「はーい! というわけで皆様方~! これより『第一回、蒼森ミネの恋を成就させる会議』を始めますわよ~! 拍手~!」
「「「「わーっ!」」」」
うーん、四人ともいい笑顔で拍手してくださってますわねー。
一方でミネは一人顔を赤くしながらちょっと縮こまっておりますわねー、なかなかレアな姿ですわ~。
今、ワタクシ達はワタクシのお
丸テーブルに座りお互い向かい合う形の会議もとい恋バナはとても和気藹々とした雰囲気に包まれておりますわ。
「まさか本当にやるとは……」
「あらミネ、ワタクシがまさか嘘を言っていたとおっしゃいますの? そんな~ひどいですわ~傷つきましたわ~、ワタクシこんなにもミネの事を応援しているというのに~」
「まあ諦めなよミネ、こんな一大イベント共有しないほうが罪だよ。正義に悖るよ」
「ティーパーティーの定例会議に議題として上げたいレベルですわねぇ」
「図書館に今のトリニティの歴史を編纂している書に事件として記載したいと思ってる」
「もし隠していたらフミ様とミネの二人と言えど爪を剥がしているところでした」
「皆さんそこまでですか!? そこまでなんですか私の恋の話って!?」
もうずっと真っ赤になって慌てているミネは可愛いですわね。
でもさすがに今回ばかりはしょうがないですわよ。
ミネとずっと一緒にいる人間程この話はビックリするに決まってますもの。
「いやだってぇ正直『救護』と結婚しているものかとぉ……」
とか思っていたら銀髪の彼女がきっとワタクシ達だけでなくいろんな方が思っている事を代弁してくれましたわね。
「な、なんですか『救護』と結婚とは!? 確かに救護活動にこの身を捧げる覚悟でずっとやって来ましたしそれは今でも変わっておりませんが……!」
「まあそれぐらいに皆さん意外で、そして喜んでくれているという事ですわよ。あの救護一筋だったミネにやっと春が来たんですもの。そんなの応援したくなりますわよ~!」
ワタクシは両手をわざとらしく胸の前で組み合わせて言いました。
そう、彼女が先生と結ばれてくれるのなら、それ以上の事なんてワタクシにはないんです。だってワタクシは彼女の親友なんですから。
「そうねぇ、あの思いの外繊細なところがあったミネがついにですものねぇ。頑張って欲しいのは間違いないですわぁ。……でも浮かれてばかりもいられませんわよぉ? ライバル、凄い多いですからねぇ」
「そ……そうなんですか?」
銀髪の子のその言葉に、ミネがゴクリと唾を飲みます。
ソレに対し、彼女が続けました。
「えぇ。例えば我がティーパーティーのミカ様なんてそれはそれはお熱ですわよぉ? 今いろいろとご苦労なされていますけれどそれを先生に助けてもらって、いつの間にか王子様とお姫様、なんて感じになってるとかなってないとか」
「あー狙ってるって話だとツルギも凄いんだよねぇ……普段から暴走癖はあったけど、先生の前だとアガリまくっちゃってもうヤバいの。デレッデレ過ぎるの。まーツルギの事をよく知らないと普段の暴走との違いは分からないだろうけどね。知ってるともう露骨過ぎなぐらい」
「……シスターの中だと一年のマリーがそういう可能性あるかな。ハッキリと惚れてるって感じじゃないんだけど『あぁ、好きなんだろうなぁ』って感じがあるなって。多分この前までのミネと同じで自覚があるかは怪しいけれどね」
「図書委員会はまあそんなはっきりとした子はいないかな? ただ同じトリニティって話だとわりとまだまだいるし、なんなら他の学校にもたくさんそういう子いるって聞くね。ま、つまりはライバルは星の数程いるって事だね」
「そう……なんですか。では、私は……」
珍しくミネが弱気な姿をしていますわね。
普段の迷惑なぐらいの猪突猛進っぷりはどこへ行ったのやら、まったく仕方ないですわね。
「あら、もしかして救護騎士団の団長が逃げるおつもりで?」
「ここで救護騎士団での活動は関係ないと思いますが」
不機嫌ながらもまだ茶化していると思ってかツンとした様子でミネは言いました。
「いいえ、関係ありますわね。ここで引いてしまうのならば、あなたは信を失いかねませんわよ、
ですが、冷たい口調と侮蔑を交えた視線のワタクシの言葉に、一気に空気が変わった事を
「……それは、どういう意味でしょうか?
さすがミネ、素早く切り替えてきましたわね。
ええ、ではこんな場所こんな話題ですが、久々に彼女との舌戦といきましょうか。
「ふむ、この程度の意味も分からぬとは随分となまくらになったのではなくて? セイアさんとお隠れになっていた間にその剣を研ぎ忘れておりましたか?」
「いえ、刃も見せておらぬ相手にいきなり斬り掛かって来いと言われて困ってるだけです。リドルを出すならまずヒントの提示をしてください」
「はぁ、しょうがないですわね……いいですか、事は個人の感情の問題ですが、あいにく世間の耳目はそれでは留まりませんの。相手はあのシャーレの先生、彼へのアプローチはそれだけで騒ぎ立てる者がいて、そして悪用するものだっているでしょう。そこで救護騎士団の団長が他の生徒に配慮し自ら引いた、なんて噂が広まればどうなるとお思いで?」
「……はぁ。少なくとも我がトリニティでは邪推と陰謀に利用する者は現れるでしょうね」
そこで気づき苦い顔をした彼女に、ワタクシはティーカップを口にしながらわざとらしく笑いかけます。
「ええ、ご名答ですわ。それこそ最初の話にも繋がりますが、あの悪名高き救護騎士団団長がシャーレの先生に恋をしている、なんてのはすぐに広まってしまう噂話ですのよ? 今はワタクシ達の中だけで共有していますが、いずれ他の方にもバレるでしょう。それほどまでに分かりやすかったのですから」
「……だからこそ、引かずに進んだ方が良い、という訳ですか」
「はい、続けてご名答ですわね。下手に他者に遠慮したり臆したりする必要などありません。ワタクシ達にとっては、あなたの強い背中こそが信頼の証なのですから」
ここまでワタクシが言うと、ミネはしばらく目を閉じ、そして先程よりもずっと鋭く凛々しい視線を見せてくれました。
「……分かりました。この蒼森ミネ、恋愛沙汰でも己が意志を鋼のように鍛え上げ、貫き通すと誓いましょう」
「……それでこそ、ワタクシ達の団長ですわ」
彼女の言葉に呼応するようにワタクシはティーカップをソーサーに置きます。これがこの真面目な空気の話の終わりの合図でした。
直後、他の方々が「だぁ~~……!」とまるで今まで窒息してたかのように大きく息を吐きだしていました。
「ちょっとフミ様~! こんなとこで突然政治モードは止めてくださいよ! 心臓と肺に悪すぎます! 私ホントそれ苦手なんですって!」
黒髪の子がいつだかのようにまた半泣きで言っていました。
今回は別にあなたを問い詰めてはいないはずなのですが……と言おうとしたら、今度は緑髪の子が言ってきました。
「怖いものは参加してなくても怖いんですからね!? 私やっぱり普段のフミ様が好きですから勘弁してください……!」
「というか、こんなプライベート一〇〇%な集まりでやるもんじゃないでしょうよぉ……時と場合をわきまえてくださいなぁ、せっかくのお休みなのに急にお仕事の雰囲気持ってこられるとしんどいんですのよぉ!」
「フミ様にそういう事をするのは大変心苦しいですが次やったら“コレ”ですからね!」
緑髪の子に銀髪の子が続き、そして茶髪の子がなんだか拳を机の上に叩きつけるジェスチャーをしました。そしてその振り下ろされる拳の横には伸ばされた指先が。
え? 爪を剥ぐって言っておられます彼女? そういやさっきもワタクシの爪を剥ぐって……い、いやさすがにジョークですわよね……いくらサクラコさんの下にいてシスターフッドの要職に付いてるからってそんな時代錯誤な事は……。
「大丈夫ですよフミ、綺麗に剥がせさえすればしっかり治療できますから案外尾を引きませんよ」
「えっ!? なんですか既に経験済みみたいなその言い方は!? はっ、そういえば最近ミネとサクラコさんは仲がよろしくなっておられて……なるほど、どうやらミレニアムのセミナーと連邦生徒会によるキヴォトス洗脳支配計画はついにトリニティにまでその魔の手を……!」
「ちょっとした冗談を急に変な話に飛躍させないでくださいませんか!? どこで聞いたんですかそんな話!」
「この前見た『モー超常現象研究所』ってチャンネルの動画で所長さんが言ってましたわ! これが隠された世界の真実だと!」
「そのチャンネルの動画を見るのは今後禁止です! まったくすぐ影響されるんですから!」
「え? 何? 検閲? 表現規制? 弾圧? つまりは図書委員会への宣戦布告って事?」
「だから急にスイッチ入るんじゃないよあんたはぁ!!」
もうすっかり空気感は元通りになりましたわね。
しかし、シスターフッドに行った彼女も図書委員会に行った彼女も正義実現委員会に行った彼女も、みんなたくましくなりましたわねぇ。
以前五人で組織人として互いの動向を探り合った時も思いましたが、もうワタクシの後ろについて来ていただけの彼女らはいないんですのね。
みんなが自分で自分の場所と幸せを見つけている、それはとても素晴らしい事ですわね。
きっとできていないのは、ミネに未だ依存しているワタクシだけでしょう。
「……そういえばミネはいつサクラコ様と仲良くなったの? 少し前まではもう少し距離があったかのように思えたんだけど……」
と、そんなことを考えているとシスターフッドに所属している茶髪の彼女がミネに聞いていました。
ちょっと自分の世界に入っていたようですわね、反省ですわ。
「あぁ、そういえば言っていませんでしたね。近日開催される
「「「「「……そういう事はもっと先に言えーーーーーっ!!!!」」」」」
というわけで、矢継ぎ早に大型爆弾がミネから投下されて「第一回、蒼森ミネの恋を成就させる会議」はムチャクチャに終わってしまったのでしたわ。
*****
「ふぅ……まったく、ミネったら本当に飽きさせてくれませんわね……」
皆さんが帰った夕方、ワタクシは一人部屋のベランダに置いている花の鉢植えに水をあげていました。
個人で育てているささやかなポピーの花です。たまにはこうして一人小さな一輪の花を見て落ち着きたい、そんなときもあるのですわ。
「……ミネ」
銀のジョウロを持つ手とは反対の左手の指を曲げ、その頭を噛みます。
思い悩むときはついこうしてしまう癖があるのを、最近になって自覚をしました。
自覚のきっかけはその頻度が増えた事によるものなのは間違いありません。
「ワタクシは……諦めたのに……どうして……」
なぜこんな気持ちになるのでしょうか、ミネを応援するって、ワタクシの気持ちは捨ててミネに幸せになってもらおうって決めたのに。
それなのにこうして一人になるとウジウジと引きずって、あまりにも格好悪いではありませんの。
嫌ですわよ、そんな格好悪い風我フミなんて、お断りですわ。
「――フミ様」
「っ!?」
突如後ろから声をかけられて、ワタクシは驚きジョウロを落として振り返りました。
そこにいたのは茶髪のあの子――かつてワタクシのために銃を手に取り、今はシスターフッドでの記録係をしている子ですわ。
「あ、あら? どうしたのかしら? 帰ったのではなくて?」
「いえ、忘れ物がありまして。……ああ、ありましたね、これです」
彼女は微笑みながら床に置いてあったキャラクターキーホルダーを持ち上げてちりちりと言った感じで揺らしました。
確かモモフレンズというキャラクターの商品だったと思います。
ミネがいつだか「ウェーブキャット」なんてキャラについて語っていたのを覚えていますわ。
彼女が今持ち上げているのは確か「ビッグブラザー」というフクロウのキャラですわね。トリニティに熱狂的なファンのグループがあると聞きます。
とすると彼女もそうだったのでしょうか? 正直、そういった話は聞いたことがないのですが……。
「それでは私はこれで」
「ええ……ごきげんよう」
「……と、そうだフミ様」
背中を見せ去っていこうとする彼女でしたが、少しだけ振り向きこう言いました。
「フミ様ってやっぱり案外抜けてますよね。昔からずーっと治ってないじゃないですか」
「え? なんの話ですの?」
「だから、その癖ですよ。
「……なっ!? あなた……!?」
それは、時折公の場などで見せる彼女の微笑みでした。
シスターフッドの裏の顔である秘密主義の諜報機関、その性質を帯びた、そんな彼女の笑顔の仮面でした。
「……フミ様、私はいつだってフミ様の味方です」
ですが、その顔は直後、ワタクシの知ってる子の顔になりました。
奥手で優しい、ちょっと暴走しがちのあの子の顔に。
「そしてそれは私だけではありません。サクラコ様だってそうなんです」
「サクラコ、さんが……?」
出てきたのは意外な名前でした。
いえ、彼女の立場、そして過去を鑑みればおかしな名前ではないのですが、ワタクシと彼女をつなぐ関係の間にサクラコさんを置いた事はないので、ついそう感じたのです。
「それこそミネと同じくらい……いえ、ミネよりもずっと誤解されている人ですけれど、あの人があなたの事を旧友として慮っている事は事実です。なので……私には力不足で相談できない事も、あの人になら……と、そう思うのです。だから……いえ、これ以上は喋り過ぎですね。では……改めて、ごきげんよう」
彼女は途中までは彼女としての悲しげな笑みを見せていましたが、言葉の終わり際のときにはシスターフッドらしい貼り付けたような笑みに変わっていました。
「ワタクシは……」
先程彼女から言われたばかりだと言うのに、またもワタクシは曲げた指の頂点を噛んでしまいます。
近々迫る、ミネがアイドルとして
心の中で感情がくすぶります。
彼女達にとって間違いなくいい方向に進むであろう話なのに。
「……駄目、ですわ。こんなんじゃ。ええ、そうですわ……楽しみましょう、だってミネのアイドル姿なんて、想像しただけで素敵じゃないですか」
なんとかワタクシは気持ちを持ち直します。
ええ、楽しいに決まってますわよ。だから後ろ向きな事なんて何もない。
だからワタクシは、指で口端を無理やり釣り上げました。
うん、もう大丈夫ですわ。