原作でベアトリーチェの行った儀式は本来、色彩の力を取り込み制御下に置くためのもの。
当然、その分生じるリスクも高く、その儀式が不完全な儘、失敗してしまったことによって、ベアトリーチェはその身を色彩に汚染され、結果として色彩を呼び寄せることが出来てしまった。
先述の通り、色彩到達のタイミングがズレるとこちら側に壊滅的な被害が出てしまいますが、だからといって色彩の汚染をモロに受けるわけには行きません。
やるべきことは最終章まで山積みですから……幸い、アリウスで行うべき研究はそこそこのペースで進んでいます。先生の姿はまだ無いようですし、今のうちにアリウスで行えることは進めておくのが良いでしょう。
儀式の中核を担う『"ロイヤルブラッド"の秤アツコ』、儀式場となる『バシリカの至聖所』、そして平和の門の名を冠する願いと憎悪が煮詰まった立入禁止の図書館『ポルタパシス』。
尚、ポルタパシスへの侵入と書物の確認等は先ほど完全に終わらせておきました。一部を除き、これらの書物は改めて投入する予定のカイザー製のドローンによって全て回収し、纏めて焼き払う、もしくは持ちうる神秘の影響を限りなく薄くして公開する予定です。
今後の『過ぎ去りし刻のオラトリオ』に関してのケアも行う必要がありますから、今のうちに利用できるものは利用し、そうでないもの、利用し終わったものから順に処分、または管理するべきだと判断しました。
それはさておき、研究者としても中々に実入りのある冒険でした。
ポルタパシスは現状で二つの解釈が可能です。
一つは記録保管庫としてのテクスト、オラトリオ編においてスバルやミネを苦しめた精神干渉の根源ですね。
次にかつてのアリウス生徒の声であり、この門の原初でもある、いつかの平和を願い信じる心と、平和の成就など出来るわけがないという当時のアリウス過激派の持つ猜疑心、不信感、内戦によって流れる血と行き場のない憎悪、相反する願いという名の神秘を受け止め続けたことによる願望器としてのテクストです。
願望を引き出し、それを叶える力とも言えます。
いつからかアリウスに武器の類が潤沢に揃い始めたのは、おそらく願望器としてのポルタパシスが持つテクストが原因である可能性が高いです。
それと、これはエビデンスの伴わない仮説、つまりは、ただの戯言にはなりますが、オラトリオ編にて黙示録のラッパ吹きが記憶の媒介という本来とは違った形で顕現したのも、もしかしたらこの願望器に触れたスバルが無意識に願ったことだったのかもしれませんね。
『何故自分だけがこのような目に遭わなければならないのか、この苦しみをお前たちにも……』という風に。
……さて、そのような根拠の無い妄言はさておき、ようするにゲームルールに縛られない
そのため極めて簡易的なものですが、用務員としてのテクスチャを自分自身に貼り付けました。
先生というテクスチャは今後に影響が出ると困るため避け、尚且つ生徒ではないということを強調するための選択です。馴染みやすい研究者や司書というテクスチャは、既に学園都市内に生徒というテクストと兼任なされている方がいますので選ぶのを避けました。
このような、物体にテクスチャを着せて解釈を宿す、そういった手法は元々、マエストロの研究分野ですね。
この身体からしても、専門外ではありますが、睡眠と食事を省いたお陰で何とか数週間という極々短期間で自身にテクスチャをある程度、定着させることができました。
多少突付けば壊れてしまう、少々いえかなりお粗末な出来ですが、仕方ないと思いましょう。
と、そう考えをまとめた時、唐突にトントンっと軽く、肩を叩かれる。振り向くとそこには───
「ねぇ、こんなところで何してるの?黒服さん」
ロイヤルブラッド、改め秤アツコの姿があった。
ちなみに、アツコといえばという、言葉を介さない手話での会話は一度試した結果、無意味だと感じ撤回させました。
元は儀式関連かと思いさせていましたが、後々調べていくにつれて、ベアトリーチェなりの離反対策だと思い至ったが故に合理性がないと判断し、切ったわけです。
アリウスのみで一揆や謀反を起こされるのは困りますが、先生と出会った末の裏切り、寝返りは想定内であり、むしろそうでなくては困るところ。
「……何故この場にいるのか聞いても?此処は立ち入り禁止区域ですよ、ロイヤルブラッド」
「アツコって呼んでよ。というか黒服さんは入ってるよね。一応名義上は生徒会長なのに……だから安全かなって思って」
アツコとしてはただの軽口として発した筈のその言葉。軽口を叩くような関係値を作った記憶はないが……ともあれその言葉が館内に響いた瞬間、ぞわりと悪寒が走る。
値踏みするような眼差しが纏わりつくと同時に自身の願いや悩みの根底を吐き出したくなるような衝動に駆られる―――自分自身のテクスチャが剥がれかけているのだと判断した黒服はその感情を徹底的な理性によって押さえつけた上で、声をワントーン落とし、秤アツコを見据える。
「……クックック。せっかくですし、危険が及ばぬ範囲で解剖させて頂くとしましょう」
「?」
何故、秤アツコという生徒がこの影響を受けていないのか。血筋の問題か、立場の問題か、叶えたいと思う願いが存在しないのか。私は目の前のアツコへと問いかける。
「ロイヤルブラッド、貴女は───」
「名前で呼んで?」
「……ロイヤ───」
「秤、アツコ……ね?」
圧を掛けながらも、器用にも、こちらをからかうような笑みを見せる秤アツコ。
「……秤アツコさん、貴女は───そうですね、叶えたい願いはありますか?」
「?……願い?……うーん、アリウスの皆が幸せでいてくれること?」
「なるほど……」
予想通り、そしてその言葉は本心からくるものであり、そこに一切の嘘はないだろう。
「あ、それと死ぬまでに一度でいいから満開のお花畑を見たいな……」
儚く微笑むアツコを前にして私は思考を巡らせる。
先ほど言った通り、その言葉はどちらも本心からのものだろう。
だがポルタパシスの発する神秘には一切反応がない……であれば原因は血筋か立場、あるいは───……願望器の必要もなく、その未来が既に約束されているから?
いえ、それだと百合園セイアの見る予知夢で示される未来との齟齬が生まれますね……希望論にも近しい推察です。
自身に都合のいい解釈だけをトリミングするのは三流のやる事です、些か反省しなければなりませんね。
一先ず、これは後日考えることとしましょうか。
「……ええ、きっと叶うと思いますよ。私もそう願っていますから」
「黒服さんって時々ロマンチストだよね……」
「?……どうかしましたか?」
「んー、フフッ♪何もないよ?」
「そうですか……それからこれは質問、というよりただの確認ですが……貴女は私にどのような感情を持っているのですか?」
「……」
私の問い掛けに目を丸くする。
少し悩んだ様子を見せ、やがて答えを出す。
「……うーん、お父さん?」
「このような不審人物のどこに、父性を見いだしたのかが分かりませんね」
「じゃあ……先生?」
「……そうですか、これ以上聞いても意味がなさそうですし、質問は以上です。それと、その言葉は将来の為に取っておいてください、きっとその言葉に相応しい大人が貴女方を救いに現れる筈ですから」
そう言葉を吐き、秤アツコの手を引いて出口へと向かっていく。
先ほどからこちらを観察している……ポルタパシスの監視者、あるいは天秤とも称せる者の纏う神秘が活性化してきている。
原作の描写を鑑みるにこの器はおそらく───
「わっ、手繋いできた……大胆……えっと、そう?黒服さん以上に相応しい人なんていない気がするけど……」
「どうしてそう思われたのですか?貴女には既に私の計画を説明しているはずですが……」
「んー……だって、私たちには想像も付かないようなことを知ってて、それでいて私たちに火の粉が飛ばないようにしてくれてるでしょ? その上で長期的に見て最良の結果になるように動いてくれてる。ゲヘナとの交渉で同席した私に矛先が向かないように矢面に立ってくれたのも、教材とかを用意してアリウスの子たちに勉強を教えてくれてるのもそうだよね?」
「……違います。ゲヘナの……羽沼マコトさんとの取引において私が率先して前に立ったのは貴女方に交渉を任せるにはリスクが大きいと感じたからです。暗に貴女方を信頼していないと告げたようなものですから───」
「フフッ。じゃあそういうことにしてあげる」
「……ええ、そういうことにしておいてください。それと、ですが、その考えを広めて回るのは辞めてくださいね?」
───何か、やたらと疲れた気がしますが、ポルタパシスにおけるやるべきこと───今後の根回しは完了しました。
それはオラトリオ編の事もそうですが、色彩との同調の準備に関しても……です。
色彩の呼び出し、それに王手をかけるにはやはり目の前の秤アツコの血と神秘が必要でしょう。ですが、何も得られなかったわけではない。記録保管場所ということは擬似的にアリウスという土地に累積した感情が流れ着く先───そこがポルタパシスであるはず。
つまり、キヴォトスにおいて神秘が最も濃い場所である、と言って過言はない。だからこそ平行世界……近く、それでいて、遠い場所に存在する色彩に対しても干渉の糸口がつかめるのではと考えました。
───結果は上々。想定以上の成果となりました。
私は懐にある一冊の書物に意識を向けつつ、秤アツコと共に、帰路に着きました。
先生は
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男性
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女性
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無回答