夜に咲く白い花 作:ももはね
自分が魔法少女だとわかってから、大体一ヶ月が経過した。
ついに、『魔法少女組合』が運営する魔法少女の為の学校──『魔法少女学校』へと入学する日が来た。より詳しく言えば『第三魔法少女学校』という『中央北大結界』、石川、富山、岐阜の辺りを跨っていたりいなかったりする場所にある学校である。
中央北大結界に限らず、『大結界』というのは県一つを大きく覆い込んでしまえるほどには広い。一番有名な『京都大結界』は京都ほぼ全域に留まらず滋賀や兵庫、大阪にもちょっとはみ出しているのだったか。
魔法少女学校は基本的に魔法少女の為の組織である『魔法少女組合』の管理下、引いてはその基地の敷地内にある。だから学校に行くことは組合基地へ行くことを意味した。組合基地はこの大結界の中でも端の方、郊外と田園地帯の中間辺りに位置している。だから、畑ばかりの私の田舎に似た見慣れた風景に心を落ち着かせながら私はついにそこへと到着した。
田園地帯に現れたのは、三メートルはあるだろう高い壁に囲まれた広い土地。私の通っていた学校が三つか四つは入ってしまいそうな敷地だ。壁の上、その奥には幾つか施設の上の方だけが姿を覗かせていて、敷地だけではなく施設もまた大きいことがわかった。
正門の前で立ち止まった私は一度足を止め、改めて自分の格好を確認した。
上が白いセーラー服で、下は丈が長い黒のスカート……と、見せかけて実は袴みたいに股の部分で別れている形状。知らない人が見ればスカートにしか見えないのだろうが、実態はズボンに近い動きやすさ重視の格好となっていた。
魔法少女は主に魔物と戦うのが仕事だ。それは学生であっても変わらないらしい。そしてこの制服は学生に限らず、魔法少女組合の魔法少女であれば全員に支給されて使うことになる制服であり、任務や戦闘にも着用することになる戦闘服も兼ねているのだとか。だから、普通の学校の制服と比べると遥かに高い防刃防弾耐火などの性能を誇る……と、ネットに書いてあった。実際、かなり強く引っ張ってみても全く千切れる気配がなかったから耐久性は確かな物だと思われる。
あとは……そうだ。学生と正式な組合の魔法少女、組合の人たちでも階級など。それらの見分けは徽章で行われているらしい。私はまだよくわかっていないけど、中に入れば自ずと知れてくるのだろう。
制服に汚れや乱れが無いかの確認を終えた私は、ついにそこへ入る覚悟を決めた。
入り口には青い制服を着たおじさんの警備員が居る。魔法少女ではない一般のヒトだ。私は事前に郵送されていたピカピカの許可証を取り出すとそれを渡す。するとおじさんが何かの機械にそれを通した。数秒で許可が出たので、彼に見送られながら中へと入っていく。
「ひ、広いな」
何が何かはわからないけど、とにかく大きな建物十個以上はあるし、道もそれに応じて幾つにも分かれて伸びている。標識があるので従ってはいるが、しかし迷いそうで不安になりながらも歩き続ける。
そして、ついに辿り着いた。
『第三魔法少女学校』
入り口から入ってみると、見覚えがあるような無いような下駄箱が幾つも並んでいた。三年、二年などとそれらは学年で分かれてはいるようだけど、組では分けられていないようだった。魔法少女人口は少ないらしいから、一学年一組なのかもしれない。
とりあえず、高校一年生の所で上履に履き替え、外靴はその場に置いていく。
重い鞄をえっさほいさと抱えながら不慣れな校舎へと入り、入り口のすぐ横にあった職員室へと向かう。
「ふぅ……」
緊張に震える右手を左手で包み込んで、深呼吸。とんとん、と戸を叩いた。
「失礼しまーす!」
ガラガラ、と鳴りながら横開きのそれが開かれた。なんというか、どこの学校でも職員室の扉って鳴るもんなんだな、と下らないことが浮かんで緊張が少し緩んだ。
中にはスーツを着崩した女の人と、ジャージの女の人と、ゆったりした私服らしき女性がいた。みんな大人、みんな女性で、みんな髪の毛の色が不思議な色だった。黒でも茶髪でもなくって、でも染髪よりも自然な色合い。
魔法少女だ、そう思った。
魔法少女は身に備わる魔力の影響で毛や目の色が変わるらしい。そして、それは染料を使っても消すことはできない。だから魔法少女って言うのは見れば大体一目でわかる……らしい。まあ、我ながら私みたいな例外が居るから絶対って訳じゃないらしいが。
ていうか、先生たちも組合所属のはずなんだけど制服じゃないんだ。その辺は何か仕組みがあるのかもしれない。
「……?」
スーツの人が、誰だこいつ、という目で私を見る。
「……あ、あれだ。転校生じゃねーか。発覚遅れたのが来るって連絡来てただろ」
ジャージの人が自分の頭をトントンと叩きながら「多分」なんて付け加える。
「あら……そうそう。
私服の人が慌てた様子で机の引き出しから書類を取り出して言った。
「は、はい!」
なんか……雰囲気が緩い。私として、魔法少女ってのはもっと堅苦しいのを想像していた。
それはそうと大きく頭を下げ、挨拶をすることにした。
「
大丈夫……なのかなぁ、ここは……?
不安に思っていると、私服の人が席から立ち上がって近づいて来た。
「私は平山です。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「うん、良い返事ね。それじゃあ……ちょっと早いけど、もう教室に案内していいかしら?」
「はい!」
先導する先生の後を追いかけながら校舎の廊下を歩く。詳しい人が居る、というだけでさっきまで感じていた不安は幾らか和らいだような気がした。
「加田さんは高校の一年生、だったかしら?」
「あ、はい! 担任って平山先生なんですか?」
「ウチは生徒も教師も少ないから、担任とかはないのよ。科目とか、手が空いてるかどうかで、対応する大人が変わるの」
「なるほど」
「今日は一発目の授業が私だから、今回は私ってことね」
確かに確かに。魔法少女の学校なんだから、教師も魔法少女……だけではないかもだけど、多いのだろう。そして魔法少女の人口は少ない。生徒も教師も揃って少数なのは必然だ。
「同級生って、どんな雰囲気ですかね」
「あー、それは……」
先生は口を閉ざすと、何故だか窓から外を眺め始める。
「……悪い子じゃないんだけど、反抗期というか、なんというか……」
「……グレてるんですか?」
「良い子たちなのよ? でも、ちょっと時期が悪いと言うか……冷戦中?」
「冷戦?!」
どんな教室?! 机とか黒板に穴が空いてたりするのかな?!
「いやね、そもそも加田さんが来るまで四人しか居なかったから姉妹みたいに仲良かったんだけど……」
「は、はい……」
「ちょっとしたいざこざで教室が割れちゃったというか……仲直りして欲しいんだけど、中々難しくってねぇ」
「真面目な子がグレた人と喧嘩しちゃった、みたいな感じですか?」
私の田舎の学校も生徒の数はそう多くはなかった。だから、全員が一回は話したことがあるし、授業やらで関わりを持つことになる。そこでどうしても起きてしまうのは、相性が良くない人たちの喧嘩。特に真面目な委員長とグレた先輩たちとよく連むヤンキーどもが言い合いをしていたのは懐かしい。
先生は不穏にも黙って考え込んだ。
「真面目不真面目で言えば、不真面目っぽい真面目なのが一人、その舎弟が一人、優等生が一人、問題児が一人」
「……? その、あんまり悪そうには聞こえませんけど。その問題児がヤバ過ぎるんですか?」
あと、言わないけど逆に一人だけ優等生が居るのがむしろ不安! 闇鍋の中のうどんには何が絡みついているか怖くて堪らない。一見、まともそうなのが案外やばいのだ。
「まあ、みんな悪い子じゃないから安心して欲しいの。態度は悪いけどね」
「せ、先生……私、転校したいです」
「ここが転校先でしょ。さあ、着いたわよ」
そしてついに、私は檻の入り口へと着いてしまったらしい。い、一体どんなお猿さんが出てくるんだ。
怖じける私を他所に、先生は戸を開けると迷いない足取りで中へと入っていく。
「みんな揃ってるみたいね。なら丁度良いし……今日は転校生が居るわ。さ、入って来て」
あ、足が震える。
それが緊張なのか、恐怖なのか、私にはわからない。いや、きっと両方が入り混じった苦汁のようなものだろう。それを我慢する為にも、ごくり、と唾を飲み込んで私は教室へと足を踏み入れた。