とある世界の終わり。
ありきたりな願いと呪いが過ぎ去った砂漠を一人の人間が歩いていた。
髪は黒く、全体的に体は痩せ細っている。元は白かったはずの病院服を砂まみれにして、真っ直ぐに前だけを見据えてよろよろとしている。
男の背後には、置き去りにした過去達が転がっている。乾いた風に吹かれた砂が街の入口に流れ、静寂の中、ただ音色を奏でていた。
かつては賑わっていた観光通りは焼けこげ、煤に汚れた壊れた人型の機械や、もう動く事の無い服を纏った生物が折り重なっている。空の彼方から降り注ぐ、鈍い虹色の光が照らす砂漠を彼はひたすらに進む。
本来なら動かない肉塊のはずのそれは、魂にこびりつく汚れの様なバグによって、
一歩、
一歩、
砂を踏みしめていた。
男に信奉し心を知った機械達も、真理を求めた怪物達も、小さな箱の中の墓守も、空の果てに佇む墓標と共に彼を見守っていた。
砂漠の果てでいつかの幸福に耽っている、少女の元へ、彼は歩みを進めていく。
彼の中の残響が『行かなければ』と、轟かせる叫びによって、最後の終着点を見据え、ズルズルと足を運んでいた。
日が少し傾いた時、彼女の姿がゆらゆらとした蜃気楼のように影を現す。
それは、淀んだ灰色に光る、奇妙な光輪を頭上に携え、鈍色の銀髪を持つ、新月の夜のように黒いドレスを身に纏い、大切な『砂漠』を守る神。二つの雨が垂れたような乾いた跡を、頬に残して笑っていた。
男は彼女の前に辿り着くと、体を支える力を失い、膝を付く。それはあたかも、神の審判を待つ、懺悔する咎人の様相を呈していた。
【 】の神の瞳は、そんな男を大切な宝物を抱き抱える様に愛しんでいる。
二つの影が重なる時を、遠巻きに眺める者達が居た。全身を白い礼装で身を包み、顔を仮面で覆った狂った神の崇拝者の群れ。彼らは、砂に汚れる事を厭わず、無機質に動く事もせず、両手を握り、頭を垂れ、終滅のひとときの中、ひたすらに祈りを捧げている。
砂漠の砂を掻き分ける風が鳴り止むほどの時が経ち、祈祷者達の祈りに呼応するかの様に、二人の影が重なる背後に、バリバリと轟音を響かせて。魂の熱狂が鳴り止まぬ、かつての友がらを振り切るように、時の船が姿を現像せしめた。
咎人も、神も、祈祷者も、誰も話さない。
そしてーー。
ーー祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響き有り。沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理をあらはす。驕るものも久しからず。ただ春の夢の如し。猛き者も遂には滅びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。