俺はベリル・ガーデナント、片田舎で剣術道場をやっている。親友であり義理の兄弟であるビャクエンが20年振りにビデン村に帰って来た。
親父やお袋も交えて飲み明かした後に、久しぶりに剣を合わせたのだが…正直、手も足も出なかった。片田舎で引きこもっていた自分と、旅をしながら腕を磨いてきたビャクエン…力の差をこれでもかと思い知らされた。
「せんせー!また明日~!」
「はーい。よく食べてよく寝るように」
最後の子が帰ってからが、俺とビャクエンの手合わせの時間だ。あの手合わせの日からビャクエンと毎日剣を合わせている。
「門下生は帰ったか?」
綺麗に洗濯された着流しを身に纏ったビャクエンが道場に入って来た。
「あぁ、最後の子がちょうど今帰った所だね」
「じゃあ今日もやるか」
壁から木剣を取るとこちらに投げ渡してくる。それを片手で受け取ると、道場の中央で向かい合う。
「行くぞ!!」
ビャクエンに向かって踏み込みからの袈裟斬り、身をかわされるが下から切り上げから繋げる連撃。ビャクエンは涼しい顔で紙一重で避ける
「ほう…段々昔に戻りつつあるな」
よく言うよ、見を止めて先の先を取ろうとしたのにまるで問題なくいなされた。突きを放てば軸をずらされ、間合いを詰めれば蹴りが飛んでくる。
「っ!?」
「お、今のも防いだか。良いな」
ビャクエンが木剣を脇に抱えるような構えに切り替えた。それを見た瞬間、考えるよりも速く体が動いていた。
【雲龍】
ビャクエンが回転しながら斬撃を繰り出してくる。その数、八連撃…しかも全ての斬撃が同時に迫ってくる。様に見えるなまじ目が良いだけに乱れを探そうとするが、全くズレがないのだ。
「ちいっ…ぜあああああああ!!」
防ぐ事を考えるんじゃない。この斬撃の壁を切り抜けるんだ。被弾を恐れて進まないなんで【俺らしくない】
「驚いたな…木剣とはいえ、俺の技を避けるでも防ぐでもない…文字通りに切り抜けやがった。視覚に頼り切った先読みや見切りをすれば、お前は地に伏していた」
ビャクエンの木剣を見ると綺麗に切断されていた。折ったのではない。こちらの木剣は損傷してはいたが使用に問題はない。
「物心着いた時から剣を振り続けた…毎日、何年も」
「……」
「今、ようやく…報われた」
木剣を折る事は出来る。所詮は木で出来ているのだから、しかし斬るとなると非常に難しい。力ではなく、技で斬らなければならないからだ。
「…ここに来て良かった。最初は期待外れと侮っていたがやはり、お前は俺が認めた好敵手だ。今のお前ならネームドすら斬れるかもな」
ネームドモンスターねぇ、しかし、この村に襲ってこないとも言えないしな
「…俺はそろそろ此処を旅立つ、すっかり長居してしまったからな」
「…また急な話だね」
「そもそも今のお前を見ておく為に立ち寄ったが、あまりになまっていたから、鍛え直しただけだ」
あはは…面目ないけど、ハッキリ言うなぁ。しかし、俺も昔の感覚を取り戻せたし、あながち悪くなかったな
「ベリル」
「ん…?なんだい?」
「次に会う時はもっと強くなっていてくれ」
ビャクエンは不敵に笑うと木剣を持ったまま、道場から出て行った。
「…川で顔洗ってくるか」
自分以上に強くなっていたビャクエン。彼との立合いで昔の感覚と自らの錆を落とした俺は、気持ちを新たに素振りをするのだった。