夜に咲く白い花   作:ももはね

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7話 同室

 

「し、失礼しまーす!」

 

 ガチャリ。嫌に響く音が耳に残った。

 扉を開ける。

 先住民たる山吹さんは既に帰宅済みなようで部屋には灯りが点いていた。

 甘い香が鼻腔を擽った。花の蜜みたいな本能を刺激する匂い。一瞬惚けてしまったが、すぐに初めて誰かの家に入る時の妙な浮遊感に高揚も混じったのがわかった。

 

 部屋は長方形だろうか。左右の壁が奥行きより近く感じた。玄関があって、すぐ左右に小さな押入れと洗面台、そこから先が主な生活空間。玄関から見て正面には磨り硝子の扉があって縁側へと出られるようだ。また、その扉の左右には窓があった。おそらく、部屋を左右で一人ずつで分けて使うことが想定されているのだろう。

 骨組みだけのベッドと使用感のない箪笥や椅子に机が並ぶ左側に対して、汚くはないが使用感のある家具が並ぶ右側の空間。その椅子に山吹さんは座っていた。制服を着たままの彼女は私の侵入に驚くことなく、一瞥してすぐに机へと向き直り勉強をしていた。

 

「本当に来たんだ」

 

 此方を見ずに放たれた言葉に、不意を打たれた心地になりながらも何とか声を絞り出す。声と雰囲気の冷たい彼女から放たれる言行は心構えがないと心臓に厳しい物があった。

 

「はい。だって今日からは此処が私のお家ですから」

「言っておくけど、私は仲良くするつもりなんてないから。アオコ辺りと同室にしてくれって寮母にでも頼み込んだら?」

「しませんよ。私の同室は山吹さん。はい、よろしくお願いします!」

「………」

 

 ここで折れたらずっと負けたままになる。そう思って、ムキになった私は胸と頬を膨らませた。

 

「お・へ・ん・じ・は?」

「…………」

「ん!」

「……よろしく。これでいい?」

「これでいい、は余計です。じゃあ、よろしくお願いしますね」

 

 不躾だとは思いながらも周囲を見回しつつ部屋へと上がり、左側へ。鞄を置いて、今日の分の着替えや歯ブラシなど生活品を取り出して机に並べた。他の荷物とかは明日届く予定なので、とりあえずはこれだけで十分のはず。ベッドは……夜にお風呂に行くつもりなので布団はその帰りにでも貰いに行こう。

 

「山吹さん」

「……」

「山吹さん!」

「……なに?」

「これから一緒に暮らすんです。お互いにやって欲しいこととやって欲しくないこと、共有しておきましょう?」

 

 一緒に暮らしておく上で、やって欲しくないことを共有するのは大事……な、はずだ。如何せん寮生活なんて初めてなので確信はないが。

 

「……煩くしないで。邪魔をしないで。汚かったり臭くしないで」

「普通に生活する程度のは出しちゃうと思いますけど気をつけます!」

「帰って来たら手を洗う。コップとか使ったらちゃんと洗う。汚い服で部屋に上がらない。ゴミも貯めない」

「当然です!」

「……あとは…………」

 

 今の所特におかしなことはなく至って常識的なことを言われている。態々言うまでもないことかもだけど初めましての相手と一緒に暮らすのだ。念には念を、ということだろう。

 

「いびき寝相、悪くしない」

「無理じゃないですか!?」

 

 止めようと思って止められる人居ないでしょそれ!

 

「煩いの? じゃあ寝る時はテープで口止めて」

「い、いや、寝てる間のことなんて知りませんって。煩かったら教えてください……それより」

「何?」

「して欲しくないことばっかり。悪いってんじゃないですけど、して欲しいことも言ってくださいよ」

「何もない。だから私も何もしない。あくまで一緒に住んでるってだけで、仲良しこよしになるつもりないから」

「じゃあ私から一方的に」

 

 そう告げると彼女は嫌そうに眉を顰めた。それが見えて、やっと此方を見てくれたのが少し嬉しかった。

 

「静かに綺麗な生活を心がけてくれると嬉しいです」

「……ん」

「バイ菌は怖いですから。手はよく洗う、食器も片す、服はちゃんと洗って、ゴミも定期的に捨てましょう!」

「……?」

「あと、寝る時は静かにするよう頑張ってくれると助かります!」

「……それ、私が言ったやつだよね。皮肉?」

 

 機嫌悪そうな顔と声音。それでも綺麗な顔なんだから、美人ってのはホントずるい。

 意趣返しなのは事実だから微笑みで返す。

 

「『やらないで』よりも『してくれると嬉しい』って伝えた方がお互いに幸せじゃないですか。約束を守る方も気持ちよくできます」

「そうやって自分が優位に立ったような物言い。やめて」

「山吹さんがもっと優しくなってくれたら私も優しくなりますよ?」

「……付き合ってらんない。自主練しに行く。勝手に私の物漁ったら殴る」

「しませんよ。頑張ってくださいね!」

 

 大きく手を振って見送る。「ふんっ」なんて返事とも言えない応えが帰って来てクスッと笑ってしまった。

 性格悪いなぁ、と思いつつも、無視ではなく粗雑ながらも返答はする辺りに彼女の在り方が感じられた。酷い言行をするのに理由があるのかもしれない……というのは私の願望だろうか。

 

 よし、とりあえず……今日使わない荷物の整頓から、かな。

 




短いのう……短いのう……でも全部で10万字に収めたいからセーブが大事でのう……
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