この話はR-15とさせて頂きます。
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吉原での保健体育の授業は好評で、大人向けの授業も始めたところ、嫁入り前の娘さん達が聞きに来るようになった。場所が場所だけに、皆こっそり通っている。
カリキュラムは女医さんと元花魁の日輪さんが監修しており、実用的で信頼がおけると評判だ。
私も立場上、一応カリキュラムには目を通している。といっても、私に分かるのは予算や場所のことぐらいで、中身については二人にお任せだ。
「この男性を喜ばす方法のページいらないんじゃないかな……」
挿絵をなるべく視界に入れないようにしつつ、私は教本をそっと閉じる。
「なにいってるんだい。受け入れる準備ができない時に、応じないといけなくなっちまったらどうするんだい?」
「日輪ねぇさんの言う通りでありんす。わっちも何度この手管で難を逃れたか……。必要でありんすよ」
対応が難しいときは普通に拒否するべきだとは思うが、そうできる人達ばかりじゃないというのはなんとなく知っている。
その上で日輪さんと、周りの花魁に反対されてしまえば私に拒否権はない。
まあ、知識というのはないよりもあったほうがいいからね……。ちょっとやりすぎな気もするけど。
確認を終え、ほかの人たちが帰ったあと、私は女医さんと日輪さんを呼び止めた。
「あの、少し個人的に聞きたいことがあるんですけど……」
その……相手は特定しないが、もしもの時、何も知らないままでは困る。
あくまで知識として聞いておきたいだけだと何度も断りながら、一通り教えてもらった。
お礼を言って帰ろうとしたときだった。
「これもっていきなよ」
日輪さんが風呂敷包みを差し出す。
「え、なんですか?」
「教本に載ってた道具さ、何かあった時使うかもしれないだろ。これはサンプルとして持ってきたもんだけど、アンタ使いなよ」
「いえ、いいです」
「何かあったらどうすんだい。いいから持っておいき。なにも、必ず使えってわけじゃないんだからさ」
「え、でも」
「日輪ねぇさんのご好意だ。無下にするもんではありんせん」
「……はい。ありがとうございます」
雰囲気的に断れず、貰ってしまった。
私はそのことを、すっかりさっぱり忘れていた。押し入れの上の戸棚へ荷物を封印したついでに、記憶まで封印してしまったのだ。
「銀さん、いいところにきた。ごめん、押し入れの上の戸棚から、こたつ布団出してもらえないかな」
「こたつ布団? なんでまた」
「いい天気だから一度干そうと思って」
「ああ、なるほど」
たまたま近くを通り掛かったからとキリの家に顔を出すと、そんな事を言われた。
本人は言葉通り、自分の布団や客用の布団をベランダへ運んで干していた。
高さ的に、キリじゃ微妙に手が届かない。脚立か椅子が必要だろう。
言われた通り、押し入れの上の戸棚を開ける。
「ねぇな」
それらしきものは見当たらない。
代わりに、風呂敷に包まれた箱のようなものが目についた。妙に品が良く、香の匂いまでした。
あきらかにこたつ布団ではないが、他にそれらしきものもないので取り出してみる。
風呂敷包みを解くと、木の箱が出てきた。スライド式の蓋を開ける。
「……」
思わず箱を閉じてしまう。
いや、なんでこんなもんがアイツの家の押し入れから出てくんだよ。ダンジョンなのか? 自動生成される宝箱なのか? トル◯コ住んでたりすんのか?
見間違いだと信じて、もう一度箱を開ける。
黒光りしたア◯ルパール、ディ◯ドー、男◯用貞◯帯。拘◯具。
ここまでならまぁ、趣味嗜好の範囲だと銀さんもスルーしてたよ。いやできねぇけど。
無視できなかったのが最奥に鎮座する最終兵器。
金属の棒が細いものからエグいサイズまで綺麗に並んでいる。
――尿道◯ジー。
知識としてだけは知ってる。できれば一生、実物と対面したくなかった類の奴。
『彼氏』という単語を口に出すだけで真っ赤になる奴の家になんでこんなんあるんだよ。
レベル一の奴が持ってちゃいけない武器だろ。もう仲間いらねぇよ。一人で魔王倒せるよ。馬車の中でトル◯コも体育座りしてるよ。
……え、アイツの趣味、こんなエグいの?
「銀さんごめん。こたつ布団、牛乳こぼして捨てたんだった。ってどうしたの?」
「なぁ、これお前の押し入れから出てきたんだけど……」
サンタクロースが隠したプレゼントだとでも言ってくれ。
少なくとも心当たりない感じの! そんなことを願いながらキリに箱を見せる。
「あっ……」
「『あっ』って何」
「あー、いやぁー」
「赤くなってないでちょっと事情説明して欲しい。やっぱお前のなの?」
真っ赤に染まり、急に顔をそらすの止めて欲しい。
……これ、マジもんなの?
「これはその……私のといえば私のだけど、所有権が移動しただけというか、でも持ち帰ったのは私の意思なのだから私のものなのかもしれない」
「つまりは」
「私のものです……」
キリは真っ赤になって顔を覆う。
聞き間違い……じゃねぇよな。
水族館でペンギン相手に可愛いだのなんだの抜かしてた奴が所有していていいものじゃねぇだろ。
え、あんなキラッキラした目の奥にブラックホール隠してたのお前?
「どういう用途で使うかは知ってるんだよな?」
「……愛の交換的な?」
「そんな可愛いもんじゃねぇからなこれ。ちなみに誰だよこれ渡してきたの」
「それはちょっと……」
「言えない相手?」
「そんな浮気相手みたいに言わないでよ。一応、善意で渡してきてくれたんだから」
「どういう善意だよ」
「危機的状況の時に使えって……非常袋的な?」
「その非常袋が今、危機的状況作り出してんだが」
絶望に苛まれながら一抹の望みを託して、金属の棒を一本取り出す。
「ちなみに、お前、これ何に使うか知ってんの……」
キリは手を少しずらし、確認する。
「えっと、その……工具的な?」
「工具!? 工具扱い!?」
「あ、いや、そーいう意味じゃなくて、なんというか……。銀さん意地悪してるでしょ」
「意地悪じゃねぇよ。人生かかってんだよこっちは」
仮にそういう趣味があったとして、俺はそれを受け入れられるのか。
異世界では尿道のサイズで『愛』を測る文化があったらどうする。
愛はチ◯コを救えんのか? 『サライ』が流れるまで、俺のチ◯コは耐えられるのか?
俺の必死な訴えに、キリは言葉を選ぶように答える。
「身体に……その、使うの」
「どこに」
「えっと……耳とか?」
「……お前使い方知らないな」
「まぁ……渡されただけだから」
ぎりぎり耐えたぁあああ。少なくとも計画犯ではなかった。
一番エグいものは乗り切ったとして、残りもなかなか酷いラインナップではあるんだが。
箱の中身を再度確認する。天を仰ぎたくなってきた。
「銀さんは使い方知ってるの……?」
「お前、急に興味持つのやめろ」
「いや、だって、なんか怖いじゃんそれ」
「俺の方が怖ぇよ。これ対象者俺じゃねぇかとさっきまで戦々恐々としてたわ」
「いや……ちがわないけど、違う」
「そこははっきり否定してくれよぉおおお!」
「違う違う! 違わないけど違う!!」
「どっちだよまじで! お願い!」
ひとまず落ち着いて話をする必要がある。できれば話し合うことなく、記憶ごと捨ててしまいたかったが。
箱をテーブルの上に置く。キリも気まずそうに、その向かいへ腰を下ろした。
「お前さぁ、用途も知らねぇ危険物を持って帰るなよ」
「貰い物だったから、捨てるのも悪いかなって」
「だからって押し入れに封印すんな。分かんねぇもんは使う前に調べる。相手がいるなら、そいつにも確認する。分かった?」
「使うつもりはなかったんだってば。私もすっかり忘れてて……」
「なら、もう処分していいか? どうせ他の道具も使う気ねぇだろ、つーか、使わさねぇけど」
「うん」
キリはそっと箱をこちらに押しやる。
俺は中身が見えないように蓋を閉じ、再び風呂敷に包んだ。
これで終わりかと思いきや、キリが恥ずかしそうに顔を伏せながら聞いてくる。
「ねぇ、結局さっきの道具なんだったの……?」
「蒸し返すなよ」
「いや、だって……怖いじゃん、分かんないの。それに銀さんに聞けってさっき」
「そー言えばいいましたね」
気持ちは分かる。見るからに攻撃力の高そうな金属の棒だ。しかも用途不明。
「……尿道」
ある程度の知識はあるのだ、これで伝わるだろうと、端的に場所だけ伝える。
「尿道」
「復唱しなくていいから」
「入れるの?」
「他の使い方あっても俺はしんねぇよ」
「誰の?」
「誰に使うつもりだったんだよ」
「……」
「想像するな、やめろ」
「だって、そこは出すところであって……なんで」
「俺に理由を聞くな。そういうマニアックなプレイする人間もいんだよ。初心者向けじゃねぇからな、間違っても使おうと思うなよ!?」
「そんなの使うわけないじゃん!!」
「良かったよ! 俺の覚悟も無駄になって本当に良かったよ! ちなみに、他のも似たようなもんだかんな。銀さんそーいう趣味はありません」
「良かった……」
「俺の台詞だよそれは」
相変わらず顔は赤いが、どこかほっとした様子だった。
「別にお前がなんに興味を持とうが、どういう趣味をしてようがいいが、まず相手に許可を取ってくれ」
「うん、ごめんね」
「謝ることじゃねぇが、これ渡してきた相手にも言っとけ。お前にはいらねぇって」
「うん」
持ち帰った箱はガムテープで厳重に巻いて燃えないゴミに捨てた。