恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
翌日の自由時間。
美桜はテラスで本を読んでいた。
他の参加者たちはプールや海へ出て遊んでいるが、美桜は元々大人数が得意ではないし、他の女性参加者の水着姿と自分の身体を見比べて悲しくなったので、静かな場所で過ごすことにしたのだ。
ペラペラとページをめくって読み進めていると、不意に影が落ちる。
「面白い?」
Tシャツに短パンというラフな格好の豪がマグカップを持って覗き込んできたので、美桜は本から顔を上げ答える。
「はい。ここは本が沢山あるので助かります。」
「読書好きなんだ、最近の学生さんにしては珍しいかも。」
「郷さんは?」
「俺も結構読むよ。遠征の移動中に結構暇な時間が出来るから、疲れているときは寝るけど、そうでないときは本を読んで過ごすことにしてる。」
そう言いながら豪は近くの椅子を引き寄せて美桜の隣に座ると、黙って海を眺め始めた。美桜も無理に話し続けることはせず、再びページに目を落とし読書へ戻ることする。
五分、十分。どちらも何も言わず、美桜のページを捲る音とさざなみだけが聞こえる穏やかな時間。普通なら気まずいであろう沈黙も、2人にとっては問題なかった。美桜は読書を続け、豪は海を眺める。そんな不思議な時間だった。
やがて本をパタンと閉じて、美桜が笑う。
「どうかした?」
「豪さんって変ですよね。」
「ええ?藪から棒になんで?」
「普通本を読んでいる人の横に来て座って、そのまま黙って海見ます?」
「邪魔だった?」
「そうじゃなくて。不思議な人なんだなって、そう思っただけです。」
美桜がクスクス笑うと、釣られて豪も笑う。
そこでふと豪は思った、美桜の笑顔をもっと見たい、と。
なぜ急にそんなことを思ったのか、理由は自分でも分からなかった。
そんな2人の様子を他の参加者たちは遠巻きに眺めながら。
「美桜ちゃんと豪さん仲良いよね。」
「意外だった。」
「正直、一番付き合う想像できない組み合わせだけど。」
と面白そうに話している。決してそこにいる彼女たちに悪意はなく、意外な組み合わせへの純粋な驚きと興味を持っているだけ。
それでも参加者の中には美桜のことを気に食わないと感じる者はいる。豪が離席したタイミングで近くを通り、わざと大きな声で「あの2人だと釣り合わないよね、豪さんにはもっとお似合いの人がいるし。」と言っているのを、美桜は聞いてしまった。
その日の夜。
(やっぱり釣り合わないよね、私なんかじゃ。)
美桜は一人で海辺を歩きながら、昼間に聞いた、正確に言えば聞かされた「豪にはもっとお似合いの人がいる」という悪意ある言葉を反芻していた。
確かに他の女性参加者が豪の性格を知れば、もっと人気が出て逆指名を受ける可能性もある。自分より綺麗でスタイルも良くてお金を稼げる人から指名されれば、豪は自分より遥かに素敵な人に乗り換えるだろう。そうなったら自分にできるのは見送ることだけだ、色々な想いを抱え込んだまま。それはきっととても苦しくて辛いことだから、これ以上仲が深まらないようにした方が良い、はずだ。
そんなことを考えていると…
「こんばんは、美桜さん。」
今一番聞きたくて、それでいて聞きたくない豪の声。
ザクザクと砂を踏みしめながらこちらへ歩いてくる音がする。
これ以上仲良くならない方が良いと理性では思っているのに、豪が来てくれたことで何処か安心している自分がいることに、美桜は気付かないふりをする。
「こんばんは、豪さん。」
「落ち込んでるみたいだね。何かあった?」
ズバリ言い当てられた美桜は口ごもるが、豪は追及しない。
そのまま横に並んでしばらく一緒に海を見ていたが、やがて豪はポツリと言った。
「気にしすぎない方が良いよ、他人の言うこと。」
「……」
「俺は楽しい、美桜さんと一緒にいる時間が。」
少しばかりぶっきらぼうな声だが、それが逆に嘘ではないと美桜には分かる。
「だから…美桜さんが嫌じゃなければ、もう少し俺と一緒にいてくれたら嬉しいよ。」
美桜の胸が少しだけ熱くなった。
言葉を尽くして説得されたわけでも、歯の浮くような口説き文句を掛けられたわけでもないけれど。
『一緒にいてくれたら嬉しい』
豪の一言で、自分がここに居て良い、そう思うことが出来たから…それで充分だった。
キリが悪いので本日続けてもう一話投稿します。