単で最も
柄から先端まではヒトカよりも長く、私の腕よりも太い厚み。
アレを出したヒトカとやり合うのは初めて。まだ、あれは壊したことがない。
「壊す」
大剣が振り下ろされる。重量のあるそれは迫力も凄まじく本能が恐怖に怯え出す。だが、止まれば負ける。横に避けようと──
「遅い」
「はっ──」
縦に動いていたはず──だが、ぬるりと軌道を変えながらが鎖のように解け、伸び、私へと巻きついた。腕が胴体と一緒に拘束されてしまったのだ。足は無事だったのでバランスを崩しながらもなんとか姿勢を直し、追撃を喰らわないように飛び去ろうとして、しかしグイッとヒトカに引き寄せられてしまう。
「な、なにこれ!?」
大剣から打って変わって、まるで私という犬を鎖で抑える飼い主みたいに縛り付けるヒトカへと叫ぶ。
「金属生成って言うけど、あくまでも魔法の産物。生成した後でも私の意思である程度は形が変えられるの。射程短いし、操作も
「な、なるほど……」
「搦手を使う魔物も居るから。ただ見える物、在る物だけを警戒すれば良いってことじゃないんだよ」
頷きながら全身の魔力強化を更に底上げ。「ふんっ!」と気合を入れるとミシミシと鈍い音が発生し始める。
「んんんんっーー!」
「ちょ、ちょっと今解除するから無理にやらないで! 怪我するよ!?」
「い、いやあと少しで……ふぎぎぃ!」
ミシミシッ──はち切れる寸前、鎖が音もなく霧散してしまった。あと少しで壊せたのだが、ぎりぎりでヒトカが消してしまったらしい。
「っもう一回お願いします! 次こそ壊して見せます!」
「あ、あんた……何で時々そうも脳筋になるの……?」
やっぱりヒトカは強い。というか、生まれてからずっと魔法少女として生きて来た彼女と私では経験が段違い。知識や対処法など私には足りない物ばかりだ。とはいえ、純粋な力比べでは何度か勝利しているので、我ながら潜在能力は高い方だと自負している。
「そもそもミツハは回復魔法使いでしょ。前線で殴ることより自衛としての技術を磨くべき。防御か回避とか」
「ですけど、一番回復が必要なのって前線ですよね。なら私が攻撃もできたら最強じゃないですか!」
「あんたに怪我されたら困るの」
「何でですか? 治せばいいじゃないですか」
そう言って黄緑の魔力光を見せつける。さっき縛られたことで少しだけ赤くなっていた腕の腫れが引いていく。ヒトカも気づいたのかそこを一瞥すると暫し口を噤んだ後、大きく溜息を吐いた。
「あのね、怪我って痛いんだよ。魔物は遠慮なんてしないし、一撃くらったら手足や指なんて簡単に千切れちゃうの。そんな激痛を感じながら魔法を使えるほどの集中力が保てる訳ないの。だから、回復魔法が使えるミツハが怪我をするとしたら、それはもうこっちの負け。わかった?」
うわ、正論言われた。
「アニメとか漫画みたいに痛みを我慢しながら敵を殴るとか普通は無理だから」
「でも、アドレナリンがドバドバすればどうにかなるって言いません?」
「そんな都合良く行けばいいね。無理だったら死ぬけど」
確かに……納得せざるを得ない。魔法を使うのには少なからず集中する必要がある。果たして私は激痛の中でもそれを達せられるのか。いやでも──
「
「それは回復魔法を発動させた直後に共有が発動、魂の状態が近づいた瞬間に回復が発現するって感じだからちょっと違うらしい」
「……よくわからないです」
「そんなもんだよ。車とかエンジンの仕組み知らないで乗ってる人の方が多いでしょ。詳しく知りたければ魔法学の研究でもやったら?」
「それは勘弁」
駄弁りつつ、時々少し離れた場所で訓練しているレンたちを眺めつつ、時間が流れた。
例の如くジャージを着た沖菜先生がやって来た。
「集合!」
全員が集まったのを確認すると先生は書類を見て、再び視線を此方へ向けてから話を始めた。
「ついに、お前たちにも魔物討伐の任務が下った」
ミツハー回復、杖型
ヒトカー金属生成、散弾銃型
レンー炎、狙撃銃型
アオコー水、機関銃型
サクー索敵、狙撃銃型
これでみんなの魔法が露呈したはず。
なお、作者は銃に関する知識がほぼ無いものとする。お好きな銃を当て嵌めてね。