とある魔術の自己証明《ドッペルゲンガー》   作:natsuki

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第七話

「処分を開始する」

 

 その宣言と同時に。

 乾いた銃声が夜の裏路地へ響いた。

 パンッ!!

 

「危ねぇ!」

 

 上条当麻は反射的に榊原の身体を突き飛ばす。

 弾丸がコンクリートを砕いた。

 火花が散る。

 破片が舞う。

 

「空間移動!」

 

 黒子の姿が消える。

 次の瞬間にはビルの壁面へ着地していた。

 

「初春!」

『監視カメラ、全部落ちました!』

 

 通信機越しに初春の悲鳴が聞こえる。

 

『映像が全部ブラックアウトしています!』

「当然ですの」

 

 黒子は屋上を睨んだ。

 

「最初からそのつもりでしたのね」

 

 屋上に立つ三人は微動だにしない。

 全員が白い装備。

 全員が同じ仮面。

 個性がない。

 まるで機械だった。

 

「対象を確認」

 

 一人が淡々と言う。

 

「置換対象S―23」

「処分を継続」

 

 感情がない。

 怒りもない。

 憎しみもない。

 ただ。

 仕事をしているだけだった。

 

「ふざけんな!」

 

 上条が叫ぶ。

 

「人を撃っといて何なんだよ、お前ら!」

 

 返事をしたのは隊長格らしい男だった。

 

「人間?」

 

 少しだけ首を傾げる。

 

「誰のことだ」

「榊原だよ!」

「誤認識だ」

 

 男は即答する。

 

「対象S―23は人間ではない」

「なに……?」

「存在置換現象によって発生した異常情報」

 

 淡々と。

 教科書でも読むように。

 

「修正対象である」

 

 上条は拳を握った。

 

「ふざけるな」

「事実だ」

「目の前で助けを求めてるじゃねぇか!」

「だから処分する」

 

 その一言で。

 上条の中の何かが切れた。

 

「お前ら!」

 

 地面を蹴る。

 一気に駆け出す。

 

「待て、上条!」

 

 土御門の制止も聞こえない。

 屋上までの非常階段へ飛び込もうとした、その瞬間。

 世界が揺れた。

 

「…………え?」

 

 視界が二重になる。

 建物が増えた。

 道路が重なる。

 空まで歪む。

 

「何だこれ!」

「演算が始まった!」

 

 土御門が叫ぶ。

 

「上を見るな!」

 

 しかし遅かった。

 夜空。

 そこには。

 無数の人影が浮かんでいた。

 男。

 女。

 老人。

 子供。

 全員が同じ方向を見ている。

 こちらを。

 

「幻覚か!?」

「違う!」

 

 土御門は歯を食いしばる。

 

「全部、人間だ!」

「はぁ!?」

「正確には!」

 

 土御門が叫ぶ。

 

「人間だったものだ!」

 

 その瞬間。

 浮かぶ人影が一斉に口を開いた。

 

『助けて』

『寒い』

『僕は誰?』

『帰りたい』

『消えたくない』

 

 無数の声。

 男も。

 女も。

 子供も。

 泣いている。

 

「耳を塞げ!」

 

 土御門が術符を投げる。

 破裂。

 結界。

 空気が震える。

 声が消える。

 だが榊原だけは、その場へ膝をついた。

 

「違う……」

 

 震える声。

 

「違う!」

 

 頭を抱える。

 

「僕じゃない!」

 

 泣きながら叫ぶ。

 

「僕はあんな声知らない!」

 

 隊長が静かに榊原を見下ろす。

 

「始まったか」

「何がですの!」

 

 黒子が叫ぶ。

 

「存在崩壊だ」

 

 隊長は静かに答える。

 

「置換存在は一定時間を超えると、他の消失者と情報を共有する」

「情報共有……?」

「人格が融合する」

 

 その言葉に。

 榊原の身体が震えた。

 

「やだ……」

 

 涙が止まらない。

 

「消えたくない」

「僕は」

「僕なんだ」

 

 上条はその姿を見た。

 偽物なんかじゃない。

 演技でもない。

 目の前に居るのは。

 一人の高校生だった。

 

「だったら」

 

 上条は前へ出る。

 右手を強く握り締める。

 

「誰が何て言おうと!」

 

 榊原の前へ立つ。

 

「俺はお前を見捨てねえ!」

 

 隊長は初めて僅かに眉を動かした。

 

「幻想殺しか」

 

 その名を知っている。

 

「なるほど」

 

 静かに銃を下ろす。

 

「ならば計画を変更する」

 

 通信機へ手を伸ばす。

 

「こちらMIRROR」

「対象をS―23から変更」

 

 仮面の奥で男は初めて笑った。

 

「新たな回収対象は」

 

 一拍置く。

 

「上条当麻」

 

 その宣言と同時に、裏路地の四方から、新たな足音が響き始めた。

 包囲。

 完全な包囲だった。

 土御門は小さく舌打ちする。

 

「……最悪だ」

 

 今度こそ。

 逃げ場は、なかった。

 

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