THE IMPERIAL SAVING   作:夏目陽光

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回想メモリアル【和楽チセ】

 

今日の風はひどく冷たく、呼吸をするたびに肺の奥が痛んだ。世界という概念が曖昧になったこの獣道を、目的も持たずにmeたちは歩いていた。見渡す限りの地平線は誰のものでもなく、ただ空の青さと、足元で踏みつぶされる草の匂いだけが現実を証明している。世界の広さと、自分という存在の矮小さを同時に思い知らされるような、そんな乾いた静寂が辺りを支配していた。無数の風がどこからともなく吹き抜け、すれ違う者もいないこの場所で、meはただそれぞれの速度で歩みを進めるだけだ。やがて視界が開け、ひとつの風景が眼前に投げ出された。

 

秋の冷気がキヴォトスの空をどこまでも高い青へと冷たく塗り替えていた。

 

地平の果てまで果てしなく広がる乾いた原野には、誰かがパレットの色彩をぶち撒けたように、赤や白のコスモスが無数に群生して鬱陶しいほどに咲き誇っている。混沌に染まった生乾きの絵の具のような色彩の只中に、和楽チセという名の致命的な誤差がポツンと立っていた。周囲のざわめきをすべて吸い込むような静寂の中で、meはその不条理な存在を遠くから冷ややかに見据えている。彼女の纏う深みのあるくすみブルーのオーバーサイズ・ジップパーカーは、チセの体格に対して明らかにオーバーサイズであり、そこから突き出した袖口は完全に手のひらを呑み込んで、痛々しいほどの極端な萌え袖を形作っていた。

 

気まぐれに揺れるフードの紐や、半分ほど無造作に開けられたジップの隙間から覗く白いキャミソールが、秋風の冷たさをまるで無視するように彼女の華奢な肩のラインを無防備に晒している。頭上では百鬼夜行の格子模様を模した淡い水色のヘイローが不規則に瞬き、その小さな額からは不釣合いなほど鮮やかな二本の赤いツノが冷え切った大気を切り裂くように突き出していた。ネイビーのティアードミニスカートの裾を揺らし、ウエストに結ばれた赤と白の飾り紐がだらしなく垂れている。足元を見れば、白いミドルソックスとウッドソールの厚底黒サボサンダルが、乾いた地面をこつこつと味気なく踏み鳴らしていた。右髪の白い花の髪飾りも、肩に掛けられた丸型クリアポシェットも、すべてがこの世界から乖離したお遊戯の道具のように滑稽に映る。

 

幾千もの未来の可能性を同時に見渡し、そのすべての掌の上でただ俯瞰するこの眼にとって、彼女の存在はあまりにも異質だった。世界を統べる王の如き絶対的な静寂と、宇宙の法則を統べる全知の眼を持つはずのmeに対し、チセはそんな神羅万象の理など微塵も気に留めない様子で、どこまでもマイペースな歩幅で近づいてくる。頭の中でどれほど精緻に計算された未来の選択肢も、彼女が目の前で赤トンボの飛ぶ軌道をぼんやりと指差しているという現実の前では、ただのテッシュよりも役に立たない。この世のすべての摂理を狂わせる唯一にして最大の不可解が、今まさにトコトコと足音をmeの方へと近づけているのだ。

 

彼女は予測不能なタイミングでピタリと足を止めると、その不気味なほどの極端な萌え袖の指先で、meの着ている服の端っこをキュッと小さく掴んだ。まるで世界から取り残される子供のように、自分の居場所をそこに確かめながら、こてんと頼りなく頭を預けてくる。ふわりと吹き抜けた秋風に彼女の髪が揺れ、meを視つめる彼女が、不意に無防備な重力を纏ったままmeの胸元へと勢いよく倒れ込んできた。すべてを視座し、あらゆる未来を改変し得るほどの全能の眼を持ちながら、meはあえてそれを回避しようともせず、ただ静かに彼女の体を受け止める。抗うことのないその選択として、ただそのまま受け入れた。未来のすべてが見えているからこそ、この予測不能な温もりを受け止める結末すらも、全ては世界の流れにすぎないのだと、meの冷徹な思考は静かに納得していた。

 

彼女は倒れているmeへと向け、その柔らかな唇をゆっくりと動かした。

 

「晴天に うつつ見惚るる 秋桜……だね~」

 

 

 

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