天国には理想郷がありまして、その後   作:空飛ぶ鶏゜

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0-Gin Love

 平熱から0.1度高い体温と、早めの脈拍にも慣れた頃、万事屋でいつもどおりにだべっていた。

 

 銀さんはいつもの席で、椅子の後ろ足二本で危ういバランスを取りながらジャンプを呼んでいた。

 私は新八君とソファーに座りながらとりとめもない会話をする。

 けれど、その会話が途切れた隙間をぬって、唐突な質問が飛び出してきた。

 

「あんたら付き合ってるんですか?」

 

 色々あったので、気になって聞いてきたのだろう。

 

「え、付き合ってないよ?」

 

 やましいわけでもないので、素直に答える。

 そう返したとたん、後ろでガタンと大きな音がする。

 びっくりして振り返ると、銀さんが椅子ごと床に転がっていた。

 

「大丈夫!?」

 

 慌てて近寄る。

 なにかの拍子に椅子のバランスを崩してしまったのだろう。

 手を差し出すと、なぜか驚いたような顔でこちらを見上げる。

 

「本当に大丈夫? 変なところ打った??」

「あ、いや……大丈夫だ」

 

 差し出した手を素通りし、机に手をついて起き上がり、いててと言いながら銀さんは椅子を直していた。

 

「気をつけてね」

 

 そう伝えるとへいへいと、生返事をする。

 軽い打撲ぐらいだろうと、新八君の元へ戻る。

 そしたら、新八君も驚いたような顔でこちらを見ていた。

 

「な、なに?」

「えっ、付き合ってないんですか? 僕らに隠してるとかなしに?」

「う、うん。そうだけど……?」

 

 まあ、銀さんと連れ立っている時間は当社比で増えた気はする。

 意識的に増えたのか、必要があって増えたのかは微妙な比率だったが、まあ増えた。

 けれど、別に銀さんから何か明言された訳でもないし、ましてや「付き合ってください」なんて言われたわけでもない。

 その状態を「付き合っている」というのかと言われれば「付き合ってない」というのが正しいだろう。

 その認識で正しいはずなのだが……。

 

「あの、じゃあなんなんですか、あの……いやらしい雰囲気は!」

 

 言い淀み照れながらも言わずにはおれないという雰囲気で、新八くんはダンと机を叩く。

 

「え、な、なんのこと? 男女七歳にして席を同じにせずってやつ? 万事屋の社内ルールそんなに厳しかったっけ???」

「違いますよ! 無自覚ですか!? 一番たちが悪い! 銀さんちょっと指導しておいてください! 僕、席を外すんで!」

 

 そんなことを言いながら新八君は万事屋から飛び出していってしまった。

 

「え、何かしたっけ? まじで……なに?」

 

 振り返ると銀さんが頭を抱えていた。

 神楽ちゃんは私と入れ違いで定春を連れて遊びにいってしまったわけで、理由を聞く相手は銀さんしかいない。

 おそるおそる座っている席に近づく。

 

「私……何かした?」

 

 無自覚だというからには、無自覚なのだろう。解決のためには他人の力が必要なのだが、銀さんにそう声をかけると机につっぷしてしまった。

 本当になに?

 

「お前、付き合ってるつもりねぇの」

 

 くぐもって聞こえづらいが、そんなことを言っている。

 

「だって、『付き合ってください』とも『はい』とも言ってないし」

「はぁ……」

「銀さん……?」

「いや……そこかぁ……」

 

 銀さんは完全にシャットダウンしてしまい、再起動まで私は待つしかなかった。

 

「つまりはだ……俺達は一般的に言えば付き合ってるという状態にあるわけだ」

 

 ようやく何かから立ち直った銀さんは、ゆっくりと顔をあげ、そんなことを言い出した。

 

「え……そんなわけないじゃん? それって、銀さんの一般常識がずれてるだけじゃ??」

「なんで俺の一般常識が疑われてるのかは知らねぇが、ズレてんのはてめぇの方だ。だから新八が逃げ出すんだろうが」

 

 青筋が浮かびそうな口調で言われるのが解せないが、新八君は確かに逃げ出すと言ってもいい勢いで、万事屋を飛び出していってしまった。

 

「まあ、百歩譲って、付き合ってるとしてだよ? 新八君が言ってたのはどういうこと?」

「これも俺が説明するのか? 大体なんで百歩譲られてんだよ、意味分からねぇよ……」

 

 深いため息は地の底まで届きそうだった。

 じゃあ、続けるがと前置きして、銀さんは再び口を開く。

 

「百歩でも千歩でも一万歩でも譲って付き合ってるってことになったら、俺達は世間一般様では『恋人同士』ということになるわけだ」

 

 こいびと。へぇー。そうなんだ。こいびとってなんだっけ? 白いパッケージに包まれた奴?

 

「ちょっと一歩も譲れなくなってしまった」

「なんでだよ!」

「いや、だってほら……こいびと? になってしまう訳で?」

「なってしまう訳じゃねぇ、なってんの! 事実!」

 

 息を切らして叫ぶ銀さんが言葉のわからないエイリアンのように見えてしまう。

 だってほらアレだよ? 恋人っていったら恋する人じゃん? 銀さんは自分の感情がよくわからない訳で、その状態で世間の一般常識に当てはめて恋人としてしまうのは問題じゃないか?

 

「まぁまぁ、えっと、恋人(仮)としようか、話が進まないから。それで新八君の言ってた問題って?」

「もういいよそれで! お前、恋人(仮)になったとして、なってるんだが! なったとしてだ! 恋人(仮)というからには相手がいるわけだ。そいつと二人っきりになったらどうする?」

 

 えっと、この場合の恋人(仮)Aさんの相手は恋人(仮)Bさんになるわけで、(仮)とついているけど恋人同士で?

 

「なんで横見てんだよ。おい、こっち見ろ」

「え、ちょっと無理?」

「そーいうとこだよ! 本当、なんで俺がこんな説明しなきゃなんねぇの。おかしくないか?」

「だって銀さんしかここにいないし?」

「頼む、新八帰ってきてくれ三百円あげるから……」

 

 言いたいことは分かったが、どうしろと? いつから表情筋は自律神経で動くようになったのだろうか?

 問題は山積みで、私はなんでこんなことになっているのだろう?

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