「あぁ……予知夢と言っても、そんなに大それたものじゃないんだ。私が予知夢で見た光景はどんな些細なものですら、これまで変えられた試しがない。未来で起きたことが分かる、だけど、それは未来で起きて
「うへー……?たしかに……?」
「あまりピンと来ないかな?では、これを単なる予知夢ではなく、夢を介して行う未来の観測だと考えてみたらどうだい?予知夢=逆説的な未来に起きる事柄の証明だという風に解釈して、たとえばそれが自分にとって大切な人が死んでしまうという未来だったら?」
「……え、えーっと?」
ふむ。いまいち内容を測りきれていないようですし、少し助け舟を出すとしましょうか。
「……ようするに、セイアさんはこう言いたいのですよ。自分が予知夢を見たことで大切な人やクラスメイト、そうでなくとも他の誰かが死ぬ未来が固定化されてしまったら、それは自分が殺したのと同じではないのかと……」
私は日頃の様子からして、恐らくそうであろうと思った言葉を口に出す。
「それは……」
ホシノさんは大切な人、自分が、という言葉に、思わず自分自身の先輩を重ね合わせてしまったのか、わずかに顔を曇らせる。
「ああ。概ねそんな所だよ。それで、そんなことを延々と考えていたら段々と"眠る"という行為がとても恐ろしいことであるかのように思えてきてね。気付けば不眠症一歩手前───と、そんな時に……どこかの悪い誘拐犯から一つの音源とイヤホンを貰ったんだ。それがさっきまで君と一緒に聴いていたものでね。それを両耳につけて聴きながら寝たら、驚くほどにすっと深い眠りにつけて、その上、一切の夢を見ることがない。当然、夢を見ないのだから、予知夢を見ることもないわけだ」
「クックック、あなたの持つ予知夢の力はこちらとしても興味深いのですよ……私個人の研究の糧となり、さらには目的を果たすための重要な要素ともなる。そのような存在を意味も無く使い潰すわけには行きませんから」
「ああ、わかっているよ───だが……それでも、私は君に救われたんだ。私が安心して眠りにつけたのは他の誰でもない、君のお陰だ。友人からの感謝ぐらいは素直に受けとってみてはどうだい?」
友人。
友人、ですか……これまた予想外なことを……
できるならただの誘拐犯と誘拐された子供の立場にいて欲しいものですが。
「……それはそうと、今回はどのような予知夢を見られたのでしょう?参考程度にお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「……ふふ、あぁ、勿論構わないよ。といってもこれは、もしかしたら予知夢じゃないのかもしれない。いや、そうであってほしいと言うべきか……」
やや後悔の交じるような表情でそう言葉を区切る百合園セイア。
「……?」
「私が見た夢は幾つかの描写が地続きで流れるものだったが……結論から言ってしまえば宇宙船のような場所で、君が───ゲマトリアの黒服という存在が死んでしまう夢だ」
「……ふむ、なるほど?」
……私が予想した内容とは大分違いましたね。
てっきり、夢の中で先生と出会ったものだと思いましたが……
「おや、あまり動揺していないようだが……もしやとは思うが、君のこれからの筋書きとやらに自分が死ぬ、なんてことは入っていないだろうね?」
おやおや……ククッ。
「さぁ、どうでしょう?そもそも私は予知夢=未来決定装置という解釈には未だ懐疑的ですので……」
「……そう、か」
セイアさんは硬直した後、少し目を細めると自身の中で反芻するように顔を俯かせ……
「……長々と話してしまって悪かったね。エデン条約についての話を始めようか……確か君の筋書きを語ってくれるんだったね」
そう───話を切り替えた。
「……ええ。あなた方を呼んだのはエデン条約についての筋書きをお話するためです。まず、暁のホルスさん。あなたの動きについてですが、エデン条約の際は、
「───……ふぅん?
少し含みのあるような返し方をされたのは気に掛かりますが……まぁいいでしょう。
梔子ユメを対価に取ったあの契約がある以上、こちらの目的を害すような、あるいは明確に不利益になるようなことは
これは断言できます。
なにせ、
「ククッ、その辺りも含めて、後でお話いたしますので、今は我慢して傾聴していただければ……と」
納得はしていないようですが、一先ず『聴き』の体勢に入るホシノ。
「さて、まずは前提の共有です。エデン条約はトリニティとゲヘナの間で交わされる平和条約、私の計画の都合上、この平和条約の締結の阻止が必要です……中心となるのはトリニティとゲヘナの両者。それから悪い大人に扇動された憐れなテロリストことアリウス分校の方々……そのアリウス分校の方々を率いるのが私、〝黒服〟であり、───そして、私の手から全ての生徒たちを救い、その果てに私と敵対することになるのが、連邦捜査部シャーレの顧問の先生である〝アサヒ先生〟です。……彼女の存在は、此度のエデン条約において、非常に重要な鍵となります」
「……彼女の存在が重要、か。それは彼女が唯一無二の超法規的権限を持つ個人であることだけが理由ではないのだろう?」
「ええ。ここは、はっきりと言いましょう。私は彼女のことを───現状最も【神秘の根源】……あるいは【崇高】に近しい存在だと見ています」