恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
翌日からいよいよ番組が本格的にスタート。
従来通り最初にペア作りが行われる。男性陣がペアになりたいと思う女性を指名し、女性側の指名とマッチングすればペア成立と言うシンプルなもの。人気を集めるのは予想通り、モデルのリサや美容系インフルエンサーの美優だ。
男性参加者が自分以外を次々と指名していく中で、美桜は一番端の席で座っていた。
自分の名前が呼ばれることはないと分かっている。それ故に心の準備を済ませて指名の様子を見ていると、最後の男性である豪に司会が尋ねていた。
「黒崎さんはどなたを選びますか?」
「南美桜さんでお願いします。」
問われた豪が即答すると、予想外過ぎる回答を受けて会場が静まり返る。まず名前を呼ばれた美桜本人が本当に自分が呼ばれたのかを理解できずにいるし、周囲の女性たちも驚いていた。
そんな中で興味深そうに司会から美桜を指名した理由を問われた豪は、特に照れた様子もなく言う。
「一番普通に話せましたので。」
「普通に話せた」という理由は恋愛番組特有のときめきも甘酸っぱさもない。でもだからこそ、美桜の胸に響き。
自身の指名順で豪を指名することに、美桜が迷うことは無かった。
指名完了後、カップリングが成立したペアはそれぞれ準備された華やかなデート企画へ向かう。
事前に番組スタッフがある程度のペアを予想して企画を準備していたが、誰もが予想していなかった豪と美桜ペアに提示された内容は、自分たちで作る夕食の買い物という地味なモノ。明らかにこの2人がデートを行うことが想定されていないことが良く分かるものだった。
普段から運転しているということでハンドルを握った豪の運転でショッピングモールへ向かう道中、美桜は車の助手席で困っていた。
豪を指名してペアが成立したは良いものの、まさか自分が指名されるなんて思っていなかった美桜は、豪と何を話せばいいか分からない。
しかしそれは豪も同じで、まさか買い物デートを指示されるとは想定しておらず、車内で話すネタの準備などしていなかったのである。
しかしカメラが回っている以上黙ったままでいるわけにもいかないため、駐車場から出たところで豪は口を開いた。
「15分くらいのところに大きなスーパーマーケットがあって、そこに行くようにセッティングされているね。撮影許可も取れているみたいだから、気楽にいこうか。」
「運転ありがとうございます。あの、豪さんって普段どんな食事をしているんですか?」
「ん?んー…どうだと思う?」
「え、プロレスラーだからお肉を沢山食べる…のかな?あとはお米とか。」
「半分正解半分外れかな。タンパク質を摂るために鶏むね肉なんかは沢山食べるけど、お米みたいな炭水化物はあまり摂らないんだ。」
「え、そうなんですか、知らなかったです。てっきりプロレスラーの方はとにかく量を食べているんだと思ってました。」
「定食屋さんで『ごはん半分で』って言うといつも『大盛りじゃなくて半分ですか?本当に?』って何回か確認されるんだ。だから美桜さんの感覚が普通なんだと思うよ。」
プロレスラーあるあるを豪が実体験を交えて面白おかしく話せば、美桜もクスクス笑いながら自分のエピソードを話す。気が付けば2人の会話は盛り上がり、乗車してしばらくあった緊張は消え去り、あっという間にスーパーに到着していた。
スーパーに到着して買い物を始める2人だが、妙に買い物慣れしている美桜に豪はこき使われることとなる。
「あ、牛乳安いですね、買いましょう。」
「あ、こっちの北海道産の方がお得ですよ、豪さんは沢山食べるでしょうからこっちにしましょう。」
「豪さん、重いのでこの野菜持ってください。」
気が付けば豪は美桜の荷物持ちと化していた。見る人が見れば『飼い主に大人しく着いて行く大型犬』という感想を持つかもしれない。
すっかり緊張が解けた美桜は普段通りに買い物をしているだけだったが、両手に商品が沢山入った籠を持つ豪は不思議な感覚だった。
これまでの関わって来た女性は豪の事をレスラーとして、格闘家として、有名人として接してきた。それは悪いことではないし、豪自身が自然と受け入れていた。
しかし美桜は、近所の兄ちゃんを買い物に付き合わせているようなよく言えばフランクな、悪く言えば少々雑な接し方をする。
けれど豪にとってそれは不思議と嫌ではなかったし、むしろ心地良いとすら思えるものだった。
買い物を終えた帰り道で美桜はあらためて考えてみる。
豪さんは本当に自分を指名して後悔していないのだろうか?他に綺麗な女性はいくらでもいるというのに。
気になった美桜は、思い切って聞いてみることにした。
「豪さん、本当に私でよかったんですか?」
「…何が?」
「指名です。私以外に素敵な人は沢山いらっしゃるじゃないですか。」
「ああ、そういうことね。」
豪は美桜の問いに対して少し考えた後、後続車を確認しながらサラリと答えた。
「一番気楽に話せたのが美桜さんだった、だから後悔なんてしていないし、美桜さん以外を指名するつもりは毛頭なかったよ。」
唐突に「自分以外を指名するつもりは毛頭ない」などという高威力のパンチを受けて固ままった美桜に気付かず、豪は続ける。
「他の人は俺に気使うんだよね。」
「そうですか?」
「うん。」
「あれ…ってことは、私は使っていないということですか?」
「うん、全然使っていないね。」
笑いながら「気を使っていない」と断言された美桜は少しだけ恥ずかしくなり俯くが、何故だか悪い気はせず、その後はヴィラに付くまでチラチラと豪の顔を見ながら過ごすのだった。
買い物を終えた二人はヴィラへ戻ると、そのまま夕食作りに入る。
「買ったものから推測はつくけど、今晩のメニューは?」
「肉じゃがです。嫌いですか?」
「いや、大好物。ご飯が進み過ぎるのが難点だけど。」
「じゃあ決まりですね、作りましょう。」
とんとん拍子で準備は進み、いざ調理開始。
「豪さん、お料理の経験はありますか?」
「勿論あるよ、入門して暫くはちゃんこ番で道場の台所を預かるからね。」
「それを聞いて安心しました、頼りにさせて貰いますね。」
「お手柔らかに。」
料理中の2人は収録されているにも関わらず自然体だった。他の参加者たちのような駆け引きはなく、気を惹こうとすることもない。ただ一緒にいて、世間話をしながら手を動かす。
「大学は楽しい?」
「普通です。」
「うん、普通が一番だよね。」
「プロレスラーの豪さんがそれ言います?」
美桜は笑ったあと、聞きたかったことを聞いてみることにした。
「豪さんは?」
「ん?」
「プロレスと格闘技、楽しいですか?」
豪は手を止めて考えるが、女性からよく聞かれる質問ではないため少し驚いていた。
普通の女性なら、
「怖くないんですか。」
「怪我しませんか。」
などといった話になる。だから美桜の「楽しいか」は意外な質問だった。
意外ではあったが、豪は自分の中に答えをもっている。
「楽しいよ、凄く。」
「子供の頃から憧れていた職業につけて、有難いことに色々な場所で試合をさせて貰えて、ついでに格闘技でも優勝出来ちゃって。すごく充実した人生だよ。」
その柔らかい声から、豪が心の底から充実しているということが美桜に伝わる。
美桜が野菜を着る手を止めて豪に顔を向けると、豪もこちらを向き、笑ってくれた。
無事に料理を終えた2人は美味しい食事を済ませた後、就寝前に個別ブースに呼ばれてインタビューを受ける。美桜には女性参加者の最後に司会のマイクが向けられた。
「今日のデートはいかがでしたか?」
「すごく楽しかったです。沢山お話し出来たので、豪さんのことを色々知ることができましたし、私のことを知ってもらうこともできました。」
噓偽りなく、心の底から楽しかったと美桜は答える。
他のペアと比べると地味なイベントかもしれない。けれど、スーパーまでドライブして、買い物をして料理をして、一緒に夕食を食べた時間は本当に楽しかった。
「黒崎さんは恋愛対象として気になりますか?」
一気に難しい質問になり美桜はどう答えるか逡巡する。まだ分からないけど、一つだけ自信を持って言えるのは。
「答えになるのかは分からないですけど。一緒にいて、とても安心します。」
それだけは確かだった。
一方の豪は男性スタッフからインタビューを受ける。
「南さんの印象は?」
「とても素敵な方です。お互いに変に気を使わなくて良いですし、ちょうどいいペースで話をすることが出来ました。」
「それは好意ということでしょうか?」
「どうでしょう…まだはっきりしないので、もう少し時間を貰えますか?中途半端な気持ちで答えるのは、美桜さんに失礼ですから。」
「では最後に一つ。美桜さんとペアを組んで過ごした時間はどんなものでしたか?」
スタッフの最後の質問にどう答えたものかと豪は逡巡し…最終的に素直に答えることにした。
「これまでの人生の中でも一、ニを争うくらい、楽しくて、落ち着いた時間を過ごすことが出来ました。」
そう言って笑う豪の顔は、本当に嬉しそうだった。