ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
17話
夏休みシーズン真っただ中な8月初めに太平洋上を航行するクルーズ船、清隆達1年生の姿はこの船上にいた。
事前に予告されていた「夏休み中のバカンス」、その内容は1週間「無人島にあるペンションで」過ごし、その無人島への移動日も含めた1週間はこのクルーズ船で過ごすという物。
一流所を揃えた数々のレストランに、プールや映画館と言った一通りのアミューズメント施設が入っていると言う、何処の豪華客船かよとツッコみたくなるそのクルーズ船では利用料タダという事もあってか、皆が皆船上での非日常を満喫していた。
清隆もこのバカンスの裏に潜む真実――「未来を支える人材を育成する」国立のこの学校が、購入費やら維持費やら利用料やらでバカデカい額の金が吹っ飛んだであろう豪華客船に、丸一日以上航行しなければ辿り着けない無人島と其処に建てられたらしいペンションという管理が物凄く面倒臭くて金が掛かる物件、それらを単なるバカンス目的で保有している訳がない、何かしらのポイントに関わるイベントがあるかも知れないと邪推しながらも、タダで使えるならとことん使わせて貰おうと切り替えて同級生達と同じく非日常を思う存分楽しんでいた。
具体的に言うと、
「お前スリーセブンを乱発とか運まで持ち合わせてるのかよ、稼ぎ過ぎてカジノを出禁とか聞いた事ねぇぞ」
「コツを掴んだらどうと言う事は無いぞ」
性質上このクルーズ船で唯一pptが必要で、高育の敷地内に存在しない施設である為か資金的に余裕のある生徒達が集まっているカジノ、その一角にあるスロットで大当たりを連発し、出禁を通達されるレベルでpptを荒稼ぎしたり、
「ステーキってうめぇもんだな、よし、船にいる間は思う存分食うぞ」
「それには同意だがサーロインとかリブロースみたいな脂の多い奴は控えめにして、付け合わせはブロッコリーを指定しろよ。この学校を卒業したらバスケでメシ食っていく積りなんだろう?」
「分かってるよ、贅肉ばっか付いてバスケ出来なくなりましたなんて格好悪いからな」
学費や家賃、光熱費等は学校持ちとはいえ月10万足らずな家計事情では高嶺の花と言って良いステーキを、この機会だからとレストランで注文してその旨さに感激したり、
「今日は負けねぇからな清隆!水泳授業のリベンジ、此処でさせて貰うぜ!」
「生憎だが、連勝記録を伸ばさせて貰うぞ」
「お、摂津と須藤で水泳勝負か?だったら俺も入れさせてくれよ!スピードなら水でも負けないぜ!」
『摂津君頑張れ!』
『須藤君もファイト!』
『負けないで柴田君!』
屋外プールが学校敷地内にある物と同じ長水路だと知った健が清隆に水泳勝負を挑み、それを聞きつけた颯が乱入し、其々のクラスメート達が応援に駆け付け、他のクラスの生徒達も観客として加わった事で結構盛り上がる勝負となったりとクラスの垣根を越えて楽しんでいた。
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『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
だがクルーズ船での楽しい非日常もいずれ終わりがやって来る、それを知らしめる様に、船内に無人島への到着を予告するアナウンスが流れた。
それを聞いた清隆は、無人島上で行われるだろうイベントにて重要なヒントがあるかも知れないと踏んで、足早にデッキへと向かい、最前列を確保した。
「摂津。お前も、無人島で何かあると踏んで駆け付けたクチか?」
「神崎か。ああ、そんな所だ」
清隆と同じ様な考えに至った者は少数派ながら各クラスにいた様で、程なく隆二ら数名がデッキに到着、同じく最前列を確保、やがて島が見えて来て桟橋へ、と思いきやそれを避ける様に旋回を始めた。
どうやら島の周囲を遊覧船の如く回って全貌を見せてくれる様だ、そう見抜いた清隆は地理的アドバンテージをより多く確保すべく、バカンスの真実に気付いていないのか浮かれた様子の者達の雑音など聞こえていませんと言わんばかりに島の観察に集中する。
無人島の総面積はおよそ50万平米、高育よりも一回り小さいとはいえ今回のバカンスに参加した153人*1の生徒と教師らが過ごすには十分過ぎる広さを備え、標高230mもの山、その中腹辺りに水源があるのか勢いよく水が流れている滝、川もあるのかその岸と思しき場所で生い茂る木々で構成された森、海水浴場を開場出来るレベルの広さを有した砂浜と隠れ場所として使えそうな洞窟、と自然が生み出した雄大な景色が目に飛び込んで来た、のだが、
「…ペンションが見当たらないんだが、外から見えない所にでもあるのか?」
1週間過ごすと言われていた筈のペンションが全く見当たらないのだ。
まさか外周しただけでは見えない奥まった所に建てられたのか、いや当初想定していただろう160人を宿泊させるレベルとなると相当の大きさとなり此処から見えない筈はない、もしや教師はペンションがあると大嘘をついたのではないか、いや国立高校の教師ともあろう者がそんな事をする訳が無いだろう、でもcptの存在を思い知らせる為とはいえ普通の教師なら咎める言動を注意しないし、何より自分のクラスの担任はテストの出題範囲が変更された事を伝えなかったり夏休み前にあんな事して来たりする教師にあるまじき輩だしな、とペンションの有無についてあれこれ考えた末、清隆は納得した。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸致します。生徒達は30分後、全員ジャージに着替え、所定のカバンと荷物をしっかり確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合して下さい。それ以外の私物は全て部屋に置いて来る様お願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませて置いて下さい』
そんな清隆の思惑など知る由も無く、島への到着を知らせるアナウンスが流れ出し、それを受けてデッキに集まっていた生徒達は着替えるべく其々の部屋へ戻って行った。
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「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りて貰う。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出し、下船する様に」
その後ジャージに着替えてデッキに再集合した清隆達へ、1年Aクラスの担任である
まさかの携帯NGという事態に戸惑いの声が上がるものの学校からの指示であれば従わない訳にはいかない、きっと紛失や破損の懸念からだろうと己を納得させたのか渋々ながらも応じて行った。
「…録音の方、抜かりなくな。見つからないようにやれよ、
その携帯を渡す作業を終えた清隆は去り際、茶柱の耳元でそう命令を飛ばした。
教師を呼び捨てにした挙句命令するという無礼にも程がある言動をした清隆だったが、茶柱は表情を苦々し気に歪めながらも反発の言葉を発する事が出来なかった。
その後もクラス順での下船という方式故に下位クラスの生徒はデッキに待機する時間が長かったり、降りたら降りたで点呼があったりと炎天下の中で長時間拘束される事態に不満の声が上がる、が、
「今日、この場に無事着けた事を、まずは嬉しく思う。然しその一方で、7人もの生徒が参加出来なくなった事は残念でならない」
用意されていた壇上に上がってそう言葉を紡ぎ始めた真嶋、その背後で作業服姿の大人達が特設テントに、その中に配備するのであろう長机にパソコンという急ごしらえのオフィスでも作るぞと言わんばかりにセッティングを進める光景が目に入ると、それは困惑の色に染まっていく。
「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
そんな生徒達の様子など知った事じゃないと言わんばかりに、真嶋はそう、言い放った。