第八話
───さて、先生である彼女の手前、あのように言ったもののカタカタヘルメット団に対して私個人として手を出すつもりはありません。
彼女たちを囲っておくメリットも特には無いことですしね。
……ですが、私がああ言っておけば先生はまず間違いなく、カタカタヘルメット団の保護を行うはずです。あとはヘルメット団の保護に時間を割いて、【パヴァーヌ】1章の遂行、つまりはゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発が間に合うのかという問題についてですが……まぁそれもなんとかなるでしょう。
廃部の最終的な判断を行うのがミレニアムの上部組織であるセミナーな以上、事実上時間制限なんてものはないのですし、あの早瀬ユウカが天童アリス、ゲーム開発部の唯一の居場所を奪うとは到底思えません。
数日遅れたところで、差はないでしょうし、当人たちがきちんと活動している様、それを見れば先生もお願いという形で早瀬ユウカへと口添えするでしょう。
そうなった以上、早瀬ユウカが却下するとは思えません。
───よってミレニアムプライスまでに開発が間に合わなかったとしても代替案、という名の更なる執行猶予がつく筈ですのでさしたる問題はないかと思われます。
「───そして、こちらが本題となりますが……エデン条約編でのこちら側の動きについてです。本来の歴史では膨大な数の負傷者を出したクーデター……。私はそのエデン条約編について、かなりの時間───それこそ数年単位の月日を、最適解を考える為だけに費やしました」
「───結論から言えば、あの大規模クーデターはしっかりと起こします」
「今からその筋書きをお話しましょう、『百合園セイア』さん」
「……おや、君なら絶対にそんなことはしないと信じていたのだが……私の信頼をまさかこうも裏切ってしまうとはね、悲嘆に胸が締め付けられるような思いだよ」
「ククッ、ええ、なにせ御存知の通り、私は悪い大人ですからね……分かりきっていたことでしょう?クックック……」
私はエデン条約に際して、幾つかの根回しを行っていました。そのうちの一つが死亡偽装が終わった百合園セイアの誘拐、及び軟禁です。
もちろん、表向きには死亡していることとなっていますが……理由としては主に二つ。
私が他のゲマトリアの方々のような能力を持たないことに由来するものです。
私は、例えばマエストロの行っていた研究を彼と同じ速度で同じ完成度まで、漕ぎ着けることは出来ません。
つまり、トリニティの地下にある【教義】を原作よりも先に入手する必要がありますが、それがバレると極めて面倒なことになります。
それに加えて、ベアトリーチェのように百合園セイアの夢に物理的に干渉することも出来ません。百合園セイア関連の動きを誘導するのが困難な上、彼女から見てどのような未来が見えているのかが分からず大きな不確定要素となります。
えぇ、ですから、そう、百合園セイアとの接触は一石三鳥の策となるわけです。
「ふふ、悪い大人……あぁ、そうだったね。───それで、気になったのだが、そこの彼女は何故ここに?何やらものすごく見られているようだが……」
私は思い出したように振る舞い、隣に目を向ける。
「ああ、紹介がまだでしたね。彼女は小鳥遊───クックック、冗談ですよ。この場においては適切ではありませんね、言い方を変えましょう。彼女は『暁のホルス』……
「……新たにゲマトリアのメンバーとなった、ね。まるで私が自ら
小鳥遊ホシノ───改め、『暁のホルス』。
ちなみにですが、百合園セイアの方はこうしていますが、ゲマトリアメンバーではなくただ誘拐されただけの被害者という立ち位置です。エデン条約が落ち着く頃には一切の接点を断ち切る予定。
アリウスメンバーに至ってももちろん同じです。
では小鳥遊ホシノはというと、契約が遂行されるまではこちら側として動いて頂く予定ですので便宜上そう呼称しました。もちろん動機としては私の脅しを理由に使わせる予定ですが……さて、表向きはシナリオ通り、先生に救出されアビドスの学籍を取り戻している状態です。
普段の生活も九割九分アビドスの方で自由にさせているので、さほど生活環境に変化はない筈。
アビドス生徒や現在カイザー所有となっている土地含めアビドス自治区へは一切手を付けないという契約も追加で行ったことにより、精神面も落ち着いている様子ですしこれに関しても今後に大きく差し支える問題はないでしょう。
「───もしかしてだが……君は俗に言う、ロリ……いや、そういった嗜好を?」
何か良くない勘違いをされている気がしますが……気のせいだと願っておきましょう。
「ともかく、よろしくお願いするよ、暁のホルスさん……でよかったかな?私は百合園セイアだ。なに、実は私も彼の歯牙に掛けられてしまってね。私の場合は彼に誘拐拉致監禁の犯罪行為三連コンボを決められてしまったんだ」
「おやおや、酷い言い草ですね。それに、この場合は監禁ではなく軟禁というべきでしょう」
「へぇ、よろしくセイアちゃん。私の方はばっちり監禁されたけどね。赤い縄みたいなのでこう、後ろ手に縛られてさ」
「……そちらは否定しようのない事実ですが、あまりにも世間体が悪いので止めてください」
「……それは、なんというか……人としてどうかと思うよ。……まぁでも多分彼にも理由があった上でだろうし、しっかりと謝罪をしたのであれば贖罪の機会を与えてあげてもいいのではないかな?」
「それがさー、私なーんも謝られてないんだよねー。いやー、誠心誠意謝ってもらったら私が縛られたことに関してくらいは許してあげてもよかったんだけどさー」
「……さすがにそれは人としてどうかと思うよ(二回目)。……それにしても、束縛趣味に幼女趣味か。いやはや、まさか君がそんな趣味趣向の人間だったとはね……」
「ねー、こんな身体で興奮するとか人として終わってるよー」
「違います。……というか、初対面にしては意気投合しすぎていませんか?」
この会談を設けた張本人である私を放り置いて、ガールズトークのようなものに花を咲かせる少女二人。
これは、本題に入るまでに時間を要しそうですね。
間に入って止めるのも睨まれそうですし……まぁいいでしょう、こんなこともあろうかと時間は余分に取ってあります。
そうですね……二十分ほどもすれば話も一段落するでしょうし、私は暫く席を外しましょうか───
「……私は少し野暮用で席を外します、お話に満足できましたら、そこにある呼び出し用のブザーを鳴らしてくださいね」
そして───二十分、三十分、一時間、一時間半……そして、ついには二時間が経過しようとしていた。
……いつまで話しているのでしょうか?
合間で出来る研究も区切りがいいところまで進みましたし、いい加減、こちらから出向くべきでしょうね。
「クックック、失礼しますね?お話はそろそろ────」
そこにはソファで密着しながら寝息を立てる百合園セイアと小鳥遊ホシノの姿がありました。
「……一体、どういう……」
小鳥遊ホシノが、私が近くにいる状態でこのように無防備に寝るはずがない。
と、そこまで考えたところで、私はホシノとセイア、両者の耳についているイヤホンに気づきました。
傍のスマホを見るに流れているのはセイアさんに渡した睡眠導入用の音源……セイアさんが避けられない予知夢が嫌で眠りたくないという風に仰っていた為、信頼を稼ぐ目的で、片手間に行なっていた研究の一つです。
脳波の誘発によって睡眠深化、ストレス緩和などを引き起こす睡眠導入音源本来が持つ効果を音の調整によって強めただけのもの。睡眠の九割をノンレム睡眠にし、その上で時間によって音を整えることで、理論上は夢を見る可能性を0.1%以下にまで抑えることができます。
対応する専用イヤホンが必要ですが、それ自体が非常に強い睡眠誘発効果を持ちますし、恐らく寝不足だったことによって、片耳でもしっかりとした効果があったのでしょう。
ただ、夢の抑制という本来の効果は殆ど無くなることでしょうし、早めに起こすとしましょうか。
「クックック、お二人とも、起きてください……こんなところで寝られると困ります」
「ん……う……?……へ!?なん……!」
小鳥遊ホシノは起きて、すぐにこちらを見ると、傍のショットガンを取ろうとするが、密着していた百合園セイアに気が付き、すぐさま声と動きを抑える。
だが、それに反応してセイアが目を薄く、開く。
「ん……ここは……?…………あぁ、なるほど……そういえば、こんな感覚だったか……随分と久しぶりに感じるよ」
「セイアさん、おはようございます。もしかしなくとも、予知夢を観られていましたか?」
「……ああ、お察しの通りだね……私の考えが甘かったようだ。片耳イヤホンだと予知夢の抑制は得られないようだね。いや当然ではあるのかな?……まぁ友人と一緒に寝れたのだから、良かったと思うこととしよう」
「それに関しては申し訳ありません、こちらの説明不足でした」
「構わないよ、さっきも言った通り新たな友人との思い出の一頁となったのだからね。それに、此処までしてもらっておいて出るのが文句というのは双方ともに礼に欠く行いだろう?」
「うへ……?よ、予知夢?」
「ああ、説明がまだだったね。
ホシノ×セイアの不眠症コンビってめちゃめちゃイイと思うんすよね……異論は認める。