ミネが帰ってきてからもいろいろな事がありましたわ。
その中でも我がトリニティにおいて一番大きな出来事と言えば、やはりアリウスの問題が一段落した事でしょう。
あれからしばらくしてまた先生が無茶をなさったらしく、なんと単身アリウス自治区へと向かったとか。
そこであの騒動を起こした部隊、アリウススクワッドと協力しアリウスを支配していた悪者を退治、同じく何故か暴走して脱獄しアリウスに突撃していったミカさんを救うためにあのナギサさんがミネ達に頭を下げて救い出した、そんな事があったそうです。
見たかったですわね……あのプライドの高いナギサさんがミネや正義実現委員会の方々に頭を下げてるその姿……。
と、まあ想像するだけで面白そうな光景はさておき、一方であのナギサさんが友情のためにそこまでするという事実には少し感動しました。
ミネから語られるその話を聞くだけでも、損得抜きでやった事なのは分かりますしね。
あとミネと言えば、ついにミネと先生が顔を合わせたそうです。
そして彼女は先生に救護の才能と精神を見出し、あれよあれよとモモトークを交換してシャーレの当番にも今度行ってみるつもりだとか。
さすがミネ、行動がほんと早いですわ~。
まあいいんじゃないですかね、ミネも趣味はあれど結局普段の活動も救護に偏ってしまっていて花の女子高生を満喫できているかと言うとちょっと怪しいところもありますし。
外から来た先生との交流が少しでも彼女のガス抜きになってなんなら肩の力を抜いてくれるきっかけになってくれれば良い。
このときのワタクシは、そんな程度に思っておりました。
*****
「は!? キヴォトス樹海に行きましたの!? しかもそこで一晩過ごした!? 先生と二人っきりで!?」
ミネがシャーレの当番になってから少ししたある日、昔馴染みの六人で久々にお茶会をしていましたところ、突如そんな爆弾がワタクシ達のところに投下されたのです。
「えぇ!? それって大丈夫だったの!? あそこってGPS効かなくなるとか磁石狂うとか、そういうヤバい場所だったよね……? なんならそういう話についてまとめた書籍も図書館にあるんだけど……」
「あーそれ聞いたよ……確かチンピラがミネにイタ電したんだっけ? ミネが『救護』した後に引き渡しで受けたハスミが凄い苦い表情で文句言ってたっけな……今度会ったら直接文句言ってくると思うんで覚悟しといてねミネ」
「正実が事後処理したならそのうちティーパーティーにもその話上がってくるかしらぁ……まあセイア様なら笑って流すでしょうけれど、ナギサ様が卒倒しそうですわねぇ。まぁそれ自体はフィリウス分派の方々が一番苦労するでしょうしいい気味……いやなんでもないですわ。ともかく、ティーパーティーの方からも苦情行くと思うのでそっちの覚悟もよろしくですわぁ」
「ところで樹海ってやっぱりこう……怪しい遺留品とか壊しちゃいけなさそうな祠とか魔女が儀式のために作った魔法陣とかそういうのあった? あ、いや、違うよ? 別にシスターフッドの記録係って立場を利用して個人的な好奇心を満たそうとしている訳では……ほんとだよ? ほんとだからね?」
「あらぁ、さらっとミカ様の悪口とはさすがシスターフッドですわねぇ恐れ入りますわ」
「え? ……あっ、いや今の魔女って別にそういう意味じゃないからね!? あなたは本当に昔からそういうライン越えの嫌味を不躾に! そんなんだから私に撃たれるのよ!」
「やはり……為政者は悪!」
「揃って変なスイッチ入れないでくんない!? 特にあんたはウイ委員長から悪い影響受けすぎだって! あーもう一回ツルギがしめてくれないかなぁあの人の事……」
他の四人もワタクシと同じぐらいに驚きアレコレと勝手に言っていきます。
姦しいとはまさにこの事ですわね。
「私の判断ミスで、本当にご迷惑おかけしました……関係各所からの苦情は甘んじて……あと結局噂は噂で、そんなオカルトな現象は起きませんでしたよ。ただスマホのバッテリーが尽きかけていたのでそれは危なかったのですが」
「さらっと恐ろしくなる事言わないでくださいな!? 想像しただけで背筋に嫌な汗が流れましたわよ!?」
急に話のグレードが上がって思わず口にしていたティーカップを下品な音を立ててソーサーに置いちゃいましたわ!
事後報告なのにあまりにも心臓に悪いです!
驚き呆れたのは当然ワタクシだけでなく、他の方々も各々顔を青くしたり苦く歪めたりしておりました。
「うちのセイア様がそんな事言いだしてたら私さすがにブチギレてあの人の皮を引っ剥がして売りに出してたと思いますわぁ……」
「こっちだと……うーんマシロあたりがやりかねないかも。あの子もだいたい『正義』が絡むと目が眩むし誤解を悪化させる事あるからなぁ。まず言葉が足りないよあの子は。今度やらかしたらしっかり説教しないと。ハスミは後輩にダダ甘だし」
「理由はそういう殊勝なもんじゃないむしろ面倒事起こす側だけど似たようなやらかしはチエルがやるかなー図書委員会だと。てかあれもしばらく見てないな、どこで何やってんだろ。くっ、見なさ過ぎて姿すら思いだせない……!」
「あ、シスターフッドは問題ないですーそういう無鉄砲はする人いないのでー。……あ、いるにはいるか。ヒナタとかそういう状況に持ってかれたらコロっとやりかねないなあの子……いい子過ぎるから……そういやヒナタと言えば最近そっちのウイ委員長と仲良くしてるよね、大丈夫? 迷惑かけてない?」
「ああうん、むしろウイ委員長の引きこもり癖に更生の気配見えてるんでむしろありがとうっていうか……まあシスフへの愚痴はむしろパワーアップしたけど。『ヒナタさんはハメられてるんです!』って」
「なるほど……うん、サクラコ様が悪いって事で。いやいい人なんだよ? いい人なんだけどね……」
「気持わかるよー、うちはツルギがスイッチ入ったらもう手がつけられないし。そこんとこの迷惑はティーパーティーと救護騎士団にごめんなさいって感じ」
「あらぁ別にいいわよぉ、だってそれで今苦労するのはホスト代行のナギサ様なんですものぉ。セイア様はうまい具合にそういった事後処理回避してますからねぇ。こういうところはあのわんぱくフォックスにも感謝ですわぁ」
こうして整理するとどこの組織にもトラブルメーカーっていますのねぇ。
問題はうちのミネ含めてそれが立場ある子ばっかりって事なんですけども……。
それはともかく、ワタクシは先程の言葉を受け、ニッコリと笑いながら続けました。
「ワタクシ達は普通に苦労してるので愚痴を言ってやりたいところですが……今回そういう面倒を起こしたのは我らが団長ですからねー、困りますわよねー、ねぇミネー?」
「……返す言葉もないです。ただそこであなたも人の事は……いえ、なんでもないです」
珍しく彼女の姿が小さく見えますわね。でも加減はしませんわ。
まったく本当にミネと来たら、救護が絡むとひたすらそれだけなんですから……。
しかも今回は先生にご迷惑までかけて、さすがにこれはワタクシも擁護する気にはなれませんからね。
「はぁ、ミネ……後で先生に改めて謝罪しに行きましょうか。あの人の事ですし『全然問題ないよ』とか『ミネのやりたかった事だろうし仕方ないよ』とかで笑って済ませてくれたとは思いますが」
あの方とはまた幾度か顔を合わせるタイミングがありましたからより人となりについての解像度は上がったと思いますわ。
とは言え劇的に印象が変わった訳ではないですけれどね。人たらしで生徒の事一番で、あと時折気持ち悪い変態になる人です。なんなんですかね本当に……。
それはそれとして、ワタクシはミネへの言葉を止めません。
「でも、結果的に問題なかったとは言えどう考えても二人揃って二次遭難一歩手前でしたからねそれ? いや本当は要救護者がいなかったので普通に一時遭難ですわね。救護騎士団の団長が救護される側になるなんてお間抜けな話にならなくてよかったですわ~」
「う……それはそうですが、しかし緊急の出動だったためつい……」
「ならばなおのことワタクシ達団員に連絡をくださいまし! そしたらせめて予備バッテリーの一つや二つ持ってきましたしなんなら遭難者捜索の臨時本部とか作りましたからね!? まったくもうあなたは普段からそうやって心配ばかりかけて……!」
この後、ワタクシは柄にもなくミネに長く説教をしてしまいました。
ミネもさすがに今回ばかりは甘んじてワタクシの言葉を聞いてくれていましたわ。
ただ他の四人には身内の恥を見せて申し訳ない気持ちになりましたが「珍しいもの見れたので全然オッケーです!」「たまにはこれぐらい言われていいですよホント……」みたいな温かいお言葉を頂けたので良かったですわ。
そしてその後、先生にアポイントメントを取って後日シャーレに謝罪をしに行く約束を取り付けました。
その流れでワタクシも先生とモモトークを交換する事になりましたが、まあいいでしょう、腐るモノでもないでしょうし。
……ただ、ワタクシはこれらの事が終わった後、ふと思ったのです。
なんだかミネに説教したあの時の自分は、ちょっとだけおかしかったな、と。
いくら怒っていてもこれまではあんなミネに説教する事はなかったです。むしろさらっと流していたぐらいまでだったのですが……。実際、エデン条約のときも泣きながら一言文句を言って、胸の中で泣いてとそれで済ませてしまいましたもの。
思い返すと我ながらチョロいですけれど……なぜだか、今回はそうとはいきませんでした。
ただ、彼女に怒りをぶつけたくなってしまっていたのです。
なんだったのでしょうか、あれは。我ながら不思議ですわね。
ただ「そういう日もあるでしょう」ぐらいの気持ちでワタクシはその違和感を忘れ、そうして時は流れて二人でシャーレへと訪問する日へとなったのです。
*****
「おはようございますわ~先生! 約束通り謝罪に伺いましたわよ~! ワタクシ達の誠心誠意の謝罪をありがたくお受けくださいませ~! オーッホッホッホッホ!」
シャーレへと正式に謝罪に訪れたその日、ワタクシはミネの横で先生に向かいそう言い放ちました。
「……あ、うん……別にいいのに……」
「慣れてください先生……言葉選びに難があるだけで根はいい子なのです」
二人ともお話をされていましたがそのままにしていくといつまで経っても今回の目的を果たせそうにないのでワタクシはすっと先生に椅子に座ってもらい、ミネと一緒に横並びになります。
「さて、では……。先生、この度はワタクシ達救護騎士団の活動の中で先生の身を危険に晒してしまい、大変ご迷惑をおかけしましたわ。改めて救護騎士団の副団長、風我フミと団長蒼森ミネから正式に謝罪させていただきます。この度は大変申し訳ございませんでした」
「……申し訳ありませんでした、先生」
深く頭を下げるワタクシとミネ。
顔を上げると、それはもう慌てた先生の姿がそこにありました。
「いっ、いや! だからいいって! 結局樹海で迷子になった子はいなっかったんだし、ミネのまっすぐな気持ちの現れでもあるしさ! それに心配して勝手についていったのは私なんだし、それでそっちが謝るのはむしろおかしいよ」
「……え? そうなんですの?」
ちょっとそれは初耳でしたわ。
先日のミネの話し方だと「電話を受けて先生と二人で樹海に行った」という言い方でしたのに。
「ミネ~……?」
ワタクシはミネに流石に取り繕えていないなと思う笑顔を向けて聞きましたわ。
あらまあするとどうでしょう、あのミネがとても気まずそうな顔で視線をズラしてたではありませんか。
逃げるんじゃありません、という気持ちを込めてほっぺたを両手でつねってこちらを向かせました。
「はうっ!? ……す、すいません、後から考えたときに自分の責任を感じ、つい主観的な報告をしてしまいました……」
「……もぉーーーっ! ちゃんと報告してくださいましそういう事はー! そうしたらもうちょっと丸い形で謝罪できましたのに~!」
「あ、それでも謝罪はするんだ」
「そうですわよ先生! トリニティではこういうことをしましたとしっかり見せていかないと足を掬われかねないのですわ! いくら我ら救護騎士団が政治から遠ざかっているとはいえここ最近の騒動ではそうもいかなくなってきているところもありますし……というか! 先生も先生でもっと冷静に対処してくださいまし! 二人して無鉄砲だと周りの心労も倍なんですのよ!?」
「それは本当にごめん……」
二人ともがっくりと項垂れて反省している様子を見せていました。
この状況、なんだたワタクシが悪者みたいになっていますわね……。
「んもう! まったく、もういいですわ。なんというか、ミネが先生から救護の精神を感じて顧問を以来するのもより理解できましたし」
誰かを助けたいという信念に殉じ突き進むその姿勢、危うくもありますがやはり美しいものだと思います。
だからこそワタクシも今こうして救護騎士団の副団長とまでなった訳ですしね。
「さて、謝罪も済みましたし、これ以上お邪魔しても申し訳ありませんから帰りましょうかミネ」
特に長居をする理由もありませんし、その分少し救護巡回に回した方がミネも喜びそうですからね。
そんな気持ちで何気なく行ったのですが――
「――えっ? あ、そうですね……帰りましょうか」
虚を突かれたわずかな時間でしたが、残念そうな顔を彼女が浮かべたではありませんか。
今のはなんだか、ワタクシの知ってるミネらしくなかったような……?
「うーん、せっかくだしもうちょっとゆっくりしていかない? 二人とも普段は忙しいんだし、こういうときにちょっとはサボってもいいんじゃないかな」
「サボってって……それ、先生が言っていい事なんですの?」
「ハハハ……まぁ大きな声じゃあ言えないけれどね。生活の緩急ってのは大事だから」
「……分かりました、ではお言葉に甘えさせてもらいましょうか、フミ」
「へ? あ、はい……ミネがそういうのなら」
普段のミネなら普通に断って帰っていた気もしますが……。
それになんだか少しうれしそうですわね。まあそれは全然悪いことではないというかむしろ良いことだとは思いますけれども。
「じゃあそこに座ってて。こういうときのために取っておいたお菓子があるはずだからね」
先生がそこで席を立ち上がって離れていきました。
ソファーに座って待つワタクシ達ですが、隣のミネはちょっとソワソワしているようにも思えます。
さっきからどうしたのでしょう、彼女は。
「ミネ、大丈夫ですの? 先程から少し落ち着きがないように思えますが……」
「えっ!? ……そ、そんな風に見えましたか、私……」
「自覚なしだったんですのね……うーん、ミネが体調管理を怠るとは思えませんし……」
風邪とかそういうのじゃありませんわよねぇ、なんて思い内科医として頭を捻り始めた、そんなときでした。
「はい、ちょっとしたチョコレートだけどいいかな? 二人はトリニティ育ちだから安物になっちゃって悪いけど」
「あ、はい! 全然構いません……! ありがとうございます、先生」
トレーに乗せた菓子受けとジュースを手に戻ってきた先生に、ミネはとても明るい表情を見せました。
彼女の先生を見る視線。そして先程の、自覚がない感じ。
――……ああ、そうか、彼女は、もしかして。
「あらあら先生、そうと分かりながら安い菓子をワタクシ達に出すとは、随分と挑戦的な事をしますわねぇ。まあワタクシ達ならいいですけれど、トリニティの子達の中にはそこを隙として狙ってくる子だっているでしょうからせいぜいお気をつける事ですわねー! オーッホッホッホ!」
「うーんそうだね、気をつけるよ。ありがとうフミ」
「む、素直にお礼を言われるとちょっと調子狂いますわねぇ……。ああそうだすいません、少しばかりお花摘みに行きたいのですがどこか教えてもらえますでしょうか? あいにくシャーレは初めてですし、場所が分からなくて……」
「ああ、あっちの廊下を曲がればすぐだよ」
「ありがとうございますわ。ではミネ、ゆっくりと二人でお楽しみくださいませ。ワタクシ、もしかしたら時間がかかるかもしれませんので」
「あ、えっと大丈夫なのですかフミ? そちらこそ体調に何か問題が……」
「もう……大丈夫ですわよ、それに今の、いろいろと野暮ですわよぉ?」
ワタクシはちょっといたずらな笑みを浮かべて言われた通りお手洗いへの道に向かっていきました。
そして個室に入ると、扉に頭を叩きつけながらぎゅっと曲げた人差し指のてっぺんを手袋越しに噛んでしまいました。
「そう、ですの……ミネ……あの人の、事が……」
*****
それからシャーレには一時間ちょっと滞在させていただきました。
三人であれこれとお話をして、先生があの時渡したお薬を案の定蔑ろにして苦労していたのが分かってワタクシが怒ったり、そんな流れの中でワタクシもシャーレの当番として時折訪れる約束なんかもいたしましたわ。
そして二人でトリニティへと戻る帰り道、ワタクシはミネに突然切り出す事にしました。
「……それで~? いつ先生に惚れたんですの~?」
「えっ……? えっ!? わ、私が……先生の、事を、ですか……!?」
顔を真っ赤にして狼狽するミネ。
やっぱり自覚していなかったみたいですわねぇ、この反応だと。
救護一筋に生きてきた彼女らしいですわ。
「何を言ってるんですかフミ! 私は確かに先生の事を救護の精神と才能に溢れるお方でできれば顧問にもなって欲しいなんて思っていますが、恋心など……!」
「もう、そーんな顔を真っ赤にして言っても説得力ないですわよぉ? それに先程一緒に話していましたけれど、樹海で二人夜を過ごしたときに誓ったらしいですわね、何があっても先生を守る、って」
「そ、それはそういった意味ではなく一人の先生の生徒として、そして救護騎士団の団長としてですね……!」
まったく、あれこれと言い訳が多いですわねぇ。
あのミネも恋となると一人の乙女という事なんですのね。
「あとお家にも上げたのでしょう? それであの薬瓶や包帯のコレクションも見せたって……ミネ、あまり理解されないからってあの話はあんまり人にしなくなったじゃなりませんか」
ミネは根っこでは世間一般で言うオタクという研究者職の方々と同じ気質なところがありますから、救護関係の医療品の細かいところにこだわりコレクションをしておられます。
ただそういった部分に理解を示してくれる方は残念な事に少なく、いつの間にかミネも人とそうした話をしなくなっていました。
「だというのに先生をお家に上げて披露するなど……もうそういう事じゃありませんの」
「そ……そうなの、でしょうか……?」
「ええ。ほらミネ、先生の事を思い浮かべてみなさいな。そしたら、どんな気持ちになりますの?」
ワタクシの言葉に、ミネは頬を染めながら少し俯いて、ぎゅっと胸元で手を握りました。
「その……とても心が暖かくなると言いますか、胸が締め付けられてる感じがするのに何故か全然苦しくない、むしろ心地良いと言いますか……すみません、うまく形容ができません。救護騎士団の団長とあろうものが、症状を上手く伝えられないなど……」
「もー、そういう事じゃありませんのよ」
ワタクシは、苦笑いして彼女に言います。
そして、すっと彼女の間に出て、手を後ろに組みながらちょっと覗き込むような体勢で言いました。
「彼の事を考えると胸がいっぱいになる……それが何よりの証拠ですのよ? 恋とは、そういうものなのですわ。理屈ではなく、気持ちの問題……つまり、ミネは先生の事が好きなんですのよ」
「私が……先生を……好き……。……っ!?」
とうとう自分の恋心を自覚したミネの顔が真っ赤になりましたわ。
マンガだったらボッっという擬音を共に頭から煙が出て爆発しているところでしたわね。
ふふ、可愛いですわね、恋するミネも。
――本当はワタクシにこの顔を向けてほしかった。でも諦めたんだから、諦めないと。
「よし、じゃあ今度いつもの六人で作戦会議を開きましょうか! 題して『第一回、蒼森ミネの恋を成就させる会議』でいきましょう! ふふふ、楽しみですわね~!」
「な!? 勝手に進めないでください! そもそも第一回って、これから何回もするつもりなんですか!?」
「当然ですわよ~! だってミネ、そういうの絶対奥手だし今だってワタクシが指摘しないど気づけなかった鈍感さんなんですから~。誰かが背中を押してあげないと進展するものもしませんわよ~」
「う、ですが……」
「……ミネ」
ワタクシは未だ顔を赤くして目を泳がせる彼女の両手を優しく包み込み、そして目を見て微笑みかけました。
「ワタクシは、あなたに幸せになって欲しいのです。もしかしたら失敗するかもしれません。失恋して、悲しい記憶になってしまうかもしれません。でも……あなたにはぜひ挑み努力して欲しいのです。あなたはきっと、動いた後悔よりも動かなかった後悔の方で苦しむでしょうから。だから……あなたの気持ちを、ワタクシに応援させてくださいな」
ワタクシは、それでいいのです。
自分の気持ちは叶わなくとも、彼女の気持ちは十分に叶う見込みがあります。
大人と子供、先生と生徒という大きな壁はありますが、ミネならきっとそんな壁を壊して進めるはずですわ、ワタクシと違って。
そうして二人が結ばれて幸せになる。それ以上の事があるでしょうか。ワタクシがかつて恋したミネが自らの恋を叶えて幸せになってくれれば、それでいいのですわ。
ワタクシはそんな民rの近くにいれれば、それ以上は望みません。
幸せに笑う彼女の横にいられるのであれば、それで。
「フミ……ありがとうございます……私は……嬉しいです!」
「……ええ、ワタクシも、あなたが笑ってくれるのなら、これほど嬉しい事はありませんわ」
感涙するミネにワタクシはあくまで落ち着いたまま笑いかけました。
そう、ワタクシはミネの
いいんです、これで。
だから、この胸に去来する苦しみは、きっと気の所為に違いありませんわ。
ミネが幸せなこと以上に、何も必要なんて、ないんですから。