DU地区の容赦ない直射日光がmeの頭頂部をジリジリと焼き焦がしにかかっていた。今すぐ日傘をさしたゴスロリっ娘の群れに紛れ込んで涼しい顔をしてやりたいという切実な衝動が、脳髄のあちこちで盛大に暴れ回っている。
上空でギラギラと狂ったように輝く太陽は、meの圧倒的カリスマ性をこれでもかと炙り出しているつもりらしいが、あいにく汗で前髪が額に張り付いて「真夏日に白いコートを着込んで職務質問待ったなしの不審者」という斜め上のステータスが爆誕している時点で、神も仏もあったもんじゃない。meの名前はme、連邦理事会の猛獣どもを適当な餌で釣ってキヴォトス全体のバランスを裏で回している気でいる男だ。
その隣を、自分は天使ですってこれでもかと主張しやがるピカピカした青色の電球を頭に浮かせてる。年中無休の激務にすり潰されていよいよ精神の限界メーターが振り切れかけているアルミの女、七神リンがカツカツと歩いていた。
彼女の足音は硬いパンプスをアスファルトに叩きつけるたびに「早くサンクトゥムタワーに戻って書類の山を片付けたいんですけど今すぐお前をそのコートごと大型焼却炉に放り込んでやろうか」という殺意をフルスロットルで満載したリズムを刻んでおり、実に精神衛生上よろしくない。まあ彼女みたいなメガネっ娘は最高だけどな!
「……先生。前を向いて歩いてください。またそんな風に、自分がこの世界の中心であるかのような虚空を見つめる目をされて」
リンの声音には、呆れを通り越して「この男のせいで私の平穏な行政官人生が音を立てて崩壊し、挙句の果てには更地になって更生物資すら配給されない未来が見える」という切実な悲鳴がこれでもかと混じっていた。
黒青色の髪が微風に揺れ、制服のタイが規則正しく胸元で収まっているその姿は一見すると完璧なエリートなのだが、今の彼女はmeの白いコートの裾をまるで迷子の飼い犬が主人のリードを必死に引っ張り、「これ以上コイツを野放しにするとキヴォトスの治安が物理的に消滅する」と確信した保母さんのように全力で掴んで離さない。
meは言葉という低俗なコミュニケーションツールを使う気など毛頭起きず、ただ素早くウネウネと彼女の頭上へと手を伸ばした。
「……っ!」
リンの肩が電撃でも食らったように盛大に跳ね、その耳たぶが見る見るうちに茹でソーセージのようになり、そして実験失敗して爆発寸前のフラスコのように赤くなっていく。
頭を撫でられただけでそんなに沸騰するなよと心の中でツッコミを入れつつ、meはDU地区の商店街沿いの数人のヘルメット団が屯ってる公園へと足を踏み入れた。ベンチが並ぶ静かな一角に差し掛かると、meは問答無用でリンをそこに押し掛け、その隣に――勢い余って尻から豪快に突っ込む形で派手に腰掛ける。
瞬間、激痛に全身が身悶える。
「何をやっているんですか、全く……!」
肩と肩が激しくぶつかり合い、そこから伝わる体温が、夏の暑さとは異なる生々しい人間としての熱を容赦なく教えてくれる。
meの尊さで幻覚でも見てやがるのか、リンは両手を膝の上で固く組み、前方のブランコを見つめながら、まるで乾ききった雑巾から水分を絞り出すように小さく呟いた。
「いつもは、各対策委員会からの無茶な要求の連絡で頭が狂いそうになるというのに……あなたといると、まるで世界の時間が止まったかのような、とんでもなく不毛な錯覚に陥ります」
その声はどこか切なく、そしてひどく生々しかった。
彼女は常に重責を背負い、誰にも吐けない弱音を抱え、シャーレの大人であるmeにすら弱みを見せるまいと必死に気丈に振舞ってきた。だが、今この瞬間の彼女には、そのアルミの防壁は何の意味も持たない。
そう思いながらカッコつけてコートの裾をバサッと優雅に整えた瞬間、ベンチの木片の鋭いささくれが裏地に盛大に引っかかり、「ビリッ」と周囲の静寂を木端微塵に切り裂く絶望的な破裂音が響き渡った。
最悪だ。meの全知全能のカリスマ性が、たかが木製のベンチのささくれごときによって全否定され、物理的にも精神的にも粉々に引き裂かれた。
リンが「え?」と、この世の終わりを見たかのような怪訝かつ冷ややかな顔でこちらを向く。
「……本当に、あなたという人は。あの無責任に失踪した連邦生徒会長のせいで、私の胃がいくつあっても足りないというのに……」
リンはmeの胸元に額をガツンと押し付けたまま、トーンを限界まで落とした血の涙が出るような恨み節をぽつりと零した。
その声には政治的な大演説のような気負いは微塵もなく、ただ積み重なった激務への疲弊と、あの自由奔放すぎるトップに対するリアルすぎる社会の愚痴がドロドロと滲んでいた。
彼女はmeのビリビリに破けた白のコートの生地を両手でギュッと掴み、まるでこれ以上現実の仕事に戻りたくないと言わばかりに身体を密着させてくる。
DU地区の青空は相変わらず容赦なく頭頂部を焼き続け、行き交う人々の冷ややかな視線は遠くの背景音へと綺麗に溶けていく。
meたちはしばらくの間、その言葉のない泥臭い対話を続けた。背中のささくれが皮膚に突き刺さる物理的な痛みなんてものから全力で目を逸らしながら、meは静かに目を閉じ、この不格好でバランスの崩しきった世界の温もりを全身で噛み締めてやろうとしたのだが――おい、何だこの背中を突き破るような強烈な激痛は! 頼むからその密着した体制のまま全体重をmeに預けてコートを引っ張るのだけはやめてくれリンさん! 背中の皮が、背中の皮が音を立てて剥がれていく気がするぞ畜生めええええええっ!!