恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
番組開始から10日目。
収録開始当初は余裕があった参加者たちの雰囲気が、ピンと張り詰めてきている。
間もなく二回目の指名、脱落者の発表が行われるからだ。今回ペアリングが成立しなかった男女は番組を去らなくてはならない。つまりここからは、本当の意味で競争だった。
そして遂に訪れた二回目の指名が行われる収録の朝、ヴィラの空気は重い。
普段は騒がしいリビングは静まり返っており、普段の喧噪と違い過ぎるせいで美桜も落ち着かない。昨夜からほとんど眠れていないため強い眠気に襲われ、目覚まし代わりにコーヒーを淹れようとキッチンへ向かった。
「おはよう。」
すっかり聞き慣れた声に振り返ると、豪がいる。彼はキッチンカウンターに身体を預け、湯気の立つカップを手にしていた。
「おはようございます。」
「眠れていないみたいだね。」
「寝ましたよ、少しですけど。」
「本当に少ししか寝られてないね。」
強がって見せる美桜を見て豪は笑う。
最近はこうした何気ない、日常的なやり取りが増えていた。
「緊張してる?」
「してます、豪さんは?」
「してるよ、多少はね。」
「意外ですね、今回も前みたく『タイトル戦の方が緊張する』って言うかと思ってました。」
「まあ度合いは低いけどするにはするよ…帰る人が出るんだからさ。一番最初に帰るのは何か嫌だしね。」
その言葉に美桜は少し驚いた。
少なくとも豪は今回の収録で勝ち負けに執着している様子は無く、誰かを蹴落として残るタイプではないと思っていたのだ。
そんな話をしているところへ男性参加者の一人、俳優の真田悠斗がやってきた。
「美桜ちゃん、おはよう。」
「おはようございます。」
真田は爽やかな笑顔を浮かべる。
映画やドラマで見て分かってはいたが、やはり人気俳優だけあって実際に見ても絵になる男だった。
「美桜ちゃん、今日の収録が終わったら少し話せない?」
「え?」
「伝えたいことあって。」
突然の申し出に美桜が戸惑っていると。
「真田さん。」
「ん?」
「プロデューサーが探してましたよ。」
「ほんと?」
「ええ、さっき『真田さんが何処にいるか知ってる?』と聞かれましたから。」
「そっか、じゃあ行ってくるわ。」
真田は「美桜ちゃんまた後でね」と言い残し、スタッフルームへ向けて足早に去って行った。
真田の姿が見えなくなったところで、美桜が豪に尋ねる。
「プロデューサー呼んでましたっけ?」
「いや、呼んでないよ。」
豪が平然と答える。
「え?」
「真田さんが美桜さんと話したいみたいだったからさ。」
美桜は目を丸くする。
「邪魔したんですか?」
「タッグマッチの経験も多いからね、カットプレイは得意なんだ。」
悪びれもしない豪に美桜は呆れながら笑った。
「子供ですか。」
「そうかもしれないね。」
そう言ってから、自分の口からそんな女々しい言葉が出たことに豪は驚いていた。以前の自分なら決してそんなことはしなかっただろう。
でも最近は違う。美桜が楽しそうに笑っていると自分も嬉しいし、何を話しているのか気になる。
自分でも面倒だと思うが、それでも。
無性に腹が立ったのだ、美桜を特別な目で見る真田のことが。
その日の夕方、いよいよ二回目の指名タイムがやってきた。
参加者全員が海辺のステージに集められる。海を赤く染める夕陽がいやに眩しい。
「それでは二回目の指名を行います」
参加者が事前に運営へ提出した指名相手を記載した用紙、それがまず女性参加者へ返却される。女性参加者が紙に書いた男性参加者の名前を緊張した声で読み上げていくと、男性参加者に緊張感が漲り、普段強気な者も顔をこわばらせている。
そしてやってきた美桜の番。
美桜は緊張で渇く喉をドリンクで湿らせてから。
「私が選ぶのは――」
「黒崎豪さんです。」
ハッキリとした声で、豪の名前を読み上げる。
自分の名前を呼ばれた豪の目が少しだけ見開かれるが、すぐに笑顔に変わる。
その笑顔を見ただけで、美桜の心臓は高鳴った。
続いて男性側。
続々と指名が行われ、最後に豪の番がやってきた。
静まり返った会場をぐるりと見渡した豪は美桜のところで視線を止め、ゆっくりとした口調で読み上げた。
「南美桜さん、貴女です。」
予想通りの指名ではある。しかしその声に込められた明らかに重い感情にざわめくなか、豪はそのまま話し続ける。
「最初は話しやすかったからだった。」
参加者たちは黙って聞いている。
「でも今は違う。」
美桜の胸が跳ねる。
「一緒にいると安心するし。」
豪は少し照れながら笑った。
「他の男性参加者と楽しそうにしてるのが…正直言って面白くない。」
会場が大いにどよめいたあと女性陣から悲鳴のような声が上がる。
豪本人も言ってから気づいたが、これは最早告白であった。
「それは独占欲ということでよろしいですか?」
楽しそうな表情で尋ねてくる司会の言葉を聞いて、豪はやっと自分の感情に気が付くことが出来た。
「そうですね…美桜さんは誰にも渡したくありません。」
先程以上に大きな歓声が上がり、当の美桜の顔は真っ赤になる。
予想以上の熱い言葉のせいでまともに豪の顔を見ることができないけど、胸の奥がポカポカする。
自分は選ばれる側じゃない。そう思って生きてきた美桜にとって、真っすぐにぶつかって来る豪の想いは、劇薬に他ならなかった。