セイアさんの殺害未遂、および外患誘致の罪でティーパーティーの一人であるミカさんが逮捕されました。
なるほど彼女でしたか……という納得がまず最初に来ました。元よりティーパーティー内部の犯行は考慮していましたからね。
次に来たのは少しばかりの驚き。エデン条約締結への妨害が目的と聞き及びましたが、まさか友人を殺そうとする程までゲヘナへの憎しみがあったとは。
これはワタクシ自身はゲヘナに対しては好きでも嫌いでもなく特別な感情を抱いていないのもありますが。このキヴォトスにいる住人は
またこの驚きにはあのアリウスも関わっていたというのも要素の一つにありました。
かつてトリニティの一つとなれず迫害されたアリウス分校。ワタクシはその存在を知っている側でしたが、今になってこうして関わる事になるとは、ちょっとした運命のいたずらを感じますわね。
最後に湧いた気持ちは、知的好奇心。
今回の件を解決に導いたのはあのシャーレの先生だと言うではありませんか。
連邦生徒会長が招致した外の世界から来た大人。
だけれども連邦生徒会長が失踪し、結果として一人でその超法規的機関としての性質を担ったお方。すでにそれなりの数の問題を解決に導いたお人。
いったいどんな人なのでしょうか。気になりますわね。
そしてこれらの感情を差し置いて、その後もっともワタクシの関心を引いたのはもちろんミネの事ですわ。
ミネはセイアさんが死亡したという情報を流しミカさんとアリウスの目を誤魔化しその間彼女を守るために共に姿を隠したのだとか。
だいたい予想通りでしたしその内容ゆえにワタクシ達団員にも情報を秘匿するのは当然の事でしょう。
でも一つだけ気に入らない事があります。どうにもサクラコさんはミネと連絡が取れているらしいのですわ。セイアさんの現状をサクラコさんが伝えているというのはそういう事ですし。
シスターフッドがどういう組織か、そしてサクラコさんというお方がどれほどの人物なのかを知っていると確かに彼女が窓口になるのは理解できます。
でも、一方で気に食わないというのも事実です。
なぜワタクシではないのでしょうか?
先程言った事と矛盾しますが、ワタクシでも良かったのではなくて?
理屈は理解できても感情では処理できない、そんな人間らしい不都合さに振り回されているのを我ながら感じます。
「まったく……人を振り回す子ですわね、ミネったら」
思わず口からそんな不満が漏れてしまいます。
故に今日は少しでもより詳しい話を聞くためにシスターフッドの大聖堂へとまでやって来ました。
基本的にサクラコさんはそこにいると思いますから。
「ごめん遊ばせ~っ! サクラコさんはいらっしゃいますかしら~!?」
ワタクシは堂々と大聖堂へと入ると同時にその声を響かせました。
うーん、ワタクシの美声が大聖堂に反響していますわ~。ちなみにアポイントメントは取っておりません。美しいこのワタクシのサプライズ登場で十分お釣りが来るかと。お礼はいりませんわよ~。
「……この騒々しさは……噂をすれば、ですね」
「え?」
大聖堂の中程にちょうどおられたサクラコ様がワタクシを見た途端怪訝な顔して言いました。
そして、その隣には知らない後ろ姿が。
「……あ、もしかして君が救護騎士団の……?」
「ええ! このワタクシが救護騎士団副団長! 風我フミですわ~! 以後お見知りおきを~! オーッホッホッホッホッホーッ!」
誰だか分かりませんがワタクシはその目の前にいる
人間初対面における印象が大事ですもの! そして挨拶はその基本の“き”なのですわ~!
……にしてもこの方、正直言って第一印象は“胡散臭いイケメン”って感じですわね。
髪型といい目つきといい服装といい、整ってるけど怪しい人として完成されていますわね。
明るく挨拶しましたが既にちょっと警戒しちゃいました。
やはり大事ですわね、第一印象。
「で、この胡散臭い方は誰ですのサクラコさん?」
「フミさん!?」
「あはははは……まあ、そう言われてもしょうがないかな……どうも、シャーレで先生をやってる怪しい者だよ」
冗談交じりに笑って彼は言います。
ふーむ、とりあえずユーモアのセンスはそこそこ、と。
「あらまぁ、あなたがシャーレの先生さんでしたのね。改めてよろしくお願いしますわ~! オーッホッホッホ!」
「……うん、凄い元気だね」
シャーレの先生はちょっと苦笑いして言いました。
ふむ、なんでしょうこの反応は? はっ、もしかしてサクラコさんが何かを吹き込んで……!?
「サクラコさん……ひどいですわ! 人様をそんなベッドの下に潜む怪物のように言うなんて!」
「いや何のお話ですか!? 私はただ救護騎士団の説明をしている中で今はあなたがミネ団長の代わりにトップをされていると説明していただけで……!」
「あ、そうなんですの。早とちりしてしまいましたわね……てっきりワタクシの事を夜中に家屋に侵入し砂をバラまいて失神させる怪物と説明していたのかと……」
「いやさっきと話が変わってませんか!? ベッドの下の怪物はどこへ行かれてしっまったのです!?」
「あぁうん、なるほど……本当に元気だね」
またも苦笑いされていますが……まあいいでしょう。これもサクラコさんが悪いという事で。
ですがまさかシャーレの先生がここに来ているとは……ええ、ちょうどいいですわね。このタイミングで少しお話させていただきましょうか。
でも、その前に……。
「ところでサクラコさん、こちらの用事を済ませてもよろしいですか?」
「あ、はい……なんでしょうか?」
「いえ、別に大した用ではありませんよ。……どうやってミネ
「…………なるほど、そういう話ですか」
サクラコさんが、すっと冷静な微笑みを湛えられました。
ええ、本当に油断ならない方ですわね、この人は。
「二人とも……?」
場の空気が変わった事にシャーレの先生も気づいたようです。
ふむ、意外と嗅覚もあるようですわね。ま、そうでなければミカさんのクーデターを防ぐ事などできませんか。
「申し訳ありませんわね先生、少しサクラコさんをお借りします」
「大丈夫ですよ、そんなにお時間はかからないでしょうから。……さて、なぜ私の方から彼女に接触を取れた、と?」
「いえ、簡単な話ですわ。ミネが自分からあなたに……というより、シスターフッドに対して自分から情報を渡すわけがないでしょう?」
「ふむ……嫌われたものですね」
「ホホホ、ご自覚があって何よりですわ。まあ、そういうわけですから、なら答えは一つ。あなた達は既にミネの場所をある程度把握していた。そしてミカさんの逮捕に際しなんらかの方法で場所を特定した貴方達から接触を図った……と言ったところですかね」
シスターフッドとはそういう組織で、サクラコさんとはそういうお方。故に、彼女が窓口となるのは理解できてますのですわ。
ただ、ならばこそサクラコさんだけでなくワタクシにも伝えて欲しかった……そう思ってしまうのですのが乙女心なのです。
「……さすが、あのミネ団長と常日頃からご一緒されているだけでなく、救護騎士団の留守を任されるだけありますね。あなたもこういう話ではとても頭の回転が早い……やはり、
「…………っ!」
「……?」
サクラコさん、何もシャーレの先生の前でそんな事を……いえ、最初に口火を切ったのはワタクシですし、感情がはやりすぎてしまったこちらの落ち度ですわね。
はぁ……まったく、恐ろしいお方ですね、
「……あくまでそれはワタクシの自由意志に委ねられていた事ですので。それに知っているでしょう? 我が家の現状を」
「ええ、ですがやはり優秀な人材というのはいくらあっても困りませんから」
「お生憎様ですわね、ワタクシはミネの隣にいるのが最もふさわしい場所ですの」
その言葉を最後に、ワタクシは彼女に背を向けました。
ま、知りたい事は知れましたしね。
これ以上お話をする事もありませんし、次なる救護の声を受け止めるためにまたワタクシの救護室へと戻りましょう。
「……と、つまらないお話を聞かせてしまいましたわね、先生」
そこでワタクシは彼がいた方向にくるりと回って彼に笑顔を向け、軽くカーテンシーをして見せました。
「もし『救護』の手が必要なら我々救護騎士団をお頼りくださいませ。ワタクシならいつでもワタクシの救護室で待っていますわ」
そこからまた頭を上げて、ワタクシはニッコリと笑って言いました。
「そして、もし今後ミネが帰ってきたときには、彼女ともどうか仲良くしてくださいませ。ミネは少々やり過ぎるところはございますが……間違いなく気高く、美しく、そして誰よりも『救護』への情熱を燃やしている、そんな可愛い少女ですから。では、ごきげんよう」
シャーレの先生がミネと仲良くしてくれるのならばそれは結果としてミネの『救護』がやりやすくなる事にも繋がるでしょうし、もしかしたら彼女のちょっとした暴走癖も改善するかもしれませんからね。
こうして一言添えて気にしてもらう事ぐらいはいいでしょう。
――ですが、この初対面よりもずっと後、ワタクシは先生への打算に満ちたこんな挨拶すらも後悔する事になるのですから、愚かですわよね。
ともかく、これがワタクシと先生の初めての邂逅でしたわ。
そしてこの直後、トリニティは存亡の危機へと陥る大事件に巻き込まれるのです。