夜に咲く白い花 作:ももはね
『魔法少女の学校ってそんな感じなんだ。もっと堅苦しいかと思ってた』
『ねー朝昼晩筋トレしてるのかと』
電話越しで田舎の友達の溢した偏見に思わず苦笑が漏れる。正直、私も似たような想像をしていたので強く否定できない。
魔法少女と言えば超人的な身体能力。軽自動車なら持ち上げられる人も居るらしいので、ムッキムキなのを考える人は少なくない。つい先日まで一般のヒト側であった私が言うのだから間違いない。実体はそんなことなくて、むしろ魔力強化の恩恵が大き過ぎるせいだろうか。皆の体を見る限りは人間としての筋肉はそこまで発達していないように見えた。見えない部分がバッキバキという可能性もあるが。
「そっちは困ったことない? なんかあったら私が殴り壊してあげる!」
『頼もしー。でもほどほどにね。ミツハ、キレると怖いんだから』
「えー、そうかな?」
『一昨年だっけ。ウチらが先輩に難癖付けて絡まれた時、彼奴らが持ってた金属バット素手で圧し折ったの覚えてるかんね。あんの時の先輩たちの顔、まだ覚えてるよ』
『ねー。一瞬で引き攣ったの見てておもろかった』
「あ、あれは……相手が悪くない?」
『それはそう』
具体的な理由は忘れたが誰彼構わず絡みに行く面倒なカマチョだったのは覚えている。あれも下らない事情だったはずだ。
そうして電話を続けていると、不意にガチャリと扉の開く音が響いた。山吹さんが帰って来たのだ。
『およ、同室さんのお帰り?』
「うん。騒がしくすると悪いし、ごめん切っちゃうね」
『りょー。また今度ねー。暇あったら帰って来んさーい』
『文字通り命の恩人だかんね。私もバイト始めたし、スイーツ奢ったるよ』
「楽しみにしてる。じゃあね!」
『『ばいばーい』』
友達は良い。心が安らかになる。いつだってあの子達は私の大切だ。文字通り命を掛けて守りたいと思えるほど。
「電話?」
玄関から上がりもせず、鞄を床に置いて扉に背を預けた山吹さんが問いかけて来る。彼方から声を掛けて来るのが珍しくて、嬉しくも驚いた。
「はい。田舎の友達です」
「魔法少女?」
「違いますよ。この辺はともかく、外に行けば魔法少女なんて早々居るもんじゃないんです」
「ふーん……」
不機嫌そうに意味ありげな返事を頂いてしまった。流石の私も、あの子達のことなら何でもかんでも言われ放題思われ放題とは許せない。
「何ですか。言いたいことあるなら言って下さい」
「いや、その子たちは貴方が魔法少女だって知ってるの?」
「知ってます。というか、私がここに来る原因はあの子達を守る為に戦ったことがきっかけですから」
「……怖がられないの? だって、ヒトからすれば魔法少女だって化け物なんだよ」
僅かな間の後に放たれたその言葉に、私もすぐには返せなかった。
魔物を殴り飛ばした直後、あの子達は冗談混じりに話し掛けてくれたけど少し恐れてもいたのはわかっている。今日、魔力強化を使って私は私が変わってしまったように感じた。
確かに、魔法少女というのは化け物染みている。認めよう。だが、類似とは同義ではない。私はこの力を大事なモノを守る為に使いたいし、敵を壊す為に使いたい。決して欲望の儘に振るうものじゃない。だから、私は化け物ではなく化け物染みた人間だ。
「……」
ふと、思ってしまった。
「怖いんですか?」
「……何が?」
「化け物だって、そう思われるのが」
「っ……違う。本当のことを言われてもどうにも思わない。その珍妙な友達を精々大事にしなよ」
それだけ言うと彼女は手を洗い始めてしまった。会話を終了させられたのだ。
「え、うん。そりゃ大事にするけど……」
どういう捨て台詞? そりゃあ頑張るけど、うん。よくわからない。
それはそうと。
怖いのか、と。問うた時の図星を突かれたような彼女の顔。印象的だった。咄嗟に顔を背けて隠したようだったけど、よりにもよって洗面台の方を向くのだから鏡に反射して丸見え。俯いて居たから気づけなかったのだろう。
私は山吹さんのことを、無愛想で素っ気ない人だと思っていた。だが、もしかしたら案外繊細で、怖がりで、可愛い人なのかもしれない。
少なくとも、友を大事にしろと言う者を悪い人とは考えられなかった。
電話しながら荷物の整理をしていたから外の様子なんて意識していなかったが、山吹さんが帰って来たということはそれなりに時間が経っているはず……窓から外を見ると、すっかり陽が沈んでいた。まだ春先だから、それでも夜というには少し早いくらいの時間ではあるが、布団の受け取りのことも考えればそろそろお風呂に向かってもいいかもしれない。
「山吹さんの自主練って魔法とか、戦いの練習ですか?」
「……なに急に。そうだけど」
「じゃあ、お風呂一緒に行きません?」
「行かない。知らない人と一緒に行くもんじゃないでしょ」
「でも、私初めてですから。ちゃんと行けるか不安でして」
なんとなくだけど、山吹さんをもっと知りたくなった。なので、せっかくなら風呂場までの案内という実態伴った名目でお出掛けを申し込んでみた。流石に私も裸の付き合いは恥ずかしいのであくまでも一緒に行くだけのつもり。
「別に一緒に体を洗い合おうってんじゃないです。案内だけです。それに、汗をかいたのに放置したらこの時季体によくありませんよ」
「……わかった。行くだけだから。タオルと着替え、シャンプーとか忘れないでよ」
「はい! ありがとうございます!」
ノった!
頼み込めばなんやかんやチョロそうな性根を把握した私はウキウキで準備を始める。着替えと……やば。
「シャンプー忘れた」
「……しょうがないから貸して上げる。明日は買って来なよ」
「ありがとう!」
袋に着替えやタオル、脱いだ服を入れる服、履き替えるようのサンダルを詰め込んで荷物を纏める。
「準備終わりました!」
「私がまだ。ちょっと待ってて」
「待ってる間に外見てますね!」
風呂用の袋を一度床に置き、部屋の左正面にある窓から外を見た。高い壁に囲われた魔法少女組合の敷地、こんな時間だと言うのに制服を着ている人や荷物を運ぶ業者の姿、複数人で笑いながら歩く少女たち。
新天地での生活、寮の同部屋は教室の問題児、どうなるのかすごく不安だった。でも、レンさんたちは優しいし、山吹さんも面倒で無愛想だけど根は優しそうで……うん。
きっと、悪いようにはならない。そう思えた。