「……クク、どうやら無事にアビドス高等学校に流れ着いたようですね」
「アビドス高等学校から見て、真逆の位置で倒れていた時は流石に焦りましたが……」
私はモニターを眺めつつ、数時間程前の出来事を思い返しました。
それはカイザー理事との取引が無事に終わり、アビドスに点在する最寄りの拠点の一つに向かっていた夜、それも午前3時辺りの深夜帯───私は砂の上で倒れている人影を発見しました。
数年前にも似たようなことがあったと思いながらも念のため近寄るとそれは今朝、シャーレで起きて、そのまま電車に乗り、アビドスにまで向かっていた事を確認している
予想外なのは彼女が倒れている位置───そこはアビドス高校の真逆、さらにいえば砂狼シロコのパターン化されている登校ルートと見比べても、外れている場所だったことでしょう。
「何故、ここに倒れて……いえ、考えている場合ではありませんね」
ペットボトルに入った水とカプセル錠を取り出し、彼女に手を伸ばす───
「させませんっ!」
パチンッ!
───そんな音とともに青いバリアのようなものによって手が弾かれる。
「……ククッ。なるほど、アロ───いえ、シッテムの箱の介入ですか」
「……!えぇっ、わ、私に気付いてる!?」
「ですが良いのですか?敢えて断言しますが、このままでは彼女は誰にも助けられず、死に至ります。アビドス生徒の基本的な行動パターンは把握していますが、この場所を登下校で通る生徒は誰もいません。唯一可能性があるのは毎晩アビドスのパトロールをしている小鳥遊ホシノでしょう。───ですが午前3時なのにも関わらず、一度も遭遇していないということは入れ違いになりましたね?明日のパトロールを待つ、としてもこんな日差しを遮るものも無い場所で倒れたままというのは、人間が持ち堪えれるものではありません」
「さぁ、ご決断を。このまま貴女の判断で彼女を死に至らせてしまうか、この場で私を通して彼女を生き永らえさせるか……」
「……」
「───極力、冷静な判断をお願いします。私も彼女を死なせたくないので」
「っ!?……せん、せい……?い、いえ───そんなはずは……」
───数十秒後、私が再度差し伸べた手がシッテムの箱に阻まれることはありませんでした。
私は咳き込まないように先生の体勢を変えて、抱え起こす。
〝!!んぐ、ごくっ───〟
カプセル錠を彼女の舌に置き、そのまま水で流し込みました。
直近の記憶を抹消する経口薬と睡眠誘発剤を混ぜたカプセル錠ですね。
〝……うぅ、だ……れ……?〟
瞼がほぼ開いていない状態で問いかける〝先生〟。
恐らく遭難中、殆ど寝ていないのでしょうね。そんな中で夜中に起こされても明確な意識を保つことは難しいでしょう。
「有害なものは入っていませんよ。少し眠っていただくだけですから───安心してお休みください」
〝……う、ん……〟
「せんせい……」
───彼女が眠りにつくと同時に無人ドローンが到着する。
これはカイザー製ではなく一から私が開発したため、あちら側に情報含め、利用される心配もない。
「水分は取ってもらったので、これから彼女をアビドス高校の付近にまで運び、放置します。数時間の間は野晒しとなるので、心苦しくは思いますが私に拾われるよりはマシだと思ってください。クックック、それから彼女が目覚めても私のことは伝えないように───お願いしますね?」
「……わ、分かりました」
私の真意が伝わっていると信じ、シッテムの箱と共に先生をドローンに運ばせました。
薬品を運ぶ用のドローンなため揺れは殆ど無いはずですし、睡眠薬の効果もありますから、運ぶ道中で先生が起きることはないでしょう。
一応監視カメラ越しでの状況の確認は続けますが……これ以上トラブルは起きない事を祈りましょうか───。
◆
───というのが、数時間前の話です。
先生を背負った
アビドス校舎内で交わされた会話を知る術は私にはありません。ので、私は一旦席を外すこととしましょうか。まぁある程度の頃合いで戻ってきますが……せっかくアビドスに長期滞在するのですから、ここでしか出来ない研究も進めておくべきでしょうから───クックック。