恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話   作:ヒロ@一次創作

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本日この前に第二話を投稿しています。


第三話

番組収録者全員が参加するパーティーが始まったのは、夕暮れが海に沈み始めた頃だった。ヴィラのテラスには色鮮やかな料理が並び、スタッフの合図で乾杯が行われる。

 

「撮影をみんなで素敵な時間にしましょう!乾杯!」

 

男性参加者、女性参加者、そしてスタッフも交えての乾杯のあと、参加者たちが思い思いに歓談しているなかで、美桜は気後れしてうまく輪に入れずにいた。

 

「美桜ちゃんはインスタやってる?」

「一応……でも友達と猫の写真しか上げてなくて。」

「あはは、かわいい!」

 

正直に言うと笑われた。悪意はないけど距離を感じる。

最初こそ華やかな会話が飛び交うなか相槌を打ちながら笑顔を作っていた美桜だったが、心の中に少しずつ疲れが溜まってきていた。

 

SNS運用や仕事の話に、ブランド物や海外旅行の話。

 

ただの女子大生である美桜が知る由もない世界の話ばかり。

頑張って会話に参加していたもののついに気疲れが我慢できなくなり、飲み物を取りに行くことを理由に席を離れた。

 

「はあ……」

 

人ごみから離れて気が抜けたのか、思わず息が漏れる。定期試験直後のように肩が凝ってしまい、一息入れたかった。グラスをテーブルに置いて伸びをしようとしたその時、不意に巨大な影が横に伸びる。

 

「疲れた?」

 

低く落ち着いた声。

振り返って声の主を確認すると、同じように少し疲れた顔をした豪がグラスを右手に持って歩み寄って来た。

 

「えっ。」

「少し疲れた顔に見えてね。」

 

豪はそう言ってオレンジジュースの入ったピッチャーを手に取ると、自分のグラスに注いでから美桜のグラスにも注ぎ入れる。

 

「そ、そんなことない、です。」

「初日だからさ、緊張するのも無理ないよ。俺だって緊張してるから。」

 

そこで会話は途切れるが気まずくはない。2人とも沈黙に慣れているからかもしれない。

そのまま波の音と漏れ聞こえてくる参加者の声を聞いたまま数分経った頃、2人だけの空間で話しやすくなったのか、豪が口を開いた。

 

「あんまり向いていないのかもね。」

「え?」

「こういうの。」

 

美桜は思わず笑った。

 

「豪さんもですよね。」

「まあね。」

 

そう言って笑う顔は美桜が初めて見る表情で、グッと雰囲気が柔らかくなる。身体が大きくて鋭い目つきから怖い人だと思っていたけど、もしかしたら不器用なだけかもしれない。

 

「豪さんはどうして出たんですか?」

「仕事だよ。」

「仕事?」

「社長から出てくれって言われてね。」

 

あまりにも正直すぎる回答に美桜は目を丸くする。

もう少しこう、取り繕う努力をしても良いのではないかと思ってしまう。

 

「えっと…断れなかったんですか?」

「正直に言えば断りたかった。」

「じゃあなんで断らなかったんですか?」

「社長には入門してからずっと世話になっているし、この番組は全国的に知名度があって営業に向いているからね。女性ファン獲得のために頑張ってくれと言われたら断れなかったんだ。」

「何ていうか、プロレスラーも社会人なんですね。」

「そのとおり、プロレスラーも社会人なんですよ。」

 

ちょっといじけたような口調が似合わなくて、美桜は思わず吹き出してしまう。会場に来て初めて楽しそうに笑う美桜を見て、豪も頬を緩めた。

気が付けば、美桜にとって豪は『怖そうな人』から『ただの大きい人』になっていた。

この人は思っていたほど遠い存在じゃない。沢山の人の前で戦う人なのに、今は自分と同じように居心地の悪さを抱えている。それを理解して、どこか安心した。

 

「美桜さんはどうして出演を?」

 

正直に言うか少し迷う。本当のことを言うと惨めな気がしたが、あれ程明け透けに自身の心境や出演に至る理由を話してくれた豪なら笑わない気もしたから、思い切って話してみることにした。

 

「スカウトです。」

「へえ!凄いじゃないか。」

「でも正直、自分が選ばれると思ってなくて。」

 

そこで言葉を止めて様子を伺うが、豪は黙って聞いている。

 

「最初はワクワクしてたんです、ずっと見ていた番組に出られるんだって。でも他の参加者の方を見て分かっちゃったんです。自分は引き立て役なんだって。」

 

そういって諦めたように笑うが、少し声が震えてしまっていた。

美桜が話し終えてもしばらく豪が何も言わなかったから、やっぱり変なことを言ったかもしれないと思った時だった。

 

「俺もさ。」

「え?」

「団体の宣伝役だから最初に脱落しても問題ない、全国放送に少しでも顔と名前が出るだけで元が取れるって言われたよ。」

 

豪は海を見ながら続ける。

 

「俳優とか経営者で身体を鍛えているとかなら分かるけどね。」

「プロレスラーなんて恋愛番組にいらないんだ、普通は。」

 

その言葉に美桜は驚いた。豪ほどの知名度と実績のある人でも、そんなことを思うのか。

 

「そんなことないと思います。」

 

気が付けばそう言っていた。その声に驚いたのか豪が顔を向ける。

 

「だって私、豪さんがいると安心しますから。」

「安心?」

「はい。」

「なんで?」

 

美桜は言葉を探し、フッと思い付いた理由をポロッと口にしてしまった。

 

「なんか…強そうだから。」

 

一瞬の沈黙を経て、豪が盛大に吹き出した。

 

「あっはっはっは!強そう、強そうかぁ!確かに俺は普通の人よりは強いなぁ、プロレスラーだからね。でもそれって褒めてる?」

「褒めてます…多分。」

「多分かぁ。」

 

テラスから聞こえる賑やかな声を尻目に、2人は声をあげて笑う。

番組が始まってから豪が他の女性たちから掛けられた言葉は

 

「すごいですね。」

「かっこいいですね。」

「人気なんですね。」

 

と言う通り一遍のものばかり。

だが美桜は「安心する」と言った、ただ隣にいるだけで安心すると。

そんなことを言われたのは人生で初めてだったから、豪はこの小柄で自信なさげな少女のことをもっと知りたくなっていた。

 

 

プロレスラーと女子大生。誰が見ても接点のなさそうな二人だけれど。

その夜、ヴィラの参加者の中で、最初に本音を話したのは彼らだった。

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