ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
出題範囲の変更と茶柱によるその通達忘れは、事態が発覚した当初こそ騒然としたが、茶柱の処分の内容が伝えられてからはBクラスの雰囲気は格段と良くなった。
減給という名の赤点補填という処分内容が伝えられた当初は、赤点による退学が無くなった事で「勉強せずとも退学しなくて済む」という認識が広まって勉強会への参加を取り止める等、学力向上を怠るクラスメートが続出してしまうのではという懸念があったのだが、
「今度のテストで退学が無くなったっつっても、精々一ヶ月ちょいは長くいられるってだけの話だろ。その一ヶ月で赤点を余裕で超えられる様にならねぇとまた同じ事になる」
として清隆との勉強会の続行を健が明言、その後も勉強会に精力的に取り組んだり、普段の授業でも入学当初と比べて少しずつながら真面目に臨んだりとその効果を発揮していたのをクラスメート達が目の当たりにし、学力最下位だった健が如何様な動機であれ勉強に取り組んでいるのだからと触発された為にその懸念は払拭、それどころか「須藤に負けて最下位は嫌だ」という謎の強迫観念に晒された春樹と寛治も桔梗の誘い*1に乗る形でクラスの勉強会に参加、こうしてBクラス所属生徒全員が何らかの形で学力向上の取り組みに励む様になったのだ。
こうしてクラス全体が中間テストに向けて学力向上に勤しんでいると見た清隆は、テストまで残り3日というタイミングで学から貰っていた4年分の過去問を配布、それと同時に清隆から説明された中間テストの攻略法に驚きが広がると共に何で早く言ってくれなかったんだという雰囲気になるも、当初の出題範囲から大きいズレがあった事、それを茶柱に確認した結果としてこのテストでの退学が無くなった事で学力向上のムードが削がれるのを懸念していた事を説明すると皆が納得し、過去問を用いた対策に取り組み出した。
こうしてBクラスは万全の準備を整えて中間テストに臨み、全員が満足の出来だったと胸を張れる物になったそうだ。
…尚、そんなBクラスの雰囲気を察知し、自分の減給処分が事実上無くなったと確信して調子に乗った茶柱が満面の笑みで「夏休みにはバカンスに連れて行ってやる」と伝え、大半が浮かれる中で清隆ら一部の面々は何か怪しげな物を感じ取って複雑な表情となったのは余談である。
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ところが中間テストの結果が発表されるその日、思わぬハプニングが発覚した。
その日の朝のホームルームで結果発表があると生徒達は予め聞かされており、実際にその結果を記載した紙を抱えた茶柱が教室に入って来たのだが、その様は懲戒処分が下された時の如く、顔は青ざめ、足取りはゾンビの如く覚束なかった。
「先生、今日が中間テストの採点結果が発表されるとお聞きしたのですが…何が、あったんですか?」
「…今から、発表する」
茶柱の明らかにおかしい様子に気付いた洋介が気遣いつつ、テスト結果は気になるのかそう尋ねると、言いたくは無いが教師として伝えなくてはならないといった葛藤を隠そうともしない重苦しい様子で茶柱は口を開いた。
「お前達は良く頑張った。先月の小テストでの凄惨な結果は嘘だったと言わんばかりに、皆が皆好成績を叩き出した」
そう言いながら各教科の結果を張り出していく茶柱、小テストと同じく成績下位から上に載っていく形式で結果が記載された紙には、茶柱が言っていた通り満点が各教科で十人以上、その他の生徒達も軒並み80点を余裕で超える高得点を叩き出していた、のだが、
「…だが、英語で1人が赤点となった」
5教科目、英語の結果を知らせる紙を張り出す際に異変が発生した、紙の上の方に、他の教科では無かった筈の赤いラインが、小テストの発表では引かれていた赤点となってしまった者を知らせる赤いラインが、引かれていたのだ。
まさかの事態に騒めきが生まれる教室、例えそうなったとしても茶柱の給料から補填するという処分もあってか騒めき自体は其処まで大きく無かったものの、皆が皆テストの出来は満足のいく物だったし、これまでに発表された4教科でもそれが現れている、出来が悲惨で赤点と言う事態はあり得ない筈と戸惑う者が少なくない中、赤点となってしまった者と、その結果が露になった。
「山内の英語の解答用紙が提出されず、規定により0点となった」
「…ゑ?」
他の生徒達が揃って高得点を手にしていた中、赤点との境目を示す赤いラインの上に唯一ある項目には「山内春樹 0点」と記載されていた。
「い、いやちょっと待って下さい!俺、ちゃんと解答して出したんですけど!名前も忘れずに書いたし!」
0点と表示された春樹の項目と、茶柱が告げた「解答用紙が提出されていない」という事実、其処から導き出される1つの答え――白紙提出を行ったのだと少なくない者達が確信し「お前やりやがったな」という疑念の目が彼に向けられるも、当の本人はそれを微塵も思っていなかったのか慌てた様子でそれを否定していた。
嘘や法螺話といった事ばかり口にする春樹と言えど白紙提出を必死に否定する様子から英語のテストもちゃんと解答したのだと信じるしかない、ならば何故0点となったのか、その疑問が出る事を想定していたのか茶柱はもう1枚、掲示していた物よりも小さい紙を取り出した。
「代わりにこの学校に在籍していない者の名前が書かれた解答用紙はあったんだが…」
それは英語のテストの解答用紙、春樹の証言通り回答の大半に丸印が付けられ点数欄に84点と書かれた解答用紙、その名前記入欄には筆記体でHarukuYamauchiと記入されていた。
大事な事なのでもう一度言おう、HarukuYamauchi、と記入されていた。
「山内ハルクという名前の生徒は、この学校には在籍していない。よってこの解答は無効となり、解答用紙が提出されていない山内は0点となったという事だ」
『ズコー!』
山内春樹、名前の誤記入により0点。
その、唯一発生してしまった赤点の原因がまさかのイージーミスだったという事実に、教室内の殆どの者が転げた、清隆に至っては何時ぞやの芸人張りに擬音を叫びながらずっこけた。
「何やってんだお前!ハルクってお前は何処のアメコミヒーローだよ!?」
「いやいや待って待って!何で俺名前書き間違えた扱いになってんの!?ちゃんと山内春樹って書いたんだけど!?」
「よく見ろ、名前の所の波が一個多く書かれているぞ!それで末尾がiじゃなくてuと認識されたんだ!」
「カッコつけて慣れねぇ書き方で書くからこんな事になるんだバカタレ!」
「いやちょっとしたお茶目じゃねぇか!何でそれだけで俺じゃないってなるんだよ!?その最後以外は合っているんだから俺の解答だって認めてくれたって良いじゃねぇか!」
その事実が発覚し、騒然となるBクラス、春樹以外の者達は彼曰く「お茶目」によって起こってしまったやらかしに怒りの声を上げ、春樹も春樹で明らかに自分の事だと分かるのにたった1文字違うだけで在籍していない生徒の解答扱いとなり0点とされてしまった事が認められず不満を爆発させた。
とはいえ結果は覆らないが、茶柱への処分によって点数が補填されるため春樹が退学になる訳ではない、cpt増減の指標となるクラスの平均点も総合500点満点のうち1点マイナスになる程度で其処まで影響はない、という事でクラスメートの怒りは直ぐに鎮静化、したものの春樹はその後「脳筋ハルク」等の書き間違いに因んだあだ名がつけられたり「名前書き間違えるなよ」「筋トレして来いよ」等といじられたりとこの学校を去る日までこの一件をネタにされ続けるのだった。
…尤も生徒間では笑い話でも、春樹の赤点を補填させられる事となった茶柱にとっては全く笑えない、クラスの生徒達が軒並み高得点を叩き出したせいで平均点が急上昇、それに伴い補填する必要がある点数も45まで増えてしまい、よって450万ものpptが所持金及び今後の給与から引かれる事となってしまったのだから。
こんな状況に陥ってしまった原因が春樹のカッコつけと分かり、一時の欲求で一年以上も素寒貧になるのが確定してしまった腹いせとして本来なら開示する必要の無い解答用紙を茶柱は持って来たんじゃないか、清隆達極一部の生徒が邪推したのは余談だ。
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「クラスの支配はほぼ完遂した。入学初日から此処まで率先してクラスの意識醸成に取り組んだ事で今やリーダー的立場になれた。櫛田の首根っこも掴み取り、山内も池も櫛田を通せば悪い返事はしない。それでも堀北や高円寺は此方の意を聞こうとしないだろうが、幾ら優秀でも1人で出来る事などたかが知れている。太い実家を持つ高円寺は別のクラスへ逃げるかも知れないが、堀北はいずれオレの意に添わざるを得ないだろう」
その夜、寮の自室にて清隆はこれまでの2ヶ月間を振り返りながら、画板と思わしき板に乗せた紙に向かって、何かを描いていた。
「自クラスの秩序改善に躍起になり過ぎて、別クラスで目星を付けていた者達に声を掛けるのが遅くなってしまったが、それでも一之瀬とは生徒会への加入の件で接触出来た。後はアイツだが、力を示し続ければいずれオレの正体に気付いて向こうから近寄って来る筈だ。大きな、進歩だ」
自分のクラスでの立場を強固なモノにしつつ、当初より目星を付けていた者への接触も帆波に関しては生徒会加入をネタに達成する等、首尾は上々だと成果を自賛していると、描いていた物が完成したのか右手に持っていた鉛筆を脇に追いやり、今しがた完成した絵を手にした。
それに描いていたのは、明るめなセミロングの髪、あどけなさの残る可愛い系の顔立ちに笑顔を浮かべた、10歳前後の少女の似顔絵。
「雪…!」
描いた少女――雪の名を呟いた清隆は、似顔絵をそっと抱きしめながら、大粒の涙を流した。
ようこそ、CODEエージェントが住まう実力主義の学校へ――
「現在、トラブルの発生によってpptの支給が遅れている」
――平和な学園生活に迫る、不穏な影
「お願い摂津君、この件どうにか出来ないかな…」
――帆波からのSOS
「あ、あのね摂津君、実は私…」
――進みゆく、清隆の運命
「それを声高に叫んだ勢力が今も健在という話を俺は知らん。何故だか分かるか?」
――そして去り行く、最初の退場者
第2章『嵌める』