「わ゛だぐじっ!! がんどう゛じま゛じだわ゛ぁ~~っ……!」
アイドルステージを終えたミネとサクラコさん、そしてマリーに対しワタクシはもう感動の勢いのまま皆さんがいる控え室に突撃して涙しながら拍手を送り言いました。
途中誰かに止められた気がしましたがワタクシの情動は抑えられるものではありませんの!
「わかりましたから落ち着いてください」
「あの、警備の子達は大丈夫だったんですよね……?」
ミネとサクラコさんがそれぞれ渋面でおっしゃっていますわ。
後ろでマリーさんと先生も引きつった笑いをしております。
もう、失礼ですわねぇ。せっかくこのワタクシが称賛の言葉を投げかけに来たわけですのに。
「しょうがないでしょう……! だって、だってですわよ……!? あの、あの前方にあるものすべてを吹き飛ばして暴力の化身と誤解されているミネやもはや一挙一投足すべてに陰謀の臭いがして
「それは馬鹿にしておられますよね!?」
「いいえサクラコさん、あんな言い方をしていますが彼女はしっかりと褒めているんです。というかわりかし付き合いが長い方なのですからいい加減慣れてください」
「あはは……でも嬉しいです、私達のステージにそこまで言ってくれるなんて……」
「これもみんなの努力の結果だよ、良かったね、三人共」
「「「はい!」」」
フフフ、三人とも先生のお言葉にニッコリですわねぇ。
本当にミネがあそこまで自分の好きを出せるようになったなんて、素敵な話ですわ。
きっかけはあくまでサクラコさんとミネが二人で考えたイメージアップ作戦でしたけれども、でも、そんな風に二人が考えて実行に移せるようになったのは、きっと……。
「……さて、二人に感動を伝えられたのでワタクシは戻りますわね。この後の投票でワタクシが投票した『プリティードーナッツ・ポリスガールズ』が優勝する姿を見ないといけませんからねぇ! オーッホッホッホッホッホ!」
「えっ!? ちょっと待ってくださいフミ!? さっきの流れで投票したのは私達じゃないんですか!?」
「ん? ええそうですけど……いや、個人的な感情によるオンリーワンと同じく個人的な評価基準とはいえ投票をするナンバーワンは別でしょう? ワタクシにとってのオンリーワンは貴方達ですけどパフォーマンスとしては『プリティードーナッツ・ポリスガールズ』に軍配でしたの。まあワタクシが投票したならばきっと優勝間違いなしですけれどね~! オーッホッホッホ!」
「そ、そうですか……ただその、フミさん……確か彼女らは一般出場ではなく協賛企業からの参加でしたので、おそらく投票には関係ないかと……」
「えっ!?!?!?」
「というか、投票用紙に名前はなかったと思うんですが、フミ副団長はどうやって投票を……?」
「……あっ、確かに言われてみればそんな欄があったような……名前を書いて入れてましたわ~!?」
「うーん、相変わらずそういうところはそそっかっしいね……フミは……」
ミネ、サクラコさん、マリー、そして先生に次々と言われ、ワタクシはがっくりと肩を落としながら出ていきます。
そして少し距離を開けたところで、ワタクシは先生にふとモモトークを送りました。
〔先生〕
〔お手隙の際にで構いません〕
〔この後、少々お時間を頂きたく思います〕
〔遅くともよろしいですので〕
〔ワタクシの救護室で、あなたを待っておりますわ〕
*****
時刻は夜の十時近く。
外はアイドルステージの興奮と比べるとすっかり静かになりましたが、一方で未だ祭りの熱狂醒めやらぬ声が聞こえてきて賑やかな夜であることには変わりありません。
ワタクシはその程度な喧騒をワタクシの救護室の中で外明かりだけを頼りに耳にしていました。
と、そんなときコンコン、と扉を叩く音が来ます。
「お入りくださいませ」
ワタクシの声を受けて開かれた扉から入ってきたのは、先生。
頼りない薄明かりに照らされる彼の顔はとても絵になっていて多くの生徒が心を奪われるのも理屈として理解できますわ。
ただ、ワタクシの心はそういう方向にはまったく動かないのですが。やはりどうやってもワタクシは殿方にそういった気持ちを抱けないようですわね。
結局ワタクシは、ミネへの想いを除いても根本的に同性が性愛の対象なようです。
「やあフミ、遅くなってごめんね。途中でちょいちょい頼まれ事をしちゃって……」
「あらまあ、ワタクシとの約束があったのに他の女性を優先したんですの? これはこれは随分と多くの女性を泣かせてきたのでしょうねぇ?」
「う……ごめんね、本当に……」
本当に申し訳なさそうに笑う先生にワタクシはクスっと笑います。
「いいえ、大丈夫ですわよ。きっとそういうあなただからこそ沢山の方があなたに信を置くのでしょうから。さ、かけてくださいな」
ワタクシはワタクシの前にある椅子を手で指し示します。
ちなみにこちらはデスクと合わせて置かれている回転椅子にかけております。
「ありがとうフミ、これだとまるで診察みたいだね」
「そうですわね。……ま、これからする事もちょっとした『診察』と言えるかもしれませんわね」
「そうなの? 私の健康チェック?」
「んー、そういうわけでもないのですが……ねぇ、先生、貴方は生徒の皆さんの事をどう思っておいでで?」
ワタクシは微笑みながらじっと彼の目を見て言いました。
「どうって……みんな私の大事な生徒だよ。この身すべてをかけても守って、未来へと歩んでいくのを手助けしてあげたい、そんな子達だよ」
「なるほど、素晴らしい模範的な回答ですわね。では質問の形を変えましょう」
ワタクシはそこでそっと瞳を閉じて、少し間を置いた後に表情を引き締めて、言います。
「彼女らを、女性として見られますか?」
「……それは」
先生も質問の内容、そしてワタクシの雰囲気が変わった事で面持ちから笑みが消えます。
ですが、また柔らかい笑みを浮かべて言いました。
「……私は“先生”で“大人”だから。だから“生徒”と、“子供”とは恋愛はしない……いや、するわけにはいかないんだ」
「なるほど、これまた素晴らしい模範的な回答……“教育者”としてなら称賛すべき答えですわね。……ですが、“男性”としては落第点ギリギリ、と言ったものかと」
ワタクシの言葉に驚き目を見開く先生。
それを確認した後に、ワタクシは続けます。
「確かに今の立場ならそうでしょう。ですがもしあなたを思う子が卒業してあなたに想いを告げたら? 今あなたに想いを告げ、卒業したらぜひともお付き合いをしてほしい、そう伝えてくる子がいたとしたら? その倫理的に正しい事情を招致してなお想いを抑えられない子がいたとしたら? あなたはそのすべてを同じ文言で断るのですか?」
「……そうだね」
彼は軽く俯き、そしてまた目線を上げました。
「はっきり言ってしまえば、その問いに私は明確に答える事ができない、かな」
「……ふむ。それはどうしてですか?」
「だって、それは実際に誰が言ってくるのか、その子がどれだけ本気なのか、それによって変わる事で一概にこうだって語る事のできない話だから。人の気持ちはいろんな種類がある。本気で言ってくれる子もいれば、一時の熱にうなされている子だっている。父性と恋愛を混同する子だっている。だから、真剣に向き合うのならそれはむしろはっきりとこうする、って事はちょっと言えないかな」
「……なるほど、そうですか」
ワタクシは回転椅子をガラっと少し音を立てて動かしながら立ち上がり、そして薄明かりが入り込む窓の方へと歩き外を見ながら口を開きます。
「本当にご立派ですのね。きっと一人の男性がお出しする答えとしては高得点で最適解なのでしょう。ですが……一人の少女として言わせてもらうのならば、満点ではありません」
「……それは、どうして?」
ワタクシの背中に向けてあくまで優しく訪ねてくる先生。
それに対し、ワタクシは窓枠をそっと撫でながら答えます。
「きっとワタクシなら、例えそれが一時の気の迷いだろうと別の気持ちを勘違いした結果であろうと、一つ一つ、すべてに本気で思い悩み答えて欲しいのですわ。相手の気持ちを慮って適切な対応を取る、それがベストなのは救護騎士団副団長としてこの救護室を受け持つワタクシにはよく分かります。……でも、恋は理屈ではないのです」
これは自分自身にも問いかける言葉。
己の中に未だくすぶる恋心と決着をつけるための消極的事実の証明。
「その根底がどういったモノであろうと、意中の方には真剣に悩み、答えを出して欲しい。それが例え正しい気持ちに至る
いつかミネが先生にその想いを告げた時、それがどうなったとしても彼女がその道を後悔しないようにして欲しいのです。
そして、もしそういやって彼が心から悩み、彼女を受け入れる選択をしたのなら、きっとワタクシも諦められる、そのはずなのですから。
「……なるほど、やはり私はまだまだ未熟だね。正しさを直接言い渡すのは必ずしも正解じゃない、ってのは分かってたつもりだったんだけどな……ありがとう、フミ。まだまだ学ぶ事がいっぱいだね、私は」
「あら、お礼は結構ですわよ。ワタクシはただ『救護』の意志に基づいて貴方とこういう事を話しておきたかった、それだけですから」
体をわずかに動かし、背中は向けながらも彼の方を向いてワタクシは言いました。
そう、これは『救護』なのです。
ミネだけでなく、このキヴォトスに大勢いると聞く先生を慕っている子達、彼女らが将来抱えるかも知れなかった苦しみを取り除くための『診察』なのですから、これは。
「そっか。やっぱり副団長だねフミは。ミネに負けず劣らず『救護』の信念に心を燃やしているんだ」
「……さあ、どうでしょうか? 本当はただ先生を苦しませるだけにテキトーな事を言っただけかもしれませんわよ?」
「大丈夫だよ、フミはそんな事しないって分かってるから」
「……まったく、買い被られたものですわね」
そう答えるとワタクシはまた窓の外に目を向けました。
誰もいないトリニティ校舎の光景、その先に続く夜闇。
知っているはずの風景が見えぬ暗闇を、ただじっと見つめます。
「さあ、お時間を取らせてしまいましたわね。これにて『診察』は終わりですわ。それでは先生、お大事に」
「うん、フミも体には気をつけてね。無理しないように」
「……ええ」
ワタクシは彼に背を向けたまま彼が出ていくのを音で確認します。
そうしまたまた一人になったワタクシは、呟きます。
「きっと……これが、一番なんですわ。最適解、なんですのよ」
こんな事を言ってから、ワタクシは思わず曲げた人差し指の頭をまたぐっと噛んでしまっていました。