恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
息抜きにどうぞ。
夕食後。ヴィラの裏手にある遊歩道を、豪と美桜はゆっくりと散歩していた。
頭上には満月が輝き、夜風が心地良い。
待ち合わせ場所で合流してからしばらく何も話さずに歩くだけだったが、沈黙を破ったのは美桜だった。
「なんか、変な感じですね。」
「何が?」
「最初ここに来た時は、みんな知らない人だったじゃないですか。」
「そうだね。」
「でも今はこんなに豪さんと仲良くなっているのが不思議だなって。もう分かっていると思いますけど私って結構人見知りなので、男の人とこんなに仲良くなるなんて考えたこともなかったんですよ?」
「それを言うなら俺もだよ。最低限の顔出しをしたらさっさと退場して帰っているはずだったのに、気が付いたら美桜さんとペアになって、こうして仲良くしているんだから。」
美桜が笑いながら本音を言えば、豪も笑いながら白状する。
2人とも同じ思いだったことが分かり、穏やかな気持ちになったその時だった。
木立の向こう。離れになっているヴィラの方から、誰かの声が聞こえてきた。
「だから恥ずかしいってば……」
「それが好きなんだろ?ほら、もうこんなに…」
言葉だけ拒絶する女性に続いて、低い男性の声が続く。何を言ったのかまでは聞き取れなかったが、声色と雰囲気だけで十分だった。
明らかに男女の関係、拒むふりをする女とそれを知って誘う男。収録開始前に「異性交遊は控えてください」と言われているにも関わらず、それを破ってコトに及ぼうとしていることは明白だった。
曲がりなりにも男女交際の経験がある豪は特に反応もせず気が付かなかったふりをするが、彼氏など出来たことの無い美桜には刺激が強すぎたらしい。
その場立ち止まると完全にフリーズしてしまっている。
「美桜さん?」
「……」
「美桜さん、大丈夫?」
「……」
ブンブンと首を振る美桜の顔は真っ赤だった。
ひとまずその場から離れた2人は、ベンチに座ったまま黙り込んでいた。
「……」
「……」
気まずい。
一体何をすればよかったのかと豪は考えるが正解が分かる筈もなく、とりあえず話しかけることにした。
「さっきのは…」
「言わないでください。」
美桜に被せるように言われ、普段より美桜の距離が心なしか遠いことに気付いた豪はそこでようやく思い至る。
美桜は恋愛経験がない、つまり先ほどのような話、所謂下ネタに全く耐性が無いのだろうと。
(これはまあ仕方ないかなぁ…俺だって他人の情事が始まるところなんざ見たくないし。)
そんなことを豪が考えていると、美桜が蚊の鳴くような声で尋ねる。
「みんな普通なんですか?」
「何が?」
「その、恋人どうしってみんなああいったことを……」
美桜の言わんとしたことを察した豪は、苦笑しつつ答える。
「まあ、大人の男女恋人同士なら普通なんじゃないかな…多分。」
「たぶん?」
「俺もそこまで交際経験が多いわけではないし、特に団体に入って暫くは外出もできなかったから、そういったことをする時間も機会もあまりなかったんだ。普通の人とは違う生活を送っているから、一般的な意見ではないかもしれないけど。」
「そう、ですか。」
美桜は豪の話を聞いて少しだけ安心した顔になる。その表情が妙に可愛くて、豪はスッと視線を逸らしつつフォローを続ける。
「無理に慣れなくていいと思うよ。」
「え?」
「そういう話。」
「……」
「絶対にしなきゃいけないわけじゃない、嫌なら断る権利があるからね。」
「…子供っぽいって、思いませんか。」
「なんで?」
「だってもう大学二年生なのに碌な交際経験が無いし、見ての通り私って女性的な魅力がないですし…それに加えてそういったことをしたくない、なんて。」
今にも消えそうな、縋るような声で美桜が言うと、豪はしっかりと美桜の顔を見て答える。
「全然思わない。俺はそういうところも含めて美桜さんと一緒にいたいんだ。だから急ぐ必要なんかないし、嫌なことは嫌でいいと思うよ。」
豪が言い終えるとしばらく沈黙が続く。
夜風で木々が揺れるなか美桜は何かを考えるように俯いていたが、やがて顔を上げ、豪を見据える。
「でも。」
「ん?」
「豪さんはその、前の彼女さんとそういったことをされてます、よね?」
「…まあね、俺も健全な成人男性だから。」
「じゃ、じゃあやっぱり私と付き合ったら、その、したい、です、よね?」
「…正直に言えばね。俺はそういった行為は恋人同士のコミュニケーションの一つだと思っているから、したいかと聞かれたらしたいと答えるよ。」
非常に話しにくい事柄であるが、だからこそ正直に豪は自分の考えと想いを伝える。
隠そうと思えばできただろうけど、美桜に対しては誠実でありたいと考えて結果だった。
仮に正直に答えたことで美桜に距離を取られてしまうとしても、だ。
「じゃあ、もし。もし、将来豪さんとそういう話になったら。」
不意に投げかけられた言葉に豪が虚を突かれ、言葉を返せずにいると。
「その時はちゃんと豪さんを受け入れられるように、色々準備して頑張ります。」
そんなことを美桜は顔を真っ赤にしながら言い切ると、
「お、おやすみなさい!」
と叫び全力で走り去っていってしまった。
その場にポツンと残された豪は月明かりの下で立ち尽くし…
「……俺の理性がどこまで持つか、だな。」
誰もいない夜空に向かって呟き、深く顔を覆う。
動揺しているのは美桜だけではない。美桜と同じかそれ以上に、豪も動揺していた。