ワタクシは蒼森ミネに恋をした。   作:詠符音黎

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4.蒼森ミネの親友、そして――

 ミネと友人になってからずっと、ワタクシ達は一緒にいました。

 あのときの他の四人も交えながらもとりわけミネとは初等部での同じ時間を過ごしたと思います。

 運動会で一緒に二人三脚をしたり、みんなで高等部のトリニティ謝肉祭(カーニバル)を見に行ってバラけて行動したときも私達はずっと二人一緒でいたり、他にもテスト勉強やら長期休暇やらクリスマスやらとイベントごとはとにかく一緒にいましたわ。

 他の方々からは「本当に仲がよろしいんですのね」なんて言われる事もありましたわね。

 本当にその通りでしたので、さすがに一旦離れてみましょうか……? なんて話にまでなりましたが、いつの間にか行動パターンも似通っていたようで結局一緒になる、なんて顛末もありました。

 そうこうしていくうちに私達は初等部を卒業、中等部に進みました。

 

 

 

 

「おはようございますわミネ。うむ、今日も元気そうでなによりですわね」

「あら、おはようございますフミ。そちらこそ、今日も元気が有り余っているようで」

 

 昔は嫌味の応酬としてやっていた挨拶も、中等部になった今では普通の朝の挨拶となりました。

 まったく、変われば変わるものですわねぇ。

 

「オーッホッホッホ! 当然ですわ! このワタクシの一番の取り柄は元気なんですもの! それがなくなっては長所がなくなってしまいますわー! オーッホッホッホ!」

「それは自信満々に言うことではないと思うんですが……」

 

 ミネが苦笑いをしていますがワタクシは気にしません。

 どんなときでも明るく元気にやっていくのがワタクシのモットーであり、ワタクシと共にいてくれる方々に恥じない振る舞いだと信じているからです。

 陰気な態度で周りにいる方まで暗くさせてしまっては申し訳ないですからね。

 

「ところでミネ、今日も朝から医療のお勉強ですか? さすが思い込んだら一直線でさすがですわねぇ」

「もう、茶化さないでください。私にはまだまだ至らないところがあるのですから学びを深めていくのは当然の事です」

「あら、茶化してなんていませんわよ? むしろ素直に称賛していたぐらいです。好きな事をただひたすらに突き詰める、それはオタクと言われる研究職肌を生業としている方々ができる実に限られた才能だと聞いておりますわ! つまりミネはオタクという事ですのよ! 誇りなさいな! オーッホッホッホッホッホ!」

「……ええそうですね……あなたはそれで本当に褒めてるつもりなんですよね……さすがに慣れました……」

 

 なぜだか随分と苦い顔をされました。

 最近知った最上級の褒め言葉を用いたはずなのですが……何か用法を間違っていたのでしょうか?

 さてさて、そんな事をミネに言っているワタクシですが、実を言うとワタクシもこっそり()()()()()を裏でしていたりもします。

 ただ普段はこうしていつもと変わらぬとてもきらびやかで華やかな令嬢たる風我ミネとしていますが……ふふふ、美しき鳥も見えぬところで力を使っているという事ですわね。

 

「ああそうだフミ、そちらも最近薬学を勉強しているそうですが順調ですか?」

「バレてるぅばうごえはえっ!?!!?」

「フッ、フミ!? なんだか今まで聞いたことのない物凄い声を出しましたが大丈夫ですか!?」

「……だ、大丈夫ですの……ちょっとびっくりし過ぎて『キヴォトス怖い話百選』で見た百鬼夜行連合学院に伝われる黄昏という異世界が見えた気がしましたが……」

「まったく分かりませんが恐らくそれは見えてはいけない物だと思いますよ!?」

「ま、まあそれはともかく……な、なぜワタクシがこっそりと薬学の勉強をしている事を……!?」

 

 これはミネにすら内緒でやっていた事のはずですのに。

 自室に籠りただひたすらに励んでいたので、その姿を見られもしない限りバレたりはしないはずですの。

 はっ!? もしや我が家に諜報機関と名高いシスターフッドのスパイが忍び込んで……!?

 

「あ、すいません……以前フミの家を尋ねたときに声をかけても返答がなくつい出来心で部屋を覗いたときに見てしまいまして……」

「普通に見られてましたわ~~~~~!?」

 

 もう、これじゃあワタクシがとんでもなくお間抜けって事になるじゃないですの!

 まあ確かに他の友人の方々からは「フミ様って案外抜けているところがありますよね、でもそれもまた素晴らしいです!」なんて言われたことがありますが……でもあれはワタクシを褒めてくれるための方便だと思いましたのに……!

 

「ううっ、は、恥ずかし過ぎますわ……!」

「も、申し訳ありません……まさかそこまで気にするとは……しかし、この際なので聞いてしまいますがどうして薬学の勉強を? 正直フミが救護に特別興味を示した事は今までなかったと思うのですが……」

 

 確かに彼女の言う通り、ワタクシはミネの言う『救護』へ特別関心があるわけではありません。

 ですが、確かにワタクシの勉強はミネが目指す救護騎士団へと繋がる学びでもあります。

 ここまで来てはそれを隠し立てする理由もないでしょう。

 だからワタクシは顔が火照るのを感じ、つい目線を逸らしながらも言いました。

 

「あの、その……えっと、ミネが努力している姿を見るとワタクシも、あなたのお手伝いをしたいなと、そう思えまして……まあその、高等部に入ったら二人で救護騎士団になりたい、なんて、思ったからでありまして……ミネは現場を駆け回るタイプでしょうから、ワタクシは救護室で構えられたらちょうど良い、かな、などと……」

「……フミ」

「あ~~~~~~っ!? 言葉にして面として言うと本当に恥ずかしいですわっ~~~~!? だから隠してたんですのよワタクシ~~~! この風我フミが必死に努力してるなんて格好悪過ぎますの~~~~……!」

 

 頭を抱えながらついその場をくるくると回ってしまいます。

 もうクラスの他の子達には奇異な目で見られてるでしょうがこの全身が燃え尽きてしまいそうなぐらいに恥ずかしい気持ちは止める事ができませんの。

 

「……私は感激しました!」

「えっ……?」

 

 と、そんなとき、目の前でミネがまさに言葉通り感激を顔に溢れさせて叫びました。

 なかなかの声の張りだったのでワタクシもちょっと冷静になってしまいました。

 

「フミが……あのフミが、私の目指す『救護』を共に目指してくれるなんて……この蒼森ミネ、友から新たな『救護』の精神を教えられたと感じます……! まだまだ勉強不足の身として、共に励みましょう……!」

「あ、えっと……え、ええ……」

 

 私の両手をガシッと掴み言ってくるミネの剣幕に、ちょっと押されてしまいます。

 でも別に嫌な気持ちにはなっていません。むしろ、ワタクシもとても嬉しい気持ちになっていました。

 ワタクシが彼女と同じ道を歩みたい、それをここまで喜んでくれるなんて。

 胸の中がとても温かくなり、ワタクシ達は間違いなく親友なんだと再確認しました。

 そして同時に想像します。

 ワタクシとミネ、共に並び立って救護騎士団として活動する未来を。二人で手を取り合い歩む、そんな未来を――

 

「――……?」

 

 なんだか、ふとまた暑くなったと思いました。

 でもそれはさっきまでの恥ずかしさからくる暑さとは違って不快感は一切なく、むしろとてもこそばゆくでも心地よい、そんな暑さでした。

 

「……ミ? フミ? 大丈夫ですか?」

「え? あっ、はい! その、ワタクシもミネがそう言ってくれるのが嬉しくて、ちょっとぼーっとしていたみたいですわね……」

 

 きっとそういう事なのだろうと思い、ワタクシはミネに笑いかけました。

 ミネもそんなワタクシに笑いかけてくれて、お互いに笑い合いました。

 そうしてワタクシ達はその日から、二人一緒に医療の勉強をするようになったのです。

 

 

   *****

 

 

 ワタクシ達が共に救護騎士団への道を歩む事を告げると、友人達は(みな)応援してくれました。

 中にはワタクシ達と一緒に救護騎士団を目指したい、なんて言ってくれる子――ちなみに黒髪の子ですわ――もいましたが、それは止めなさいと二人で言いました。

 彼女がワタクシのために暴走してしまった子を止められなかった事がずっと引っかかっていて、そんな悔いを原動力に高等部になったら正義実現委員会に入りたいなんて志を持っていたのをワタクシもミネも知っていましたから。

 ワタクシ達はそれぞれ、既に高等部にこうなりたい、なんて道がそれぞれ形になっていきました。

 中には未だどうしようか悩んでいる子――ワタクシのために怒って銀髪の子を撃ってしまった茶髪の子ですね――もいましたが「急いで決める必要はないのですのよ、ゆっくりと考えればいいのですわ」と諭す場面もありました。

 こうしてそれぞれがそれぞれの未来を漠然と考えながらも中等部の生活を送っていきます。

 その中でワタクシとミネはやはり、というか以前にも増して一緒にいるようになりました。

 同じ救護への道を志して勉強をしているのですから当然ですわよね。

 ただワタクシにとってその時間はただお互いに学び合う時間以上のものがありました。

 なんというか、とても楽しく、温かく、満たされる時間だったのです。

 医療の勉強は一筋縄ではいかない事もたくさんあって辛い事も多々あったというのに彼女が隣にいるときはまったく苦にはなりませんでした。

 むしろ、もっとミネの側にいたい、ミネと語らいたい、ミネと笑い合いたい、そんな気持ちがどんどん膨れ上がっていったのです。

 あのとき感じた心の中で産まれた温もりは、より大きく、しかし分からないまま育っていきました。

 そうしていくうちに時は過ぎ、中等部三年となりました。

 元よりトリニティの中で初等部、中等部へと進んできたワタクシ達なのでよっぽど学力か素行に問題がなければ高等部に進めないなんて事はなく、つまりそれはワタクシ達にとっては何も障壁はない、という事でもありました。

 故に成績などでは問題はなかったワタクシとミネは中等部三年には救護騎士団の見習いの身となれました。目指した道への事前段階です。現実に近づいてくると、いよいよ身が引き締まります。

 そこからさらに時は流れ、中等部最後の冬、クリスマスがやってきます。そんな中でワタクシはいつもの六人で中等部最後のクリスマスパーティーを開く事になりました。

 場所はワタクシのお家で、理由は一番広いから。

 ……まあ、あくまで昔から受け継がれてきた屋敷が広いだけで、今は他の方々よりも立派な家かと言われると、そうとも言えなくて、それが時折悔しくもなるのですけれども。

 ともかくそんなクリスマス会の日、ワタクシとミネは共に台所に立っていました。

 パーティーの準備をするためです。

 

「さあ、そろそろいろいろと出来上がるのでミネもどんどんと飾り付けしてくださいませ!」

「はい。……ですが、やはり料理の殆どをフミに頼ってしまうのは我ながら情けない所はありますね。もちろんフミの方がずっと料理ができるから適材適所なのは分かっていますが」

「仕方ありませんわよー、むしろトリニティの生徒なんて結構な子が雇ってる料理人に任せてる子が多いでしょうし、ミネはむしろしっかりできる子の方だと思いますわよ? ただこれはワタクシがあなたより上手(うわて)の分野だった、それだけの話ですわ」

 

 料理、さらに言えばお菓子作りがワタクシは昔から好きでした。

 決められた食材を決められた手順で料理し、そこに更に個人の腕前でいくらでも上達できる。さらにお菓子はそこに正確な分量の配分をするのも必要で、しっかりと計算して行った行動に結果が帰って来る。それがなんだか楽しいんですの。

 普段は我ながら考えなしで行き当たりばったりですが、こと料理に関しては丁寧にかつ的確に動いて、それが楽しさに繋がっていました。

 考えれば薬学も似たようなところがありますわね。だからこそ学びが捗ったのかもしれません。

 とは言え、もちろん一番捗った理由は……――

 

「――……? フミ、どうしたのですか? 私の顔に何か?」

「あっ、いえいえ、ただミネが可愛らしく料理の飾り付けをする姿がとても楽しそうで、ミネ自身もまた可愛らしい、なんて思っただけですのよ。オーッホッホッホッホ!」

「な……! もう、私に面と向かってそんな事を言うのはあなたぐらいですよフミ……」

 

 危なかったですわ、つい見惚れていたのをなんとか誤魔化せたようです。

 しかし親友が料理を楽しげに飾り付けている所を見て見惚れるなんて、やっぱり時折自分でも説明できない事になりますわね、ワタクシ。

 これは一体なんなのでしょうか? ミネと一緒の道を歩むと言って喜んで貰えたあの日から、ずっと分からない感情ですわ。

 

「……あ、フミ。ちょっとそのままでいてくれますか?」

「え? なんですのミ――」

 

 突然ミネがそう言って近づいてきたから何事かと思いました。

 ですが、その次の瞬間、ワタクシは固まってしまいました。

 ミネが、私の口元についていたクリームを指で掬い、それを自らの口に運んだのです。

 

「ふむ、口元にクリームとは味見のときについてしまったのでしょうか? しかしやはりフミの作るスイーツの味は絶妙ですね。しっかり甘くてでもくどくなくて。私、フミの作るこの味が“好き”ですよ」

 

 ……“好き”。

 それが、そういう意味ではなのは当然分かってますし、勘違いする訳がありません。

 でも、ワタクシは彼女が目の前でその何気ない言葉を口にした事と、彼女がほぼワタクシの唇とも言える場所を指で触って、それを自分の唇に運んだ事。それが口と口の重なりを意識させた事で、やっとこの感情を形容する言葉が見つかったと思いました。

 ええ、そうですわ。

 

 ――ワタクシは、蒼森ミネの事が、“好き”なのです。

 

 それは、彼女を恋愛の対象として見ているという、そういう“好き”なのです。

 彼女と共に生涯を共にして、そしてその体を重ね合わせたい。ピュアさと動物的な欲求を両方兼ね備えた、そんな本来は同性には抱きづらい気持ちを、私はミネに()()()()()()()のです。

 

 ワタクシは、親友である蒼森ミネに恋をしたのですわ。

 

 中等部最後のクリスマス、お互い目指した夢が形として見えてきた、そんな雪が降る夕方の日の事でした。

 

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