THE IMPERIAL SAVING   作:夏目陽光

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回想メモリアル【元宮チアキ】

夕暮れ時、ゲヘナ学園の片隅に位置する古びた洋館の一室は、静寂に満ちていた。

 

そこは、万魔殿の議員である元宮チアキが、お気に入りの散歩コースの途中で見つけた、普段は誰も寄り付かない物置同然の空き部屋だった。埃っぽい空気の中に、西日が窓から差し込み、長い影を床に落としている。

 

meは、部屋の中央に置かれた古びた木製椅子の背に深く体を預けていた。

 

纏っているのは、汚れ一つない純白の儀礼服だ。軍服に近い仕立てで、肩や胸元は無駄のない直線で裁断されている。この純粋な白は、周囲の雑多な色彩をことごとく拒絶し、夕日を浴びて血のように赤い影を床に落としていた。

 

チアキは、そんなmeのすぐ目の前に立っていた。

 

彼女の膝裏まで届くほどの圧倒的な長さを持つ、ストレートの黒髪ロング。几帳面にパッツン気味に切り揃えられた前髪の隙間から覗く、鮮烈なクリムゾンレッドの瞳は、獣や蛇のように細いスリット状の瞳孔を宿して、じっとmeを観察している。 頭の側面から緩やかにねじれながら後ろへと伸びる一対の黒い角は、砂漠のアダックスを思わせる独特の曲線を描き、その内側は深みのある血のような赤色を湛えていた。

 

チアキは黒のミリタリーキャップを傾け、一番上のボタンを外して赤色のネクタイをかなり緩く結んだ胸元を誇らしげに張りながら、手にしたデジタルカメラのファインダーをmeに向けている。

 

「カシャ」

 

乾いた電子音が静寂を引き裂いた。 チアキは液晶画面を確認し、不満げにエルフのように尖った耳を少し揺らした。

 

「……やっぱり、駄目ですね。先生の顔、カメラを通すといつも同じ。まるで、私がシャッターを切る瞬間の未来を、最初から全部知っているみたい」

 

チアキは、固有武器であるアサルトライフル「カメラブリッツ」を背中から取り外し、邪魔だと言わんばかりに、近くの埃を被った机の上へと乱暴に放り投げた。金属同士がぶつかる高い音が部屋に響き、そしてまたすぐに消えた。

彼女は「オーニ、オーニ」と無邪気に口ずさみながら、独特の軽やかな足取りで行進の真似をして、meの膝元まで距離を詰めた。 その赤い頭上に浮かぶ、カメラのレンズを模したデザインのヘイローが、楽しげに揺らめく。

 

「ねえ、先生。凡そこのキヴォトスほど面白い世界はあるまいと、私はいつも思うんです。マコト先輩のような偉大な精神の下で、ゲヘナのこの混沌とした大地を踏みしめれば、いつも新しい『笑顔』の発見があります」

 

チアキはmeの顔を覗き込み、ふっといたずらっぽく笑った。

 

「万魔殿より、先生の隣の方が、私にとっての一番の特等席なんです。君のその、何をされても揺らがない絶対的な目が、私をどんどん引き留めて離さない。私の歩く未来を、全部先回りされているみたいです。ね、私のこと、もっと引き留めておいてくれますか?」

 

meは何も言わなかった。 ただ、彼女を見つめた。

 

転がる砂の粒の如き無数の未来を見下ろすmeの視界において、彼女がどこに歩み寄り、どのタイミングで言葉を紡ぐかは、ただ予定された一つの調和に過ぎなかった。

 

チアキは躊躇なくmeの膝の上に腰を下ろし、小柄な身体をmeの白い胸元へと預けた。 彼女の頭頂部は、座ったmeの視点から見ても、一般的な少女たちより随分と高い位置にある。すらりと伸びた長い脚を包む黒いソックスが、meの白い外套をわずかに汚したが、meはそれを意に介さなかった。

 

チアキは、身を乗り出すようにしてmeの顔に近づいた。そして、二人の額が、静かに、そして優しく押し当てられた。

 

それは言葉を伴わない、互いの熱い吐息と温度を確かめ合うだけの、極めて親密な距離の共有だった。チアキのミリタリーキャップが床へと滑り落ち、豊かな黒髪がmeの白い外套の上を波のように覆い尽くしていく。

 

「あはは、君の白い服を、私の髪でシワだらけにしてやりました」

 

チアキは嬉しそうに囁き、meの胸元をぎゅっと掴み直した。

 

どれほど彼女が足掻こうとも、その熱も、愛着も、すべてはmeの掌の上の出来事なのだ。 朱色から群青へと変わりゆく夕闇のグラデーションの中で、二人の影は、境界を失ったまま深く沈み込んでいった。

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