恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話   作:ヒロ@一次創作

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第十話

第二回指名の三日後、イベントの収録が行われることとなった。

 

 

「今回は男女ペアで協力してポイントを獲得してもらいます。」

 

「優勝ペアには特別デート権を贈呈します、意中の相手、ペアの相手を誘って素敵な一時をお過ごしください。」

 

『協力』というワードにざわついていた参加者たちだったが、司会から更なる情報が追加されると大きな歓声が上がり、モチベーションは急上昇。

ペアは勿論、二回目指名で成立した組み合わせである。

 

 

「頑張ろうか。」

 

「頑張りましょう。」

 

 

 

競技は全部で四種類。

 

第一競技は巨大なアスレチックコースをペアで進みながらチェックポイントを通過し、タイムを競うというものだ。

ホイッスルの音に合わせてスタートした2人の前に現れた最初の障害は、シンプルな高い壁。身長の高い豪は余裕で登れるが、女性の中でも背の低い方である美桜からすれば絶望的な高さである。

 

 

「どうしましょう。」

 

 

美桜がそう言うと、豪は背中を向けてしゃがむ。

 

 

「乗って。」

 

「え?」

 

「肩車するから。」

 

「え、そんないきなり無理です!」

 

「大丈夫、落とさないから。」

 

 

押し問答をしている時間は無かったため、恥ずかしさを感じながらも豪の肩を借りる美桜。ヒョイッと持ち上げられた美桜は、自分が想像していた以上に軽々と持ち上げられたことで驚きの声を漏らしてしまった。

 

 

「きゃっ!」

 

「大丈夫?」

 

「た、たかいです!」

 

 

直球な感想に豪が思わず噴き出した。

 

 

「俺はいつもこの景色だよ。」

 

「わ、私は生まれて初めてなんです!」

 

 

そんな風にわちゃわちゃしながらも美桜が先に壁を乗り越えると、豪はその場でジャンプして壁の上に手を掛け、グイッと登って突破してしまった。

その後も2人は協力して、揺れる橋を渡ったりトランポリンを飛んだり跳ねたりしながら全体トップのタイムでゴール、見事にポイントを獲得することに成功するのだった。

 

 

続いて行われる第二競技は相手のことをどれだけ理解しているか。

ペアは別々の部屋へ案内された状態で司会者の説明を聞く。

 

 

「この競技はペアの理解度を試します。」

 

「お互いに関する質問へ回答し、一致した数だけポイント獲得です。」

 

 

如何にもといった競技に会場が盛り上がるが、美桜は少し緊張していた。

豪について知っているつもりだが、案外分からないことも多い。果たして何問正解できるだろうか。

 

最初の質問。

 

 

「黒崎豪が試合前に必ず行うルーティンは?」

 

 

美桜は少し考えてから回答を書き、事前に豪が提出していた回答と合わせて公開。

 

 

「「正座して目を閉じる」」

 

 

2人の回答は見事に一致していた。

 

 

「えっ。」

 

 

正解したことに豪も驚き、壁越しに声をかける。

 

「言ったっけ?」

 

「前に話してくれましたよ。」

 

続いては美桜に関する問題。

 

 

「南美桜が一番苦手なことは?」

 

 

問題を聞いた豪は迷うことなくペンを動かして回答を書くと、美桜と同時にオープンする。

 

 

「「大勢の前で目立つこと。」」

 

 

正解。今度は美桜が驚く。

 

 

「よく分かりましたね。」

 

「分かるよ、美桜さんのことを見ているからね。」

 

 

笑いながら放たれたその一言で美桜の心臓が跳ねる。ちゃんと見てくれていた、私のことを。それがどうしようもないくらい嬉しかった。

 

その後も。

 

 

「黒崎豪が人生で一番影響を受けた言葉は?」

 

「「勝った日より負けた日の方が人は強くなる。」」

 

「美桜が落ち込む時の癖は?」

 

「「笑う回数が減る。」」

 

 

まさかの全問正解だった。

 

 

「なんで全部分かったんですか?」

 

「俺も同じことを美桜さんに聞きたいよ。」

 

 

参加者のみならずスタッフまで騒めく中、2人は笑いながらそんなことを喋っていた。

 

 

第三競技は『トラストミッション』、司会者が説明を始める。

 

 

「第三競技はペアの信頼度を試します。」

 

「一人は目隠しをしてコースを進み、もう一人が音声だけで誘導してください。」

 

 

いきなり難易度が跳ね上がったことで参加者から不安そうな声が上がるが、それは豪と美桜も例外では無かった。

 

 

「難しくないですか?」

 

「周囲が見えないのは嫌だな。」

 

「ですよね。」

 

 

ルールは至って単純だ、障害物だらけのコースをパートナーの声だけを頼りに目隠しをした状態で進む。実にシンプルな競技だが、それ故にペアの信頼度が試されるものだ。

 

最初は豪が目隠しをして進む役になった。

スタッフがアイマスクを着けると、普段は圧倒的に大きな豪が少しだけ頼りなく見える。

 

 

「黒崎さん準備は?」

 

「大丈夫です。」

 

 

そう答えるものの、前が見えない感覚はやはり不安な豪。

しかしその時。

 

 

「豪さん。」

 

「私を信じて、声を聞いてください。」

 

 

美桜がそっと豪の手に触れながらそう言うと、豪はニヤリと笑った。

 

 

「了解、タッグマッチは得意だ。」

 

 

お互いに気合が入った状態で、いざ競技スタート。

 

 

「三歩前です。」

 

「はいはい。」

 

「右に半歩。」

 

「こんな感じ?」

 

「そうです。」

 

 

美桜の誘導は驚くほど正確だった。そして豪も迷いがない。

普通ならどれだけペアを信頼していたとしても途中で躊躇して立ち止まり、足元を確認する。

しかし豪は止まらない。恐怖を感じないからではなく、美桜の言葉を信じているから。

そして角を曲がってすぐのところで大きな障害物が現れた瞬間、

 

 

「豪さんストップ!」

 

 

美桜が「豪さん」と言った時点で豪は停止していた。美桜が何を言いたいのかが分かっていたかのような動きに司会者も驚く。

 

 

「今止まるのがあと一歩遅かったらぶつかってました、黒崎さんよく止まれましたね。」

 

「美桜さんのが『止まれ』と言う気がしたので。」

 

 

その一言で会場が盛り上がり、美桜の顔は真っ赤になっていた。

豪はそのまま無事にゴールし、今度は役割交代。

目隠しをした美桜は俄然不安になる。視界が真っ暗だから当然のことだった。

そこで、美桜が不安になっていることに気付いた豪が話しかける。

 

 

「怖い?」

 

「怖いです、少しだけ。」

 

「大丈夫だよ、俺がいる。」

 

 

その一言で不安は消え去った、美桜自身も驚くほどあっさりと。

そして競技開始。

 

 

「まっすぐで良いよ。」

 

 

豪の声が聞こえる。

 

 

「大丈夫、そのままそのまま。」

 

 

また聞こえる。

 

 

「三歩先で左に90度曲がろうか。」

 

 

ゴール地点から声聞こえるだけを頼りに進むが、不思議なほどに怖くない。

 

 

(豪さんだからかな。)

 

 

そう思いながら落ち着いて歩を進めていき迎えた、最後にして最大の難関ポイントの大きな段差。これまで挑戦した全てのペアが失敗しており、流石に豪と美桜でも…という雰囲気が広がる。

しかし豪は気楽そうに言う。

 

 

「美桜さん。」

 

「はい。」

 

「そこから俺の声の方に思い切って飛んでくれればゴール。怖いと思うけど、俺を信じて欲しい。」

 

 

豪の力強い言葉を聞いた次の瞬間、美桜の心から恐怖は消え去った。

美桜の一切の迷いないジャンプの結果、見事に段差を飛び越える美桜の小柄な身体。目隠し状態故に完全に真っすぐ飛ぶことは出来ず、美桜の身体は少しだけゴール方向から逸れるがそこは豪がカバー。飛んでくる美桜の身体を優しく、それでいて力強く受け止める。

その結果、美桜は転ぶことなく豪の腕の中に飛び込み…無事にゴールすることが出来た。

 

その後もいくつかのペアが挑戦したが、2人とも完走できたのは豪と美桜のペアだけだった。

 

 

最後の競技は『シークレットボックス』。

 

 

「最後の競技はペアで行う心理戦です。」

 

「皆さんには競技開始前に書いていただいた秘密があります。」

 

「パートナーは複数の選択肢から、その秘密を当ててください。」

 

 

説明を聞き終えた美桜が

 

 

「これ嫌ですね。」

 

 

と溢せば、豪も苦笑する。

 

 

「嫌だね。」

 

 

競技が始まり、最初は美桜の秘密を当てるターン。

スクリーンに選択肢が表示された。

 

 

『南美桜のコンプレックスは何?』

 

A:恋愛経験が少ない

 

B:自分に自信がない

 

C:友達が少ない

 

D:人前で話すのが苦手

 

 

競技に控えて見学している参加者も予想し、意見が割れる。

 

 

「Dかな?」

 

「Aじゃない?」

 

 

その喧噪の最中豪だけはじっと美桜を見詰め、そして答える。

 

 

「B」

 

 

正解。

会場がどよめく。

 

 

「何故分かったんですか?」

 

 

との司会者の問いに豪は少し考えてから、美桜を見ながら答える。

 

 

「美桜さん、自分のことになると評価低いから。」

 

「他人に優しいのに、自分には厳しい…そんな優しい人です。」

 

 

短くも完璧に自分のことを言い当てられた美桜は言葉を失う。

誰にも言ったことがない自分のコンプレックス。それを豪は一月もない僅かな時間で理解してくれたのだ。

 

次は豪の秘密を当てるターン。

問題と選択肢がスクリーンに表示される。

 

 

『黒崎豪が一番怖いものは何?』

 

A:怪我

 

B:敗北

 

C:孤独

 

D:老い

 

 

再び会場が悩む。

プロレスラーなら敗北か、いや選手生命に関わる怪我かもしれない。

しかし美桜は違った。少しだけ考えてから答える。

 

 

「Cです。」

 

 

正解だった。

今度は豪が驚く。

 

 

「なんで?」

 

 

美桜が答える。

 

 

「豪さんは凄く強い人です。」

 

「……」

 

「でも強い人って、一人で頑張りすぎちゃいますから。」

 

「だから、本当は…一人が平気じゃない気がしました。」

 

 

豪は何も言えない。

正解も正解、図星だったから。

 

そのまま正解が続き、遂に最後の問題。

お互いがお互いの秘密を当てる問題。

 

 

『この番組で一番大切な存在は?』

 

 

選択肢は無い。何のヒントも無い状態で相手の答えを当てる必要がある。

そして会場の空気が変わる。誰もが気付いたのだ、これは実質告白だと。

 

美桜は緊張で指先が冷たくなり、豪も真剣な表情を浮かべるが、2人は同時に回答用のボードに答えを書いていく。

そして双方が書き終えたところで、回答が公開された。

 

 

【豪】

 

「美桜さんの答え:黒崎豪」

 

 

【美桜】

 

「豪さんの答え:南美桜」

 

 

一瞬の静寂の後、会場は黄色い悲鳴で溢れかえる。

司会者も驚いて声を上げる。

 

 

「お互いに自分と回答!?」

 

 

しかしまだ正解かどうかは分からない。

参加者とスタッフ全員の視線が大型モニターに集中した次の瞬間、回答が映し出された。

 

 

【美桜の回答】

 

「黒崎豪さん」

 

【豪の回答】

 

「南美桜さん」

 

 

完全なる一致だった。

その場の全員が一瞬の沈黙し、そして状況を理解した次の瞬間。

会場は先程以上の大歓声に沸き立ち、盛大な拍手に包まれる。

今この時この瞬間、『お互いに相手の一番大事な人は自分』という豪と美桜の回答は、間違いなく伝説となった。

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