夕方になると道場は閉まるが、居残り稽古をする門下生も日が暮れれば流石に帰る。
ベリルが家に帰ってきたのはすっかり日が暮れてからだった。
「親父、お袋か~帰ったよ。いや~今日は皆頑張ってくれてな~師匠として鼻が高いよ…ってお客さん?」
20年振りに見たベリルはなんだか老けて見えたが、内包する気は衰えてはいないようだ
「お前なぁ、義理とはいえ兄弟を忘れるなよ…なぁビャクエンよ」
モルデア老がベリルをいさめると目を見開いて驚いている
「あ…やあ~驚いたよ。なんせ20年振りだからね。元気にしてたかい?」
「ふっ…お前こそ元気やってたようだな」
「まあ、親父が腰を痛めてからは俺が道場を引き継いだんだ。今は子供達に剣を教える毎日さ」
「なぁオイ、この兄弟20年独りもんなんだぜ、母さん」
「そうねぇ…早く孫の顔が見たいものだわ」
モルデア老とフレンさんが白々しい芝居をやっているのをベリルと受け流していき、懐かしい食事を終えた。
エールで火照った体を冷ましに河原で涼んでいるとベリルも来たようだ
「やあ」
「2人は寝たか?」
「あれだけ飲めば朝までぐっすりかな」
気を良くしたモルデア老はエールを樽ごと持ってきて、飲みまくったのだ。フレンさんがモルデア老を寝室に連れて行ったらしい
「この20年…ビャクエンはどう過ごしてたんだい?」
「ん…色々な国へ行った。モンスター退治に始まり、戦争にも巻き込まれた。気が付けば英雄扱いだ…ただ魔物や人を沢山斬っただけなのにな」
懐からベリルに冒険者証を手渡す。黒い金属製のカードにビャクエン・ガーデナントの名が刻まれている。
「これは…ブラックランクじゃないか!」
「あぁ、魔法や兵器が入り乱れる戦場で、剣だけで成り上がった証でもある…だがなベリル。お前より強い奴は居なかったよ」
ベリルを真っ直ぐに見たまま
「買い被りすぎさ…俺なんて親父にも勝ててないし、若い頃にダンジョンで痛い目にあってるし」
「その基準が間違いなんだ。モルデア・ガーデナントはかつて剣鬼と言われた最強の剣士だ。ダンジョンだってお前、俺が止めるのも聞かずに、ろくに準備もしないで強行したからだろうが」
現役時代のモルデア老にはベリルと2人がかりでもボコボコにされたくらいだし、腰を痛めたタイミングで勝ち逃げに等しい引退だからな、大人気ない。ダンジョンだってベリルは初心者用だと勘違いしてるが、あそこはAランクダンジョンで準備もしないで入って良い場所じゃなかった。
「うん…若かったんだよ、あの頃はね」
「…お前が育てた弟子達は世界中に散らばって活躍しているぞ。片田舎の剣聖を語り継いでいる…お前の事をな」
「弟子の子達が…俺を?」
「あぁ、だから帰って来たんだ。アイツらが言う片田舎の剣聖の実力を確かめにな」
視点変更、ベリル
その瞬間、座ったままのビャクエンからゾクリとするほどの気当たりが飛んで来た。瞬間的にこちらも気を引き締め、相殺する。
「酔いは覚めた様だな」
「…なんとかね」
昼間に親父が殺気を出していたがすぐに止まった為、駆け付けはしなかったが…ビャクエンに対してだったんだな
「道場から木剣を拝借してきたんだ。久しぶりに手合わせと洒落こもう」
「いいけど…ここでかい?」
「なぁに心配するな、死合じゃないんだ…時間はかからないし、掛ける気もない」
無傷じゃすまないよね…けれど嬉しくもある、久しぶりに本気を出しても勝てるか分からない相手が目の前に居る。それがたまらなく嬉しい