ワタクシは蒼森ミネに恋をした。   作:詠符音黎

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6.団長の『救護』、副団長の『診察』

 ミネとは親友のままでいる。

 そうと決めてからはもうあの胸の苦しみからも離れる事が決めました。

 高等部に進学してからのワタクシとミネは親友であり共に救護騎士団で肩を並べて救護に走る身。それだけでもとても充実した日々を送れるようになったのです。

 他のお友達の皆さんもそれぞれの道を選びました。

 かつて自分の無力さを悔やんだ黒髪の彼女は宣言していた通り正義実現委員会に。

 初恋がBDのお兄様だったとカミングアウトしてくれた緑ショートのあの子は図書委員会に。

 未だ嫌味な部分もあり政治への関心が強かった銀髪のあの子はティーパーティーのサンクトゥス分派の一員に。

 そして道を定まっていなかったかつて怒りのまま行動した茶髪セミロングのあの子はシスターフッドへ。

 みんなそれぞれの所属した組織で充実した活動をし、時には組織間の対立に巻き込まれもしましたが友情は壊れることはありませんでした。

 そしてワタクシとミネもまた二年時に大きな変化がありました。ミネが救護騎士団の団長に、そしてワタクシが副団長とを務める事となったのですわ。

 

 

   *****

 

 

「誇りと信念を胸に刻み! 適切なところに適切な処置を!」

 

 団長となってから幾度も聞いたミネの高らかな宣言が響きます。

 まあ聞いたと言ってもワタクシは普段は救護室にいるので現場で活躍している団員程ではないのですが。

 

「はい! 消毒しますから動かないでくださいね!」

「包帯巻きますよー!」

 

 ミネが吹き飛ばした不良生徒達を一年の鷲見セリナと中等部三年の朝顔ハナエがテキパキと治療していきます。

 既にとてもいいコンビという感じですわね。さらに言えばミネと並んだら既に完成されたトリオという感じまであります。

 ちょっとジェラシー……なんて事はないですわ。役割分担の結果ですもの。

 

「なんというか、相変わらず嵐のような勢いですわね~。ええ、今日も絶好調で何よりですわ~」

「あ、フミ副団長! こんにちは! 珍しいですねこうしてお外での巡回で出会うなんて!」

 

 ハナエがワタクシに元気に挨拶してくれました。

 ワタクシもそれにとびっきりの笑顔で返します。

 

「オーッホッホッホ! ごきげんようですわハナエ~! この副団長風我フミ! 少し用がありましてこちらに来させてもらった次第ですわ~!」

「あ、フミ副団長……外で団長と副団長が揃ったという事は……ああ、はい……」

 

 一方でセリナはなんだか苦い顔を浮かべております。

 どうしたのでしょうか? まあそれよりもこちらはこちらの用事を済まさねばいけませんわね。

 

「ミネ~! 今日も派手にやってますわね~!」

「ん? あぁフミ、巡回先に来てくれるとは、いつものですか?」

「ええ、ペース的にそろそろ医療品が少なくなってくる頃かと思い、持ってきた次第でございますわよ~」

 

 ワタクシは救急箱を片手にミネに言いました。

 ミネの巡回はだいたいそれなりの『救護』が発生します。それはいつもの事ですがそうするとどうしても持ち歩いている医療品の消耗スペースも早く、緊急出動もあるのでなおさら。それでいて薬などは使用期限の関係もありますから混ぜて継ぎ足しなんてのはできませんから、残量を確認しそろそろかな? と言った段階でワタクシ自ら持参する事があるのです。

 普段は学校の救護室での診察や事務仕事がメインですけれど、副団長たるもの外での『救護』も疎かにしてはいけないのですわ。

 

「いつも助かります。その細かな気配りもまた『救護』の精神の表れ……私はあなたが副団長で良かったと常々思います」

「もう~! そんな褒めても何も出ませんわよ~! あぁでもワタクシの輝かしい威光ならいくらでも出せますわね、お受け取り遊ばせ~! オーッホッホッホ!」

「わぁ! やっぱり副団長がいると場が明るくなっていいですね! 病も気からって言いますし、私も見習いたいです!」

「ええ……このまま何もなければ本当にいいんですけどね……でも、多分そろそろ……」

「……む! ミネ! あちらをごらんになってくださいまし!」

 

 ミネとの歓談中、ワタクシはとある事に気づきピッと指を差しました。

 みなさんの視線がそちらに向かいます。

 

「あれは……ヘルメット団の方々ですか? 一見すると普通に歩いているようですが……」

「ワタクシ、思うところがありますの……故に、『診察』して来ますわ!」

 

 ワタクシはミネ達にそう言い残すと広めの歩道を歩いている四人組のヘルメット団の方々の方へと走っていきました。

 

「え? セリナ先輩、『診察』ってどういう事ですか? 別にここは救護室じゃないですけれど……」

「ああ、そういえばハナエちゃんは巡回中にフミ副団長に会うのは始めてでしたっけ……えっと、準備はしておいてくださいね」

「?」

 

 ワタクシは可及的速やかにヘルメット団の方々の前へと到着しました。

 突然ワタクシが目の前に現れたものですから、彼女らもビックリしていますわね。

 

「おわっ!? な、なんだなんだ!?」

「どうも~ごきげんようヘルメット団の皆様方。ワタクシ、救護騎士団の副団長の風我フミと申します~。以後お見知りおきを~」

「救護騎士団……? あ! あの『ミネが壊して騎士団が治す』って言われてるヤバい集団のあの……!?」

「いやでもこいつは今副団長でフミって名乗ったし、違うのか……?」

「もう! ひどい噂ですわね~! ミネはいつも信念のために頑張ってるだけですわ! まあそのためにやりすぎで視野が狭くなるときがあるとはワタクシも思っておりますが……ですがご安心ください! この風我フミ! ミネのようにやり過ぎる事はないと誓います!」

 

 ミネが聞いていたら怒るでしょうが事実だから仕方ありません。

 彼女が『救護』をした果てはぺんぺん草も残らぬ状況になりますし、それが必要な事だとは分かっていても周囲の方々からは誤解されてしまうものです。

 実際ワタクシもちょっと引く時はありますが……しかし、この副団長たるフミ、ミネとは違うやり方の『救護』を以てこのキヴォトスから病理を駆逐したいとも思っていますの。

 それに必要なのがこの『診察』なのですわ。

 

「ところで皆さん、四人仲良く歩いて大変微笑ましい姿ではありますが……この先の予定は一体どちらで何を?」

「え!? べ、別になんだっていいだろ!? 私達は今日はまだ何もしてないぞ!」

「ふぅむ、今日はまだ、ねぇ……」

「あっ!? ま、待て! 何もやってないやつをどうこうするほどさすがの救護騎士団もヤバい訳じゃないよな!? ほら、さっき団長とは違うって言ってたし……」

「そうですわね……ワタクシは冷静な女、証拠もなく決めつけはしません。ところでそちらの一番後ろの方、ちょっとジャンプして貰えますか?」

「えっ何!? カツアゲ!?」

 

 ワタクシと会話してくさだるお三方の後ろで黙っている一人にワタクシは声をかけます。あらあら怯えてしまって……これはよくないですわ、ちゃんと救護騎士団の内科医としてファーストオピニオンを示さねば!

 

「いえいえ、別に金銭が目的などではありません。ただ飛んでいただければいいのです、ほら」

「……う、ニコニコしてるのになんだこの迫力……ほ、ほらよ」

 

 ワタクシの言葉に彼女は従い数度その場で飛び跳ねてくれました。

 そして、その音と衣服の動きでワタクシは確信します。

 

「なるほど……あなた、形成されたプラスチック爆薬を四つ程服の下に隠していますわね?」

「えっ!? なんで分かった!?」

「簡単ですわよ~、飛び跳ねたときの音や服の動きなどでそれぐらいは分かります。それに右の方が持っているボストンバッグ、一見モノが詰まっているように見えて中身は膨らませた風船とかで空なのを誤魔化していますわね? 持ち方に軽さが出ていますわよ~」

「嘘だろ……持ち方一つで……?」

「そしてこの先の大きな十字路を左に曲がった先にあるのは銀行……なるほど、これから銀行強盗に興じるつもりだった、そうですわよね?」

「……くっ! さすが救護騎士団の副団長様だな! こうなれば――」

「――ワタクシ感動いたしました!!」

「「「「……は?」」」」

 

 四人が皆一様に驚いております。

 ええ、ええ、そうでしょう。

 ぶっきらぼうな態度に秘めたその心中、まさか偶然出会ったこのワタクシが知ってしまうなんてのは考えてもみなかったでしょう……!

 

「貴方がたは、大切な友人が生活苦で苦しんでるその姿に心を痛め、犯罪に手を染めてでも友人を助けようとした……そうなのでしょう!? 皆さん!?」

「……え!? なんでそんな話になってるんだ!?」

「いや私達は単純に遊ぶ金欲しさで……」

「もう嘘をつく必要はありませんわ……! 貴方がたの覚悟はそのお姿とその瞳に宿る炎を見れば、十分理解できますの……!」

「瞳の炎ってヘルメットで見えねぇだろ!?」

「例え悪党の誹りを受けてでも意志を貫こうとする姿勢、自分達が悪者で終わればいいという自己犠牲……あぁ、美しき友情ですわッ!」

「駄目だこっちの話聞いてねぇ!」

「なんだよこいつ急に話通じなくなって怖えんだけど!?」

 

 ワタクシ、感激とこのキヴォトスを未だ悩ませる貧困の苦痛に両方に涙してしまいます……。こういった社会状況によって罪に手を染めてしまうのもまた病! 彼女らを正しき道へと戻す『救護』が必要な事なのです……!

 

「ミネ! この方々に『救護』をお願いします!」

 

 故にワタクシはミネを高らかな声で呼びました。

 すると、彼女もまた神妙な面持ちでやって来ます。

 

「……申し訳ありません。我が団の副団長はいささか妄想癖が強く、いつの間にか勝手なストーリーを作って一人盛り上がってしまう時がありまして。多分、昨晩そういった設定の小説か何かを読んだのでしょうね……」

「つまり影響されただけじゃん!?」

「てか悪名高い救護騎士団の団長が謝ってきた!? じゃ、じゃあ私達の事見逃して……」

「あ、それはできません。あなた達が銀行強盗を企てていたのは事実ですから。病はその発生源から治療しなくてはなりません。故に――」

 

 ミネが彼女らと何か話していたと思ったら軽く息を吸い、そしてキッと鋭い眼光を輝かせました。

 ワタクシも、それに合わせて声を上げます。

 

「――誇りと信念を胸に刻み!」

「適切な所に、適切な処置を! ――」

「「救護なき場所に救護を!」」

 

 ミネとワタクシ二人の声がシンクロしました。

『救護』への一体感を感じますわね! これぞワタクシとミネのコンビネーションですわ!

 

「ご安心ください! 大丈夫です! 病気と戦う皆さんの友人の妹もきっとワタクシ達が『救護』しますからッ! 戦うのです! そして共に好きだったカモミールの花束を持っていってあげるのですわ~!」

「さらっと設定変わって増えてるじゃねぇかよぐわああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 こうしてワタクシ達の『救護』はなされたのです。

 発症前に病理の予兆を見つけ防ぐための『診察』……これがワタクシの『救護』なのですわ!

 

 

 

「……えーっと、なんですか今の?」

「フミ副団長が巡回に加わるとだいたいあんな感じで『診察』するので慣れましょうねハナエちゃん。『診察』される人達は毎回本当に何らかの犯罪計画を企ててる人なのは間違いないですし……。フミ副団長も普段はとても賢くて明るい良い人なのですが……またお二人揃って誤解が広がってしまいますね……」

 

 

   *****

 

 

 とまあこんな感じで、ワタクシとミネは日々救護騎士団の団長と副団長として『救護』に励んでいたのですわ。

 確かにワタクシもミネも時折失敗してしまう事もありますが……でも、ワタクシとミネ、それだけでなく救護騎士団全員が正しく誰かを救い世の中から苦しみという病を根絶したいという意志を持っているのは違いありません。

 そのためにミネは本来ならティーパーティーに参加できる“ヨハネ分派”の首長でもあるという立場でありながら一切トリニティの政治に介入しない姿勢を取り、救護騎士団を独立した勢力として維持しているのですから。

 彼女のその精神にワタクシも微力ながら協力させてもらっていました。

 このワタクシが『救護室令嬢』とまで呼ばれるまでに普段は救護室にいるのは学園内での患者からの相談に備えるためだけでなく、ミネがいない間に政治工作やサボタージュをされる危険性を鑑みての事です。

 そして、そのワタクシの備えは、最悪の状況下となった今でこそその真価を発揮されなければいけなくなりました。

 

 

 

 サンクトゥス分派の首長であるティーパーティーの一人、百合園セイアさんが何者かに襲撃を受け重体に。それを最初に発見したミネがその犯人探しのさなか、セイアさんと共に失踪したからです。

 

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