THE IMPERIAL SAVING   作:夏目陽光

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回想メモリアル【〈連邦生徒会長〉】

スチール製の机の上で、磁器のカップがソーサーとぶつかり、カチンと硬い音を立てた。 

 

その高い音が、夕方の光が長く差し込むシャーレのオフィスに響き、そして消えた。部屋の空気は動かず、窓から差し込む西日の中で、埃が白く浮いては静かに落ちていく。

 

meは白い衣服を纏い、背もたれの高い椅子に深く腰を下ろしていた。机の上には、トリニティ総合学園やゲヘナ学園、カイザー・コーポレーションといった諸勢力から集まった、数千枚に及ぶ報告書が整然と積まれている。meがペンを走らせる。それだけで莫大な予算が動き、軍隊が位置を変え、どこかの街の配給が止まり、いくつかの命が終わる。世界はmeの眼の前にただ開かれていた。すべての生はmeに与えられ、最終的には等しくmeの元へと還る。それがこの場所における唯一の法則だった。

 

正面の椅子には、連邦生徒会を率いる会長が座っていた。

 

彼女はカチッとしたスタンドカラーの白いミリタリー調の制服を着ている。両肩の豪華な金色のモールが、傾いた陽光を浴びて鈍く光っていた。頭上には、儚い黄色の細いリング状のヘイローが浮いており、その背後を突き抜けるような梅重の直線が十字に交差している。

 

「防衛室の暴走、サンクトゥムタワーの機能停止……。状況は、あのアーモンドの花咲く春の日から、本質的には何も変わっていません。私たちは、常に破滅の淵に立たされています。すべてを統治するということは、すべての責任を引き受けるということ。私はそれを、理解しているつもりです」

 

少女は言った。声は低く、平坦だった。彼女がプラチナブロンドの長い髪を揺らして、ゆっくりと紅茶のカップを口元へ運ぶ。その髪の左側のインナーから、鮮やかなピンク色のメッシュが静かに覗いた。やや斜めに被った、連邦生徒会のエンブレムが装飾された真っ白な変形ベレー帽が、影を作っている。

彼女はカップを置き、机越しに微かに身を乗り出した。胸元に飾られた青いリボンの勲章と、シルバーの大きな十字架のような意匠のブローチが、meの置いたペンのすぐ近くで揺れる。上着の袖口が非常に大きく広がった、マントのように見える個性的な白いコートの中から、細い手首が伸びていた。黒い腕時計の画面が、室内の冷たい光を反射する。

 

「先生。防衛室の独走を抑え、この歪んだキヴォトスの秩序を繋ぎ止めるのは、私に課せられた義務です。……けれど、この部屋の静けさだけは、いつも私の予想を心地よく裏切ってくれますね」

 

対面した少女のまっすぐな視線が、二人の境界たる衣服の白さを超えて、meの眼へと向けられる。すべてを見通し、すべての結末を把握するmeの全知全能において、彼女という存在だけは、決定された因果の檻から外れていた。

少女は小さく息を吐き、机の上で重ねた己の手を、meの持つカップの近くへと滑らせた。湯気に煽られた彼女の肌から、かすかな温かみが立ち上る。タイトな白いミニスカートから伸びる、真っ黒なタイツに包まれた彼女の膝が、机の支柱を介してmeの脚に微かに伝わっていた。それは職務の限界を超えた距離の緊密さであり、彼女が背負う孤立無援の重圧が、meという絶対的な存在を前にして、静かな執着へと姿を変えていく合図だった。白いパンプスは床に固定されたまま、動かない。

 

「誰もがそれぞれの『正義』を掲げて衝突している。ですが、その結果がこの街の破滅を加速させるだけなら、私はどんな手段を使ってでも、その連鎖を断ち切る楔とならなければいけない。たとえ、それが独善と呼ばれようとも……」

 

少女の言葉は、机の上のわずかな距離を隔てて直接届けられた。

meは彼女を見据えた。少女の首筋、その奥で刻まれる微かな鼓動を、meの全能の意思が正確に捉えている。彼女の命が、衣服の白と白が交差するこの境界線を通じて、世界のシステムへと吸い上げられていく感覚。meの白いコートと、彼女の白い制服が、西日の落とす影の中で鮮明なコントラストを描いていた。彼女の胸元のシルバーの十字架が、夕暮れの光を鋭く跳ね返す。

 

「先生はタブラ・ラサを知っていますか?」

 

少女は言った。

 

「何も書かれていない、まっさらな石板。この世界も、私たちの役割も、最初から決まっていたわけではないのかもしれません。誰かが何かを書き込み、都合のいい歴史を作り上げてきた。けれど……たとえ私が何者でもなくても、あなたとのこの一時は存在するんです」

 

それが、彼女の言葉だった。連邦生徒会長としての虚飾も、義務も、すべてを取り払った、ただの一人の少女としての生存の主張。

 

窓の外は、すでに昏い黄昏に支配されていた。部屋を照らすのは、彼女の頭上に浮かぶピンク色のヘイローの、淡い微光だけだ。その桜色の光が、机の上に置かれた二つのカップと、重なり合う光と影の衣服を染めていく。少女はゆっくりと首を傾げ、meの目を正面から見つめた。彼女の澄んだ瞳の中に、meの絶対的な姿が映っている。彼女の細い指先が、自らのミリタリー制服の袖口を、静かに整えた。

 

彼女はカップを持つmeの手元へ、吸い寄せられるように視線を落とした。その指先が、今度はmeの白い袖口に触れるか触れないかの距離で止まる。彼女の呼吸は微かに熱を帯び、張り詰めた統治者の仮面の下から、連邦生徒会長としての立場すらも超越した純粋な依存と渇望が漏れ出していた。未来の視えぬその存在が、meの絶対的な領域に己の輪郭を溶け込ませようと、ただ静かに、深く懐いてくる。

 

meはただ静かに紅茶を啜り、眼前の少女の姿をその眼に焼き付けた。世界がどのような結末を迎えようとも、未来の視えぬ彼女が今、机の向こうで確かに息を吸い、対峙しているというその事実だけが、meの世界における絶対の肯定であった。meの眼光は彼女の言葉のすべてを、その魂の震えごと全能の意思の内に受け入れ、肯定する。二人の間に流れる時間は、音もなくただ深く沈み込んでいった。

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