「あ、あ、あ……ミネ、さん……そ、その……この子が、ヘイローなくなって……ワタクシ、そんなつもりじゃ……」
混乱し、まともに言葉を伝えられないワタクシ。
ですがミネさんはそんな私を前にあくまで冷静に言葉を投げかけてくれます。
「大丈夫です、落ち着いてください。まずは私と一緒に息を整えましょう。そのために、私と一緒に息を吸って吐いてください」
「え? あっ、わ、分かりましたわ……」
そこでワタクシはミネさんに合わせてゆっくりと吸って、吐きました。
三回それを繰り返すとワタクシもだいぶ落ち着いてきます。でも、現状が変わった訳ではないのでやはり不安です。
「ミネさん、すいません……でも、やっぱりどうしたらいいか……」
「事情は後で伺います。とりあえずこちらでできる事をしてみます。ヘイローは気を失っただけでも消えますから。フミさん、彼女の名前は分かりますか?」
「あ、はい……えっと、彼女は……」
ワタクシが名前を教えると、ミネさんはしっかりと彼女の頭部を確認した後、ゆっくりと彼女を仰向けに――予め彼女が取り出したタオルの上にその後頭部を乗せる形で――して、そしてトントンと体を揺らさない程度に肩を叩いて名前を呼びかけました。
ですが応答はありません。またワタクシは不安になってしまいます。
けれどもミネさんは変わらず冷静で、顔を彼女の顔に近づけたりとワタクシには良く分からない動きをしていました。
「……大丈夫です、亡くなっている訳ではありません。多分、脳震盪なんだと思います。ですが
「フミ様ッ! 連れてきました!
そこで人を呼ばせに行っていた子が戻ってきました。
言葉の通りその背後にいるのはナース服の制服をまとった、トリニティの救護騎士団のお姉様方でした。
そのお姉様方はテキパキと迅速に動き倒れた彼女を救急車に搬入、それに私達も形としてついていく事になりました。事情を聞きたいそうです。
不安ですしとても怖かったですが、私は頷きました。すると、何故かミネさんも一緒についてきてくれると言ったのです。
「何故ですの……? あなたはただ通りすがっただけなのに……それにワタクシ、あなたには酷いこともいっぱい言って……」
「確かに、そうですね。でも……あんな真剣な顔で倒れた彼女を心配するあなたを、一人にしたくなかっただけです」
その言葉はとても心強いお言葉でした。
同時にこんな彼女を今までつまらないプライドと反抗心で酷い言葉を投げかけていた事が、どんどんと恥ずかしくなっても来ました。
あんなのは、とても立場ある人間がする事ではないと、そう思えてきたのです。
救急車で向かったトリニティ総合学園の高等部のお姉様達がいる校舎につくと、救護騎士団の救護室で診察が行われました。
結果はミネさんの言っていた通り軽い脳震盪だそうで特に命に別状はないし後遺症もないだろう、との事です。
その言葉を聞いたとき、ワタクシは思わず泣き崩れてしまいました。
「よかった、よかったですわ……!」
「ええ、本当に良かったですね!」
隣でミネさんも一緒に喜んでくれました。
不安なときに誰かが隣りにいて励ましてくれる、それはとても心強いのだと、初めてワタクシは知りました。
そして、その後ワタクシは話を聞きに来た救護騎士団のお姉様、そして初等部の教師達にも説明をする事になりました。
なので、ワタクシは言いました。
「すべてはワタクシの責任です。ワタクシが彼女と安易に喧嘩を始めてしまい、そのせいでお友達を暴走させてしまったのです。ワタクシがもっとちゃんとしていればこんな事にはなりませんでした。だから、撃ってしまった子を罰さないでください。罰はすべて、この風我フミが一人で引き受けます……!」
ワタクシの言葉にお姉様方や大人達は驚いていました。
そしてただの子供の喧嘩の事故でそこまで思い詰めなくていい、と言ってきてそれは倒れた子の家もそうらしく、ワタクシに罰らしい罰は下されないようでした。
「……どうして、ですか?」
そんなやり取りの後、ミネさんがワタクシに聞いてきました。
「え?」
思わずワタクシは聞き返します。
すると、ミネさんは少し目を泳がせてから、言いました。
「いえ……なぜ、全部自分が悪い、なんて言ったのかと……ありのまま、撃った子が悪い、と、その、正直言うかと……」
「そうですわね……そんな風に思われても仕方ありません。ワタクシは、そう思われるだけの事をあなたにしてきましたから」
身から出た錆、というヤツですわね。
それほどにワタクシのこれまでの振る舞いは恥ずべき行いだった、という事です。
「……ミネさん。確かにワタクシは、あなたの言う通りの子でした。思い通りに行かない不満を解消するためにあなたに嫌がらせをして、そしてあの子達を自分が気持ちよくなるために利用していた……でも、あの子達はこんな嫌な子のワタクシについて来てくれたのです。そしてワタクシは彼女らを束ねていた、つまりリーダーならばすべての責任を負わねばなりません。それが立場あるものの義務、役目なのです」
ワタクシの家の事情はきっとミネさんも知っているでしょう。
それは表向きには秘密の事ですが、それなりの地位にある者にとっては公然の秘密のようになっていましたし、そんな子から噂が漏れ出てなんとなく
だからこそワタクシは彼女らを大事にしたかったのです。でも……。
「……でも、それが結果としてこうなって、そしてワタクシはあなたの言った通りに自分の虚栄心のために彼女らを利用していたのにも気づきました。ですから、あの集まりはこれっきりにしようと思います。これからは己の愚かさに一人向き合おうかと……」
「……ごめん、なさい……!」
「……えっ?」
私は思わず抜けた声を上げてしまいました。
だって、何故か突然ミネさんがワタクシに向かって泣いて謝ってきたのですから。
「私もあなたを誤解していました……! ワガママばっかり言って他人の事なんてなんとも思ってないそんな身勝手な子なのだと……ですが、あなたはあなたなりに筋を通そうとしています。高貴な者の務めを果たそうとしています。あなたはちゃんと芯のある人です。それを私は、偏見で嫌って……私は、自分で自分が恥ずかしいですッ!!!!」
最後には叫んで言うミネさん。
今度はさっきまでとは違う感情でワタクシは混乱し、彼女の前でオロオロとしてしまいます。
「あ、あの、えっと、そんなミネさんが気に病む事ではないんですのよ……? 本当にワタクシが悪い話であって……」
「いいえ! 将来救護の道を志す者として誤認は罪です! 私もまた、強く反省しなければならないのです……!」
なんというか、すごい思い込みが強い方なんですのねミネさんって……。
「……フフッ」
彼女のそんな頑なな姿を見ていたら、なんだか少しおかしくなって来ました。
「な、何故笑うのですか!?」
「あっ、すいませんでしたわ……ただ、ワタクシ以上にワタクシの事でそこまで気に病まれるとは思っていなくて……それがちょっと、面白かったんですの。……ありがとうございます、ミネさん。ワタクシもあなたの事、ずっと勘違いしてたみたいですわね」
彼女は決して単に偉そうで嫌味な子という訳ではありませんでした。
確かな信念があって、自分というものをしっかりと持っていて、そして誰よりも優しい、そんな凄くいい子だったんですの。
――……ああ、凄いですわ。ワタクシも、こんな風になれたら……。
つい、そう思える程に、ワタクシは彼女の事を見直していました。
「――フッ、フミ様……!」
と、そこでワタクシに声がかけられました。
それは救護騎士団の方を呼んでくれた子で、その後ろには逃げた子と逃げた子を探しに行った子、二人が揃っていました。
「……フ、フミ、様……わ、私……私……!」
「……良かった、無事だったんですのね……!」
私は未だ怯え震える逃げた子を見たとき、思わず抱きしめてしまいました。
「えっ!? フミ様……!?」
「あれはワタクシが悪かったのに、あなたに酷い事をさせてしまって……それで何か大変な事になっていたらと、心配でしたの……! でも、何もなかったようで良かったです……!」
「……フ、フミ様……そんな……ご迷惑をかけたのは、私で……庶民上がりだからってバカにされてた私達を友達って言ってくれたフミ様に、恩返ししたくて、でも、やらかしちゃったのに、私……!」
「いいんですのそんな事……! あなた達こそ、ワタクシの元から逃げてもいいんですのよ……こんな駄目なリーダーについていく必要なんて……」
「いっ、嫌です、私達は、フミ様とこれからも一緒にいたいです! だから、そんな事言わないでください……! フミ様……本当に、本当に、ごめんなさ……う、うわああああああああああん……!」
「うっ、うう……ありがとう、ございます……こんな、ワタクシに、そんな、言葉……うああああああああああああああああ……! 良かった、良かったですわ……! うううううううううううううっ……!」
泣き出す彼女に釣られるように、ワタクシも泣いてしまいました。
ずっと我慢してましたけど、ついに限界が来ちゃったのですわね。
怖くて、不安で、心配で……でも泣いたら何もできなくなるって思って、なんとかこらえていたのが、一気に来て決壊したみたいですわ。
我ながら恥ずかしいですけれど、でもやっぱり涙は止まる気配を見せません。
「わあああああああああああああああああああああああああん……! わあああああああああああん……!」
「……頑張りましたね、フミさん」
抱き合い泣き続ける私達。その背中を、ミネさんが優しく撫でてくれました。
それから、一気にあらゆる事が解決していきました。
大人達からはたくさん怒られました。
先程も言ったようにワタクシが全部悪いと言ったのですが、結局四人まとめて怒られました。
そしてその後、喧嘩した彼女とも和解しました。
どうやらミネさんがその後の顛末を包み隠さず話したみたいです。
余計な事をしないでくださいまし!? とはなりましたがどうやらその話で彼女も反省して、そこからお友達になる事ができました。
予想外の結果にビックリです。
そして、もう一人かけがえのないお友達がワタクシにはできました。
「――ミネっ! おはようございますわ!」
「ええ、おはようございます、フミ」
蒼森ミネ。
それがワタクシにできた、誰よりもかけがえのない友人の名前です。