恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
黒崎豪は不安げな面持ちでバスの最後部座席に座り、団体事務所で社長に呼び出されたときのことを思い返していた。
「豪、お前恋愛番組に出ろ。」
「は?」
全体練習後にいきなり呼び出されたかと思うと、あまりにも突飛な指示を飛ばされたことに目を丸くしていると、社長は手元の書類を捲りながら理由を説明する。
「これからの戦略として、今以上に女性ファンを増やす方向にシフトしたい。今もそれなりの人数が来てくれているが、客層を広げなければ衰退していくだけだからな。」
「はい、それはそのとおりだと思います。」
「で、だ。お前が所属している芸能事務所から恋愛リアリティ番組へのオファーを貰ってな。スケジュール、報酬共に悪い条件じゃないし、地上波・ネット配信共にされるから世間へのアピール力もかなり高い。断るという選択肢は無いだろう。」
「でも間違いなく最初に退場することになると思いますよ?俺に恋愛経験が無いことはご存知でしょう?」
「別に良いさ。お前の顔と名前が電波に乗るだけで十二分にお釣りがくる。」
「…確かにそうですね。分かりました、やるだけやってみます。」
そんなやり取りをしたのが一月前のことだった。
恋愛リアリティ番組に興味は無かったし、恋人が出来るなんて微塵も期待していないが、出演する以上はプロとして全力を尽くすつもりではある。
しかしこれまで経験したことのない状況であったため、如何に人前に立つことに慣れている豪とはいえ緊張していた。
バスの窓に映る自分の姿を見る。
身長195センチ、体重115キロ。鋼の様な肉体に、鋭い目つき。道を歩けば一般人に道を譲られるし、間違いなく女子受けする見た目ではない。それは豪自身が一番知っている。
試合会場では人気があるし、写真撮影の列もできる。大きな声援も貰える。
けれどそれは『プロレスラー:黒崎豪』に対してであり、一人の男として好かれているわけではない。
過去に付き合った女性もいたが長続きしなかった。
「一緒に歩くと怖い。」
「目立ちすぎる。」
「試合が優先なんでしょ?」
責められたわけではないし、実際そのとおりな部分も多かったから何も言えなかった。
巡業や大会出場で年がら年中遠征をしている人間と付き合うのは大変だから、恋愛には向いていない。そう自分で結論づけていた。
30分程の時間をかけてバスがヴィラに到着すると、スタッフが慌ただしく動いている様子が目に入って来た。同時に女性参加者が並んでいるのが見えたが、綺麗な人ばかりで豪は少し気後れする。
モデル。
配信者。
経営者。
インフルエンサー。
画面映えするキラキラした経歴に愛嬌と美貌を兼ね備えた女性ばかりのところに、無骨なプロレスラーが入って行く…どう考えても異物だ。
正直言ってタイトルマッチより緊張する。
そんなことを考えながらも顔には一切出すことはせず、荷物を持ってバスを降りる。
「はじめまして、黒崎豪です。よろしくお願いします。」
降りて少し歩き、参加者たちの集まっているスペースに着いた豪は『プロレスラーはリングを降りたら紳士たれ』という道場で自身を鍛えてくれた鬼軍曹の言葉に従い、きっちりと頭を下げて挨拶する。
豪の姿を見た女性陣の反応は予想通りだった。
「わあ、大きいですね!」
「筋肉すごい!」
こういう熱の無い反応には慣れている、聞き飽きるほど聞いてきたから。そして言われるたびに思う。それしかないな、と。
仕方のないことではあるが、誰も豪の内面には興味がない。
大きい。
強そう。
怖そう。
いつもと同じように会話はそこで途切れる。恋愛番組なのにまるで動物園の熊みたいな扱いだが、特段傷つきはしない。いつものことだからだ。
そしてそんな中で一人だけ話しかけてこない女性がいれば、逆に目に留まるというもの。
女性参加者の中でも一際幼く小柄で、派手な服は着ていないしメイクも薄い。他の女性たちの後ろで、何も言わず目立たないよう静かに立っている。
そんな彼女のことを、何となく目で追っていた。自分のことを恐れているわけでもなく、ただ興味なさげに距離を取っている。
まるで「自分もここにいるべきじゃない」と思っているような顔をして。
他人でありながら自分の鏡写しを見ているようで、女性参加者の中で最も印象に残った。
このあともう一話投稿します。