私と彼女のある日常   作:no518-nineteen

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第三話

 鍵はどうなっているのかと質問したが、金庫の鍵は普通のテンキー式であった。暗証番号は数字4桁で設定してあるが数字は定期的に変更し、さらに変更後の番号はあえて役員全員は知らないようにしているとのことだ。ということは役員に聞きだして細工をするという手も確実ではないだろう。単純に0000から9999まで試すという手もあるが、それで金庫を開けられても配役用紙に細工をすることまではできない。

 

 現在の暗証番号を聞くと、彼は番号を書いた紙を財布から取り出し見せてくれた。数字4桁とはいっても今回の暗証番号は誕生日、年齢に基づくものではなく完全にランダムに決めたと言っていたためそれらに基づいた推測もできない。

 

 配役の記入用紙も見せてもらった。投票用紙と兼用しているらしい。少し厚めだが探せばどこかに売っていそうな紙だ。公的な書類のように印が押してあったり署名があるわけでもないため、複製をしようと思えばできるだろう。投票用紙、つまり配役の決定を書く用紙も毎年同じものを使っているとのことだ。封筒も大学で販売しているものに部長、顧問のハンコを押して目印にしているのだという。基本的に1、2枚しか置いていないようでこれはさすがにコピーは無理だろうと思った。

 

 金庫を持ち出してどうにかして開ける。その後、封筒と投票用紙に自分の望む配役を書いて戻したんじゃないかと思いつきを言ってみたが即座に否定された。なんでも、金庫はいつも会合、練習を行う教室や体育館ではなく部室に保管されているらしい。入ることは誰でもできるが部室はサークル棟の内部にある、とここまで聞けば私でも話は分かった。

 

 うちの大学のサークル棟は、まず部屋の数が多い。ということは入っているサークルの数も多いということだ。そしてその中には体育会系、文化系問わず、朝練、夜練を行う熱心なサークルもある。さらに寝泊まりをしている生徒もいる。本来は禁止されているのだが、一日、二日程度なら学生係も大目に見てくれるのだ。それを利用し終電を逃してしまい帰れない者、飲み会の続きを部室で開催しそのまま次の日の授業を受けるという呑兵衛、図書館などで勉強し次の日の一限目の授業に備える勉強熱心な学生など様々な者が深夜でもいる。その中で金庫を持ち出しどこかで中身を入れ替えまた持ってくるなどという行為をすれば確実に見つかるだろう。

 

 犯人、というよりこのようなことをしそうな人物に心当たりがあるかを尋ねた。すると意外なことに、かなり存在するとのことだ。そもそも今回の主役に問題―という言い方が適切かどうかは分からないが―があった。名前を聞くと、私も話には聞いていたが、成績優秀、容姿端麗、更にそれをひけらかすことはなく学内にファンクラブがあるという噂も存在する2年生の有名な生徒だった。その生徒は去年の夏ごろ入部したものの、アルバイトなど本人の都合が悪く去年は劇に出演できなかったのだ。今回は劇に出演できることになり、演技力も申し分なく話題性もある、もちろん得票結果は言うまでもなしとのことで、主役は確実視されていたのだ。

 

「その彼が最近恋人と別れたみたいでさ。女子学生の間では割と話題になってんだけど……知らなかった?」

 

 私は知らなかったが彼女は耳にしていたようで、かすかに頷いた。友人は話を続けた。

 劇の主役とヒロインともなればサークル内でも一目置かれるというだけではなく、一緒に練習をしたり少人数で台本の読み合わせをする機会もあるから、距離はかなり近づく。必然的にカップルが誕生することもあるのだそうだ。だとすれば、それを狙い、インチキをしてでもヒロインの座を射止めようとするものがいてもおかしくはない。事実投票日の数週間前から選挙顔負けの根回し、裏取引、結託、果ては買収までも行われそうになったとあり、さすがに注意喚起がなされたようだ。その後もサークル運営の愚痴―人間関係のもつれだの部長と副部長の対立だの練習をドタキャンする人がいるだの―を聞いてあげながら大所帯のサークルは大変だなと私は他人事ながら心配した。

 

 その時、ずっと話を聞いていた彼女が口を開いた。

「この紙―暗証番号を書いた紙を紛失したとか、盗まれたりしたとか、そういうことはありますか。金庫に配役の用紙を入れる前に。」

 

 彼は、そんなことはないと答えた。暗証番号の流出が分かればすぐに変更する手順になっており、もし故意に教えたものがいれば役員を除名、退部という手順になっている。そこまでして配役を変えたい者はおそらくいないだろうとも述べた。

 

「本当ですか?言い方が悪かったかもしれません。例えば誰かに見られる機会があったとか、推測できるような機会があったとか。些細なことでも良いんですが。」

そこまで言うと、彼は関係あるかどうか分からないけどと言いながら口を開いた。

 

 3週間ほど前、部員3人で部屋の片づけをした。男性2人と女性1人だ。その時に紙を無くしてしまい部屋の中を探し回ったのだそうだ。バッグがボロボロで隙間ができ、そこから落としたらしい。幸いにもすぐに女性部員が見つけてくれ大事には至らなかった。入れる場所を財布の中にしたのもそれからだそうだ。

「でも見せたっていってもほんの短い間だけですよ。金庫の暗証番号って言ったわけでもないですし。」

最後にはこのことは何卒内密にお願いしますとまで言われ、彼女も微笑みながら頷いた。

 

「たぶん、方法は分かりました。確証はありませんけど。」と彼女はおもむろに告げた。

「でも、やった人を退部させたり、皆に広めたり、そういうことはしないでください。おそらく出来心でしょうから」

注意とかはしたほうがいいと思いますけど、と彼女は付け加え、彼も犯人捜しよりも方法を知りたいのだという感じで彼女の言うことに従った。

 

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