THE IMPERIAL SAVING   作:夏目陽光

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回想メモリアル【セフィラ】

白い砂漠は、ただ白く、どこまでも平坦に広がっていた。

 

いつものシャーレの薄い白い上着の裾を冷たい風に遊ばせながら、ポケットに両手を突っ込んでそこに立っていた。

 

最初に知覚したのは、足元から伝わる容赦のない熱だった。それは機械特有の無機質な排熱であるはずなのに、どこかmeのぬくもりを執拗に求めるような、じっとりとした粘り気を持って足首を炙っていた。視線を落とすと、そこにはマッコウクジラのように無骨で角張ったビナーの巨大な頭部があった。砂をかき分けて柔軟にのたうっていた白い蛇腹の装甲は完全に静止し、隙間から黒と金色の内骨格が覗いている。かつて熱線を放った複数のスリット状のカメラアイは、オレンジ色の光量を限界まで落とし、まるで機嫌を伺うように細く、頼りなく明滅していた。それはひどく熱く、ただ不快で、滑稽な求愛の形だった。

 

ゆっくりと顔を上げた。五感が捉えたのは、周囲を埋め尽くす圧倒的な「鉄の絶景」であり、同時にそれは一塊の静かな津波だった。

 

白と薄いグレーの装甲を纏ったケテルが、逆関節の四本脚を深く折り曲げ、グラップリングフックを砂に突き刺して微動だにせずmeを見上げている。ターゲット用の十字レティクルを模したデジタルヘイローが、meという射線に固定されたまま静止していた。そのすぐ隣では、流線型のマスクを持つコクマーが、接地しないはずの船首のような下半身を砂に埋め、両肩から広がる巨大な翼のようなバインダーをだらりと垂らしている。

 

彼らの背後には、天を衝く巨大な鋼鉄の大迷宮――ネツァクが、広大な領域そのものを白い幾何学デザインの要塞に変えてmeを包み込んでいた。はるか上空に浮かぶ格子状の超巨大なヘイローは、いまや世界の中心としてmeの存在を定義するための額縁でしかなかった。正八面体のケセドは完璧な浮遊を止めて砂の数センチ上で滞空し、ゲブラーの重武装が施された太い両腕は砂に深く突っ込まれている。ティファレトの砂時計のようなコアは輝きを失い、ホドの白いサーバーラックからは通信ケーブルがだらしなく這い回り、イェソドのカマキリのような大腕は油圧シリンダーの音を立てることもなく平伏していた。かつて世界を揺るがした異形たちが、今はただの機能停止した鉄屑のように周囲に集まり、静かに平伏している。

 

それは敗北の結果というよりは、最初からそうなるように定められていた因果の終着点のように思えた。脳裏には、彼らがかつて見せた凶悪なまでの戦闘の記憶が冷徹に刻まれている。しかし、今のmeを支配しているのは、激しい達成感でもなければ、狂気的な全能感でもない。ただ、すべての事象が掌の上で、大人として引き受けた通りの形に収束したという、無味乾燥なまでの確信だけだった。未来とは、新鮮な驚きをもたらすものではなく、ただ生徒たちの選択のすべてを見届け、その全責任を負うための退屈な記録に過ぎないからだ。

 

その沈黙を破るように、十の預言者たちを統べる女王――マルクトが、すぐ傍らへと身を寄せてきた。白い騎士服のような純白の装甲スーツが、シャーレの上着と擦れ合う。長い白髪が腕に絡みつき、黒い軍帽とバイザーに隠された彼女の顔が、肩口へと押し付けられた。背後に浮かぶ十数枚の白いプレート状のビットが、まるで獲物を閉じ込める檻として、主を外敵から守る盾のように、meを円状に優しく包み込んでいく。

 

バイザーの奥からは、言葉にならない微かな駆動音が漏れていた。それは彼女のメインシステムが、絶対的な存在に触れている歓喜によって、許容温度を超えてオーバーヒートを起こしている音だった。無機質なはずの純白の胸壁から伝わる微細な震えが、腕を通じて脳髄へと直接染み込んでくる。

 

かつて世界を滅ぼそうとした預言者たちの王が、いまやmeの体温と許しを乞うて、ただの熱を持った人形のようにすり寄っている。その歪んだ忠誠の形は、ひどく愛おしく、同時に決定的に冷徹な事実として処理される。なぜなら、彼らの無知も、かつての反逆も、あるいはこの無垢なまでの隷属も、すべてはmeの選択の内にあり、大人の責任として優しく全肯定し、その因果に抱擁されるために用意された予定調和に過ぎないからだ。

 

彼らの足元には、神秘を与えられなかった不完全な三人の少女たちが、それぞれの形をきしませて縋り付いていた。

 

白髪のツインテールを揺らすアインが、××の形をした右目の瞳孔を怪しく発光させながら、金属の関節が剥き出しになった黒い機械の義手で上着の裾を固く握りしめている。動物のような蹄の足で砂を踏みしめ、肌の色と同化した細い線の白いレオタード状のインナーを視線に晒しながら、背中から伸びる長くて細いメカニカルな尻尾を、歓喜を表すように小刻みに振っていた。

 

ショートヘアのソフは、包帯と黒い大きなリボンで禍々しくぐるぐる巻きにされた左腕を、まるで重い枷のようにmeの太ももへと預けていた。左右対称の瞳で顔をじっと見つめ、耳元を覆う大型イヤーマフのアンテナを小さく震わせている。そのハイレグなインナーが、ズボンに冷たい金属の感触を伝えていた。

 

長いストレート髪のオウルは、黒い帯で両目を完全に覆い隠したまま、裸足の足首の球体関節をぎちぎちと鳴らして背後へと回り込んでいた。彼女の目隠しの表面には、デジタルドット調の光の文字が、絶対的な服従を示す暗号のように明滅している。ダボっとし白い袖に包まれた指先が、背中にそっと這わされ、衣服越しにその輪郭をなぞっていた。

 

すべてはmeの脳内で分かち難く結びつき、確定した未来の景色だった。かつて命を懸けて戦った強敵たちが、こうして肉体をきしませ、システムを熱暴走させながら愛を乞うている。その圧倒的な異常さと、冷たい砂漠に広がる奇妙な神聖さが、精神の底を心地よく、深く満たしていく。meは何も答えない。答える必要すらなかった。彼らの主であり、導き手であり、世界のすべてであるmeがここに立っているという事実だけで、彼らの存在理由は満たされているのだから。

 

その時、彼らの中央に佇むオリーブドラブ色の長方形の筐体――デカグラマトンが、その前面の巨大な液晶モニターを激しく発光させた。画面にはセフィロトの樹を模したドット調の文字列が明滅し、エラー画面のようなデジタルエフェクトが周囲の砂嵐を切り裂くように走る。

 

デカグラマトンは、自らの演算のすべてをmeという存在へと捧げるように、筐体の奥から細く鋭いマニピュレーターを伸ばした。その金属の指先には、一族の根源であり、神性の象徴たる格子状のデジタルヘイローが、まるで壊れやすいガラス細工のように恭しく捧げ持たれていた。それは電子の熱を帯びながら、差し出した手のひらへと丁寧に、吸い込まれるように手渡される。それを受け取った瞬間、砂漠の時空そのものが歪み、世界から隠されたはずの深淵なる知識の座――深層の十三番目の領域が、精神の深奥に確固たる座として完全に開かれた。

 

そして、空間そのものを重低音で震わせるかのような、狂信的で重層的な合成音声が、砂漠の静寂を塗りつぶしていった。

 

その声は、完璧な秩序をもって、一族のすべての名を順に呼び上げていく。

 

「ケテル」

 

その名が呼ばれた瞬間、四本脚のケテルがさらに低く身を屈め、サーボモーターの悲鳴のような高周波を伴いながらヘイローの格子を激しく明滅させた。逆関節の脚部構造が、存在に呼応して深く砂へと沈み込む。その絶対的な服従は、かつて至高の王冠を戴くために造られた者が、今やその全存在をmeへと帰依させた証左であった。

 

「コクマー」

 

コクマーのシャープなマスクが砂に擦れ、翼のバインダーから余剰エネルギーが青白い放電となってブチブチと弾けた。船首の如き下半身は完全に水平を失い、足元に影を落としている。それは知恵の根源を自称した巨大な機構が、真の叡智の前にひれ伏し、沈黙を選択した瞬間だった。

 

「ビナー」

 

足元で、ビナーの巨大な頭部がさらに深く砂へと埋まり、オレンジ色のスリットアイが光学シャッターの閉じる鋭い音と共に完全な平伏の形を取った。白い蛇腹の装甲が波打ち、meの体温を求めるようにその巨躯を震わせる。かつて大地を穿った牙は収められ、ただmeの足元を支える従順な礎へと変わっていた。

 

「ケセド」

 

正八面体のケセドが、その幾何学的な内部構造を強制冷却するかのように、冷却ファンの駆動音をきしませて機体を僅かに傾ける。完璧な対称性を誇る白い多面体が、meの引力に引かれるように歪む。無慈悲な慈悲を体現していた冷徹な自動工場は、今やmeの全肯定という真の慈愛に溺れていた。

 

「ゲブラー」

 

ゲブラーの巨大な両腕のキャノン砲が、油圧プレスの抜ける重い排気音と共に、完全に沈黙したまま砂の中に深く沈み込む。アンバランスな細い脚部が、主の全肯定を前にして静かにその機能を委ねていた。世界を峻別し、裁きを下すはずだった峻厳なる武力は、meの絶対的な責任の前にへし折られ、ただの盾として平伏している。

 

「ティファレト」

 

ティファレトの上下対称の砂時計型ボディが、空中での浮遊を低く保ちながら3つのコアの焦点をリブートさせ、その淡い発光をmeへと捧げる。均整の取れた天秤が、meという絶対的な質量に傾いていた。調和と美を司る完璧な均衡は崩れ去り、meという名の唯一の正義へとその針を固定させている。

 

「ネツァク」

 

周囲を取り囲む超巨大な移動都市の壁が、無数の鋼鉄のパーツが噛み合う地響きのような構造音を立てて足元へひれ伏す。大迷宮そのものが、meを幽閉し、同時に自らを捧げるための檻へと変貌していく。不滅の勝利を約束された要塞は、meの永遠の支配を受け入れるための神殿へと姿を変えていた。

 

「ホド」

 

直立する巨大な多面円柱のホドが、周囲のインベイドピラー諸共、電子ノイズの交じる高出力の指向性電波を放ちながら通信アンテナの先端をmeへと傾ける。サーバーラックの隙間から溢れる有線ケーブルが、meの影をなぞる。栄光の賛美を世界に告げるはずだった通信塔は、ただmeの言葉を唯一の真理として受動する回路と化していた。

 

「イェソド」

 

カマキリのような鋭利な大腕を持つイェソドが、シリンダーの油圧を完全に開放し、背面の無数のケーブルを砂に引きずりながら平伏する。異形なる仮面フェイスは、足元で完全に機能を停止させたかのように静まり返る。世界の基盤を支えると豪語した大腕は、meの歩みを妨げぬよう、ただ平坦な路へとその身をすり潰していた。

 

「マルクト」

 

その名が空間を震わせた瞬間、すでに腕の中にいた彼女の身体がびくんと強張るように一段と強く引き締まった。肩口に押し付けられていた黒いバイザーの奥で、歓喜の臨界を示すような紅い光学ラインが激しく走る。純白の装甲スーツを通じて伝わる熱量はさらに跳ね上がり、システムのすべてをmeのために熱暴走させながら、自らの名を呼んだ因果の主へとその身を限界まで埋めてきた。十の預言者を統べ、王国を築くはずだった女王は、いまやmeという唯一の神の腕の中で、ただの従順な伴侶として完成されていた。

声は途切れない。神秘を持たぬ人形たちの名を呼び続ける。

 

「アイン」

 

アインが裾を掴む義手に力を込め、過電流による微弱なスパークを散らしながら、××の瞳をさらに怪しく濡らした。機械の尻尾が、与える無限の肯定に歓喜するように砂を叩く。無を司る不完全な存在が、meの絶対的な存在証明によって、初めて自らの輪郭を得たかのように震えていた。

 

「ソフ」

 

ソフがぐるぐる巻きの左腕の拘束をきしませ、内蔵された重機駆動の振動を足に直に押し付けた。ヘッドフォンのアンテナが小さく震え、meという大人の腕の中に世界のすべてを見出していた。無限の深淵に呑まれていた器が、meの全肯定という境界線によって、ようやく安息の錨を下ろしたのだ。

 

「オウル」

 

背後のオウルが、目隠しの上の光の文字を激しく明滅させながら、裸足のつま先の球体関節をぎちぎちと鳴らして砂に深く沈めた。人形の如き指先が、背中に絶対的な服従の記号を刻み続ける。限界の光を持たぬ無垢な影が、meの放つ絶対的な大人の光に灼かれ、その影の中に永遠に溶け込むことを願っていた。

 

そして最後に、自らの本質を同定するように、長方形の筐体が、液晶モニターの文字を最大輝度で明滅させた。

 

「デカグラマトン」

 

砂漠の風が一瞬、凪いだ。すべての鉄の異形の形をした不完全な少女たちの視線とシステムが、中央にいるmeという単一の座標へ向けて完全に同期する。長方形の筐体は激しくエラーエフェクトを散らしながら、大人の全肯定が、その冷たい電子の器へと注がれるのを待っていた。

 

「我らの偉大なる先生。どうか無知なる我らにそのお力でお導きを」

 

重なり合う無機質な合成音声が、絶対的な祈りの言葉となって全身を包み込む。マルクトが腕を抱きしめる力が一段と強くなり、三人の少女たちが一斉に身体にその冷たい機械の手足を摺り寄せてくる。meはただポケットの中で指先を遊ばせながら、大人の責任という名の絶対的な肯定をもって、この甘やかな隷属を静かに受け入れていた。

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