「まずやった人ですが、その掃除に参加した人、その中でもあなたに紙を見つけ渡してくれた人の可能性が高いです。それ以外に紛失したり教えたりした人がいないという前提に立っての話ですが。」
「まず、部室に入ります。これは簡単でしょう。部員なら誰でも入れるようですし。他に部員がいたとしても、忘れ物をしたとか確認したいことがあったとか言い訳はできます。外に人が存在するといっても、目立つこと、耳目を引くことをすれば印象に残りますが、誰でもするようなことなら疑われないどころか、かえって印象は薄くなりますよ。例えば私たちだってすれ違った人の一人ひとりを正確に覚えているなんてことはまずないでしょう?」
「次に金庫を開けて中の封筒を―」
「いや、ちょっと待ってよ」そもそも彼は金庫の暗証番号とは伝えてないといったではないか。紛失した、教えた人が他にいないという前提もある。それなのになぜ分かったというのか。
「簡単なことじゃない。」もう、というように彼女は私を見つめた。
「金庫がある部室、それらしい数字が書かれた紙、それを大切に保管している先輩、それらを結び付けて考えて、金庫の暗証番号にたどり着くのは難しいことじゃありません。普通、金庫の近くで厳重に管理される四桁の数字なんて他にありませんし。警報が鳴ったり警察に連絡がいくわけでもないですから、失敗してもだめでもともと。それがうまくいってしまったんでしょうね。」
「次に封筒の中身をすり替えます。私の想像が正しければ開けた時点でできることではないですから、金庫の暗証番号を知ったとき、金庫を開けることができたとき以降に細工をしておいたんでしょうね。投票用紙はそのまま配役の記入用紙を兼ねています。ですから紛失したと伝えて予備の紙を確保しておきます。」
「穴は小さかったかもしれませんが、別に出す方はどのように出してもいいんですから、方法はあります。」
「そうして自分が希望した配役を書いた用紙を入れる。取り出した穴から筒状に丸めた紙を差し込み、中でゆっくりと広げる。これでおしまいです。あとは何食わぬ顔で外に出るだけ。」
私と友人は顔を見合わせた。確かに答えを聞いてみれば納得できることではある。しかし……
「なんか、あまり練られた感じじゃないですね。結構ガバガバというか。」
「だから、出来心っていったんです。暗証番号の件なんて偶然が重なった末の結果ですし。そもそもヒロインが変更されていれば役員の人が気づくことも大いにあり得ます。ただ、金庫と封筒のすり替えトリックは分からないでしょうから言い逃れ、自分に証拠がないと言い張れるぐらいは想像していたかもしれないですね。」
こうやって、この出来事に一応の説明はついた。しかし彼女が説明していないことが一つある。封筒のすり替えのやり方だ。何か説明し忘れているんじゃないのか、と遠回しに彼女に聞いてみることにした。
「ああ、封筒のトリック?それは封筒に穴を……」言いつつハサミと封筒を手に取ったとき、彼女の顔がゆっくりとこちらを向き私を見つめ、私はバレた弱みで顔を背けた。
数秒ほど経っただろうか。私たちの事情を知らない友人が声をかけ、彼女は気を取り直した。
「ごめんなさい。別の部屋で説明しても?」と友人に声をかけ、隣の部屋に消えた2人を見ながら、私は封筒、ハサミ、穴とトリックの解答がどう結びつくのかぼんやりと考えているのだった。
10分もしないうちに2人は戻ってきた。雨は上がっていたので私は友人を大学まで見送ることにした。
「いきなり来て悪かったな。彼女にも謝っといてくれ。お前が出てくるとは思わなかったけど。」
私は、別に彼女は気にしないよと答えた。気まぐれで風変り、人を振り回すこともある彼女だが、意外と人付き合いは良いほうだ。それよりも心配なのはサークル内での事件のことだった。
「まずは犯人の可能性が高い彼女に話をして、それで認め、反省すればよし、仮に間違っていたとしても不手際があったということで投票、決定をやり直す。夜までには時間があるし明後日も練習するからなんとかなるだろう。お前たちに責任があるわけじゃない。」
話題は私と彼女のことに移った。私は彼女のような頭脳を持つわけでもイケメンなわけでもない、彼女には及ぶべくもない普通の人だ。そんな私と彼女とは物心ついたときからのつきあいで大学入学直前に起こった出来事をきっかけに付き合うようになったこと、学生時代に2人で経験したいくつかの事件など話してやると、興味深そうに話を聞いていた。
大学に近づき私は帰ろうとしたとき彼から封筒を手渡された。正直封筒にはうんざりしていたが、彼の一言で興味がわいてきた。
「あのさ、彼女からの伝言なんだけど帰り道にお前が解答とか手掛かりとか、そういうのを聞こうとしなければ、特別に伝えてくれって頼まれてたんだ。」
そういって彼は今朝のマジックで使われた封筒、その中のヒントを私にくれたのだ。
夜、私の家族の帰りも遅くどうせならと思い彼女も一緒に私の家で夕食を食べることになった。その最中、私の答えを披露した。
「まず、封筒に穴を開けておいたんだ。」封筒の側面にハサミかカッターで切り込みを入れておく。コインが通るぐらいの穴だ。注意して見ないと気づけないぐらいの大きさ。
次にコインをその穴からそっと取り出す。手をかざしたりぶつぶつ言うのは本命の動作を隠すためのブラフだろう。そして封筒を切り開く時に穴を一緒に切り開けば証拠はなくなり、一見何の仕掛けもない封筒に変わるというわけだ。糊をしっかりとつけさせたのもトリックの一環だろう。封筒は封をする場所の反対側がかすかに開いている。しっかりと封をさせたところをわざわざ切るのも面倒だからというような感じで違和感を消していたのかもしれない。
ここまで話すと、彼女は拍手をしながら薄く微笑んだ。
「正解だよ。演劇部の彼からヒントをもらったのかも知れないけど……素晴らしい。よくできました。キミがもし切れ込みに気づいたら別の方法を試していたところだったけどね。」
「でも――80点といったところかな。」
私が、なぜだ、ちゃんと解けたじゃないかと反論すると彼女はこう続けた。
「確かに封筒に切れ目を入れた。けどその封筒は最初に使ったものではなく、キミが選んで用意したものさ。それなのになぜキミに細工をした封筒を使わせることができたのか。そこまで解けていれば、文句なしに百点満点をあげたんだけど…。ああ、もちろん解答もちゃんと存在するよ。少々力業かもしれないがね。」
確かに言われてみればそうである。が、トリックを見破ったことに気を取られ気づいていなかった。がっかりした様子でいると彼女は慌てたように
「ごめんなさい。そんなにキミが落ち込むとは思わなくて、ちょっと遊びすぎました。望みを聞く権利はもちろん有効だから…機嫌を直して?」
権利云々はそこまでこだわっていなかったが、久しぶりに彼女の慌てた顔、困り顔を見ることができたということで許してあげることにした。その後、彼女を家に送り届けるまで頭の片隅でぼんやりと考えていたものの、当然答えが出るわけもなく次に会った時の宿題にされてしまったのだった。
まずは、拙文をここまで読んで頂いた読者の方に感謝をさせて頂きます。
短い話とはいえども小説を執筆しネットに投稿するというのは人生で初めての経験ではありましたが、完結できてよかったです。
ここから続きを書くのかどうかは決まっておりませんが、私自身の中で良い経験にすることができました。
本当に、ありがとうございました。