―――ポルタパシスの調査を通じて、色彩との接触に対しての第一ステップは終了しました。
直接色彩へと触れるのはエデン条約締結の期を待つとして、ポルタパシスから持ち帰った書物の研究も順調に進んでいます。
異端の証であり歴史の証明でもある【
ポルタパシスが秤アツコに干渉しなかった事実を改めて考えてみたところ、やはり血筋―――即ち、ロイヤルブラッドによる影響という線が一番ありうると思われます。
ロイヤルブラッド。ロイヤルをRoyaleだと解釈し、直訳して『王家の血』。
では王家とは?……簡単に言えば、アリウス生徒会、あるいはアリウス生徒会長のことだと思われます。原作での記述もありますが、なによりの証拠にポルタパシスに置かれていた
その著者は先代のアリウス生徒会長ですが、其処に遺された神秘と秤アツコの神秘の形質・形状が同一のものでした。そう、そっくりなのではなく同一。
本来であれば血を分けた存在であっても全く同じとはなりません。
そのことからもロイヤルブラッドの特異性が感じられますが……ともかく『秤アツコ』という生徒は、確かに『アリウス生徒会長の血脈』であるというのが分かります。
―――ではそれが、どのような意味合いを持つのか。
分かりづらいのでこう言い換えましょう。これまでのアリウスの
ロイヤルブラッドとは積み重ねられた
───儀式の生贄に秤アツコが選ばれた意味を考えてみるとしましょうか。
まずは秤という名字から思考を深めていきましょう。まずトリニティのモチーフとされる、キリスト教に準えると【秤】は二種類存在します。尚、この場で扱うものは重さを量るものではなく、
その一つ目が本来の人間が持つ小さい物差しとしての秤、そして二つ目が神が持ち、神から与えられるものであり、神の言葉をも正確に量り受け止めることのできる巨大な秤。
そう、秤アツコの持つ神秘とは後者に当たります。
此処で言う神とは、ただ到来するだけの不吉な光───即ち【色彩】のことだと思われます。
故に
つまるところ、秤アツコは間違いなく、小鳥遊ホシノに匹敵する、或いは越えうる可能性を秘めた―――キヴォトス最高の神秘であると思われます。
さて、こういった研究ばかりに没頭するわけにも行かないのが現実といったところでしょうか。
現在の私は自分で言うのもなんですが多忙の毎日です。
そんな中、私のもとに一本の電話が掛かってきました。着信元は不知火カヤ。
まぁ当然ではありますが、ゲマトリアメンバー不在の誤差を埋め合わせる都合上、キヴォトス全体を監視する必要があり、特に中心地であるD.U.地区は警戒も厳しく、その上で最も重要な拠点となります。サンクトゥムタワーへ、神秘計測装置を忍ばせるための一助となってくださったのが不知火カヤさんですね。
私が行ったのは半ば脅しのようなものですが……まさかあそこまで弱みを握るのが容易だとは思いもしませんでしたね……そんな些事に気を回しつつも、私は電話を取りました。
先生が来訪するのは確か昼間でしたので、多少ずれ込んだとしても夕方辺りには連絡できるはず。深夜である以上そこまで重要度の高い話ではないのでしょうが……
「いやはや、まさか貴女からお電話いただけるとは珍しいこともあるものですね?このような時間にどういったご要件でしょうか?」
『以前貴方が仰っていた〝先生〟と呼ばれる存在がお昼頃にいらっしゃったようなので、そのご報告をと思いまして───』
「……クックック。それはそれは……何故、すぐにご連絡下さらなかったのか理由を聞かせていただいても?」
『その……私も先生が来たと知ったのが今だから、です……』
「はい?すみません、もう少し大きな声でお願いできますか?」
『私も先生が来たと知ったのがたった今だからっていったんですよ!文句あります!?』
……。これは……いえ、まだわかりませんね。
「なるほど……念のため、事の経緯を伺っても?」
『……事の経緯といっても、連邦生徒会への情報共有用のメールアドレスに首席行政官から連絡が来たのが夜の11時です。その時は、その……丁度用事があり席を外していました。そして寝る前になってスマホを確認し───』
「事の次第に気付いた、と。その用事とはなんでしょうか?」
『……普通それ聞きますか? まったくもってデリカシーがありませんね』
「言いたくないのであれば別に構いませんよ。クク、ですがそうするとこちらも貴女を疑ってしまわざるを得ませんので私たちの関係も此処で終わり……ああいえ、内情を知るものをそのままにしておくのも不安ですからね。もう少し別のやり方を考え───」
『あー!もー!うるさいですねぇ!お風呂ですよお風呂!!これでいいですか!?』
「はぁ、そうですか。まぁ大方その辺りだとは思いましたが……」
『はぁっ!?このっ!───何ですかその反応は!!乙女の秘密を無理やり暴いておいて!!!』
「では私はこの辺りで失礼します、私も少し予定が詰まっていますので……」
『っ!!この───』ブツッ
電話を切り、すぐさまスマートフォンの電源を落とす。
さて、これは連邦生徒会の報連相がなっていないと考えるよりも、不知火カヤと此方、或いはカイザーとの繋がりを察されてしまっていると考えたほうが良さそうですね。
ともあれ、先生として着任した彼?彼女?はいずれにせよ、数日でアビドスへと向かうはず。
やるべきことはアビドス中の監視カメラの映像の監視ですね。もし先生がアビドスで行き倒れて、そのまま死んでしまうなどがあっては正真正銘の終わりですから。
あとは……監視カメラを管理しているカイザー社へのクラッキングの許可取り付けと、小鳥遊ホシノへ提案を持ちかけるための書類の準備も必要でしょう。
彼女でしたら余計なことには使わないでしょうし、そういった意味では信頼できます。
「……ふぅ、ある意味予想していた通りではありますが、圧倒的に人手が足りませんね。ですが、多少私が疲れたとしても、動けるのであれば問題はないでしょう。一先ず、先生が死ななければなんとでもなります」
───故に、当分の間はアビドス付近に滞在するべきでしょう。
そう呟きながら私は印刷された書類を手に取り部屋を出る。
これから向かうはアビドス自治区、やるべきはアビドス自治区中の監視カメラのクラッキングとその話をカイザーに持っていき、上手く見逃すことへの許可を取り付けることです。