恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
その週末に機材事故の回が配信されることとなったが、事故の起きた全ての場面を流すことは出来ず、大幅に編集された内容となっていた。
飲み物を手に歩く美桜、スタッフと話をする豪の順でカットが切り替わる。そして豪に気付いた美桜が歩み寄ろうとしたところで緊迫したBGMが差し込まれる。
その直後、機材の崩れる大きな音と悲鳴が響く中で美桜を抱き寄せて守る豪の姿が映る。
インパクトのある映像が上手くピックアップされ、まるで映画のワンシーンを切り抜いたような見事な映像となっていた。
配信終了後、視聴者が一気にSNSへ投稿を開始したことでタイムラインが騒がしくなる。
「豪さん反応早すぎだろ、機材が落ちるのに気付いた次の瞬間には3メートルくらい飛び出してるぞ。」
「プロレスラーかっこよすぎる、いやマジで。」
「文字通り身体張ってるのヤバい、普通できんて。」
「こんなん誰だって惚れるだろ。」
事故のシーンは切り抜かれてSNSや動画投稿サイトにアップされ、普段プロレスを見ない層まで豪の顔と名前を知ることとなる。
この時点で豪と団体の目的は殆ど達成されたも同然だったが、視聴者が反応したのは事故のシーンだけではなかった。
「俺豪と美桜の空気感好きだわ。」
「派手じゃないのにずっと見てられる、初々しくて見てるこっちがキュンとしちゃう。」
「他のメンバーといる時より自然だよね、美桜ちゃんの笑顔がかわいいもん。」
「この二人だけ恋愛番組じゃなくて日常ドラマなのよ。」
この配信によって買い出しや料理、テラスでの会話があらためて視聴されることで番組自体の注目度アップにも大きく貢献することとなった。
その一方で否定的な意見も当然ある。
「なんか美桜ばっかり優遇されてない?」
「普通の大学生って設定が怪しい、絶対スカウト枠じゃなくて新人の芸能人でしょ。」
「なんで豪は美桜ばっかり気にするの?」
「どう考えても釣り合わない、現役バリバリで稼いでる格闘家と普通の女子大生なんて。」
豪の言動や態度に対する否定的なコメントがあるのは勿論だが、美桜を否定するものも多い。特に美桜に対するコメントは否定的を超えて誹謗中傷ともいえるものも散見され、それに便乗する形で叩くという流れが形成されてしまっていた。
配信翌日。収録開始前の控室で美桜はスマホを握っていた。
SNSでの反応を見るつもりはなかったのだ、個人としては。ただ、参加者は積極的にSNSを運用して番組をPRし、自分が最後まで残れるように人気投票してもらうように促すことが契約事項にあるため、見ざるを得なかった。
褒められている投稿もあるし、応援もある。
それでも美桜の目に飛び込んでくるのは、彼女のことを否定し叩くものばかりだった。
「一般人感が強すぎて場違いすぎる。」
「豪がいなかったら目立ってないでしょ、消極的すぎ。」
「豪の人気に乗っかってるだけなんだよなぁ、自分から何かしようって感じがない。」
自覚している部分を抉られたことで胸が重くなり画面を閉じるが、突きつけられた言葉がグルグルと頭の中を回っている。
そのままズルズルと沈み込んでしまいそうになったところで…
「大丈夫?」
突然豪の声がした。
いつの間にか隣に座っており、心配そうな表情を浮かべている。
「えっと、その…」
「ああ、SNSの反応を見ちゃったのか。」
「はい…お仕事なので、配信が終わったら投稿するようにしているんです。そのときに色々と見てしまって。」
「分かるよ、俺も同じようなもんだ。」
そう言ってスマホを取り出すと、美桜が止める間もなく画面を見せる。
「黒崎またゴツくなった?」
「熊みたいで怖い。」
「恋愛向いてなさそう、色んな意味で。」
「顔怖い。」
自分のタイムラインにはないバラエティ溢れる単語の羅列に、美桜は思わず吹き出した。
「熊はひどくないですか?」
「いやいや、よく言われるんだなこれが。」
「気にならないんですか?」
「どうだろう、最初はしたかもしれない。」
豪は昔の自分を思い返したのか、笑いながら続ける。
「新人の頃は落ち込んだこともあるよ。」
「え?」
「同期にもっとカッコいい奴がいるから比較されたしね。正直に言えば、今も全く気にならないと言えば嘘になる。」
自分よりもずっと大人で強い豪の言葉に、美桜は驚く。
それでも今、自分の胸につっかえた感情を吐き出さずにはいられなかった。
「じゃあどうすればいいんですか。私は視聴者の人に何をしたら認めて貰えるんですか?」
「どうもしなくていい。」
「え?」
「会ったこともない人の意見・考えより家族や友人の言葉を信じれば良いし、自分にしかないものを誇れば良い。そうしてきたから、今の俺がある。」
真っすぐで力強い、実に豪らしい答えだった。
きっとその言葉のとおり、家族や友人の応援の声をエネルギーにして頑張ってきたのだろう。
けれどそれは豪だから出来ることで。
「でも私には…」
誇れるものなんて何もない、そう口にしようとしたところを豪に遮られる。
「少なくとも俺は、視聴者や他の参加者より美桜さんのことを知ってる。」
「え?」
「真面目で、意外と頑固で、料理が上手くてついでの俺のことを使うのも上手い。そして何より…俺の怪我に気付いて心配してくれる優しさがある。」
「俺は美桜さんの素敵なところをこれだけ見つけて、美桜さんと一緒にいたいと思っている。だから外野の言葉なんか気にせず、俺の言葉を信じてくれないか。」
真剣な顔と真摯な口調でそう言うと、豪は照れたように笑う。
その笑顔を見て、美桜はもういっぱいいっぱだった。昔から何かに選ばれたり褒められたりするのは他の誰かで、自分はそれを見て拍手しているだけ。自分を選んで見てくれる人は少なかった。
でも豪は違う。
外見や人気の話はしない。お互いの趣味や好きな食べ物の話をしたり、2人で取り組んだことへの感想を話したり。
ずっと豪は『南美桜』を見てくれていたことが分かって美桜は、嬉しくて泣きそうになった。
一方その頃、ネットでは別の現象も起きていた。
「おれ豪桜コンビ好きかも。」
「豪桜ペア成立してほしいなあ。」
「漫画みたいな身長差カップルでかわいいよね。」
「あの身を挺して庇うために抱き締めるシーンは反則だって、男の俺でも惚れてまう。」
この世論の変化、豪と美桜のペアを推す声の増加について、必要最低限のアピールをこなすだけの豪は知る由もない。しかし女性参加者たちに揶揄われながらも応援の言葉と共に知らされた美桜は、嬉しいけれど恥ずかしくて豪には言えずにいて。
そんな初々しい様子の美桜を、女性参加者たちは微笑ましい目で見ていた。