玄関のドアを開けてみると、大学の同級生が立っていた。私の中学生時代からの友達で、学部は違うが大学でも一緒である。私とはしばしば一緒に遊んだりしたこともあり現在でも交流は続いているが、彼女とはそこまで仲が良いわけでもない。クラスメイトであり顔と名前は一致して関係が悪いわけではないが、特に用がなければ喋ることもない。そのぐらいの関係だろう。その彼が珍しく彼女に用があるとはどういう事なのか。用件を聞くと、彼女に相談したいことがあるということだった。私は彼女に事情を説明し、彼女も快く受け入れてくれたため彼を部屋に招き入れた。
彼女の両親は現在家にいない。家族の中で現在彼女だけが家に住んでいる。とはいっても逝去したとかそういうわけではなく、単純に他県に住んでいたり一人暮らししているというだけのことだ。長期休暇の際には戻ってくるが数年ほどは帰ってこられないということで現在は彼女が家に一人で住んでいる。しかし、女だけでは何かあった時に心配であるし彼女の家事手伝いも兼ねて、というより私と彼女の両親たちから頼まれて、しばしば顔を出したり泊まったりするのである。
「どうやってこの家を?なぜ私に?」私の出したお茶を飲みながら、緊張をほぐすように彼女が尋ねた。
「ああ、いえ彼の家のすぐ近くだったもので。」そういえば彼は私の家にも友達数人と一緒に何回か遊びに来たことがあった。通り道でないとはいえ私の家から見える距離だし表札もかけてあるので、見る人がみればすぐにわかるだろう。
そして彼女を訪ねてきた理由もわかった。彼女の母―というより家系は、昔から頼まれて、もしくは自主的に大小関わらず様々な揉め事、事件を解決する家業をしていた。彼女もまた以前から困った人の悩み事からそれ以上のものまで解決してあげていた。その話を思い出した彼は今回彼女を訪ねてきたという訳だ。
「実は俺、演劇サークルに所属しているんです。とはいっても裏方のような立場なので舞台に立ったりということはあまりないんですが。今は事務を。」
「それで、何か問題が起こったということだけど」
そこから彼が話すには、演劇の配役が変わった、というより書き換えられたかもしれないということであった。
現在彼が所属している演劇サークルでは、年に3回ほど劇を開催している。主に大学祭、年明け、そして年度初めだ。劇を演じるにあたっては、当然配役を決めなくてはならない。その配役の決め方として、まずサークルに所属している部員に投票をするように伝える。主役は誰、ヒロインは誰、悪役は誰を推薦するといった感じだ。紙を配りボールペンで記入、後日サークル内の投票箱に投票する。用事があって来られなかった者や紙を紛失した者は改めて紙をもらい投票するか役員にライン、メールで伝える。
次に部長、副部長、事務方など役員が集まり投票結果を基に配役を決めていく。得票数も参考にするが個人の都合や技量、希望もあるため必ずしも票が多かった者が役になるわけではない。配役が決定したら紙を封筒に入れ封をして鍵をかけて保管する。次の練習日に発表という訳で、結果として数日から1週間後に配役が正式に発表、決定となるわけだ。
しかし今回はおかしなことが起こった。決定した時と発表しようとした時の役が違うのだ。自分一人ならばまだ記憶違いということもあるかもしれないが数人で確認しているのだ。間違いようがない。しかし現に配役が決定した時と取り出した時で変わっている。今日の夜には発表、練習があるのだが一日も早く練習に入りたいので発表の延期はできれば避けたい。しかしこういう事態が起こってしまうと果たしてそのまま発表してよいのか、ということになり彼女を頼ってきたというわけだった。
封筒か、と私は考えた。先ほどの手品と関係するところもある。上手くいけば解答とはいかずともヒントになるようなことが聞けないだろうかと思い、彼女をチラリと見た。しかし彼女の表情は真顔で、なんの変化も伺えない。私や家族、親しい友人だけのときは表情もよく変わり感情も読み取りやすいのだが、フォーマルな場では自分の感情を読み取られたくないのか、ポーカーフェイスをしていることを思い出した。
彼女は黙ったまま何も喋らなかったので、まずは私が思いついたこと、聞きたいことをいくつか尋ねることにした。