ワタクシは隣に住んでるあのミネとかいう子が嫌いですわ。
なんというか、あのワタクシよりも偉そうにしてる態度が気に入りませんの。
初等部に入る前からリーダーぶっていてそんなあの子の回りに集まる子もいて、どうやら周囲から一目置かれている子のようですから「お友達になってあげてもよろしくてよ?」なんてワタクシのグループに誘ってあげたのに「友人は自分で選びます。少なくとも、あなたのように横暴に振る舞う子はお断りです」なんて返してきて、もう本当に腹が立ちましたわ。
家柄がこのトリニティにおいて最も古い派閥の一つであるヨハネ分派の流れを組んでいるのも気に入りません。
ワタクシとてこのトリニティにおいて
ともかく、そう言った理由でワタクシ風我フミは、あの蒼森ミネという子の事が嫌いなのです。
「あら~ミネさんではありませんの? お元気にしてまして~? これまた随分と寂しそうですけれど~?」
なのでワタクシは朝、授業が始まる前に一人で席に座っていたミネに言ってやります。
ワタクシの後ろにはお友達がたくさん、彼女との差を見せつけるいいチャンスです。
「別にあなたと違って一日中ベタベタして安心するような薄い関係性ではないのでご安心を。あなたこそそうやって自分の虚栄心のために人の貴重な時間を浪費させるのは褒められた行為ではないと思いますが」
「なっ……!?」
彼女の言葉に思わず顔をひくつかせてしまいました。
本当にこの子はいつもいつも、真っ直ぐにワタクシの事をバカにして……!
「あなた! 言い過ぎよ!」
「そうよ! フミ様に謝って!」
「何よホント偉そうに!」
ワタクシの後ろに控えていた三人がやいのやいのと反論します。ちなみに順番に黒の姫カット、茶髪のセミロング、緑ショートと言った髪型です。
ですがミネさんはそんな彼女らには目もくれず、ワタクシの方を睨んできましたし、ワタクシだって彼女を睨みつけます。
「……!」
「…………!」
ワタクシとミネはお互い視線で火花を散らせます。
どんどんと空気は剣呑なものになっていきますが引く気はありません。ここで引く方がワタクシにとっては恥なのですわ。
と、そうしているとキンコンカンコーン、と予鈴が鳴りました。そろそろ朝のHRであると告げるチャイムです。
「……ふん、命拾いしましたわね!」
私は鼻を鳴らして席に戻って行きます。先生や授業の進行に迷惑をかけてはいけませんもの。
「別に銃撃戦などをする気はなかったのですが……」
後ろでポツリとミネが言った言葉にワタクシはまたイラつきました。
嫌味な子!
*****
「さて! 今日はこの公園でお茶会と行きますわよ皆様~!」
ワタクシは家に続く道のりの途中にある公園に設置されたガゼボの下で他三人のお友達相手に高らかに宣言しました。
未来の令嬢たるもの、ワタクシのお友達には礼儀作法というものを教え込んであげなくてはいけません。
彼女らはワタクシがいつか作る派閥の大事なメンバー、ならばそれに恥ずかしくない振る舞いをしてもらいたいですからね。彼女らは家の格があまりなかったり、あくまでワタクシのような高い家格の者と比べると裕福さに欠ける子ですからその辺りの礼儀作法に疎い部分も見られます。
故に、このワタクシが直々に教えてあげようというものですの。
上流社会というのは隙を見せては食われる恐ろしい世界、その対策をしておくのに越したことはないですわ。
ちなみにランドセルはガゼボの端っこにまとめて置いてあります。さすがにこのトリニティで小学生のランドセルを盗む輩などはいないと思いますが、こうして目の届くところにまとめたほうが安心はできますからね。
「さて、まずは前回のおさらいからですわね。みなさんティーカップの持ち方は――」
と、ワタクシがお茶会のマナーレッスンをしようとした、そのときでした。
「あらまあ、誰かと思えばフミ様ではありませんかぁ?」
耳障りな声が聞こてきました。
その主は別クラスで友達グループを作っているそれなりに身分の高い銀髪ロングヘアーの子で、ワタクシに敵対的な態度を見せる子でもあります。
彼女もまたミネさんのようにワタクシの事が気に食わないようです。
「こんなところでお茶会ごっこなどぉ、小物を引き連れている方はやはり余裕があるようでぇ」
「……随分な言い様ですわねぇ」
ワタクシは怒り立ち上がります。
他の子も「フミ様!」と慌ててワタクシの後についてきました。
……もしかしてがあるかもしれませんからワタクシ一人でも良かったですのに。
「あらあらまあまあ、結局そうやって群れる事でしか自分を誇れないのはやはりおさるさんのボスという感じですわねぇ。所詮は
「あなた……ふん、過去ばかり見て今を見れないなんて目が曇っておいでで?」
家の事をバカにされてだいぶムッとしましたがワタクシはなんとか抑えました。
令嬢同士は先に手を出した方が負けな所があります。
あくまで戦いは舌上にて、暴力に訴える野蛮な行いはとことん腹に据えかねたときの最終手段。
身分ある者程それは強くその身を縛り付ける鎖であるのですから。
「いいえ、今のあなたの事もちゃーんと見れていましてよぉ? そんな庶民に毛が生えたような卑しい身の上を連れ歩くなんて、やはりあなたの愚かさを――」
「――ふざけないでくださいし……!」
ダメです、腹に据えかねました。
気づいたときにはワタクシは彼女の胸ぐらを掴んでいました。
「なっ、何をっ……!?」
「ワタクシの事はいくら言おうと耐えてみせると心構えていましたわ……ですが、この子達をバカにするのは許せませんッ! 謝りなさいッ!! 彼女らにッ!!!!」
彼女らははっきり言って付き合いづらいだろうワタクシにもついてきてくれた子達なのです。
それをそんな風に言われるのはとても我慢なりませんでした。
「グッ……こ、このっ!」
銃声が鳴り響きました。
目の前の子が拳銃を抜きワタクシの腹部を撃ったのです。
「かっはっ……!?」
「ふん、先に手を出したのはそちらですわよ!」
膝をついてしゃがみ込むワタクシの頭に彼女は銃口を向けます。
そしてそのままトリガーを引くつもりのようでした。
ですが、そのときでした。
「フミ様に手を出さないでっ……!」
ワタクシのお友達のうちの一人、茶髪セミロングの子が、急に目の前に立ったかと思うとショットガンを目の前の彼女に向けて撃ったのです。
「きゃああっ!?」
それで勢い良く吹っ飛ぶ彼女。
すると、その勢いのまま背後にあった鉄棒に後頭部をぶつけてしまったのです。
「……っ!?」
彼女は声も出ない程の衝撃を受けた顔をし、そのまま前のめりに地面に倒れ込みます。
そしてそのまま、動かなくなりました。
「え、えっ……!?」
ワタクシ達は慌てます。
キヴォトスでは初等部に通う小学生と言えど銃撃戦やグレネードの投げ合いは当たり前です。ですがちょっとした衝撃が命取りになる事もまた普通にあり得る事なのです。
とはいえそんな事態は誰も想定していなかったらしくて、ワタクシ達はみんな青ざめて混乱していきました。
「ちっ、違うの……私、そんなつもりじゃ……うわあああっ!」
ショットガンで撃った子がついにパニックになって逃げ出します。
「あっ、待ちなさい!? あ、あなたっ! 彼女の後を追って! それで……とにかく、一緒にいてあげなさい!」
「え? は、はい……!」
「あなたは近くの誰かに連絡して! 誰でも良いから頼れそうな年上の人に! 早くッ!」
「う、あ、は、はいッ!」
ワタクシは残った二人――それぞれ黒姫カットの子、緑ショートの子の順――に指示を飛ばします。
そして一人になったワタクシは倒れて動かなくなった彼女に慌てて近寄ります。
「あ、あ……どうしましょう……! ヘ、ヘイローが出てない……も、もしかして、し、死んじゃって……!? い、やぁ……そんな……う、ううううう……ワ、ワタクシ……!」
「――大丈夫ですかっ!?」
と、そんなとき、とても凛々しく、そして聞き覚えのある声が聞こえてきました。
ランドセルを背負って今学校から帰っていた途中らしいミネさんの姿が、そこにあったのです。