剣の頂を目指す者なら、誰もがその名を聞く。
ベリル・ガーデナント
数多の弟子を持ち、大成した者達はレベリオ王国の片田舎に剣聖が居るのだと。
「豊かな地だ」
腰に一振の剣を差した銀髪の旅人がビデン村にある剣術道場の前に立っていた。
道場からは木剣のぶつかり合う音や、元気な子供らの声が聞こえて来る。
「ふむ…今はまだ稽古中か」
宿を探してくるかと思い立った時、気配が近付いてくる。
「おう…誰かと思えば…ビャクエンか!久しぶりだな」
ベリルの父、かつて最強の剣士と言われたモルデア・ガーデナントが顔を出した。
「モルデアさん、ご壮健そうで何よりです」
「おぉ~デカくなったなぁ!」
バシバシと体を叩かれる。腰を悪くして現役を退いたとは思えない程だ。昔、ベリルと2人がかりでボコボコにされた記憶が未だに抜けない。
「ベリルの奴に会いに来たのか?アイツは夕方になれば手が空く。それまでウチに来い!家内も嬉しがるぜ」
「はい。では遠慮な…」
刹那、眼前にモルデア老の顔があった。殺気が込められた瞳で見つめられていた。
「…その前に風呂だな。血の匂いが鼻に付いてたまらねぇ…薬草風呂にしてあるから清めてきな」
老いてなお、この殺気とは流石は剣鬼と言われた男、モルデア・ガーデナントだ。見抜かれていた
「…ご相伴に預かります」
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モルデア視点
ビャクエンの奴、体に染み付く程の血の匂い…一体どれほどの修羅場を潜り抜けてきたんだ。つい本気の殺気を出しちまったがまるで気にしちゃいなかったぜ
「年ァとりたくねぇもんだ」
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石鹸と薬湯で体を洗わせて貰い、ゆっくりと浸かる。戦場から戦場へ、ダンジョンから溢れ出したモンスター、果てはネームドモンスターまで斬りまくった。全ては強くなる為に…ベリルと昔、交わした約束を守る為に
「おう、少しはマシになったな」
「良き風呂でした。ベリルの御母堂にお会いするのには、些か不潔でした故。感謝します」
薄汚れていた銀髪が綺麗に洗われ、美しく輝き整った顔つきに逞しく鍛えられた肉体が見て取れる。
「しかしお前、一体どれほど…」
「あら~~~!!ビャクエンじゃないの!」
炊事場からベリルの母、フレン・ガーデナントがモルデアを押し退けてビャクエンに抱き着いた。
「な、なんだ!?」
「あはは…フレンさん、お久しゅうございます」
ベリルの父母にはこの村を出るまで世話になっていたから、およそ20年ぶりの再会になる。
「ビャクエンがこんなに格好良くなるなんてねぇ。そこらの娘が放っておかないだろ?良い人は出来たかい?」
「は、はぁ、世界中を放浪しておりましたゆえ、良い縁には恵まれませんで」
「まったく…ベリルといい、ビャクエンといい…もう子供がいても良い年だろうになぁ」
あれよあれよと食卓に座らされ、ベリルが来るまで根掘り葉掘りと話をさせられたのだった。